上級者向け 受験マニアックス
2018年6月号 今注目される「STEM教育」
今、科学や工学、ITなどの分野を重要視した「STEM教育」が注目されています。その背景や詳しい内容、中学受験生がどう関わっていくべきか等を考えていきましょう。
「STEM教育」とは
「STEM教育」とは、以下の分野の力を伸ばすことを重要視する教育方針のことです。
- Science=科学
- Technology=技術
- Engineering=工学
- Mathematics=数学
Arts(芸術分野)を加えたSTEAM、environmental(環境学)を加えたeSTEMなどのバリエーションがいくつかありますが、基本は上記の4分野です。
「STEM教育」が注目された背景
「STEM教育」という言葉は、ハイテク関連の技術者の不足が懸念されたアメリカで、2000年代の初めころから関係者間で用いられるようになったもので、2006年から当時のブッシュ政権が予算措置や人材育成の方針を打ち出し、2013年にはオバマ前大統領が、「経済面で国際競争力を高めるためにはSTEM分野の教育が重要」という方針のもと、理数系教員養成の大幅拡大を打ち出したことで各国でも取り組みが行われるようになりました。
実際、パソコンやスマホが生活に根付き、IoT(身の回りのあらゆるものがインターネットにつながること)が急速に発展、AIやロボットの進化が進む今、科学技術や工学、プログラミングなどの分野に長けた人材は日本でも不足していますが、今後の社会の在り方を考えたとき、単にプログラマーやエンジニアの育成といった直接的な人材不足対応だけでなく、経営者、自営業者、法律家、営業や広報などのいわゆる文系の職種、さらには芸術や芸能分野で活躍する人々も、ビジネスを拡大したりサービスの質を向上するためには、STEM分野の基礎知識や教養を持っていることが求められます。例えばロボットを使ったビジネスを考えるとき、どうすれば期待通りにロボットが動くのかを知らないと、提供できるサービスに限界が来てしまう、と考えればわかりやすいでしょう。
あらゆる職業において、STEM分野に最低限の教養を身につけていることが求められる時代になると言えるでしょう。
日本における「文系」と「理系」
日本では昔から「文系」「理系」という言葉が使われてきました。早い子は中学生くらいから自分がどちらかを意識し始め、大多数が高校生で「文系」と「理系」のどちらかを選択します。「私は文系人間だから機械オンチ」「数学は嫌いだから一生関わりたくない」などというセリフもよく聞かれます。
しかし、これだけ機械化や情報化が進んだ現在、「文系」と「理系」に二分化して進路を考えるという手法は、時代にそぐわなくなっているのではないでしょうか。将来どんな仕事をしてどんな生活を送るにせよ、先端技術との関わりは続きます。よく、「大学は私大文系に進むから数学はいらない」という話を聞きますが、いわゆる「私大文系」でも数学が入試科目になるケースも出ているのは、こうした社会の動きと無縁ではありません。大学で「文系」の学部に進んで「文系」の職業に就く場合でも、あるいは(これからの社会では少数派になると思いますが)女性で大学を卒業して数年勤めたら結婚して専業主婦になる場合でも、似非科学に騙されずに自分自身の価値観に従って正しい判断ができる力は必ず必要で、そのためにはいわゆる「理系」分野にも興味関心を持ち、その力も伸ばせる教育を受けられるようになっていくべきだと思います。
小学生とSTEM教育
STEM分野に強くなるためには、好奇心旺盛で頭が柔らかい小学生のうちから科学やプログラミングなどに親しむことが大切です。最近は、小学生向けのロボット教室、科学実験教室、プログラミング教室などが色々なところで開催されていますので、ぜひ積極的に参加してみてください。
大人から見ると、いわゆる「勉強」とは異なり成績に結びつくことではないので、「こういう遊びみたいなことに時間を費やすのはどうなんだろう」と思うかもしれません。しかし子供は遊び感覚の体験から色々と考えを巡らし、「どうしてこうなるんだろう?」と、STEM分野への興味・関心を深めていきます。きっかけは「楽しい」という純粋な気持ちで良いのです。
ロボット教室や科学実験教室などでは、男の子も女の子も同じように目を輝かせます。「STEM分野は女子より男子の方が得意」「女性は科学者やエンジニアには向いていない」などという考え方は、大人の勝手な決めつけです。今までの社会環境や慣習から、STEM分野の仕事に就くのは男性が多いため、そのように思い込んでしまいがちなのです。
女の子を持つ保護者の方には、「女の子だから」とSTEM分野から遠ざけることは絶対にやめていただきたいと思います。本人が面白がっているのであれば、ロボットづくりでもハンダ付けでも、思う存分取り組ませてあげてください。それが、将来の活躍の幅を広げることにつながっていきます。また、小学校卒業後に女子校に進む場合も、STEM分野について興味を持ち学びたいと思った時に後押しをしてくれるような学校、STEM教育に積極的に取り組んでいる学校を選んでいただきたいと思います。