上級者向け 受験マニアックス
2023年5月号 通学についての考え方
中学受験の志望校選びにおいて、大きなポイントの一つとなるのが通学手段や通学時間です。今回の受験マニアックスでは、通学についての考え方を紹介します。
通学時間・通学圏
中学受験をして中高一貫校に通う場合、自宅を出てから学校に到着するまでの片道の通学時間で多いのは40分〜60分程度です。中には90分くらいかけて、頑張って通学しているケースもあります。反対に、通学時間が30分以下というのは少数派です。一部の学校では通学時間や居住地の制限を設けていますが、限界の目安は片道90分くらいでしょう。また一般的に、難関校の通学時間は長くなる傾向が見られます。これは、「通学が大変でも、ぜひこの学校に通いたい」という気持ちのあらわれでしょう。
通学時間の一つの目安は「片道90分以内」と考え、90分以上かかる場合は、それでも行きたい学校かどうかをあらためて考えてみるとよいかもしれません。
通学手段
首都圏の中高一貫校の通学手段として多いのは電車です。多くの中高生が首都圏の鉄道網を利用し、自宅から学校に通っています。自宅から最寄り駅までバスを利用するケースも多いでしょう。また、郊外の学校に通う場合、メインとなる駅までは電車で行き、そこから路線バスや専用のスクールバスに乗り換え、学校に向かうケースもよく見られます。高校段階になると、郊外では自転車通学を認めているケースもありますが、中学段階では安全上認めていない学校が少なくありません。
通学の利便性
通学においては時間だけではなく、乗り換えの利便性もしっかり考慮に入れることが大切です。
電車での通学ルートを考える際、乗り換えの回数はなるべく少ないことが望ましいでしょう。ここでいう乗り換えとは、階段を登り降りして別のホームに行ったり、改札を一旦出て別の鉄道会社の路線に乗ったりする場合のことです。例えば快速電車の停車駅で各駅停車と快速電車をホームの対面で乗り換える場合や、赤坂見附駅での地下鉄銀座線と丸ノ内線の同方向などのように、同じホーム上でスムーズに乗り換えが完了する場合は、あまり気にする必要はありません。
乗り換え回数が多い方が早く到着できる場合もありますが、頻繁に乗り換えをするのは大人でもなかなか大変なことです。5分、10分早く着くために、階段の登り降りの回数が増えると、通学での疲労感が増しがちです。「数駅ごとに計4回乗り換えて40分で着く」よりも、「60分かかっても、乗り換えは1回で済ます」という視点が大切です。
バスについては、便数が少なかったり、渋滞による遅延が頻繁に起きたりしますので、電車ほど時間が読めないというデメリットがあります。バス1本で行ける場合はまだ良いのですが、特に東京の都心部では、複数のバスを乗り継いで通学することはあまりおすすめできません。例え地図上では近いルートに見えたとしても、思いのほか時間がかかってしまうこともあります。バスを乗り継ぐのは避け、少し遠回りになったとしても、代わりに電車を使う方法を探した方がよいでしょう。
通学の負担
中学受験を考えている保護者の方と通学のお話をしていると、「混んだ電車できちんと通えるだろうか」「通学時間が長いと疲れてしまうのでは」といった心配の声をよくお聞きします。もちろん、最初の2カ月くらい、慣れないうちは少し大変な思いをするかもしれません。ですが、子どもたちの適応力は大人が思うよりも高く、次第に電車の中での上手な過ごし方をマスターするものです。通学について大人が心配しすぎて学校選択の幅を狭めるのではなく、お子さんが本当に行きたいと思う学校を選ぶことを優先していただければと思います。
「通学時間が長いと家庭学習の時間が減って成績が下がるのでは?」という懸念もあるかもしれませんが、通学時間が長いほど成績が下がるようなことはありません。電車に長く乗るのではあればその時間を使って参考書を読むなど、子どもたちは臨機応変な過ごし方を編み出していくものです。
ところで、郊外から都心部の学校に通う場合、「万一通学途上で大地震に遭ったら」と不安になることがあります。実際、2011年の東日本大震災の後の2012年や2013年の入試では、震災前よりも通学時間を短くしようとする学校選択の受験生が増えていました。確かに、特に都心部の交通がマヒすると家族が離れ離れになる可能性が高くなります。学校にいる時間なら学校がしっかり生徒を保護しますが、通学の途上では不安になります。そこで東京都の私立中学高等学校協会では、「登下校時の緊急避難校ネットワーク」があり、災害時には在籍校ではなくても、最寄りの私立小・中・高校に避難できるよう定めています。避難すると、原則として生徒の所在と安否を在籍校に連絡してもらえることになっています。
都心・郊外をあわせた学校選択を
近年の中学受験においては都心志向が強まり、神奈川県、千葉県、埼玉県などから、電車に乗って23区内の学校に通っている生徒がたくさんいます。こういった状況もあり、志望校を考えるときに都心部の学校ばかりに目が向きがちかもしれませんが、よくよく中身を見ると、郊外や、比較的近距離の学校にも、お子さんに合うところが見つかるかもしれません。また、コロナ禍が収まってきて、再び電車も混むようになってきましたから、朝のラッシュ時は郊外の学校に通った方が楽だという一面もあります。最初から都心部だけに志望校を絞らず、幅広い選択肢を考慮した上で、学校を選んでいただければと思います。
事前に確認しておくべきこと
通学について、入学後に「そこまで考えなかった」といった思いをしないように、事前に学校説明会などで確認しておくべき事項を紹介します。
通学時間や居住地、ルートの制限
基本的に通学のルートはご家庭で決めていただき、通学定期券を購入して通学します。ただ、先述のように通学時間や居住地の制限を設けている学校もあります。通学が長時間になりそうな場合は、事前に学校に確認しておくと良いでしょう。
座席指定券の利用
交通機関・経路の中には、座席指定券を購入すれば座って通勤・通学ができる「ライナー電車」もあります。通学時間が長めのご家庭ではお子さんの負担軽減のため、そうした「座れる通学列車」を活用しているケースも見られます。ただし、一部の学校ではこういったサービスを利用することを禁止している場合があるので、事前に確認をしておくとよいでしょう。
本キャンパス以外の施設
特に敷地が限られた都心部の学校で見られるケースなのですが、一部の学校では、運動部が使うグラウンドなどの施設が本キャンパスから離れたところに設置されている場合があります。その場合、特定の部活に入ると、通常の通学の他にも移動の必要が出てきます。入学後に「こんなに帰りが遅くなると思わなかった」などとならないように、離れた施設に通う可能性について、事前にきちんと確認しておきましょう。