上級者向け 受験マニアックス
2019年5月号 2019年度中学入試の出題傾向
この記事は2019年度の情報です。最新の情報は2023年4月号をご覧ください。

今回の受験マニアックスでは、2019年度中学入試の出題傾向を教科ごとに分析し、来年度に向けての対策をお伝えします。
全体的な傾向
教科横断型の出題が増加
国語、算数、理科、社会という教科の垣根が低くなってきて、教科横断型や横断型に近い出題が目立って増加しています。国語の問題中にグラフが出てきて計算を求められたり、算数の文章題のテーマが環境問題だったりといったものです。保護者の方からすると「これ本当に国語の問題なの?」などと首をひねりたくなるものもあるでしょう。OECD(経済協力開発機構)が2000年から実施している世界的な生徒の学習到達度調査(PISA)で、こうした出題が見られることから、日本でもこうした出題に対応する機運が高くなっています。新学習指導要領(小学校では2020年度、中学校では2021年度から完全実施、高校は2022年度の新入生から学年進行で実施)でも重視されているタイプです。世の中が多様化する中で、教科を横断した知識や技能を活用してさまざまな課題に取り組むことが求められていると言えるでしょう。
長い文章問題が増加
国語はもちろん、算数、理科、社会でも文章問題が増え、さらにその文章が長くなっている傾向が見られます。反対に、単独の小問で知識や技能を問う出題は減っています。まとまったボリュームの文章にしっかり向き合い、その中にある情報を自分で読み解いて、解答することが求められています。長い文章を読むことが苦手なお子さんにはなかなか大変な状況ですが、受験までにはまだ時間があります。「文章を全部読まずに傍線部や出題の前後だけを読む」といった解答テクニックに今から走るのではなく、地道に長い文章と向かい合っていただければと思います。
2020年度中学入試で扱われる題材
2019年には改元と新天皇即位がありました。日食や月食、統一地方選挙や参議院議員選挙もあり、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。来年の中学入試では、こうした大きな話題を取り上げることが増えるでしょう。特に天皇制については思想・政治的な面もあり、大人は正面から話すことを避けがちです。しかし中学入試では、これまでにも大人が避けたがるテーマが多々扱われてきています。ご家庭では、世間で話題となっていることについて、日頃からオープンに話をする習慣を持っていただくと良いでしょう。
国語
扱われる文章のジャンルがますます多様に
中学受験生の保護者世代の方は、「国語とは小説や随筆、詩歌など文学的な作品を読解するもの」という概念をお持ちかと思います。しかし最近の「国語」の概念は「コミュニケーションツールとしての日本語を幅広く学ぶもの」にシフトしてきています。入試問題の傾向を見ても、文学的な作品の割合は減り、いろいろな調査結果、ハガキやチラシ、事務的なお知らせなど、多様なジャンルの文章が多く見られるようになっています。中には、図や表、ピクトグラムなどが含まれる出題もあります。
また、扱われるテーマも多様化していて、サラ金、離婚、家事放棄といった、現代社会が抱える問題を取り上げるケースも見られます。「子どもには少し重たいテーマなのでは?」と思われる方もいるでしょう。しかし中学校側は受験生に「世間で起きている問題に関心を持って欲しい」と考えています。ご家庭でも、社会問題からお子さんをシャットアウトせず、さまざまなニュースについてフランクに話ができる環境をつくっていただければと思います。
多様化する出題への一番の対策は、数をこなして慣れることです。一般的な教材だけでは十分とは言えませんので、塾の先生に相談し、ふさわしい過去問をピックアップしてもらうことをおすすめします。
自分の意見を書かせる出題
特に上位校で、受験生自身の意見を書かせる問題が増えています。例えば学級会での生徒同士の会話の文章が載っていて、「あなたは誰の意見に賛成ですか? その理由も合わせて述べなさい」といったものです。こういった出題には正解はありません。学校側は、自分の考えを自分の言葉できちんと伝えられる生徒なのかを見ています。
受験勉強を頑張っている子どもたちは「1点でも多く取る」「1点でも失点をなくす」ために練習を積んでいます。塾の先生も「出題者の意図に沿った解答をしましょう」と指導を重ねています。したがって「正解がない問題」に対峙すると、子どもたちは戸惑ってしまいがちです。中には、「×にならないように当たり障りのない文章を書くけれども、設問への答えになっていない」というケースも見られます。しかし皮肉なことに、これでは得点にはつながりません。
塾の先生や保護者の方は、勇気を持って、自分の意見を書くこと、聞かれていることにはっきりと答えることを、徹底して根気強く伝えてあげてください。また、自分の意見を書く出題への対策として有効なのは、解答に自分の経験を盛り込むこと。「こういう経験をしたことがあるから、自分はこう思う」と書くと、意見に説得力が生まれます。来年度からもこういった出題はますます増えると予想されますので、頑張って練習を積み、徐々に自信を身につけていただければと思います。
記述式は形式より内容を重視
最近は記述式の問題が増えていますが、出題側は「文字数をぴったりに合わせる」「言葉の重複を避ける」といった細かい体裁・形式にはあまりこだわらなくなってきていて、書かれている内容が重視されるようになっています。細かい体裁にこだわりすぎて、内容が二の次になったり他の問題を解く時間がなくならないよう、気をつけましょう。
基礎問題への対策
長文問題や記述問題が増えたとはいえ、漢字の読み書きや四字熟語、ことわざや慣用句などの基本問題も出題されます。こういった問題は知識があれば確実に得点につながりますので、従来通りしっかりと練習するようにしましょう。
ただし、あまり難易度の高いものまで覚えようとして、長文や記述問題への対策がおろそかになっては本末転倒です。漢字の書き取りは小学6年生の教科書レベルまで、漢字や熟語の読みは中学3年生の教科書レベルまでを範囲の目安とするのが良いでしょう。それ以上のことはあまり要求されませんし、たとえ難しい問題が出ても他の受験生もできませんので、合否の分かれ目にはなりにくいのが現実です。
算数
図形問題への対処法
図形問題は年々複雑化していて、最近は平面図だけではなく立体図が扱われることが増えてきました。立体図は昨年までは上位校で主に見られましたが、今年は中堅校でも増えています。頭の中に立体を描く感覚がないとなかなか分かりにくいので、苦手に思っている生徒も多いことでしょう。そんなお子さんにおすすめなのが、スマホの学習アプリやWEB教材です。画面上で繰り返し図形を回転させたり切断することで、感覚を鍛えることができますので、ぜひ活用してみてください。
順列や数の組み合わせ問題への対処法
順列、数の組み合わせ、数の性質といった出題も内容が複雑化し、難度が上がっています。これらの問題の対処法は、面倒臭がらずにとにかくコツコツと書き出してみること。特に字が雑なお子さんは、ぐちゃぐちゃにならないよう、十分なスペースを使って丁寧に大きく書き出すようにしましょう。
こうした問題は、公式や定理といった数学の専門知識を使えば解けるものではありますが、中学受験生にはもちろんそこまで求められてはいません。出題者側が見ているのは、与えられた指示に従って根気強く書き出しを行い、見えてくるルールに気がつくことができるかどうかです。
また、(1)(2)(3)……といった小問に分かれていることが大半ですが、(1)は比較的単純に答えられることが多いので、確実に得点することを心がけましょう。(2)以降は難易度が一気に上がることも多いので、「やってみてダメなら仕方ない。他の確実に取れる問題を頑張ろう」くらいの気持ちでいて、時間配分に気をつけると良いでしょう。
文章問題のテーマは多様化
ひと昔前の文章問題は、買い物や歩く速度といった、見慣れた内容のものがほとんどでした。しかし最近では、環境問題や地理など他教科のテーマを扱った「教科横断型」の出題が目立ちます。また、文章中に表やグラフが組み合わされているなど、長く複雑化しているケースも多くなっています。例えば、環境破壊の一因として問題になっているマイクロプラスチックについての説明があり、問題中にグラフがあり、いくつもの小問に答えていく、といったものです。
馴染みのないテーマの問題を見ると、受験生は「難しい」「できない」と尻込みしてしまいがちですが、問われている内容自体は、驚くほど難しいわけではありません。見かけに惑わされず、しっかりと文章を読み、落ち着いて計算をこなし、対応していくようにしましょう。
算数が合否の分かれ目!?
中学入試の教科の中で、受験生間の得点差が一番大きいのは算数です。2019年度の中学受験でも、この傾向ははっきりと見られました。その理由は、算数に苦手意識を持っている生徒が多いことと、他教科と比べると設問数が少なく1問あたりの点数配分が大きいことです。受験関係者の間では、「算数が得意なら他の教科がそこそこでも合格の可能性は高い」「算数でミスが多いと他の教科が得意でも合格は厳しくなる」などとも言われています。
従って、算数の得点力を上げるトレーニングはとても大切です。特に重要なのは、正答率の高い基本問題でミスをしないこと。計算や定番問題は、面倒臭がらずに繰り返し練習するようにしましょう。特に「算数大好き」「算数が一番得意」というお子さんの中には、難しい問題だとやる気が湧いて真剣に取り組むものの、基本問題だと気が緩んで思わぬミスをしがちなケースも見られます。塾の先生や保護者の方は、算数が得意な子にも苦手な子にも、基本問題こそが大切で合否の分かれ目になるということを、しっかりと伝えるとともに、できるだけ自分のミスを自分で発見できる(見直ししておかしければもう1度解きなおす)ように伝えてください。
理科
出題の多様化・複雑化
長い文章問題、そしてグラフや図表が目立って増えています。反対に、単純に基礎知識を答えさせるような出題は減少傾向です。文章や図表中のデータをしっかり読み取って考察し、解答することが求められていると言えるでしょう。解答の方法もグラフを描いたり、文章で記述するものが増えていますので、短くても文章を書く練習が必要になっています。
出題分野では、物理・化学・生物・地学の4つがまんべんなく出題されています。科学技術の進歩に従い、LED、半導体、太陽電池、コンデンサといった、保護者の皆さんが子どもの頃にはなかったようなものも題材として扱われています。また、洗濯機や掃除機といった身近な電化製品の原理やしくみなどが出題のテーマになることも多いので、ご家庭でも身の回りの電化製品がなぜ動くのか、どういった仕組みなのか、折に触れて話題に出すと良いでしょう。
与えられた情報を整理する大切さ
理科の入試問題を解く際に鍵となるのは、情報を整理する力です。長い文章やグラフ、図表にはさまざまな情報が含まれていて頭が混乱しがちですから、「自分でフローチャートをつくる」「条件を表組みにまとめる」といった一手間をかけることが必要になります。塾では先生が前に立って情報整理のお手本を見せてくれると思いますが、ただ聞くだけではなく、実際に自分でも書き出す練習を積むようにしましょう。そうすれば、たくさんの情報を与えられても慌てず対処できるようになっていくでしょう。
時事的なトピックスに関心を
理科は、時事的なトピックスが入試問題に反映されやすい科目です。特に、日本人のノーベル賞受賞、異常気象や外来生物、宇宙の謎に迫る発見などは扱われやすい題材です。来年度の入試でも、JAXAによる小惑星リュウグウへの着陸作戦、ブラックホールの写真撮影成功、iPS細胞による再生医療の可能性などが題材として登場するかもしれません。ご家庭でも日頃から科学分野のニュースに関心を持ち、親子で楽しみながら話題にされると良いでしょう。理科の学力を伸ばす近道は、お子さんの好奇心を刺激することです。保護者の方は、「なぜ?」「もっと知りたい」という気持ちを支えてあげるようにしてください。
社会
物事の本質を見つめて解答する
社会には、歴史や地理、政治経済といった分野がありますが、一つの分野について細かな知識を問う出題は減少傾向で、歴史の大きな流れの中で経済のことを聞いてきたり、地理のことを聞いてきたりと、複合的・発展的に考えさせる出題が増えています。「地理だけ」「鎌倉時代だけ」など、縦割り式の学習をしているとなかなか対応できませんので、歴史や文化、政治などを全体的にとらえられるよう、過去問などでトレーニングを積みましょう。
また、少し前までは『日本国勢図会』や『日本のすがた』といった代表的な統計資料集に載っている図表がそのまま題材になることがよく見られましたが、ここ数年は出題者の先生が図表をひとひねりしてから出題するケースが増えています。表組みをグラフに変える、グラフを日本地図と組み合わせる、といったものです。受験生は『日本国勢図会』や『日本のすがた』に載っているままの姿だと親しみや見覚えがあり、スラスラと解答できるのですが、少し見た目が変わると「お手上げ」となりがちです。そこで大切なのは、見た目の形や丸暗記で覚えるのではなく、物事の本質を見つめること。例えば日本各地の冬の降水量を考えるとき、「何県は多い、何県は少ない」「トップ3はこの県」という表面だけを知るのではなく、「北西から湿った季節風が吹いてきて、日本海側に大雪を降らせる」などといった理由・本質を踏まえるようにすると、アレンジされた問題にも臨機応変に対応できるようになります。「急がば回れ」の精神で、本質に目を向けるようにしましょう。
暮らしの変化を考える
2019年度の社会の入試問題では、「携帯電話がない時代の情報伝達はどうしていたのか」「クーラーがない時代はどうやって寒さ・暑さをしのいでいたのか」「火鉢・かまどなどの昔の道具」といった「生活の変化」をテーマにした内容がよく出されていました。そして、こういった出題の正答率は低い傾向にありました。生まれた時から便利な機器に囲まれて育った今のお子さんにとっては、昔の暮らしに思いを巡らせることは難しい・苦手なことなのかもしれません。
出題のトレンドとして、昔の暮らしが扱われる傾向は続くと思われますので、「今身の回りにあるものがなかったらどうなるだろう」「ない時代はどうしていたんだろう」ということに関心を持ち、考えてみる機会をつくると良いでしょう。
記述式や複数回答式が増加
社会でも記述式の出題が増えています。その大半は「なぜですか?」と理由を聞くものです。また、記号選択問題も、正解を一つ選ぶのではなく「正しいもの(もしくは間違っているもの)を全て選びなさい」という複数回答式になり、難易度が上がっています。ヤマカンで答えて点数が取れる問題が減っていると言えるでしょう。基本を抑えるとともに、出題を注意深く読み解き、しっかりと思考を働かせて解答する練習を行うようにしましょう。
2020年度入試は「主権者教育」がポイントに
天皇の代替わりや、選挙権が18歳に引き下げられて制度が定着してきたことなどを受けて今、国民一人ひとりの人権について考える「主権者教育」の重要性が見直されています。来年度の中学入試では、国民の権利や選挙・政治に関する出題が増えると思われます。しかし学校や塾の学習の中では、どうしても歴史分野に時間をかけがちで、主権者教育の部分は駆け足、尻すぼみになりがちです。ここで大切になってくるのが、ご家庭での取り組みです。国民主権を大前提とした本来の社会の姿について、ぜひお子さんに語ってあげてください。