上級者向け 受験マニアックス
2018年7月号 2019年度首都圏中学入試の変更点(第1弾:2018年4月〜6月発表分)
この記事は2018年度の情報です。最新の情報は2023年7月号および2023年10月号をご覧ください。
今号では、来年度の首都圏中学入試について、現時点で発表されている変更点をご紹介します。大勢が判明する秋頃に、第2弾をご紹介する予定です。
2019年度首都圏中学入試の大きな流れ
首都圏中学入試の傾向は2018年度とあまり変わらず、新しいタイプの入試、英語入試、算数一科目入試の3つの大きな流れは少しずつ広がっているようです。以下に、注目すべき2つのトピックスを紹介します。
【「さいたま市立大宮国際中等教育学校」の開校と英語入試の広がり】
現状、英語入試を行っているのは都内の中学校が中心ですが、2019年度からは少し様相が変わるかもしれません。その理由は、来年開校の「さいたま市立大宮国際中等教育学校」です。同校は適性検査に英語を導入することを発表しているので、併願先となる他校でも英語入試が始まる可能性が考えられます。さいたま市の小学校は以前から英語の授業に力を入れていたという背景もあり、2019年度からはさいたま市周辺を起点に英語入試が少しずつ広がっていくかもしれません。
【新しいタイプの入試の動向】
2019年度もさまざまな学校で、思考力・表現力・主体性などが求められる新しいタイプの入試が行われます(新しいタイプの入試の詳細については2016年12月号、対策については2017年12月号をご参照ください)。
2019年度は、新しいタイプの入試の日程を早くしたり遅くしたりして、受験生の選択肢を増やす傾向が見られます。メジャーになった適性検査型などは別として、ユニークな実施内容の入試については、早い日程では従来型の2教科・4教科入試と並行して行われることになるので、実際には2教科・4教科入試を選ぶ受験生が多数派でしょう。遅い日程の場合も、ピンポイントで受験する生徒は少なく、早い日程の2教科・4教科入試で不合格だった場合の次の手として出願するケースが主流となるでしょう。いずれにせよ、2教科・4教科入試が主流という構図は変わらず、ユニークな内容の新しいタイプの入試の規模はそれほど大きくならないと思われます。
新しいタイプの入試を行う学校は、生徒の個性や努力を見たいと考えており、形だけ取り繕っても合格には至りません。一つの事例をご紹介します。今年、芝浦工大附属が第一志望入試を新設しました。これは、1〜3回の通常入試を複数回受け、不合格ながらも合格ラインに近い得点だった場合に受験資格が得られるもので、事前に発表されたテーマに沿った課題レポートを出願時に提出する必要があります。この課題レポートの中に、インターネットサイトを丸写ししたことが明らかなものがあり、受験資格が認められませんでした。新しいタイプの入試を選択する場合には、課題に対して興味を持ち、探究心や工夫を持って自分なりに一生懸命に取り組むことを心がけていただきたいと思います。
大きな変更点がある中学校について
新設の3校、共学化する3校、教育内容が大きく変わる2校についてご紹介します。
1.新設校
【さいたま市立大宮国際中等教育学校】
〈概要〉さいたま市立大宮西高等学校を母体とした県内3校目の公立中高一貫校で、高校からの入学生がいない完全中高一貫教育を行います。同校が打ち出している特色は、6年間の一貫教育で高い進学実績を実現することと、世界に飛躍するグローバル人材を育成することです。
〈教育内容〉1年次から4年次は「エンパワーメントステージ」と位置づけ、高度で充実した英語指導を行います。英語以外の教科も英語で学ぶ「英語イマージョン」授業を取り入れる他、英語しか使えない「オールイングリッシュタイム」を毎朝15分行います。福島県のブリティッシュヒルズでの異文化体験(1年次)、オセアニアでの語学研修(2年次)、アメリカでのフィールドワーク(4年次)なども予定しています。英語以外では、Grit(やりぬく)、Growth(成長)、Global(国際性)の3つのGを重視した「3Gプロジェクト」という探究活動を積極的に行います。国際的な社会問題などについて、調査と議論を重ねて解決法を探り発表するもので、世界に貢献できる力をつけていきます。 5年生・6年生は「アチーブメントステージ」と位置付け、リベラルアーツ、STEM、グローバルの3コース制になります。リベラルアーツコースでは文理を融合して幅広く深いものの見方を身につけ、STEMコースではあらゆる理系・IT分野で求められる「しっかりと科学を理解した人材」を育成します。グローバルコースでは国際的な感覚や高い英語力を養い、国際バカロレアのディプロマプログラムの導入も検討しています。
〈課外活動〉放課後の活動は一般的な部活動ではなく「アフタースクールアクティビティ」と称し、シーズン制でスポーツや探究活動を選択して取り組みます。ずっと一つの部活に所属するわけではなく、興味に応じて柔軟な活動ができます。
〈入学者選抜〉1月13日に第1次選抜を、1月19日に第2次選抜を行います。第1次選抜は、さいたま市内のもう一つの公立中高一貫校である市立浦和中学校・高等学校と別日程なので、両校に出願することも可能です。第2次選抜は同日程なので、1次で両校に合格した場合はどちらかを選ぶことになります。また、適性検査には英語が含まれます。さいたま市内の小学校は英語の授業内容を充実させているので、同市内の小学校の英語授業にしっかり取り組んだ生徒なら十分に対応できる内容とのことです。
【ドルトン東京学園中等部】
〈概要〉グローバル化が進む新時代に合わせ、東京都調布市に男女共学の中高一貫校が誕生します。教育の主軸はドルトンプラン。ドルトンプランとは、1908年にアメリカのヘレン・パーカスト女史が提案した教育法で、生徒一人ひとりが自分で目標設定をして、興味や個性に応じた自主的な学習を進めていく仕組みのことです。
〈教育内容〉ドルトンプランは、詰め込み型の教育に対する問題意識から提唱された教育法です。「自由=生徒一人ひとりの興味を出発点に、自主性と創造性を育む」と「協働=さまざまな人々との交流を通して、社会性と協調性を身につける」を2つの原理とし、クラス担任とともに自ら計画を立てて課題に取り組む「アサインメント」、さまざまな人との交流を通して社会性と協調性を身につけるため学年の枠を超えて日常的に交流を行う「ハウス」、教員と1対1または少人数グループで学びを進める「ラボラトリー」の3つの取り組みを柱とします。探究活動にも力を入れ、中学と高校で最低1回ずつは研究発表や論文執筆を行い、探究活動のフェス(フェスティバルを同校ではこのように呼びます)も行います。 必履修科目の大半は高1までに終え、高2以降は各自の関心や将来の希望に合わせて選択授業を多数とります。多様な価値観に接して欲しいという思いを大切にしていて、文系と理系、志望大学別などでコース分けをする予定はありません。
英語教育にも注力し、授業の時間数を多くとる他、学年に1人ネイティブを配置します。「聞く・読む・話す・書く」の4技能ではなく、「話す」を「コミュニケーション」と「プレゼンテーション」に分けた5技能を伸ばすカリキュラムを組み、ホームステイなど生の英語に接する機会も多数用意します。海外大学への進学も見据え、卒業時の英語力の目標はCEFR(国際的な英語力レベル)でB2(英検準1級相当)以上です。
〈入試〉2月1日・2日午前に2教科4教科選択の入試を行い、4教科は特待も出します。また、1日・2日・4日の午後に2教科入試も行います。さらに、1日午前は思考力型、2日午後は2教科+英語面接の入試も実施します。英語は準2級程度を想定しています。
【細田学園中学校】
〈概要〉埼玉県志木市の細田学園は、学校改革で応募者数も増加、コンスタントに国公立大合格者も輩出するようになりました。同校の目指す教育をさらに進化させるため、6年間の中高一貫教育を展開するべく、中学校を開校します。
〈教育内容〉テクノロジーが進み、IoTやAIの台頭により働き方が変わるこれからの社会で、自分の好きなこと・得意な分野に取り組んで社会に貢献し、輝く人生を送ることのできる人を育てることが目標です。中高一貫教育の理念は「dots【原体験】教育」です。 6年間の流れとして、中1の「移行期」は挨拶や身だしなみなどの生活習慣と自主的に学ぶ姿勢を身につけます。中2・中3の「dots拡張期」はさまざまな行事を通じて原体験を積み重ねます。また、アクティブラーニングを取り入れたDITO(Define, Input, Think over, Output)メソッドを活用し、討論やプレゼンテーションを組み込んだ授業を展開します。高1・高2の「dots探究期」はさらに深い学びを進め、自分の興味関心や得意分野を元にテーマを定めて研究活動に取り組みます。高3の「dots結合期」では、それまでに積み上げた多様な原体験によって育まれた特性や強みを踏まえて進路を定め、希望大学進学に向かって邁進します。 また、生徒約7人に1人の割合でネイティブを配置、週に5日オンライン英会話レッスンを行うなどして、卒業時はCEFRでB2(英検準1級相当)程度の英語力に到達することを目標とし、海外大学進学も視野に入れます。
〈入試〉特待入試は1月10日午後と13日午前の2回設定し、国算の2教科と国算社理4教科の選択となります。一般入試は1月10日午前、12日午前、13日午前と2月4日午前の4回で、基本的に4教科ですが、1月12・13日は国算英の選択もできます。英語は英検3級程度を想定しています。さらに適性検査型も1月10日午前と19日午前に実施します。
2.共学化
【桐蔭学園中等教育学校】
従来は、中等教育学校(男子のみ・中1〜高2)、中学校男子部、中学校女子部、高等学校男子部、高等学校女子部に分かれていて、中1から高2は完全に男女別学、高3はホームルームは男女別で授業は男女合同という独特な体制でしたが、2019年度からは中学入学生を中等教育学校に一本化して共学化し、高校入学生とは完全に分離します。
教育内容は現在改革が進んでいます。学園のあるべき姿を「自ら考え判断し行動できる子どもたち」を育てることと定め、「アクティブラーニング型授業」「探究」「キャリア教育」を3本柱に据えました。「アクティブラーニング型授業」では、協働作業やプレゼンテーションといった形式だけではなく従来からの講義形式の授業も重視し、「生徒自身の教科内容の定着」→「生徒同士の協働作業による新たな気づき・学びの深まり」→「深まった知識や応用力・活用力を自分自身に定着させる」というサイクルを繰り返し、社会で活躍する力を育みます。「探究」では、「未来への扉」と称した授業を行い、情報の調べ方や整理の仕方、発表の仕方などを身につけます。さらに世界に目を向けた多角的な視点から議論を重ねます。そして自分の関心に基づいてゼミを選択し、探究を進めて論文にまとめます。「キャリア教育」では、職場訪問、大学の研究室訪問などを行い、今の自分と将来の自分をつなぐための具体的な計画を立案・実行していきます。そして「自分自身の人生をデザインする力」を育成します。
【横浜富士見丘学園中学校】
2019年度から男子クラスを設置します。授業は原則として男女別クラス編成とします。
同校の特色は、共学と別学のメリットを併せ持つことです。共学のメリットは、男女の考え方や価値観の違いに触れ、他者を理解し尊重する心、協働する力を育めるところ。学校行事、総合学習やロングホームルームは男女合同で行い、多様性を認め合う心を育みます。一方で授業は男女別として、異性の目を気にせず学習に集中できる環境を維持し、男女の発想や理解の違いに合わせた授業を展開します。理系を目指す女子については高2から男子と合同クラスとし、男子とともに切磋琢磨して理系の力を伸ばします。
理系教育には特に力を入れ、2018年度からは東京理科大学と教育連携を進めています。2019年度以降は男子が入学して理数特進クラスが設置されるため、理系教育の進化が加速していくでしょう。英語教育も重視していて、中1・中2ではネイティブの副担任が配置されます。中3では必修で、男子はアメリカ西海岸研修、女子はオーストラリア研修に参加します。
【武蔵野大学中学校】
2019年度から中学を、2020年度から高校を共学化し、校名を武蔵野大学中学校、武蔵野大学高等学校に改称します。
新体制の教育のキーワードは、「グローバル」と「サイエンス」です。「世の中の多様な価値観を受け入れ、そこに『自分色』を足していく力を育てる教育」でグローバル力を養い、「客観的なデータを分析し、仮説を立て、それを論理的に検証する力を育てる教育」でサイエンス力を伸ばし、新時代に世界で活躍できる人材を育成します。英語教育では、軽井沢のインターナショナルスクールの立ち上げに参画した方々と協力し、自分の考えを正しく素早く伝えていくための世界基準の言語活用能力を習得するプログラムを開発しました。互いの共通点を見出し共に手を取り合っていく力をつけるため、コミュニケーション能力を徹底的に鍛えます。サイエンス教育では、理論と仮説、仮説・検証を毎週行うサイエンス探究授業を行います。また、大学附属校の強みを生かし、高度で専門的な設備も活用していきます。
3.内容が大きく変わる学校
【目黒日本大学中学校】
2017年12月に日本大学との準付属契約を締結し、2019年度からは校名を「目黒日本大学中学高等学校」に変更して、日大グループの学校として新たな一歩を踏み出すことになりました。経営主体は日出学園ですが、日本大学への内部進学の条件は他の正付属校、特別付属校と同じです。
教育体制としては、中1・中2の基礎充実期、中3・高1の実力養成期、高2・高3の応用発展期に分けたカリキュラムを編成し、中学の学習内容はできるだけ中2までに終了し、中3から高校の学習内容の先取りを行います。高校では、国公立大・医歯薬系進学を目指すS特進クラスと、日本大学を含む多様な進路を目指すアドバンストクラスに分かれる計画です。高校からの入学生は、基本的に中学入学生とは別指導となります。日本大学への内部進学と他大学進学、どちらもしっかり狙える学校になっていきます。また、来春の入学生が高校1年になる2022年にはSSH(スーパーサイエンスハイスクール)とSGH(スーパーグローバルハイスクール)の申請を計画していて、高度な探究学習に取り組みます。
【聖ドミニコ学園中学校】
2019年度から21世紀型教育に対応すべくカリキュラムを大きく変更し、コース制を導入することになりました。
新カリキュラムの大きな特徴は、独自教科「ドミニコ学」です。この授業では、ICT機器も存分に活用して、思考、エッセイ、プレゼンテーション、議論、探究の技法を学び、思考力をトレーニングしていきます。
コースは、従来コースの延長である「グローバルスタンダードコース」と、新しい「イマージョンコース」に分かれます。「グローバルスタンダードコース」は授業時間数を今よりも拡大し、各教科でPBL=課題解決型の学習を行います。これは、生徒たちが自ら調べ、議論し、解決法を探る中で知識や技能を身につけていくものです。進学目標は、早慶上智東京理科大などの世界ランキングに入る国内89大学です。高3までにCEFRでB2(英検準1級相当)程度の英語力を身につけます。「イマージョンコース」は、オックスフォード、ケンブリッジといった世界ランキング100位以内の大学進学を目標とするコースで、数学や理科も英語で授業を行います。同校の特色であるきめ細かな指導はそのまま残り、日本人教員とのチームティーチングでフォローアップもしっかり行っていきます。中1から高1までの4年間で英語による授業を2,000時間以上確保し、ネイティブ教員が発想や創造性に重点を置いた授業を行います。高3までにCEFRでC1レベル(英検1級相当)の英語力を身につけます。
2018年4月〜6月に発表された変更点一覧
現段階(2018年6月時点)で判明している2018年度首都圏中学入試の変更点一覧をご紹介します。