上級者向け 受験マニアックス
2020年3月号 2020年 首都圏中学入試の概況
この記事は2019年度の情報です。最新の情報は2024年3月号をご覧ください。
今回は、首都圏1都5県(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・茨城県・栃木県)の、2020年度の中学入試の概況をお伝えします。全体の傾向の分析と併せて、東京23区、東京多摩地区、神奈川県、千葉県、埼玉県、公立中高一貫校の詳細な入試概況データ(速報版)も、PDFにてご確認いただけます。入試概況データは3月6日現在で編集部に各校から寄せられたアンケートに基づいています。例年、繰り上げ合格などや、追加募集が実施される場合もありますので、3月6日現在の状況とお考えください。
1.中学受験者数は拡大が続き、私立中高一貫校が人気の中心に
図1は、首都圏1都5県の小学6年生の児童数と中学受験者数の推移です。

図1 小学6年生の児童数と中学受験者数の推移(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
※ 受験者数は編集部推定
※ 児童数は文部科学省の学校基本調査から作成、義務教育学校(小中一貫校)を含む
今年の中学受験の母体となる小学6年生の児童数は、34万1千名弱で、昨年より3千名近い増加となりました。少子化と言われていますが、首都圏への人口の集中で増加しました。小5以下の児童数を見ると、次年度以降は少しずつ減っていくことになりますが、転入者の増加によっては横ばいが続くかもしれません。
一方、中学受験者数は6万3千名弱だと推定されます。中学受験者数はグラフに表れていない2009年にピークを迎え、その後は減少を続けていました。しかし、2015年以降、東京23区から順次中学受験が拡大し始め、昨年同様、今年も児童数の増加率を上回る伸びが続いています。
図2は、首都圏1都5県の公立中高一貫校の応募者数の推移です。

図2 公立中高一貫校の応募者数推移(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
2013年までは新規開校が活発だったこともあり、中学受験拡大のけん引役となっていました。しかし、高倍率が受験生や保護者に浸透するにつれて敬遠傾向が生まれ、2014年以降は横ばいが続きました。昨年はさいたま市に「市立大宮国際中等教育学校」が開校した影響で、各校合計の応募者は増加しました。しかし、今年は茨城県に5校の公立一貫校が開校したものの、いずれも募集定員が小規模なこと、中学受験が定着していない地域への開校もあり、応募者数の合計は減っています。首都圏には各都県に国立の学校がありますが、学校数は私立よりもかなり少ないことから、今年の中学受験の拡大は、基本的には私立の中高一貫校が人気の中心になっていることがわかります。
出願の件数を見ると、増加が目立ったのは東京23区と埼玉でした。両者の違いとしては、埼玉は入試日程が早く、「力試し」の色合いが強く、東京23区は本命として選ばれていると言えます。今回は、全体的な中学受験拡大の流れで、埼玉への出願が増加しました。
2.新規開設校・新規コース実施校の入試はどうだったのか
2020年度に新規開設した学校や新規コース実施など大きな変化のあった学校の入試概況をご紹介します。
【茨城県公立中高一貫校】
・竜ヶ崎第一
竜ヶ崎第一高附属は、並木中等と通学圏内の重なる地域での開校です。母体校が文部科学省指定のSSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)のため、初年度から注目が集まり、人気となりました。応募者数は並木中等よりも少ないですが、募集定員も40名と少なく、実質倍率は並木中等を上回りました。初年度のため、単純に倍率だけで判断できるものではありませんが、並木中等のレベルに近くなったかもしれません。
・鹿島、鉾田第一
鹿島高附属と鉾田第一高附属は、それぞれ約100名の応募者がありました。この地域では、従来中高一貫校を選ぼうとすると、私立の清真学園しか選択肢がなかったため、受験生の選択の幅が広がりました。両校の難度面は、今後の公開模試の集計を待つ必要がありますが、大学進学実績の面では清真学園が鹿島や鉾田第一よりもリードしていることもあって、鹿島高附属、鉾田第一高附属とも、既存の公立一貫校や清真学園よりも少し入りやすかったかもしれません。
・下館第一
同校も約100名の応募者がありました。周辺は、あまり人数は多くありませんが、私立なら栃木県の作新学院や埼玉県の昌平、栄東などを考える受験生がいる地域で、古河中等とも通学圏が一部重なります。実質倍率は古河中等を上回りましたが、中学受験生が少数派の地域のため、難度面では古河中等と同等か、少し入りやすかったかもしれません。
・太田第一
太田第一高附属は定員を割った応募者数で、欠席者もいたため不合格者は出ていません。中学受験が珍しい地域で、中高一貫校を選ぶ場合は、少々遠くても日立第一高附属や私立の茨城キリスト教学園を選んでいます。近年は水戸の茨城を選ぶケースも増えていて、今回はあまり地元の支持を集められなかったようです。
【昭和学院】
昭和学院は特進・普通の2コース制で、21世紀型教育の方向性を進めてきましたが、2020年度からインターナショナルアカデミー(IA)、アドバンストアカデミー(AA)、ジェネラルアカデミー(GA)の3コース制に変更しました。この大きな改編を支持する受験生は多く、各回次合計の応募者数は、一昨年が減少、昨年は増加でしたが、今年はさらに大きな増加となりました。実際の受験者数、合格者数も増えていて、難度面ではGAが昨年の普通並み、AAは特進並み、IAは特進よりもやや高い水準だったようです。
【聖ヨゼフ学園】
カトリックの女子校でしたが、今年から国際バカロレアのMYP(中等教育プログラム)を導入した共学校として新たにスタートします。もともと小規模の入試の学校で、各回次合計の応募者数は共学化で増加しています。ただし、国際バカロレアという性質上、多くの受験生が集まるわけではなく、「小規模でも選ぶ人が選ぶ」入試でした。
【品川翔英中学校】
小野学園女子が共学化して、校名を「品川翔英」に改称しました。小規模な入試の学校でしたが、各回次合計の応募者数は大きく増加、昨年の5倍を上回りました。男子の方が多い結果で、新たな進学校に期待する受験生が集まっています。女子も昨年の2倍を超えていて、共学校志向の受験生が多いことを示しています。
【午後入試新規実施校】
・暁星
長い間1回だけの入試を行ってきた暁星が初めての複数回入試に踏み切り、2月3日は午後入試になりました。応募者は大きく増えています。
・湘南白百合
湘南白百合は帰国生入試を含めると、もともと2回実施でしたが、2月からの一般入試は1回でした。2月1日午後に算数入試を新設、4科の2日の入試には並行して英語入試も追加しています。やはり応募者は大きく増えています。
・田園調布学園、富士見
両校とも3回入試でしたが、田園調布学園は1日午後に、富士見は2日午後に算数入試を新設、多くの応募者がありました。
3.難易度別の学校選択傾向
図3は、1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の、難易度別応募者数の比較です。2019年と2020年の応募者数を男女別にグラフにしました。

図3 1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の難易度別応募者数
※ 公立中高一貫校は除く
※ Aグループは最上位校、Bグループは上位校と続き、Eグループは入りやすい学校
※ 難易度は入試前の予想偏差値を元に設定。2019年と2020年で学校のグループが変わっていることもある
※ 各グループの学校名は、各都県のPDFを参照
中学受験者数の増加に伴い、男女ともほとんど全てのグループにおいて応募者数は増加しています。特に増加が目立ったのは、男子のBグループ(上位校)です。C・Dグループもまとまって増加しており、Bグループの人気が全体をけん引していると言えるでしょう。女子も男子ほど集中しているわけではありませんが、Bグループが最多になっています。
男女ともにAグループ(難関校)の増加が小幅に留まった背景には、有名校・難関校を「ダメでもともと、うまくいけば」と受験する挑戦志向の受験生が減り、実質主義ともいえる現実的な選択をする受験生が増えてきたことがあるでしょう。傾向としては、現状のレベルの中で選べるモアベターな学校を選択していると推測できます。
また、学校の選択基準としては、かつての難関・有名大学志向中心の選択から教育の中身そのものに関心が高まっているといえます。グローバル化やSTEM教育、アクティブ・ラーニングなどの21世紀型教育にいち早く取り組んだ学校が多いC・Dグループの応募者増加の背景には、こうした教育への期待の高まりがあると言えるでしょう。
4.2020年度中学受験の人気校
【男子校】
図4は、男子校の応募者数の上位30校を示したものです。◆は前年と比べた増減の割合を表しています。

図4 男子校の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
1位は今年も東京都市大付属です。以前より減少したものの、トップは守っています。2位は昨年の3位から上がった成城で応募者も増えており、手堅い人気です。3位は昨年の14位から上がった巣鴨です。4位は昨年5位の早稲田、5位は昨年2位だった本郷です。同校は上がっていた人気が一段落したようで、少し応募者が減っています。その次の世田谷学園と日大豊山は同数7位です。日大豊山は昨年の11位から上昇しました。附属校カラーが強く、附属校志向の受験生が集まりました。8位は立教新座です。応募者はやや増えていて、安定した人気です。ここまでが応募総数2千名を超える学校です。昨年は2千名を超えた学校は5校ありましたが、今年は3校増えて8校となりました。このことから、応募者は人気校に集中していることを示しています。
応募総数1千名台の学校では高輪、聖光学院、城北、芝浦工大附属、佼成学園、学習院、京華の応募者の増加が目立ちました。グラフに登場しない学校では2回入試に踏み切った暁星の応募者が大きく増えました。開成、麻布、慶應普通部、早大学院などは1回のみの入試のため、応募総数でグラフを作ると登場しません。
前年と比べた増減の割合を見ると、巣鴨が67%の増加率で、グラフの枠からはみ出しました。長い間入試が2回でしたが、一昨年は3回、昨年は4回に増やし、増設した2月1日午後は算数1科としました。昨年も応募者は46%増と大きく増えていましたが、今年は2月1日午前の難関校、例えば開成や海城、早稲田などの併願校として認知度が高まり、さらに大きく増えています。また、巣鴨と同様に1日午前の難関校の併願先としての認知度が高まっている世田谷学園は、やはり昨年新設した1日午後の算数入試が人気の起爆剤で、昨年に続き46%の大幅増加です。
【女子校】
図5は、女子校の応募者数の上位30校を示したものです。

図5 女子校の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
昨年まで1位が豊島岡女子、2位が浦和明の星という順番が続いていましたが、今年は両校の間に横浜女学院が割って入り、2位が横浜女学院。3位が浦和明の星となりました。豊島岡女子も浦和明の星も応募者は増えていますが、横浜女学院は昨年に続いて今年も応募者が大きく増えて、昨年の5位から上がっています。昨年は新たにコース制を導入するなどの教育内容の改革、今年は特奨入試を新設したことが人気につながっています。4位は昨年の6位から上がった共立女子、5位は昨年の3位から下がった吉祥女子ですが、順位は下がっても応募者は増えていて、今年の中学受験の拡大ぶりが表れています。6位は恵泉女学園で、応募者が大きく増えました。同校はプロテスタント校で、今年は例年の入試日程の2月2日が日曜日になったため、午後に時間帯を変更し、3回の入試とも午後になったことから、併願受験生が増えたものです。ここまでが応募総数2千名を超えた学校です。桜蔭、女子学院、雙葉の東京の女子御三家では、雙葉の人気が上がりましたが、総じてあまり目立った動きはありませんでした。一方、神奈川女子御三家の横浜共立、横浜雙葉、フェリスはいずれも応募者数は減り、東京志向の影響が表れた結果と思われます。
前年と比べた増減の割合を見ると、跡見学園や田園調布学園、和洋国府台の増加が目立ちますが、増加率の最高は昭和女子大附属の92%増加で、グラフの枠からはみ出しています。
昭和女子大学は、昨年アメリカのテンプル大学のジャパンキャンパスが敷地内に移転してきました。単位互換などの共同教育が始まりました。大学だけでなく同じ敷地の中高とも積極的に連携、交流の取り組みが受験生に注目され増加につながりました。
この他、麹町学園女子も60%増加しました。同校は英語に力を入れていますが、さらに一定期間の留学をセットにしたダブルディプロマコース(日本と海外の高校の両方の卒業資格が取得できて、海外大学進学のハードルが下がる)を、高校での選択で新設しました。こうしたグローバル化への積極的な取り組みが応募者の増加に結び付いています。
グラフに登場しない学校では東洋英和、日大豊山女子、日本女子大附属、玉川聖学院、和洋九段女子、佼成学園女子、東京家政大附属、中村、富士見丘、白梅学園清修神田女学園、初めて午後入試を行った湘南白百合の応募者の増加が目立ちました。
【男女校】
図6は、男女校の応募者数の上位30位です。

図6 男女校(共学・別学)の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
1位は栄東で、今年も応募者が増えて1万1千名を超えました。全国1位の応募者数で、グラフの枠からはみ出しています。2位は4年連続開智で、栄東の入試日程変更の影響を受けて応募者が減ったものの、5,500名規模の入試です。3位は昨年の13位から上がった大宮開成で55%の大幅な増加です。同校は入試回数を昨年の4回から3回に減らしました。通常ならば入試回数を減らすと応募者数は減る傾向がありますが、同校はむしろ人気が大きく上がっています。4位は昨年同様に東邦大東邦でした。5位は昨年が3位だった広尾学園で、難化に対して敬遠ムードが生まれたようで、応募者は少し減っています。6位は昨年と同じく市川です。応募者数も昨年とあまり変わっていません。7位は埼玉栄で昨年の14位から上がっています。医学コース、難関大コースの入試を増設して応募者が大きく増えています。8位は昨年9位だった専修大松戸で、昨年並みの応募者数です。9位は昨年の5位から下がった東京都市大等々力で、入試回数を1回減らしたため、応募者は少し減っています。10位は昨年8位だった三田国際学園で、昨年とほぼ同じ応募者数でした。ここまでが応募者数3千名台までの学校です。この他、30位までの学校では、日本大学(日吉)とかえつ有明の増加が目立ちます。
グラフに登場していない学校では、安田学園、淑徳、千葉日大第一、穎明館、日本工大駒場、立正大付立正、武蔵野大、淑徳巣鴨、駒込、八王子学園、昭和学院、ドルトン東京学園、聖徳学園、東海大付属相模、帝京大帝京、青学大浦和ルーテル、千葉明徳、細田学園、工学院大附、横須賀学院、城西大附属城西、東海大菅生などの応募者の増加が目立ちました。
5.実受験率と合格率の傾向
中学受験では、「志望順位が高い学校に先に合格したので志望順位が低い学校の入試を欠席する」「志望順位が高い学校の入試に複数回出願し、早い回次で合格した場合に、遅い回次を欠席する」など、出願しても入試を欠席することがあります。
図7は、各都県の実受験率の3年間の推移を表したものです。

図7 実受験率の推移(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
※ 応募者から欠席者を差し引いた出席率
※ 各校・各回次の合計から算出
近年はウェブ出願を行う学校の増加によって欠席が減り、実受験率が上がってきていましたが、
ウェブ出願の普及が落ち着いてきたこともあり、昨年に続き、2020年度入試も横ばいかやや減少という結果になりました。傾向としては、男子はインターネットでの合格発表を確認してから追加出願をするケースが多く、女子は欠席を承知であらかじめ出願しておくというケースが多いようです。
都県別に見ると、例年通り千葉県の実受験率の高さが目立ちます。千葉県は地域ごとに難度が近接している学校の入試日程が分かれているケースが多く、さらに県内各校を受験してから東京23区の学校に挑戦する受験生も多いので欠席は少なくなります。また、近年千葉県の上位校が都内生に選ばれるケースが増えていることも、低い欠席率の理由です。共学校志向で附属校ではない進学校を考える場合、特に東京23区東部の場合、選択肢が限られることもあって、東京志向は高いものの、それよりも渋谷幕張をはじめ、東邦大東邦や市川などを選ぶ受験生は増えてきました。中には桜蔭や女子学院に合格しても最終的に渋谷幕張を選ぶケースも見られるようになっています。
図8は、各都県の合格率の3年間の推移を表したものです。

図8 合格率の推移(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
※ コース制入試のスライド合格や特待入試での一般合格を除く
※ 実質倍率の逆数で各校・各回次の合計から算出
東京23区、多摩地区、神奈川県、千葉県とも、2018年、2019年、今年と徐々に合格率が下がっています。中学受験が拡大傾向のため、合格者を絞るようになってきました。
また、実質主義のためか、最後まで難関校や人気校に挑戦せず、早い日程の受験で受かった学校に決めてしまうケースも増え、後ろの日程の受験では、合格者を絞らざるを得ない事例も多くあります。
一方、埼玉県では、昨年は合格者が絞られていますが、今年は緩んで合格率が上がっています。埼玉県の場合は、受験者数最大の栄東の動きが大きく影響を及ぼしており、今年は一回目の日程で、合格最低点を少し下げたことが合格者の大きな増加につながりました。これは栄東だけでなく、他校でも同様のことが起きており、埼玉県全体として方針が変わりつつあると思われます。
かつては埼玉県の私立中高一貫校は有名大学進学を看板に生徒を集めていました。しかし、価値観の変化とともに、私立の中高一貫教育を公立の補完的存在ではなく、中高の6年間をかけなければ身につけられない能力の育成へと捉えなおす方向に動き出しました。
難関大学への合格率にこだわらず、そうした21世紀型の教育を見据えて積極的に合格者を増やしたことが、合格率の増加に結びつきました。また現実的な背景として、就学支援金の拡充があります。中学段階で費用がかかっても、高校段階では支援金により負担が減るため、中学段階でも入学生を多く迎えられると各校が判断したことも理由にあげられるでしょう。