上級者向け 受験マニアックス
2021年5月号 どうなる?英語入試
学習指導要領の改訂により、2020年4月から小学校で英語が教科となりました。今回の受験マニアックスでは、首都圏の中学入試における英語入試の現状やこれからの見通しなどを紹介します。
入試科目の変遷
まず、首都圏中学入試における入試科目の変遷について振り返りましょう。
1990年以前は国語・算数の2教科入試が主流で、御三家や慶應といった難関校のみが国語・算数・理科・社会の4教科入試を行っていました。しかし、4教科入試で中学に入った生徒の方が大学入試センター試験(今の大学入学共通テスト)の成績が良いという傾向が見られたことから、大学進学実績向上を狙った学校が先頭に立って4教科化を進めました。そして現在の主流は、国語・算数・理科・社会の4教科となっています。
また、2教科と4教科の選択制としている学校もありますが、こういった学校の多くは、国語・算数の2教科に重きを置いています。まず2教科の得点だけで7割程度の合格者を決め、残りの人数について4教科の得点で合格者を決めるという、2段階の方式をとっているのです。こうした学校の入試では、国語・算数はしっかり得点できても、理科・社会はかなり低い得点という受験生も実はいます。
こういった現状や、東京・神奈川に多い午後入試では4教科を実施すると終了時刻が遅くなりすぎて翌日の受験に差し支えかねないことから、試験時間を短くして中途半端に4教科を実施するよりも、国語・算数がしっかりできればよいと、午後入試を2教科に絞る学校も出てきて、さらにその動きが、午前入試でも「4教科は受験生の負担が大きい、2教科がしっかりできていればよい」として、4教科から2教科に戻す事例も中堅校の一部で出てきています。さらに最近は、得意科目を評価する、という考え方で、算数1教科に絞った入試や、得意科目を自由に組み合わせる入試も見られます。
一方、公立中高一貫校では「適性検査」が行われます。これは、科目別ではなく教科横断型の出題をするもので、複数の教科の知識を組み合わせ、問題解決に至る力をみるものです。私立の学校でも、公立中高一貫校との併願受験生に出願して欲しいという考えから、適性検査型や総合型といった教科横断型の入試を行うところが増えてきています。最近では、併願受験生獲得が目的ではなく、純粋に教科横断型の力を持った生徒を受け入れたいという狙いで、こういった新しいタイプの入試を実施する学校も増えてきました。
英語入試は、海外帰国生など英語を得意とする受験生を対象としては行われてきましたが、それ以外の受験生にとってはそれほど縁のないものでした。
小学校の英語教科化
2020年度から学習指導要領が改訂になり、小学校5年生・6年生は英語を「教科」として学ぶことになりました。3年生・4年生は「教科」ではなく「活動」として、英語に親しむ時間を設けます。いずれもコミュニケーションに重点をおき、英語に親しむことを目的としたものです。すでに親しむ英語は小学校5年生・6年生で「活動」として実施されていましたが、これを3年生からとして、5年生からは正式な必修教科としたのが今回の指導要領の改訂です。
今年の4月に中学校に入学した生徒は、小学校で英語を教科として学んだ第一期生で、英語が教科となったのは、正式には6年生の1年間ですが、2018年から移行措置期間に入っていて、5年生でも教科的に英語を学んだ生徒は少なくありませんが、移行措置ですから、どのくらい取り組まれたかは小学校によってばらつきが見られました。なお、現在の小学校6年生は、5・6年生の2年間英語を教科として学んで、来春の中学入試に挑むことになります。
今年はどのように英語入試が行われたのか
2017年に学習指導要領の改訂が発表されてから、各中高一貫校は入試での英語の扱いについて検討を重ねてきました。また、学習塾をはじめとした受験業界関係者は、中学の英語入試がどうなるのか、注目してきました。実際、今年の春の英語の出題傾向はどうだったのでしょうか。
2021年度首都圏中学入試では、140校ほどが英語を出題していました(帰国生入試は除く)。ただ、英語を必須で受けなければならないわけではなく、従来型の2教科や4教科入試も選択できるようになっていて、英語で受験したい生徒はどうぞ、といったものだったほか、前述の「得意科目を評価する」といった観点で、英語を実施しています。
例外として、全員に英語を課した学校も2校だけありました。埼玉の公立中高一貫校のさいたま市立大宮国際と埼玉県立伊奈学園です。さいたま市立大宮国際はその名の通りグローバル教育に力を入れている学校で、2019年の開校当初から適性検査に英語を取り入れる方針を打ち出していました。さいたま市が政策として公立小学校における英語教育の重視を打ち出し、実際に授業時間数を確保したことも背景にはあります。一方の埼玉県立伊奈学園は、今年の受検生は英語を教科として学んできたからということで、英語の出題に踏み切りました。両校とも出題内容はリスニング問題で、英語を聞いて、当てはまるものを選択肢から選ぶ、もしくは問われた答えを書く、といったものでした。小学校で学ぶ内容に合わせて、コミュニケーション能力を重視したものだったわけです。要求された英語力は2校とも、以前の学習指導要領の中学校1年生レベル程度でした。
来年以降の英語入試はどうなる?
来年からは、小学校5・6年生の2年間英語を教科として学んだ生徒が中学に入学します。英語入試を行う学校数やその難易度はどうなっていくのでしょう。
来年以降、英語を適性検査や入試問題に取り入れる可能性が大きいのは、公立中高一貫校と国立の学校でしょう。学習指導要領を踏まえることが前提ですから、なんらかの形で英語が取り入れられる可能性が高いといえます。適性検査の中に盛り込むのか、別途英語だけの試験を行うのか、扱われ方はまだわかりません。また、得点配分として英語が占める割合は、国語や算数よりもずっと小さくなるでしょう。理科や社会よりも小さいかもしれません。なお、「少し様子を見たい」「作問技術を整えたい」と考えて、来年ではなく再来年以降に英語入試を始めるところもあるのではないかと思います。
また、すでに来年度の英語入試全員実施を発表している私立の学校もあります。江戸川学園取手です。同校はこれまで、国語・算数・理科・社会の4教科入試と国語・算数・英語の3教科入試、今年の入試からは適性検査型も実施しており、3教科入試の英語は海外帰国生などの英語が得意な生徒に向けたもので、英語を読んで書く力も試される高度な内容です。来年度は、4教科入試と適性検査型にも英語がプラスされます。内容はリスニング問題で、答えは記号選択式、時間は20分だそうです。小学校の英語の授業で学んだ内容を問うもので、3教科入試の方の英語とは全くの別物となります。
江戸川学園取手をはじめとする中高一貫校は、入学して英語を初めて勉強する生徒にも6年間で高い英語力をしっかりと身につけさせ、大学に送り出してきました。同校の話では、英語入試を行うことで高い英語力を持つ生徒を取りたいと考えているわけではないそうです。
では、全員に英語入試を受けさせる狙いとは何なのでしょうか。次年度からの英語入試で見たいのは、コミュニケーションに重点を置いた小学校の英語の授業にしっかり取り組んできたかどうかです。とかく受験勉強ばかりに没頭しがちな中学受験生に、小学校の英語の授業をおろそかにしないでほしい、英語コミュニケーション能力は中学受験生にも大切だという願いをこめての出題だそうです。
新型コロナウイルス感染症や学校間格差の影響
2020年度から始まった小学校の英語教科化ですが、同時期に新型コロナウイルス感染症の拡大が起こり、その影響を受けた幕開けとなりました。2020年の春に全国の小学校・中学校・高校が一斉休校となったのは記憶に新しいところで、その後も感染予防に気をつけながらの新しい様式の学校生活が強いられています。
英語の授業においては、画面越しのオンライン授業だったり、ネイティブの講師を呼べなかったり、会話の練習を控えたなどの理由で、コミュニケーション能力を思うように伸ばせなかったケースもあったことでしょう。また、学校のオンラインシステムの整備状況や自宅の学習環境によって、学校間、生徒間の格差ができてしまったこともあったでしょう。
中高一貫校の中には、こうした「格差」を気にして、受験生全員への英語の導入は時期尚早と判断している学校もあります。しばらくは英語あり・なしを受験生が選べる形をとり、小学校の英語の授業が軌道にのってきたら、全員対象の英語入試に進むという学校も出てくるかもしれません。
英語入試への対策はどうする?
小学生の皆さんや保護者の方の中には、小学校の授業で英語を十分に学べなかったり、中学入試で英語を避けることによって、中学に入学してから英語の授業についていけなくなるのではないかと心配している人もいるかもしれません。しかし、中高一貫校はこれまでも、入学して初めて英語を学ぶ生徒を相手にきめ細かな指導を行い、しっかりと英語力を伸ばしてきました。コミュニケーションに力を入れた指導も充実しています。中学入学後にきちんと勉強していけば必ず英語力はつきますので、あまり心配せずに前向きな気持ちでいていただければと思います。
来年度、どのくらいの学校が英語入試を行うのかは今後の発表を待たないとわかりませんが、今年の140校よりは増えると思われます。受験生全員を対象とした英語入試もどのくらいの実施校があるか、現時点では発表待ちです。全員実施ならば、前述の江戸川学園取手と同様に、小学校の英語の授業に対する学習姿勢をみる内容、コミュニケーション能力をみる内容が中心になるでしょう。高校受験のように、英語で文章を書いたり、英単語を組み合わせて意味が通る文にする、といった高度なことは要求されないと思われます。
中学受験を控えた皆さんは、英語入試に向けてどう対策したらよいか気になるでしょう。仮に志望校が全員に英語を実施すると発表したとしても、焦る必要はありません。何よりも大切な入試対策は、小学校の英語の授業にしっかりと参加することです。コミュニケーションが中心だからといって軽視せず、楽しみながら前向きに取り組んでください。全員実施であれば、知識や技能面で何か特別な対策が必要になるようなことはないでしょう。
なお、2023年入試以降は、小学校での教科としての英語が順調に各校で実施されれば、全員実施の場合でも、その難易度は少しずつ上がっていくかもしれません。というのも、小学校5・6年生の英語の授業で扱われる英単語の数は600程度あるため、コミュニケーション重視の英語の授業の中で自然と全てを身につけるのは難しくなるかもしれません。その時点では、中学入試の英語の勉強方法を見つめ直す必要が出てくる可能性はあります。例えば学習塾で、夏期講習などまとめて時間を取れるときを利用して、英単語を一通り勉強するといったニーズは出てくるかもしれません。ただし、こうした事態は、小学校の英語の授業が、各校ともきちんと機能し始めてからのことですから、保護者の方は、小学校での英語の授業の様子について、お子さんだけでなく担任の先生からも情報発信も、把握しておいてください。
中学入試の英語には、大きく分けて2つのタイプがあります。一つめは、一般的な受験生を対象とするもので、小学校5・6年生で学んだ内容が基本になります。今回の受験マニアックスでは、このタイプの英語入試の現状や見通しについて紹介しました。もう一つは、海外帰国生や、個人的に英語教室などに通っていて、英語を得意とする受験生を対象とするもので、こちらは難易度の高い内容です。さらに例外として、英語のコミュニケーション能力に特化してパフォーマンス型の入試を行う学校もあります。一口に英語入試といっても、その中身は一括りにできないのです。これは、他の教科との大きな違いです。
これから中学入試を迎える小学生の皆さんや保護者の方には、英語入試にはさまざまな意図や難易度があることをしっかりご理解いただければと思います。