上級者向け 受験マニアックス
2023年6月号 男子校・女子校・共学校の特色
近年、個性や多様性を尊重する「ダイバーシティ」、男女の境界をなくす「ジェンダーレス」といった考え方が重要視されています。このような世の中で、男子校や女子校の存在意義とは、どのように変わってきたのでしょうか。今回の受験マニアックスでは、男子校・女子校・共学校の特色についてあらためて考え、それぞれのメリットや学校選択のポイントなどをお伝えします。
男子校・女子校・共学校の数
東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の中高一貫校における男子校・女子校・共学校(男子部・女子部の併学校を含む)の学校数は下表の通りです。東京都と神奈川県はまとまった数の男子校・女子校がありますが、千葉県は男子校がゼロで女子校が2校のみ、埼玉県は男子校・女子校とも3校のみとなっています。千葉県内、埼玉県内で中学受験を考える場合、男子校・女子校の選択肢が限られることがわかります。
男子校 | 女子校 | 共学校 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
東京都 | 30(1) | 63 | 87(22) | 180(23) |
神奈川県 | 10 | 20 | 27(7) | 57(7) |
千葉県 | 0 | 2 | 23(4) | 25(4) |
埼玉県 | 3 | 3 | 25(5) | 31(5) |
合計 | 43(1) | 88 | 164(38) | 295(39) |
- 2024年の予定を含む。
- ( )は国立・公立の中高一貫校で外数
男子校・女子校・共学校の歴史
第二次世界大戦が終わるまでの日本では、小学校では男女共学が認められていた(ただし3年生以上は原則別学級)ものの、それ以降は男女別々の学校で学ぶことが当たり前とされていました。男子と女子では、学びの内容に違いがあったのです。戦後、1947年に教育基本法が公布され、「教育上男女の共学は、認められなければならない」と明示され、男女共学化が進められました。そして、公立の学校は原則として男女共学で学ぶことになりました。
こういった歴史を振り返ると、現在の男子校・女子校は、旧体制の遺物のように思われる部分もあるかもしれません。しかし実際は、時代の流れにあわせてその中身を進化させており、戦時中までの男子校・女子校とは違う役割を担うようになっています。
男子校の特色
現在、男子校を選ぶ理由の第1位は、大学への進学実績だといえるでしょう。男子校の中には、難関大学への高い進学実績を持つ学校がいくつもあり、高い人気を誇っています。
首都圏の代表的なトップレベル校である開成や海城は、戦前はそれぞれ東京帝国大学(今の東京大学)と海軍兵学校に進学することを主たる目的としていましたが、戦後は難関大学への進学指導に力を入れ、進学実績を積み上げてきました。同じく長い歴史を持つ浅野は、創立当初は社会で活躍するための実務的な技術を身につけることが目的の学校で、攻玉社は海軍予備学校の他に実学教育にも力を入れた学校でしたが、この半世紀以上、難関大学への進学志向を強く打ち出しています。一方、駒場東邦に代表されるような戦後に創設された男子校も、大学への進学指導を看板にして、実績を積み上げてきました。
また、以前の男子校は豪快な雰囲気を持ち、社会や家庭を支える男性として生徒をたくましく鍛える傾向がありましたが、近年では、1人ひとりの個性に手厚く寄り添い、丁寧に育てていく方向性が色濃くなっています。この背景には、男の子が大人しく繊細になってきたことがあるのでしょう。各校は、さまざまな趣向を凝らした学びの場を提供し、生徒1人ひとりが興味・関心を持てることを見つけてもらい、勉強へのやる気を引き出す方向にシフトしてきています。学外との交流、外部の方を招いた講演会などにも力を入れて、「これだ!」という分野を見つけやすくしています。かつては、難関大学合格にこだわるあまり、視野が狭くなってしまい、目指す難関大学に合格したとたん、「先生、明日から僕は何をしたらいいんですか?」と目標を見失ってしまう生徒もいたと聞きますが、「大学に合格するために勉強する」のではなく、「勉強したいことがあるから大学に進む」という方向性を前提にするように変わってきているのです。「誰もが揃って東京大学や医学部を目指すのではなく、十人十色の彩り豊かな進路を選んでほしい」という姿勢を打ち出す男子校も増えてきています。
それから、男子校の良いところとして大きいのは、好きなことにとことん夢中になって追求する「オタク気質」が尊重されることだと思います。男子校には、生徒同士も先生も、自分なりの興味関心に没頭する姿勢を認め合い、好きなことにのめり込める環境が整っているといえるでしょう。異性の目を気にせず、男の子同士で思う存分盛り上がれるわけです。こうした経験は、学びのモチベーションにもつながり、将来、特定の分野の専門家として道を極める上でも役立つでしょう。
女子校の特色
第二次世界大戦終結時までの女子の中等教育の場は「高等女学校」が主流でしたが、ここは「家庭婦人」としての「技芸教養を身につける場」とされ、卒業後の進学は教員など、一部の専門的な進路をめざす以外は、ほとんど視野に入れていませんでした。高等女学校は1947年から現行制度の中学校、1948年から現行の高校に再編成されますが、1950年の中学卒業生の高校や専門学校などの上級学校への進学率は男子が48.0%、女子は36.7%と、差がついていました。これ以降、戦後の日本の女子校がたどってきた歴史は、女子の進学率向上を目指す道のりだったといえます。共学の高校だけでなく女子校の高校新設も行われ、キャパシティを増やすことに注力され、1970年代に入ると男女の高校進学率が同じ程度になります。
1校1校の女子校の中には、高校を卒業したらすぐに就職が原則、という学校もありましたが、女子校全体としては、次に女子を大学に進学させる役割を担うようになります。そして1990年代に入ると、現役の大学進学率は女子が若干男子を上回るようになります。ただし、この時代の女子の進学先は主に短期大学で、四年制大学に進む女子は少数派でした。1990年代後半になると、四年制大学進学者が短期大学を上回るようになり、そして2010年頃からは、男女の四年制大学進学率の格差はなくなり、女子校は女子の進学率向上という目標を達成する運びとなりました。現在でも、浪人を含めると四年制大学進学率は男女で差がありますが、進学格差というよりも、大学卒業後の方向性を踏まえた選択、と言える状況になっています。
戦後ずっと続けてきた目標の達成が見えてくると、女子校は共学化に踏み切る学校と、女子校であり続ける学校にわかれるようになりました。次の目標に向けてのアプローチの違いです。
それでは、今も女子校として残っている学校が目指しているのは、どのようなことなのでしょうか。人気がある女子校をみていると、「ジェンダー格差をはねのけ、社会で活躍できる力強さを持った自立した女性」を育成している学校が多いと感じます。つまり、社会における女性の活躍を阻む「ガラスの天井」を打ち破る力を育てているのです。
女子校に入ると、当たり前ですが生徒は女子しかいません。生徒会活動や行事の運営、力仕事に至るまで、すべて女の子だけで行います。リーダーシップを発揮する必要や、場合によっては責任を取る必要もあります。これが共学校だと、生徒会や行事の進行、機械いじりや力仕事は男子に任せたりしがちな部分もありますので、そこには大きな違いがあります。女子校の方が、しっかりした自立心が養われやすいといえるでしょう。お子さんを女子校に行かせる保護者の方の中にも、「自分の力で物事を解決できるようになってほしい」「リーダーシップを身につけてほしい」といった願いを込めて、進学先に選んでいる方も多いと感じます。
御三家をはじめとする難関大学への進学実績が高い学校や、立教女学院、学習院女子といった有名大学附属校は別として、20年前や10年前よりも倍率が下がって入り易くなっている女子校もあります。共学化して人気になった学校に、押されているからですが、そんな中でも人気を保っている女子校の学びには、さまざまな工夫が見受けられます。例えば、地域の男子校や共学校、地元企業などとコラボレーションした活動に力を入れていたり、学外のコンテストなどに積極的に参加したりして、生徒の視野を広げている学校もあります。また、大学の理系研究室を訪問して見学したり、先端技術を組み込んだモノづくりを行ったりして、理系、特にエンジニア系の教育を推進する動きも目立ちます。これは、男性中心のエンジニアの世界で多様な感性が求められており、社会が女性エンジニアを求めていることが背景にあるのでしょう。女子校のこれからの進化にも、ぜひ注目していきたいところです。
共学校の特色
今年は東京女子学園と目黒星美学園が共学化して、それぞれ芝国際とサレジアン国際学園世田谷として新しいスタートを切りましたが、近年は男子校、女子校とも、共学化に踏み切るケースが多くなっています。千葉県や埼玉県に行くと、ほとんどが共学校で、男子校や女子校はわずかしかありません。時代の流れとして「男女に同じ教育の場を」という考えがベースにはあるのでしょう。
中学受験を考える12歳くらいのお子さんでは、まだ男女の発達差があり、特に女の子は男の子に対して「子供っぽい」などと思うことがあるかもしれません。ただし、数年経って中学3年〜高校1年くらいになると発達の差は縮まり、お互いの良さを認め合えるようになっていきます。そのときに、さまざまな個性を持つ男子と女子が一緒になって多彩な挑戦ができる環境が整っていることが、共学校の良さだといえるでしょう。男子だけ、女子だけだと陥りがちな、「発想の類似性」からの脱却を図っています。
また共学校には、新しいことにどんどんチャレンジすることを大切にしている学校が多いことが特徴です。広尾学園や渋谷教育学園渋谷などに代表されるように、ICTの活用、STEAM教育、探究の取り組み、海外大学進学対応など、先進的な教育に積極的に取り組んでいる場面がよく見受けられます。冒頭の表のように、学校数では1都3県とも共学校が多数派ですが、1947~1948年に現行の中学校、高校がスタートしたときから共学だった中高一貫校は、青山学院や玉川学園などの事例があるものの、中高一貫校の中では少数派で、1960年代以降に新設開校したり、高校単独校が中高一貫化した、男子校や女子校から共学化した学校が多数派です。2003年以降、公立一貫校が開校しましたが、これらもすべて共学校で、中高一貫教育の歴史が浅い学校が多くなっています。こうしたことが、取り組みの進取性につながっているのでしょう。共学校を選ぶ理由の一つとして、このように変わり続ける時代に対応していく柔軟性を持っていることがあげられます。
男女併学校の特色
男女併学校とは、男子クラスと女子クラスがあり、授業は男子と女子に分かれて行い、学校行事や部活動などを男女で一緒に行う学校です。男子校・女子校と共学校の中間的な存在で、両方の良さを取り入れた学校だといえるでしょう。ただ、非常に数は少なく、1都3県を見渡しても國學院久我山と桐光学園しかありません。自由学園は男子部、女子部がありますが、2024年度から共学化をめざして準備に入っています。
また、男女併学に近い性質をもつ学校をあげると、横浜富士見丘は中学段階のみ男女別クラス編成で、高校からは共学クラスと女子クラスが設置されています。それから、京華と京華女子、佼成学園と佼成学園女子など、男子校と女子校に分かれているものの、一部の学校行事を共同で行う学校もあります。ただ、いずれもとても珍しいケースです。
志望校をどのように選択するか
中学受験を考える保護者の方には、お子さんの個性をしっかり考えて、男子校や女子校、共学校を選んでいただきたいと思います。例えば、「好きなことだとものすごい集中力を発揮するから男子校」という選択もあるでしょうし、「甘えん坊で周囲に流されやすいから、女子校で自立心を養ってほしい」という考え方もあるでしょう。
また、冒頭でも述べたように、保護者の方が学生だった頃と現在では、男子校、女子校、共学校ともに、その中身が大きく変わってきています。「男子校はガリ勉になりそう」「女子校はおっとりしたお嬢さまが多そう」など、自身の時代のステレオタイプな先入観を持たず、それぞれの学校の特色をしっかり見極め、学校選択をしていただきたいと思います。
お子さんにあった良い学校を選ぶまでには、合同相談会に出かけてたくさんの学校の情報を集めたり、興味を持った学校の説明会に参加してじっくり話を聞いたりと、大変なことも多いものです。ただし、この段階でしっかりと学校選びをすることは、お子さんの将来のためにとても大切なことです。どうか、頑張りどころだと捉えて、じっくりと学校選びをしていただければと思います。