上級者向け 受験マニアックス
2019年3月号 2019年 首都圏中学入試の概況
この記事は2018年度の情報です。最新の情報は2024年3月号をご覧ください。
今回は、首都圏1都5県(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・茨城県・栃木県)の、2019年度の中学入試の概況をお伝えします。全体の傾向の分析と併せて、東京23区、東京多摩地区、神奈川県、千葉県、埼玉県、公立中高一貫校の詳細な入試概況データ(速報版)も、PDFにてご確認いただけます。入試概況データは2月15日現在で編集部に各校から寄せられたアンケートに基づいています。例年、繰り上げ合格等で合格最低点が変わったり、追加募集が実施される場合もありますので、2月15日現在の状況とお考えください。
1.小6児童数は増加、中学受験者数は久々の6万名台に
図1は、首都圏1都5県の小学6年生の児童数と中学受験者数の推移です。小学6年生の児童数は2011年以降低下が続き、2018年は特に大幅に減少していましたが、今年は昨年より1万名以上増加しました。一方、中学受験者数は2015年以降ゆるやかに増加していましたが、2019年は児童数増加も追い風になって増加の程度が大きくなり、2012年以来の6万名台となりました。
図1 小学6年生の児童数と中学受験者数の推移(首都圏1都5県〈群馬県除く〉)
※ 受験者数は編集部推定
※ 児童数は文部科学省の学校基本調査から作成、義務教育学校(小中一貫校)を含む
図2は、首都圏1都5県の公立中高一貫校の応募者数の推移です。2013年までは新規開校が活発だったこともあり応募者数は増加していましたが、高倍率が浸透して敬遠傾向が生まれ、2014年以降は横ばいが続いていました。2019年度は新しい公立中高一貫校「さいたま市立大宮国際中等教育学校」が開校した影響で、公立中高一貫校全体の応募者数も増えています。しかしこの背景には、同校と県内の既存の公立中高一貫校(市立浦和と県立伊奈学園)の一次選抜の日程が異なっていたため、併願が可能だった面もあり、公立中高一貫校を志望する受験生が単純にグラフの増加分だけ増えた、という話ではありません。2019年度の中学受験者数が増えた理由は、公立一貫校だけでなく、私立各校や国立中への期待感の高まりだといえるでしょう。
図2 公立中高一貫校の応募者数推移(首都圏1都5県〈群馬県除く〉)
2.新規開設校の入試はどうだったのか
2019年度に新規開校した3校の入試概況をご紹介します。
【ドルトン東京学園中等部】(東京都調布市)
アメリカで定評がある教育法・ドルトンプランを主軸に、アクティブラーニング、探究型学習、ICTの活用など、最先端の教育を展開する学校として、注目が集まっていました。授業料も標準的な私立中高一貫校よりも高めで、実際にどれくらいの応募があるかは予想しにくかったのですが、初年度から600名を超える応募総数があり、教育内容に期待する受験生が多いことを示しました。各回平均で1.3倍台の実質倍率でした。
【さいたま市立大宮国際中等教育学校】(埼玉県さいたま市)
県内3校目となる公立中高一貫校。質の高い英語教育でグローバル人材を育成することを特色として打ち出しています。今年の選抜では、160名の募集に1,000名を超える応募者が集まり、大人気となりました。県内の既存の公立中高一貫校と一次選抜の日程が異なっていたため、併願が可能だったことも、多くの応募者を集めた要因でしょう。
【細田学園中学校】(埼玉県志木市)
高校のみの学校でしたが、原体験を積み重ねて活用する6年間の中高一貫教育を展開すべく、中学校を開校。初年度となる今年は400名近い応募総数でした。学校としてはもう少し多い応募者数を期待していたかもしれませんが、受験生への知名度の浸透が今ひとつだったのでしょう。しかし、中には合格者が1ケタといった入試もあって、同校が基準とする学力レベルを満たす生徒だけを合格とした、一定の難度を保った入試となりました。
3.難易度別の学校選択傾向
図3は、1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の、難易度別応募者数の比較です。2018年と2019年の応募者数を男女別にグラフにしました。
図3 1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の難易度別応募者数
※ 公立中高一貫校は除く
※ Aグループは難関校、Bグループは上位校と続き、Eグループは入りやすい学校
※ 難易度は入試前の予想偏差値を元に設定。2018年と2019年で学校のグループが変わっていることもある
※ 各グループの学校名は、各都県のPDFを参照
中学受験者数の増加に伴い、男女とも全てのグループにおいて応募者数は増加しています。中でも増加が目立ったのは、男子ではCグループ(中堅校)、女子では、CグループとDグループ(中堅よりやや入りやすい学校)となりました。この背景には、一発勝負にかけたり、「ダメでも仕方がないが受験する」といった、難関校に憧れで受験するケースが減り、学力相応の学校を志望する生徒が多くなってきたことがあるのでしょう。
また、中学受験生の保護者の方の意識の変化もうかがえます。Cグループの学校には21世紀型の先進的な教育に力を入れていることをアピールしている学校が多く、「知識や技能といった従来型の勉強だけではない多彩な経験ができる」「個性を大切にし、自身が興味関心を持っていることを追求できる」という理由で、選ばれているようです。一方で、昔ながらの教育方針を守り続けている学校、一流大学に合格することだけを一直線に目指すような学校などは、繰り上げ状況などを見ていると、少し求心力が下がってきたかな、と感じられる入試結果も見られます。
これまでの受験マニアックス(2018年11月号、2018年12月号)では、高い志望順位の中高一貫校に合格できなかった場合に地元の公立中学に進学する人が増えていることをご紹介してきました。しかし2019年度の中学受験ではこの動きにブレーキがかかり、Aグループ、Bグループの学校が不合格となっても、Cグループの学校への進学を選ぶケースが増えています。これは、グローバル教育、アクティブラーニング、探究型学習、STEM教育などの先進的な教育に、保護者の方が強い関心を持っていることの表れでしょう。
4.2019年度中学受験の人気校
【男子校】
図4は、男子校の各回合計の応募者数の上位30校を示したものです。◆は前年と比べた増減の割合を表しています。
1位は今年も東京都市大付属で、昨年、今年と続いて応募者が増えています。2位の本郷は応募者が500名以上も増えて昨年の6位から上昇しています。3位は昨年と同じく成城、4位は昨年5位だった立教新座、5位は昨年2位だった早稲田となりました。ここまでの5校が応募者数2,000名超の学校です。6位の明大中野も1,995名と、ほぼ2,000名の応募者を集めました。また、難関校は1回しか入試を行わないため上位に入りにくい傾向があるのですが、グラフには浅野、開成、麻布、栄光学園が登場していて、高い人気を見せています。中でも浅野は1回の入試だけで1,900名近い応募者を集め、8位に入りました。
前年と比べた増減の割合を見ると、巣鴨が46%増と大きく伸びました。同校は昨年も46%増となっていて、2年連続して応募者が大きく増えています。昨年は入試回数を2回から3回に増やしたこと、今年はさらに算数入試を追加して4回入試にしたことが要因でしょう。また、世田谷学園も41%増と大きく増えましたが、1日午後に算数入試を新設したことが影響しています。この他、本郷は27%増、東京都市大付属は23%増、明大中野は21%増と大きく増えています。また、グラフに出てこない学校では、京華が21%増となっていました。
図4 男子校の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
【女子校】
図5は、女子校の応募者数の上位30校を示したものです。
1位の豊島岡女子、2位の浦和明の星、3位の吉祥女子は昨年と同順位です。4位は昨年の7位から上がった大妻、5位は昨年同様の横浜女学院でした。昨年は2位までが応募者数2,000名を超えていたのに対して、今年は5位までが2,000名を超えました。大妻の応募者が増加したのは、入試回数を3回から4回に増やしたためでしょう。また、1回しか入試を行わない難関校が上位に入りにくいのは男子と同様で、グラフには神奈川女子御三家の一角・横浜共立学園だけが、2回入試を行っているおかげで23位に登場しています。
前年と比べた増減の割合を見ると、香蘭が183%も増加しています。昨年までは1回のみの入試でしたが、午後入試を新設したことで大人気になりました。この他、山脇学園と普連土学園が36%増と高い増加率です。両校とも2月1日午後に1科目入試を追加したのが増加の理由です。増加率20%台は、大妻、共立女子、淑徳与野、大妻中野、国府台女子、学習院女子、和洋国府台となっています。この他、グラフに登場しない学校では(小規模な入試の学校は除く)、清泉女学院、昭和女子大附属、女子美大付属、捜真女学校、麴町学園女子、晃華学園、白百合学園、雙葉、中村、東京純心女子が20%を上回る増加で、特に晃華学園は午後入試新設により97%増と、大きく応募者が増えました。
図5 女子校の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
【男女校】
図6は、男女校の応募者数の上位30位です。
1位は今年も栄東で、1万名を超えました。全国でも1位の応募者数で、グラフの枠からはみ出しています。2位は一昨年、昨年と同様に開智で、昨年は先端入試を増設した影響もあり5,000名を超えましたが、今年はさらに増え6,000名を超えました。栄東と開智に受験生が集まった背景には、埼玉県内の中学受験志向が高まったこと、1月10日という早い日程ゆえに、周辺都県から前哨戦として受験する生徒が集まったことがあるのでしょう。3位は昨年と同じく広尾学園、4位は昨年6位だった東邦大東邦、5位は昨年8位だった東京都市大等々力でした。東京都市大等々力は今年一番入りやすいコースの募集を停止しましたが、学力を底上げする施策が受験生に歓迎されたようです。男女校でも、グラフに登場している学校は複数回入試を行っている学校ばかりとなりました。
前年と比べた増減の割合を見ると、東洋大京北が102%増と2倍以上に増えました。入試内容の目立った変更があったわけではなく、中堅レベルの受験生の間で人気が上がっています。青稜も52%増で、入試に特に変更はありませんが高い人気となりました。麗澤も33%増と大きく増えましたが、これは1月27日午後に入試を追加したことが要因でしょう。山手学院も31%増で、入試に特に変更はなく、人気が上昇しています。また、後述のように桐蔭学園が大規模な改革を行ったことを受け、昨年までは桐蔭学園を受験していた層の一部が山手学院に流れた面もあるのでしょう。それから、開智日本橋も30%の大幅な増加です。同校は入りやすいコースを募集停止にしており、この姿勢が高学力の受験生に歓迎されたようです。
この他、グラフに登場していない学校では(小規模な入試の学校は除く)、青山学院横浜英和、関東学院、東京電機大、成城学園、湘南学園、多摩大聖ヶ丘、穎明館、淑徳巣鴨、駒込、八千代松陰、東海大浦安、日本工大駒場、市立浦和、目黒日大、公文国際、武蔵野大、明星、千葉明徳、東海大高輪台、日出学園(千葉)、横須賀学院、東京学芸大国際、上野学園、実践学園、青山学院浦和ルーテル、横浜富士見丘学園、駿台学園、埼玉平成が20%以上増加していました。中でも日大の準付属高になった目黒日大(旧校名:日出)は377%増、青学大の系属校になった青学大系属浦和ルーテルは206%増と大幅な増加です。今年から共学化した武蔵野大学(旧校名:武蔵野女子学院)と横浜富士見丘学園も、受験生が大きく増えていました。
図6 男女校(共学・別学)の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
5.実受験率の傾向
中学受験では、「志望順位が高い学校に先に合格したので志望順位が低い学校の入試を欠席する」「志望順位が高い学校の入試に複数回出願し、早い回次で合格した場合に、遅い回次を欠席する」など、出願しても入試を欠席することがあります。
図7は、各都県の実受験率の3年間の推移を表したものです。インターネット出願を行う学校が増えてきたことを受け、近年は欠席が減り実受験率が上がってきていましたが、2019年度入試では横ばいかやや減少となりました。インターネット出願の普及が7割を超えてひと段落した結果と言えるでしょう。
都県別に見ると、神奈川県と千葉県で実受験率の低下が見られます。これは、入試日程の増加傾向に伴い遅い日程にも出願しておいた受験生が、遅い日程の入試を欠席するケースが増えたことが要因だと思われます。第一志望校にこだわり最後まであきらめずに挑戦することが減った背景には、第一志望よりもワンランク下げた私立中学も先進的な教育を行っていて、「ここもいいな」と魅力的に感じるようになったことがあるのでしょう。
図7 実受験率の推移(首都圏1都5県〈群馬県除く〉)
※ 応募者から欠席者を差し引いた出席率
※ 各校・各回次の合計から算出
6.神奈川県の2019年度中学入試について
神奈川県の2019年度中学入試は、応募総数では2.1%、実際の受験者数では1.4%増えていますが、1都3県の他都県では応募総数が6.6~9.6%増、実際の受験者数は6.8~10.1%増となっていて、中学入試受験者数は、他都県ほどは増えておらず、中学受験志向の高まりが弱い印象を受けます。しかし、神奈川県でも中学受験は活発化していて、それが数字に反映されていないのです。
その理由は桐蔭学園の学校改革です。同校は従来、中等教育学校(男子のみ・中1〜高2)、従来型中学校男子部、中学校女子部理数・普通コースに分けて募集をしていましたが、2019年度から中等教育学校を共学化して中学校の募集を停止しました。昨年までは1人の受験生が複数出願することが可能だったのですが、募集を一括化したことで、見かけ上の受験生が減ったのです。さらに、受験生が一番多かった2月1日午後の入試をやめたため、実際の受験生も減りました。そして、これまでだったら桐蔭学園を受けていた受験生層は、一部は山手学院などに流れたものの、「桐蔭学園を受けないなら都内の私立に」と、都内の学校に流れた受験生が多く見られました。桐蔭学園は例年多くの応募者が集まっていた学校で、昨年は1校で全県の応募総数の6%を占めていましたので、神奈川県全体の中学受験情勢に大きな影響を及ぼす結果となりました。