上級者向け 受験マニアックス
2017年5月号 私立高校の授業料補助制度について
この記事は2017年度の情報です。最新の情報は2023年8月号をご覧ください。
東京都は2017年3月、私立高校授業料無償化(正式には保護者負担軽減)の拡大を目的とした予算案を可決しました。目的は、教育の機会を平等にすることです。これは、私立中学に通い、内部進学する場合にも、高校段階から適用されます。そこで今回は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の私立高校授業料補助の仕組みや、私立小中学生向けに2017年度から始まった「私立小中学校等就学支援実証事業」についてご紹介します。
授業料補助制度の利用は当然の権利
私立の中高一貫校に通う場合、6年間の授業料はご家庭の関心が高いところだと思います。中学から高校に上がると、授業料については、国と各都県の補助制度がありますから、中学よりも保護者が負担する学費が安くなるケースも珍しくありません。また後述のように、2017年度には「私立小中学校等就学支援実証事業」がスタートしました。
しかし実際には、権利があるのに補助を申請しないケースもあるようです。例えば、祖父母が授業料を負担したり、祖父母から孫への非課税の教育資金贈与を利用している場合などです。もちろん、それも大切です。ただ、制度の活用は権利ですから、しっかりと制度を知り、利用していただきたいと思います。
「私立小中学校等就学支援実証事業」とは
私立の学校には、男女別学や宗教教育、その他特色のある教育を打ち出しているところが多く、さまざまな理由で公立よりも私立を選択する家庭があります。また、いじめ等の人間関係が原因で地元の公立学校に行けず、私立に通う場合もあります。そこで国は2017年度、私立小中学校に通う年収400万円未満の世帯を対象に、年間10万円の授業料補助を行うことを決めました。これが「私立小中学校等就学支援実証事業」です。全国で適用される制度で、運用は各都道府県が行います。申請方法などの詳細はこれから決まっていくようです。
国の就学支援金
ここからは、「内部進学で高校に上がったら、この制度が利用できます」という説明です。まず、国の就学支援金について紹介します。こちらは全国共通です。世帯年収により、補助額は段階的に下がります。各都県では、国の就学支援金に上乗せする形で、独自の補助制度を設けています。
なお、以下に紹介する国、各都県の制度の世帯年収は目安です。世帯人数等によって変わります。
※上記は2017年度の制度に基づいています
※年収は目安です
※学費等が就学支援金等の支給上限額を下回る場合は、その金額まで
東京都の補助制度
2017年度の制度では、世帯年収760万円未満の家庭に都内私立高校の平均授業料目安の442,000円までの、国の就学支援金との差額分を支給することとなり、家庭の負担は昨年度と比べて大幅に軽減されることになりました。東京都の制度が適用される条件は、「都内在住」で、都内に住んでいれば近隣の県の高校に通う場合にも、補助は支給されます。
なお、授業料が442,000円以下の場合は、実際の授業料と同額が支給されます。授業料が442,000円以上の場合、超過分は家庭の負担になります。
※上記は2017年度の制度に基づいています
※年収は目安です
※東京都の上乗せ分…都内在住であれば、隣接県の高校に進学しても支給
神奈川県の補助制度
県内在住で県内の私立高校に通う生徒が対象で、中学受験で東京都など、県外の私立中学に入学し、併設の高校に内部進学する場合は、国の制度の分だけしか支給されない点に注意してください。年収750万円未満の世帯すべてに、入学金補助10万円が給付されるのが特徴です。神奈川県も国の就学支援金との差額分をここまで支給します、という制度です。昨年度の制度と比べると、年収590万円未満の家庭への支給額が増額しています。年収590万円以上の額は昨年度と変わりません。
※上記は2017年度の制度に基づいています
※年収は目安です
千葉県の補助制度
県内の私立高校に通う生徒が対象で、居住地は県外でも構いません。ですから、県外から中学受験で県内の私立中学に入学し、高校に内部進学すると対象になります。年収350万円未満の家庭には、国の制度との差額で、授業料分が無償となるように支給され、年収540万円までは授業料の三分の二の額まで支給されます。固定の金額ではありませんので、図では県内最高額で示しています。また入学金補助がつくのも特徴です。昨年度の制度からの変更はありません。
※上図は2017年度の制度に基づき、年間授業料396,000円を基準に作成
※年収は目安です
※千葉県の上乗せ分…県内私立高校のみ支給、ただし居住地は県外も可
埼玉県の補助制度
県内在住で県内の私立高校に通う生徒が対象で、中学受験で東京都など、県外の私立中学に入学し、併設の高校に内部進学する場合は、国の制度の分だけしか支給されない点に注意してください。年収609万円未満の家庭すべてに入学金補助10万円が給付され、年収500万円未満の家庭には、施設費等補助20万円が支給されるのが特徴です。
国の就学支援金との差額を県が支給する仕組みで、昨年度までは、年収500万円未満の家庭と500万円以上609万円未満の家庭では支給される金額が異なっていました。2017年度はこれが変更され、年収609万円未満の家庭すべてに、県内私立高校の平均授業料目安の375,000円までが支給されることになりました。
※上記は2017年度の制度に基づいています
※年収は目安です
4都県の比較
国の就学支援金と合算した各都県の年収ごとの支給金額を比較すると、以下のグラフのようになります。昨年度はどの都県も年収が上がるにつれ支給額は減少していて、このグラフほどの大きな違いは見られませんでしたが、2017年度は東京都の補助制度の手厚さが際立っています。
※上記は2017年度の制度に基づいています
※年収は目安です
※千葉県は授業料額や授業料額の2/3が支給額(グラフは授業料年額396,000円で作成)
中学入試への影響
このように手厚くなった東京都の制度ですが、来春の中学入試に及ぼす影響は、2パターンあると考えられます。
1つ目は、「高校から入学する方が得」と考えて中学入試をやめる動きです。これは、中学での募集よりも高校募集の規模が大きく、6年間一貫の教育というよりも、中学3年間+高校3年間といった性格が強い学校で考えられる影響です。
2つ目は反対に、「6年間トータルの授業料の出費が下がるので、中学から私立に行こう」と考える動きです。こういった影響が見られるのは、完全中高一貫校や高校募集が限定的な学校など、中高6年間通しての教育が原則になっている学校が中心だと思われます。
まとめ
今年度の東京都の補助制度の大幅な増額は注目すべきものであり、今後、東京都内では私立志向が高まることが予想されます。この動きを受け、近隣の県が今後どのように制度を変えていくのかも、注目したいところです。
国や各都県は、所得格差が教育格差につながることがないよう、子どもがそれぞれの個性や将来の希望に合った学校に通い力を伸ばせるようにと考えて、このような制度を整えています。支給を受けるのは当然の権利ですので、気後れする必要は一切ありません。ぜひ利用するようにしてください。