上級者向け 受験マニアックス
2022年12月号 10月の大手公開模試の受験状況と今後の出願作戦
この記事は2022年度の情報です。最新の情報は2023年11月号をご覧ください。
今回の受験マニアックスでは、10月の首都圏中学受験大手公開模試(首都圏模試、日能研模試、四谷大塚合不合判定テスト、サピックスオープン)のデータから見えてきた2023年度中学入試の動向および、実際の受験校選びや出願時の注意事項について紹介しますが、その前に速報です。
11月18日現在、横浜共立学園と横浜雙葉は、新型コロナウイルス感染症の第8波が始まりつつあることを受けて、来春の2月の入試での面接を中止すると公表しています。横浜雙葉は、12月の帰国生入試は面接を実施する方針です。2022年度入試では、1月5日に横浜雙葉が面接の中止を公表、それ以後雙葉、光塩女子学院、千葉日大第一、千葉県立千葉、同東葛飾、東洋英和女学院、横浜共立学園、桜蔭、女子学院、早大学院などに広がっていきました。
今回は昨年度よりも早い公表です。千葉日大第一は面接のとりやめ、フェリスは記述式の人物評価への切り替え、茗溪学園はオンラインの事前面接への変更を、募集要項公表時点から正式に公表していますが、他の面接実施予定の各校では、今後の感染拡大状況次第ですが、面接中止や記述式への切り替えなどが続く可能性があります。情報に注意してください。
では本題に入ります。
大手公開模試の受験者数
上のグラフは、この10年間の大手公開模試の受験者数の推移を示したものです。2016年以降、受験者数の増加傾向が続いています。なお、2019年の受験者数がへこんでいるのは、この年の四谷大塚の当日に台風が首都圏を直撃し、多くの電車が朝からストップして、受験できなかった人が多かったためです。
今年は昨年よりも男子が2.2%増加、女子が1.4%増加となり、トータルの受験者数は48,111人になりました。4万8千人を超えるのは2009年以来で、中学受験志向の高まりが見てとれます。
上のグラフは、首都圏の児童数の推移と大手公開模試受験率を示したものです。青い棒グラフは1都5県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県)の小学6年生の児童数、赤い折れ線グラフは大手公開模試受験者数を1都5県の小6児童数で割った受験率です。
こちらを見ると、2019年以降の児童数は少しずつ減っていることがわかります。一方、大手公開模試の受験率は、台風直撃の影響を受けた2019年を除くと上昇傾向が続き、今年は14.3%になりました。
なお、大手公開模試の特徴について、四谷大塚とサピックスは難関・上位校志向の受験生が多く、首都圏模試は中堅校志向の受験生が中心、日能研模試はその中間という傾向があります。
昨年を振り返ると、四谷大塚とサピックスの受験生増加が目立ち、難関・上位校志向の高まりがうかがえました。一方で今年は、首都圏模試の受験生が目立って増え、サピックスもやや増加、四谷大塚と日能研はわずかに減っています。昨年と比べると、中堅校を目指す受験生が増えており、中学受験の裾野の広がりを反映する結果となりました。
大手公開模試で人気が上がっている学校
大手公開模試のデータから見えてきた、2023年度入試に向けて人気が上がっている学校を男女別、地域別に紹介します。前年同月の希望者数と今年の希望者数を比べて、増加が目立つ学校で、男女別に見ていきます。
こちらを見ると、中堅校の数が多くなっていて、難関校志向よりも中堅校志向が強くなっていることがわかります。また、女子のデータを見ると、中堅の学力層で東京23区志向が強いことが見て取れます。幅広い目で、自分にあった受験校をさらに考えていただければと思います。
【男子】
-
幅広い学力層で人気が上がっている学校
国学院久我山、芝国際、桐朋、日本学園、大宮開成 -
学力中堅層で人気が上がっている学校
足立学園、京華、佼成学園、聖学院、駒込、桜丘、サレジアン国際学園世田谷、品川翔英、淑徳巣鴨、城西大城西、千代田国際、日本工大駒場、穎明館、桜美林、工学院大附属、玉川学園、明星、関東学院六浦、自修館、湘南学園、鶴見大附属、桐蔭学園、東海大相模、藤嶺藤沢、日大藤沢、森村学園、横須賀学院、横浜創英、光英VERITAS、昭和学院、日出学園、流通経済大柏、麗澤、浦和実業、獨協埼玉、星野学園 -
学力上位層で人気が上がっている学校
海城、攻玉社、駒場東邦、芝、城北、巣鴨、世田谷学園、高輪、東京都市大付属、東京農大第一、本郷、立教池袋、栄光学園、サレジオ学院、栄東
【女子】
-
幅広い学力層で人気が上がっている学校
芝国際、三輪田学園、芝浦工大柏 -
学力中堅層で人気が上がっている学校
跡見学園、京華女子、光塩女子学院、麹町学園女子、駒込、桜丘、サレジアン国際学園世田谷、実践女子、十文字、淑徳巣鴨、順天、城西大城西、女子聖学院、玉川聖学院、東京家政大附属女子、トキワ松学園、中村、富士見丘、文京学院大女子、文化学園大杉並、ドルトン東京学園、神奈川学園、鎌倉女学院、カリタス女子、湘南白百合学園、桐蔭学園、森村学園、山手学院、横浜創英、浦和実業、春日部共栄、埼玉栄、星野学園 -
学力上位層で人気が上がっている学校
鷗友学園、大妻中野、共立女子、恵泉女学園、香蘭、国学院久我山、品川女子学院、成城学園、田園調布学園、東洋英和女学院、日大第二、富士見、雙葉、三田国際学園、山脇学園、晃華学園、中大附属、明治学院、明大中野八王子、青学横浜英和、神奈川大附属、法政大第二、市川、専修大松戸、渋谷幕張、大宮開成、開智、栄東
併願校出願スケジュールのパターン
12月に入ると、2023年度中学受験に向け、第一志望校、第二志望校、併願校などを具体的に決める時期になります。下の図は、併願校の組み方についてのパターン例です。
上図「併願作戦の最悪パターン」は、受験校全てがレベルの高い学校という無理のあるパターンです。横一線に高難度の学校を次々と受験すると、1校も合格できない可能性が高くなり危険です。
理想は、「理想形はステップアップ型」のように徐々にレベルを上げていくステップアップ型です。まだ入試に慣れておらず緊張も大きい初日は、ケアレスミスも起こりやすくなります。最初は少々失敗しても大丈夫なハードルの低い学校から入試を始めることで、後半の入試では本来の実力を発揮しやすくなります。
しかし実際にはステップアップ型のスケジュールを組むのは難しく、反対に難度の高い学校から始まって徐々にレベルが下がっていくパターンも案外見かけます。この場合、最初に不合格になる可能性が高く、翌日は沈んだ気持ちで入試に臨まなければならないので実力が発揮しづらく、追い込まれるプレッシャーがのしかかってきます。
実際の併願校出願スケジュールを組み立てる際には、最初は難易度が低く合格の可能性が高い学校からスタートして、難易度に振り幅を設け、ジグザグと複数の学校を受験できるように計画していきましょう。
また、パターンを複数想定しておくことも大切です。合格を確保した日の翌日はレベルの高い学校に挑戦してみる、不合格になった日の翌日は安全校に出願を変えて落ち着いて入試に取り組むなど、柔軟に出願校を変えていくようにするとよいでしょう。また、志望順位が高い学校については、複数回入試があったら何回も挑戦を続け、最後まであきらめないでいただきたいと思います。
最近はウェブ出願の導入により、入試の直前まで出願を受け付けてくれる学校が多くなっています。出願が遅くなったからといって、合否に影響するようなことはありません。その時の状況によって臨機応変に動き、最適な出願スケジュールで中学受験を乗り越えていただければと思います。
実際の併願校選びについては、ぜひ受験マニアックスの前号もご参照ください。
志願理由書の書き方について
中学受験の出願時、一部の学校では志願理由書を併せて提出することが求められます。志願理由書とは、「どうしてこの学校に入学したいのか」について、保護者の方が書くものです。
入試の結果、合格不合格のボーダーラインにいる場合、学校が志願理由書の内容を読んで「この子に入学してほしい」と思えば合格になることもありますし、その反対も起こり得ます。保護者の方は、しっかりと内容を吟味し、志願理由書を書くようにしてください。
志願理由書の書き方のポイントは、以下の3点です。
- その学校を気に入った点、入学したいと思った理由を具体的にしっかり書く。
- 本人の良いところをしっかり書き、入学後に長所を発揮してさらに伸ばしたいと書く。
- 謙虚は美徳ではない。
一昔前は、「貴校の方針に大賛成ですので、貴校らしくうちの子を育ててください」といった書き方がよいとされていた風潮もありました。しかし最近の学校は、独自の閉鎖的な存在ではなく、生徒やご家庭、そして社会とつながりあって、生徒を育てていこうという考え方を持つようになっています。学校側は、入学後に積極的に試行錯誤を重ねながら成長し、活躍できる人を求めています。ですから、お子さんの良いところをしっかりアピールし、その学校に入ってどう成長し何ができるのかをしっかりと記入することが大切なのです。
また、日本人はどうしても「謙虚は美徳」という考えを抱きがちです。中には、「うちの子はここが欠点で、こちらの学校にお世話になって直していただきたいと思いました」などと書いてしまう保護者の方も見受けられます。これでは学校側に良い印象が与えられませんので、「謙虚は美徳ではない」ということを肝に銘じて、お子さんが入学後に活躍できることを伝えるようにしましょう。
中学受験を成功させるポイント
最後に、中学受験を成功に導くポイントを紹介します。いよいよ本格的な受験シーズンに突入しますが、前向きな気持ちで受験に挑み、ぜひ合格をつかみ取っていただければと思います。
- 第一志望校は譲らない
- 併願校は柔軟に考える/高校受験でのリベンジより魅力を感じる中高一貫校へ
- 2月1日からは午前午後で複数校の出願を計画する
- 実力は直前まで伸びる。だから粘る
本当に行きたい学校であれば、最後まであきらめずに挑戦を続けましょう。複数回入試を行っている場合は、例え1回目が不合格でも2回目、3回目と挑戦し、最後まで食らいつく意欲を持ってください。
受験マニアックスの前号でもお伝えしましたが、併願校選びの際には幅広い視点を持つようにしてください。偏差値や通学時間だけで単純に考えるのではなく、教育内容や校風にも目を向けて、実際に行きたいと思う学校を候補にしましょう。
また、中学受験の結果、残念ながら第一志望校が不合格になると、地元の公立中学に進学して3年後の高校受験で挽回しようとするご家庭があります。保護者の方から「偏差値が●●以下の中学なら入学する意味はない」という声も聞くことがあります。しかし公立中学に進学すると、学習意欲が減退したり部活動に熱中して思うように学力が伸びないケースも多く、高校受験でリベンジを果たせる例は希少です。また、偏差値を出す時の母集団が違うという面もあるのですが、同じ学校でも中学受験時より高校受験時の偏差値が大幅に上がることが多々あります。
中高一貫校の魅力は、6年間をかけてじっくりと一人ひとりの力を伸ばしてくれる底力や、STEAM教育、グローバル教育、探究活動などに力を入れて多彩な学びを展開している点です。偏差値だけではかれるものではありません。中学受験をする以上、「中高一貫校に必ず入る」という心意気を持って、お子さんに合っていて魅力を感じる併願校を受験していただきたいと思います。
東京都と神奈川県の中学の一般入試が始まる2月1日から数日間は、首都圏中学入試のピークであり、多くの受験生にとって正念場となります。そこで、2月1日からは、午前と午後のそれぞれ、複数の出願校候補を考えておくようにしましょう。そして「もし2月1日午後が合格なら2月2日の午前はこちらの学校を受ける」など、フレキシブルに出願していくようにしましょう。事前に出願スケジュールを固めて早めに出願する必要はありません。入試直前まで受け付けてくれるWEB出願をうまく活用して、臨機応変な出願を行いましょう。
お子さんの実力は入試直前まで伸びます。だからこそ、複数回入試で最後まであきらめずに挑戦したり、臨機応変な併願スケジュールを組み立てることが大切なのです。最近は中学受験の早じまい傾向が強くなっていて、1校受かるともう終わりにしようという気持ちになりがちですが、本当にいきたい学校があるのであれば、どうか最後の最後まで粘ってみてください。
中学受験の時期は受験生自身も保護者の方も大変なことが多いですが、苦労が報われる春を目指し、前向きな気持ちで日々を過ごしていただければと思います。保護者の方はお子さんの可能性を信じて、最後までしっかり応援やサポートをしてあげてください。ただ、保護者の方がお子さんの受験に入れ込みすぎると、過度なプレッシャーを与えてしまったり、途中で息切れしてしまうケースもあります。保護者の方には、冷静な部分をもち続け、適度な距離感でお子さんを支えることを心がけていただければと思います。