上級者向け 受験マニアックス
2019年11月号 9月の大手公開模試の受験状況と来春中学受験の傾向
この記事は2019年度の情報です。最新の情報は2023年11月号をご覧ください。
9月の三大模試(首都圏模試の統一合判、日能研模試、四谷大塚合不合判定テスト)とサピックスオープン、首都圏模試の公立中高一貫校模試の受験者数データがまとまりました。その結果からは、中学受験の広がり、難関校志向などが見えてきます。また、近年人気が今一つの女子校や志望順位の低い学校への進学について、筆者の見解をご紹介します。
大手公開模試受験者数は約2,000名増加し、中学受験の裾野が広がる
表1は、今年と昨年の9月の大手公開模試の受験者数を集計した結果です。
表1 9月の大手公開模試の受験者数(2018年・2019年)
男子 |
女子 |
合計 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
9月 |
18年 |
19年 |
18年 |
19年 |
18年 |
19年 |
首都圏模試 |
6,101 |
6,291 |
6,763 |
6,671 |
12,864 |
12,962 |
同公立一貫 |
1,111 |
1,314 |
1,415 |
1,707 |
2,526 |
3,021 |
日能研模試 |
6,278 |
6,527 |
6,108 |
6,295 |
12,386 |
12,822 |
四谷大塚 |
7,547 |
7,819 |
6,678 |
6,665 |
14,225 |
14,484 |
サピックス |
3,784 |
4,167 |
2,571 |
2,864 |
6,355 |
7,031 |
合計 |
24,821 |
26,118 |
23,535 |
24,202 |
48,356 |
50,320 |
今年の受験者数の合計は昨年より1,964名増加して、50,320名となりました。一方、1都5県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県)の小学6年の児童数は昨年より約1,900名増加しています。このことから、首都圏の中学受験率が確実に上がることがうかがえます。中学受験の裾野が広がっていることがわかります。
また、公立一貫模試は全体からすると少数派ですが、伸び幅が大きく、昨年より約20%も増えています。これは、私立でも適性検査型や総合型の入試が増えてきたこと、今年開校したさいたま市立大宮国際の人気が続いていることや、来春に茨城県で公立一貫校が一気に5校開校することなどが要因だと考えられます。
難関校・上位校志向の受験生が増加
図1は、模試の種類別にこの10年の受験者数の推移を表したものです。
図1 9月の三大模試とSAPIX模試の受験者数の推移(2010年〜2019年)
四谷大塚とサピックスを合計したものが緑色、日能研模試が赤色、首都圏模試に公立一貫模試を合計したものが青色で表されています。なお、模試の特徴として、四谷大塚とサピックスには難関校志向の受験生が、首都圏模試には中堅校志向の受験生が、日能研模試にはその中間層が集まるといわれています。
難関校志向が強い受験生が受けることが多い緑色のグループが最も多く、来春に向けても中学受験では難関校・上位校志向が続くと考えられます。
男女別模試受験者数の伸び率
図2は、9月の三大模試とサピックスオープンの合計受験者数の前年対比伸び率を、男女別に表したものです。公立中高一貫校模試はスタートしてまだ3年なので含みません。
図2 三大模試・SAPIX模試合計受験者数の前年対比伸び率(男女別)
前年対比伸び率は、男女ともに2017年からプラスに転じていて、今年も男子5.2%増、女子2.8%増となっています。昨年は女子の方が伸び率が高かったのですが、今年は反転しています。来春に向けては特に男子で中学受験志向が上がっています。
どんな学校の人気が上がっているか
来春に向けて、受験生の人気が上がっている学校はどのようなところなのでしょうか。 以下に、首都圏模試で全体的に希望者の増加が目立つ学校名(100件以上の希望があり、昨年より10%以上増えている学校)と、第一志望の希望者の増加が目立つ学校(50件以上の希望があり、昨年より10%以上増えている学校)を挙げます。
【男子の全体的な希望者が増えている学校】
学習院、暁星、攻玉社、世田谷学園、高輪、桐朋、穎明館、桜美林、慶應中等部、東京電機大、ドルトン東京学園、日大第三、目黒日大、神奈川大附属、中大横浜、桐蔭学園、桐光学園、日大日吉
【女子の全体的な希望者が増えている学校】
恵泉女学園、光塩女子、晃華学園、麹町学園女子、昭和女子大、日大豊山女子、立教女学院、湘南白百合、日本女子大、和洋国府台、浦和明の星、淑徳与野、淑徳巣鴨、穎明館、成蹊、東洋大京北、武蔵野大学、目黒日大、日大日吉、市川、青学浦和ルーテル
【男子の第一志望の希望者が増えている学校】
海城、学習院、攻玉社、芝浦工大附属、世田谷学園、高輪、都市大付属、日大豊山、早稲田、鎌倉学園、慶應中等部、成蹊、成城学園、東京農大第一、東洋大京北、日大第三、神奈川大附属、東海大相模、桐光学園、芝浦工大柏、千葉日大第一
【女子の第一志望の希望者が増えている学校】
共立女子、昭和女子大、田園調布学園、富士見、立教女学院、日本女子大附属、フェリス、成城学園、東洋大京北、三田国際、日大日吉、法政大学第二、山手学院、東邦大東邦、横浜国大横浜
有名難関校や伝統のある進学校の人気は、来春に向けても根強くなっています。また、グローバル教育、アクティブ・ラーニング、STEM教育、国際バカロレアなど、新しい価値観での取り組みに力を入れている学校も、受験生から支持されている様子がうかがえます。難関大学への合格実績はもちろん大事なのですが、それだけではなく、中高の6年間で多彩な経験ができて、視野を広げられたり、コミュニケーション力や自分でしっかり考える力を身につけられる学校が評価されるようになっています。
女子校離れの現状と女子校を選ぶ理由
受験マニアックスでは以前から女子校離れの傾向を伝えてきましたが、来春に向けてもこの流れは続いています。また、難関校や有名校など一部の女子校に人気が集中し、その他の女子校には希望者が集まりにくくなっている様子が見られます。
一昔前は「女子校は英語教育に強い」というイメージが浸透していましたが、最近は男子校も共学校も英語教育に注力しており、あえて女子校を選ぶ理由が薄くなっているのかもしれません。また、探究学習やSTEM教育について、一部の女子校では先進的な取り組みが評価されているのですが、まだこれから、という女子校も少なくありません。社会が大きく変化し、多様性や柔軟な教育改革が重要視されている今、「女子校は保守的」とマイナスイメージを抱く保護者も少なくありません。
しかしこういった先入観は問題です。見学会や相談会に参加して一校一校を深く知っていけば、「素敵だな」「うちの子に合うな」と思える女子校に出会えることも多々あります。また、お子さんには一人ひとりの個性があり、共学校で多様な仲間とアクティブに過ごすのが向いている子もいれば、落ち着いた環境で細やかに面倒を見てくれる女子校の方がのびのびと成長できる子もいます。
周りに流されずにしっかりと情報を集め、志望校を選んでいただければと思います。
志望順位の低い私立に進学するべきか
中学受験に挑む生徒や保護者の方は、「もし行きたい学校が不合格だった場合、本来の学力レベルより下の私立中学に行くべきか、それとも地元の公立中学に行って高校受験で再チャレンジすべきか」という悩みをよくお持ちです。
ひと昔前までは、「中学受験に挑戦したなら、志望順位の高い学校に受からなくてもとにかく私立に行く」というケースが多く見られました。その背景には「中学受験をしたのに地元の公立に進むのは恥ずかしい」という思いがあったのでしょう。しかし近年は、「中学受験で志望順位が高い学校に受からなかったら、地元の公立に行く」というケースが増えてきました。高倍率の公立中高一貫校を目指す受験生が増え、不合格になっても恥ずかしいとは思わず地元の公立中学に進むようになっているのがその要因の一つです。
しかし筆者は、高校受験で再挑戦することは簡単ではない様子を塾の現場で多数見てきました。生徒や保護者の方は「中学受験で頑張れたのだから、地元の公立中学に在学している間も勉強を続け、高校受験で難関校・上位校に再チャレンジすればよい」と考えるかもしれません。しかし、いざ地元の公立中学に進学すると、授業が簡単に感じられて張り合いがなくなり、部活動や友達づきあいに夢中になって、学習の習慣や意欲が衰えてしまうことが多々あります。そして高校受験を迎える頃には、中学受験で目指していた学校はおろか、滑り止めで合格した学校にすら、合格できなくなっている場合も見られます。
私立の中高一貫校には、6年間を通じて先生が人間力の育成をサポートしてくれる、6年間を通じた独自の教育カリキュラムに力を入れている、高校受験がないので海外留学や課外活動など多彩な経験を積める、などの良い面があります。たとえ志望順位が低かったり本来の学力レベルより少し下かなと思うような学校であっても、熱心で魅力的な先生がいたり先進的な取り組みに力を入れて入れば、行く価値は大きいでしょう。
偏差値だけで判断せず、中高6年間、そしてその先の人生の「伸びしろ」を考えて、進学先を選んでください。