上級者向け 受験マニアックス
2021年6月号 これからの学校選択のトレンド
この記事は2021年度の情報です。最新の情報は2022年6月号をご覧ください。
今年4月に行われた模試の動向から、来年にむけて、中学受験が拡大傾向にあることがわかりました。そうした状況のなか、どのような学校が受験生から選ばれているのでしょうか。今回の受験マニアックスでは、今年の春の中学受験状況や保護者のアンケートからみえてきた学校選択のトレンドについて紹介します。
中学受験はますます拡大している
首都圏の中学受験大手公開模試「日能研模試」「合不合判定テスト(四谷大塚)」「首都圏統一模試(首都圏模試センター)」「サピックスオープン」の今年4月の受験状況がまとまりました。
図1のとおり、昨年は新型コロナウイルス感染症拡大の対応により、一部大手の塾が参加を見合わせるなどの理由から受験者数は減少していました。しかし、今年は一昨年の受験者数と比べても、大幅な増加となりました。
ここまで受験者数が大きく増えた理由は、地元公立中学校のコロナ禍対応と比較して、私国立中高一貫校の学びの姿勢への期待。また、英語力強化やSTEAM教育、探究の取り組みなど、いわゆる21世紀型教育への注目。あるいは、高校段階の支援の充実など、さまざまな理由が考えられます。いずれにしても、私国立中高一貫教育へ信頼が集まっています。
これからの学校選択のトレンド
来年に向けて、中学受験がますます拡大しているなか、学校選びのトレンドはどのようになっているのでしょうか。ここからは今年の春の受験生の学校選択の傾向について紹介します。
受験マニアックスの3月号でも紹介したように、今年は安全志向が特に目立った出願となり、難関校から上位校、上位校から中堅校という受験生の流れがありました。
図2は東京都と神奈川県の大学附属校の応募状況を、2011年と、直近3年間の応募総数の変化とを比較したグラフです。他県は東京都や神奈川県よりも附属校が少なく、選択の幅が狭まるので両都県に限定しました。代表的なグループとして、早慶、GMARCH、成成明学獨國(成蹊大学・成城大学・明治学院大学・獨協大学・國學院大學)、日大・東洋大系の4つを選んでいます。
早慶のグループは10年前と比較すると、やや減ったもののほとんど変わりはありません。GMARCHのグループは10年前と比べると、この3年間の応募者数が増加しましたが、昨年は若干減り、今年は減っています。これは安全志向のあらわれでしょう。また、成成明学独国のグループは、一昨年の2019年は10年前の水準とほぼ同じですが、昨年、今年と少しずつ増えています。これはGMARCHからこのグループに受験生が流れているようです。日大・東洋大系は10年前から一昨年、一昨年から昨年、昨年から今年と応募者の増加が続いています。
早慶の附属校は、早稲田のように早大への進学率が5割強で、国立大や慶應義塾大などにも多く進学している例外もありますが、基本的には高校を卒業したらエスカレーター式にそのまま大学に上がる生徒が大多数です。GMARCHは、学習院・学習院女子・立教女学院・香蘭女学校(立教系)が5~6割で、それ以外は系属校化後の卒業生がまだ出ていない青山学院横浜英和などを除くと8割から9割程度が内部進学しています。成成明学獨國では獨協がほとんど内部進学しないものの、それ以外は卒業生の2~5割程度が系列の大学に上がります。日大・東洋大系は2~6割程度が内部進学していますが、学校によってばらつきがあります。
この4つのグループの応募総数の合計は、10年前は中学受験の応募総数の15%ほどでしたが、この3年間は19%程度で安定して推移しています。この4グループ以外にも、日本女子大や東海大の系列校は内部進学率が高く、それ以外にも理工系の大学附属校などもありますから、基本的に附属校志向は、この10年間で少し高くなっている状態です。
図3は男子校、女子校、男女校(男女別学校を含む)の、2011年と、直近3年間の応募総数の変化とを比較したグラフです。男子校は2011年に比べて、直近3年間は応募総数が若干減っていますが、安定的に推移しています。しかし、女子校は2011年よりもこの3年間は減少していて、細かく見れば昨年は一昨年よりもやや増えたものの、基本的には減少傾向です。男女校は10年前よりも一昨年、そして昨年、今年と増加が続いています。そこで、男子校、女子校、男女校の1校平均の応募総数を図4で見てみます。男子校は1校平均で1,200名を超える応募総数で、しかも10年前よりも今年の方が増加していますが、女子校はその半分程度の応募総数で、しかも10年前よりも減っています。男子校の人気は上がっていますが、残念ながら女子校は、全体としては人気に陰りが出ていると言わざるを得ません。もちろん、女子校の中でも高い人気の学校はいくつもありますが、応募者は減少傾向が続いているわけです。男女校は女子校よりも1校平均の応募者が多く、図3のように応募総数自体は毎年増加しています。その割に図4だと1校平均が少ししか増えていませんが、男子校や女子校が共学化して学校数そのものが増えているため、全体的に見れば、男子校は高い人気が続き、女子校の人気が低下して男女校に受験生が流れているといえます。
学校選択のポイントとこれからの志望校の選び方
前述のような、学校選択志向を踏まえて、これからの志望校の選び方を考えてみます。
先日、保護者向けのオンライン説明会を実施し、参加した保護者の方にアンケートをお願いしました。学校選びで重視したいことについて、上位3つまでを選んでいただいた結果です。下のグラフは、アンケートで10%以上の回答を得た項目です。
資料提供:子どもまなびフェスタ
2021 オンライン保護者会
今回のアンケート結果から、学校選択において「学校のカラーや校風」、「教育理念や方針」を重視している保護者が多いことがわかりました。
「通学の距離や時間」、「大学合格実績」などは具体的な数字で示されるものの、上位に位置する「学校のカラーや校風」、「教育理念や方針」などの項目は抽象的で、同じ学校を見ても受け取り方は保護者の価値観によって印象が変わります。そのため、学校案内や学校のWEBサイトを読んだり、動画を見ただけでは、実態を把握するのは、なかなか難しいです。やはり実際に学校に行き、生徒たちの様子を見ないと伝わらない、感じないものです。保護者の皆さんにはぜひ実際に学校に出かけて、生徒たちの様子をその目で確認していただきたいと思います。
現在はコロナ禍のため、学校の見学会やオープンキャンパスなどは予約しなければならないケースがほとんどです。ですから、見学会などで知りたいことを全部知ろうとするのではなく、まずは比較的予約が取りやすいオンラインの説明会や、自由に視聴できる説明動画を見て、大学合格実績や教育プログラムの特色、留学・国際交流などのグローバルへの対応、ICTの活用、補習補講体制などの内容を確認してください。そのうえで学校を絞り込み、見学会やオープンキャンパスなどに参加して、オンラインでは把握できなかった学校の雰囲気、生徒たちの様子などの抽象的な中身を、実際に目で見て、感じて確認するとよいでしょう。1時間近くに及ぶオンライン説明会を数多く視聴することは大変なことだと思いますが、保護者の皆さんにはぜひとも頑張っていただきたいと思います。
保護者からの質問事項
最後に保護者向けのオンライン説明会にて、保護者の方から挙がった質問について紹介します。
「自分の成績より、学力がちょっと高めの学校に入ってしまうと、授業についていけなくなるのではないか」
入試の成績は最大瞬間風速的な学力の面も強いものです。実質倍率が2倍くらいの場合、入試問題を差し替えて、もう一度同じ受験生にテストをすると、合格者の1/3くらいが入れ替わると昔から言われています。極端にレベルが違わなければ、気にすることはありません。実際、入学後の伸びはお子さんによって違います。早く伸びるお子さんもいれば、遅咲きの桜になるお子さんもいます。自分の学力レベルより高い学校に入って苦労するのではないか、ということはあんまり気にせず、夏前の今の時期は、それで学校を絞ってしまうよりも、選択肢を広く考えた方がよいでしょう。
「面倒見のよさはどうすれば確認できるのか」
中学受験を望むお子さんは小学生ですので、現段階では保護者や先生がサポートしてあげなければ自主的に動けないお子さんもいると思います。当然の話ですが、中高一貫教育に通って高校3年生で卒業する段階でも、周りのサポートがないと動けない、ということでは困ります。中高の6年間で、自立した生活習慣、行動力をしっかりと養わなければなりません。その過程においては、最初のうちは周りからサポートしてもらうことも当然あるでしょう。しかし、ある時期からは「それくらい自分でやりなさい」というような厳しい言葉を先生からかけられることもあるでしょう。そのときに少々つらい思いをしても自分でやりきる、こうした経験を通して、だんだんと成長していくことが大切です。厳しい言葉をかけるのは、先生だけではなく、先輩からでも、友だち同士でもよいわけです。決して何もかもやってくれる学校が「面倒見がよい」わけではありません。必要なときには甘やかさない、突き放すような厳しさが本当の「面倒見のよさ」です。
その上で、面倒見のよさを確認する一つの例としては、中学1年生段階で日々のノートや手帳、生活日誌などのやりとりを積極的に行っているかどうかがポイントといえるでしょう。昨日はこんな風に過ごしました、というノートを担任の先生に提出をすると、帰りがけにアドバイスが入って戻ってくるといった取り組みです。オンラインで行っている学校もあります。こうした取り組みを行っている学校は生徒の細かな部分まで気を配っています。やりとりを通して、だんだんと生徒自身が自分を律することができるような指導をしていきますので、こうした取り組みの有無が判断材料になります。
「最終的に志望校はどの時期に絞ればいいでしょうか」
理想的なのは、小学6年生のはじめの段階で、第一希望をある程度決めておくことです。そして、12月の段階で「2月1日の午前の受験校に合格したら、2月2日の午前はA校を受けよう、残念な結果ならB校にしよう」といった受験スケジュールをしっかりと組み立てるのがよいでしょう。まずは第一希望の学校を決めて、12月にかけて併願の学校を選択。そこから優先順位を決めていくというのが、大切です。