上級者向け 受験マニアックス
2020年7月号 模擬試験について

新型コロナウィルス感染防止の影響により、今年4月(あるいは5月)に行われた首都圏の大手公開模試「日能研模試」「合不合判定テスト(四谷大塚)」「首都圏統一模試(首都圏模試センター)」「サピックスオープン」の合計応募者が3割減少となりました。やはり3密を避ける形で受験を控えた生徒も多かったと思われます。しかし、受験生にとって模試の結果は、学習や学校選びにおいて重要な役割があります。今年は模試も例年のように学校などの会場実施だけではなく、在宅や塾で実施される場合もあるかもしれませんが、是非とも模試を受験していただきたいと思います。今回の受験マニアックスでは、改めて模試を受験する意味、その役割についてお話ししたいと思います。
学力が順調に伸びているか判断する
模試にはいくつかの役割があるので、順番にご紹介いたします。
まず模試の役割として最初に挙げられるのは、学力が順調に伸びているか判断する機能でしょう。模試の成績では得点も重要ですが、やはり注目されるのは偏差値です。偏差値はその模試を受験した生徒内での自分の位置を表す尺度です。そのため、人並みに頑張れば偏差値は変わりません。人並み以上に頑張れば上がり、努力不足だと下がります。当然、受験した生徒全員が頑張っていれば、簡単には上がりません。また、模試は今まで習った範囲のすべてから出題をしているわけではなく、受験する生徒によって得意・不得意な分野からの出題もあります。そのため、受験回によっては偏差値が変動しますので、結果に波が表れます。
模試の成績については、「結果には波がある」ということ、そして「何回か模試の結果を平均してみて変化がなければ、人並みの努力はしている」ということを前提としてお考えください。
不得意な教科・単元や答案上でのケアレスミスを認識し、補強する
模試の結果が返却されると、まず確認するのは成績表だと思います。しかし、それだけで終わらせてしまっては模試を受ける意味も半減します。現段階で、できなかった問題から「どの教科が弱いのか」「どの単元が不十分なのか」を認識して、弱点となる教科・単元を学び直しましょう。もちろん、得意教科を伸ばすことも重要ですが、入試本番までに時間があるうちは弱点を補強し、少なくとも平均並みの成績を取れるようにすれば、入試直前の追い込み学習もスムーズになります。
また模試の結果では、採点された答案もよくチェックすることが大切です。
例えば以下のようなポイントです。
- 問題文の読み間違い、勘違い(受験テクニックに、問題文を全部読まなくても、設問に対応する傍線部の前後だけ読んで判断する、というものがありますが、邪道ですし、それだけでは対応できない出題も少なくありません)
- 設問に合った答え方ができているか(問われたこと自体についての解答ではなく、ずれたことを書いている)
- 文章で解答する問題の字数は、制限字数の8割以上を書いているか
- 誤字脱字がないか
- (漢字の書き取りの場合)ハネ、ハライで減点されていないか
- 解答用紙に単位の記入がない場合には、単位までちゃんと書いているか
- 計算ミスはしていないか、単位の換算ミスはないか
- (人名、地名、物質名など)漢字指定の解答で、いい加減な字を書いていないか
- グラフを書き込む解答で、目盛り線に正しく記入できているか(ずれていないか)
これらのポイントは案外クセや思い込みとして無意識に身についてしまっていることがあります。このクセや思い込みを早い段階で受験生本人が自分で確認し、次回受験するときにこうした自分のクセを意識して受験することが入試本番に向けての答案練習として、とても効果的です。
受験校の合格の可能性を探る役割
模試の成績表には希望した学校について、「合格率%」といった合格率が表示されます。その結果によって、偏差値表から希望校を選び、あるいは変更することもあるかと思われます。この時、くれぐれも間違えないでいただきたいのは、その模試の実施団体が出している偏差値表を使うということです。偏差値はその模試を受験した生徒の中での位置を表す尺度です。模試が違うと、その模試を受験している生徒の学力層が違うため、受験生本人の偏差値も学校の偏差値も変わります。
また偏差値の数字を過信しないことも重要です。偏差値が高いから合格が決まるわけではなく、当然ですが、実際の入試で得点を取らなければいけません。たとえ、合格率が80%と示されたとしても、確実に安全ということではなく、20%のリスクがあります。このリスクを理解した上で受験に臨んでください。入試は1回のみという学校は多くありません。複数回実施している学校ならば、1回目が不合格だとしても、2回目に合格というケースもあります。あくまでも偏差値は目安ということを忘れずに、あきらめないで、しっかりと得点を取るということを意識してください。
偏差値表からはわからないことが大事
学校の偏差値はあくまで合格する上での難しさの目安です。「コース制」を採用している学校では、コースによって偏差値も大きく異なることがあります。定員が少ないコースの場合、偏差値が上昇しやすいため、新進校の「医進サイエンス」「スーパー特選」などの名称がついているコースの偏差値が、古くからの伝統がある学校よりも上になることもあります。また、午前に難関校を受けた受験者が併願で受ける午後入試も、受験生の学力水準が高めになるため、偏差値も高く設定される傾向にあります。
同じ学校の同じコースでも、入試日程によって併願の関係が変わることから偏差値に違いが出ることがあります。東京や神奈川だと、第一志望の受験生が多い2月1日午前は低め、他の日程は高め、埼玉や千葉だと併願受験生が多い早い日程(埼玉なら1月10日など、千葉なら20日など)は高め、遅い日程は少し低め、などです。
しかし、こうした偏差値の違いをあまり意識しすぎて、本来の学校選びで大切なポイントを見失うのは本末転倒です。どの学校にも積み重ねてきた長い伝統やさまざまな学校文化、あるいは生徒を育てるノウハウやしっかりとしたカリキュラムに裏付けられた取り組みがあります。これらは学校選びの重要な判断基準になり、偏差値表からはわからないことです。
特に併願校選びが本格化してくると偏差値表を見る機会も増えて、いつのまにか偏差値ランキングが刷り込まれ、偏差値の高い、低い、を意識してしまいがちです。偏差値は大切ですが、偏差値偏重になりすぎないように注意していただきたいと思います。偏差値表上での位置より、学校の中身がお子さんに適しているかどうかを重視して、学校を選んでいただきたいと思います。