上級者向け 受験マニアックス
2021年1月号 2021年地域別入試予測
2021年の中学受験の動向はどうなるのでしょうか。2020年の入試結果、入試変更点、模試の志望状況などからの分析をご紹介します。参照した模試は、2020年9月~11月の首都圏模試センターの合判模試と四谷大塚の合不合判定テスト、小社の塾内模試アタックテストが中心で、必要に応じて日能研模試、SAPIXオープンの状況も加味しています。 以下に、全体のトピックスを東京23区、東京多摩地区、神奈川県、千葉県、埼玉県の順に掲載します。
※ 毎年のことですが、こうした予測を読んで、特に併願校を中心に、受験校の組み立て方を変更する受験生もいます。「2020年11月時点の情勢」とお考えください。
全体の状況
群馬県を除く首都圏1都5県の小6児童数は前年より若干減少します。一方で11月の大手公開模試受験者数では、前年度並み、公立一貫模試を含めると2%増加という結果が出ています。10月までの大手公開模試の詳しい受験状況については11月号でご紹介していますのでご覧ください。
今年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、例年見られる「駆け込み組」と呼ばれる小学6年生になってから中学受験を決意し、準備を始める受験生が少ないように思われます。そのため、来年度の受験者数は2020年度並み、あるいはやや増加すると考えるのが順当かと思われます。
リーマンショック時との大きな違い
保護者の皆さんの中には、コロナ禍による影響で、「ひょっとして学費が払いきれなくなったらどうしよう」といった不安が心をよぎるかもしれません。実際、過去にはリーマンショックによる景気悪化の影響で学費の支払いに不安を持った保護者が、「ここまで努力してきたのだから成果を挙げさせてあげたい」と、受験して合格したものの、入学手続きを辞退したケースもありましたし、翌年からは中学受験が縮小傾向になりました。
しかし、リーマンショック時との大きな違いとして、現在高校段階では国と都県の学費支援制度が拡充しています。また中学段階でも私立の学校では、独自の支援制度を設けている学校が多くあります。例えば早稲田実業のホームページを見ると、家計急変世帯への支援として、学びの継続のための寄付金を募っています。もし心配なことがあれば、ぜひ学校に相談してみてください。
学費減免を受けることに抵抗感がある方もいらっしゃるかもしれませんが、お子さんにとって、一番大切なことは「学びを止めない」ということです。自治体によっては学費減免分を学校に対して公的に支援する仕組みを持っているところもあり、金銭的に学校に迷惑をかける額も小さくなります。学校に相談することで、活路が拓かれていきますので、ぜひ最後まで挑戦を続けていただきたいと思います。
中高一貫教育への期待
コロナ禍の影響はあるものの、中学受験に向かう保護者の多くは「コロナ後」を見据えています。だからこそ中学受験志向は縮小していません。それでは保護者の皆さんが中高一貫校の教育に対して期待していることはどのようなことでしょうか。具体例としては、以下のような資質、能力の育成が挙げられます。
- 知識、技能を習熟し、組み合わせて、現実の課題に活用する力
- 粘り強く工夫する
- 深く思考する
- アウトプットができる
- 他の人を説得できる
- 協働性の発揮
これらの資質、能力を育てていくためには、直接的な授業だけではなく、行事や部活なども含めた学校生活全般で育成していく仕組み、つまりカリキュラムマネジメントが必要です。中高一貫校では6年間という時間的なゆとりのある環境で、このカリキュラムマネジメントを軸とした「学び」にじっくりと取り組むことができるため、今年のコロナ禍という状況においても、受験希望者数は目立って大きく減ることはなく、前年同様あるいはやや増加する状況になっています。
中学受験を成功させるポイント
大切なことは最後まで諦めないということです。第一志望を譲らずに最後まで初志を貫いてほしいと思います。入試回数が多い学校は、1回目で不合格でも2回目、3回目……と粘り強く挑戦を続ければ、合格を勝ち取れる可能性は十分にあります。そして、12月号でもお伝えしましたが、併願校については難度面や通学時間にあまりこだわりすぎず、状況に応じて柔軟に考えることが大切です。
時折、「偏差値××よりも下の学校なら入学する意味はない」として、志望校に不合格だと地元公立中学校に進学し、高校受験で挽回をしようとするご家庭を見かけます。しかし、これでは中高の教育が3年目で分断されますから、前項のような資質、能力の育成が不十分になりがちです。また、こうしたリベンジ受験で、公立中学入学時に期待した以上の高校に合格するケースは、残念ながら少数派です。実際、中学受験勉強でかなり努力してきた経験があると、公立中学入学当初は学習の進度がゆっくりに感じられることが少なくありません。はじめのうちはあまり努力しなくても定期テストでそこそこの成績をとることが多く、慢心しがちになることや、部活が始まるとそちらに熱中しすぎて、気づいたときには最初の気持ちがどこへやら……、といったケースは案外多いものです。部活に熱中することは決して悪いことではありませんが、勉強とのバランスを欠いてしまうわけです。
ですから、中高一貫校に進学する、という気持ちをしっかり持って、併願校を選ぶ際は、特に2月1日以降は複数の学校への出願を計画して、その時の状況に応じて実際の受験校を選んでいきましょう。
以下に記載する図は併願校の組み方についてのパターン例です。
受ける学校をすべてレベルの高い学校で組み立てるのは、できるだけ避けたい組み方です。理想的には右肩上がりにレベルアップしていくことで、力を発揮しやすくなります。しかし、現実的には難しく、逆に右肩下がりとなる組み方をしているケースも案外見受けられます。
受かりやすい学校からスタートして、ワンパターンにならずに、ジグザグと複数の学校を受験できるように計画していきましょう。
実力は入試の直前まで伸びます。しっかりと勉強を続け、最後まで諦めずに入試に挑むことで、道は拓けてくるでしょう。粘り強くがんばっていただければと思います。
大多数の学校でウェブ出願を取り入れている
コロナ対策もあり大多数の学校でウェブ出願を実施しています。学校によっては、前日の夜でも出願が可能な場合もあります。
ただ、学校によっては簡易書留速達での出願というケースや、ウェブ出願でも、別途書類を提出するケースもあります。特に書類提出の場合は募集要項をよく確認しましょう。
また、出願書類に志願理由を記入する場合があります。特にコロナ禍で面接を取りやめる学校も出ていて、志願理由をしっかり見ようとしている学校もあります。
その際には学校を気に入った点や入学したいと思った事柄をしっかりと書くことが大切ですが、それとともに、お子さんの良いところ、入学してさらに伸ばしたいところを書きましょう。時折、お子さんのネガティブな面を書き、その学校の教育でネガティブな面が直ることを期待しています、といった志願理由を見ることがあります。保護者の本音もあるでしょうが、むしろ謙虚に書かなければ、という意識が先に立ってこうした志願理由になるのでしょう。
志願理由書の記載が、直接合否結果に影響するケースはほとんどありませんが、学校側としては、やはり入学する生徒がどういう人物なのかを把握するとともに、長所を教育活動の中で生かしたいと考えています。ですから、謙虚な考えに囚われずに、受験生本人の良いところを伝えましょう。
ウェブ出願のやり方などは、多くの学校が採用しているインターネット出願システム miraicompass®であれば、学校の最新情報を発信するサイト・ココカラテラスより練習ができますので、事前にアクセスしてみてはいかがでしょうか。
入試本番に向けて
入試本番に向けて、受験生の皆さんは、徐々に朝型の生活に切り換えていきましょう。人間の脳は起きてから2~3時間でフル回転になると言われます。朝型の生活で、学校へ行く前に計算や漢字などのトレーニングをすることをルーティンとして取り組みましょう。当然ではありますが健康管理も大切です。食事も消化がよく、なるべく食べ慣れたものをとりましょう。
また、受験生ですからある程度の配慮はお願いしたいものですが、お子さんに過度な配慮をする必要はありません。お手伝いを含めて普段通りに接してください。
入試当日には、しっかりとした防寒対策をしましょう。2021年度入試ではコロナ対策のため、例年よりも頻繁に窓開け換気を実施する学校が多くなります。教室に暖房は設置されているものの、休憩時間に窓を開けて換気していると、どうしても室温は下がっていきます。また三密を避けるための配慮から、一つの教室に入る人数も制限されるため、室温も上がりにくくなります。あまりにも室内が寒いときは、コートなど上着を着て受験しても構いません。寒い中での受験の可能性を考慮して、服装やポケットカイロなどの準備をしてください。
当日のチェックリストについては、現在発売中の「私立中高進学通信 12月号」に掲載しております。Amazonなどのウェブサイトからのご購入はもちろん、書店からバックナンバーをご注文いただければ数日で届きますので、ぜひチェックしてください。
来年度の各校のコロナ禍対応について
2021年度入試は、コロナ禍対応として従来とは異なる工夫を各校が行います。編集部では、来年度の各校のコロナ禍対応について、1都3県の各校に臨時のアンケートを実施し、「入試の送迎」「保護者控室」「追試・追検査予定」の3項目をまとめています。また、保護者の方以外にも、塾関係者向けに、激励や入試問題の配布等についても記載していますので、必要な方はご覧ください。
アンケート結果は、以下のリンクよりPDFをご覧ください。
「入試の送迎」については、混雑を回避するためマイカー・タクシーで送迎しようという動きが見られますが、東京都心部を中心にマイカー・タクシーは遠慮してほしいという学校は少なくありません。麗澤など一部の学校ではマイカーでの送迎は可能となっていますが、基本的には電車やバスなどの公共交通機関を利用することが原則となっています。
やはり保護者の皆さまの中には満員電車の感染リスクを不安視する方も多いと思われます。しかし、理化学研究所のシミュレーション結果によると、満員電車での感染リスクは低いとされています。一定時間ごとのドアの開閉により換気されること、車両にも換気システムが稼働していること、さらに、車内ではほとんど話さないために飛沫が飛びにくいことが理由となっています。もちろん感染リスクはゼロではありませんが、過度に心配しなくてもよいかもしれません。
ただし、車内の高い部分は十分な換気でも、低い部分は少し空気がよどむこともあるようです。大人では心配いりませんが、まだ背の低いお子さんもいますから、席に座らずに、開閉による換気が十分なドア近くに積極的に立つことをおすすめします。また携帯用アルコールを持参し、下車時など、こまめに指先を消毒することが大事です。十分な対策を取れば、感染リスクも下げることができますので、怖がらずに公共交通機関を使って学校へ行っていただきたいと思います。
受験生の保護者の方へ
保護者の方は、お子さまの受験に入れ込みすぎず、冷静な部分を持ち続けることが大切です。挑戦することは大事ですが、受験に没頭するあまり途中で息切れしてしまい、お子さまよりも先に保護者の方がギブアップしてしまうケースも多く見られます。適度な距離感でどうか最後までお子さまを支え続けてあげてください。
合格にしても不合格にしても、中学受験の結果が、その後の人生を大きく左右するわけではありません。お子さまにとって、人生の貴重な経験と捉えて受験に向き合っていただければと思います。