上級者向け 受験マニアックス
2017年3月号 2017年 首都圏中学入試の概況
この記事は2016年度の情報です。最新の情報は2024年3月号をご覧ください。
今回は、首都圏1都5県(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・茨城県・栃木県)の、2017年度の中学入試状況の概況をお伝えします。2017年の入試情勢は、全体的に安定していました。全体の傾向の分析と併せて、東京23区、東京多摩地区、神奈川県、千葉県、埼玉県、公立中高一貫校の詳細な入試概況データ(速報版)も、PDFにてご確認いただけます。
1.中学受験をする生徒が少しずつ増加
図1は、首都圏1都5県の小学6年生の全体数と中学入試をした児童の数を記したものです。小学6年生の児童数は2011年以降低下を続けており、2017年は大幅に減少しました。一方、中学受験者数は2009年をピークに縮小していましたが、2015年を境に緩やかな増加傾向に転じています。2017年は、小学6年の児童数が減少したにも関わらず、中学受験者数は増加しており、受験を選択した児童の割合が増えたことがわかります。
図1 小学6年生の児童数と中学受験者数の変化(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
※ 受験者数は編集部推定
※ 児童数は文部科学省の学校基本調査から作成、義務教育学校(小中一貫校)を含む
中学受験生が増えてきた背景には、教育をめぐる情勢の大きな変化があると考えられます。グローバル化への対応、2017年2月に文部科学省が原案を発表した次期新学習指導要領、2020年に実施される大学入試改革などに敏感な東京23区で中高一貫教育の再評価が進み、中学受験が拡大傾向となったのです。
図2は、首都圏1都5県の公立中高一貫校の応募者数の推移です。2013年まで応募者数は増加を続けていましたが、この3年ほどは新設開校があっても、合計すれば横ばいが続いており既存校は応募者が減少するケースもあります。高倍率による敬遠傾向です。このことから、中学受験者数の増加は、公立中高一貫校ではなく私立中学の人気が上がっていることによるものと考えられます。
図2 公立中高一貫校の応募者数推移(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
2.柔軟な出願受付で欠席者が減少
中学受験では、多めに出願をしておいて、途中の合格状況や直前のコンディションによって、実際に受験する学校を決めることが広く行われています。図3は、応募総数に対する実際の受験者数の割合、つまり受験率を示したものです。東京23区、東京多摩地区、神奈川県の受験率が他県よりも低いことがわかります。2017年は、東京23区、千葉県、埼玉県で、前年と比べて受験率が上昇していました。
図3 2016年と2017年の受験率の変化
受験率が上がった背景には、出願の方法や期間が柔軟になってきて、無駄な出願が減ったことがあります。以前は、同じ学校の遅い日程の出願締め切りが早い日程の合格発表の前というケースが多く、多めの出願が避けられませんでした。最近では、出願締め切りが入試当日の朝という学校も出て来て、ギリギリまでどこに出願するか、結論を伸ばすことができるようになっています。極めつけは「インターネット出願」です。インターネットで出願してクレジットカード決済を行うことができる学校が増えていて、インターネット出願を採用している学校の多くは前日の夜まで出願が可能です。出願の柔軟化は、受験生を迎える学校側にも、欠席率の減少という利点があります。
3.人気校の応募状況
【男子校】
図4は、男子校の応募者数の上位30校を示したものです。◆は前年と比べた増減の割合を表しています。1位の東京都市大付属の応募者数は、2015年は5,000名を超えていましたが、2016年、2017年と連続して減少しています。それでも2位以下と大きく差がある1位でした。2,000名を超えたのは、本郷、成城、早稲田、芝の4校です。上位30校には、入試回数が多い学校や、上位校や中堅校が多く見られました。
前年と比べて応募者数が特に増えた学校は、芝浦工大附属と佼成学園です。芝浦工大附属は2017年度から豊洲に移転しますが、新校舎に通いやすい臨海地区、有楽町線沿線、京葉線沿線などに住む受験生の応募が増えたのだと思われます。佼成学園は面倒見の良さが人気で、2015年の749名、2016年の1127名、2017年の1388名と、応募者が連続して増えています。他、前年と比べて10%以上応募者が増えたのは、日大豊山、明大付属中野、世田谷学園、栄光学園でした。
図4 男子校の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
【女子校】
図5は、女子校の応募者数の上位30校を示したものです。1位の豊島岡女子と2位の浦和明の星が2,000名を超えています。1位から5位は2016年と変化なしで、人気校が固定化している傾向が見られます。上位30校の難易度を見ると、中堅校が多くなっています。
前年と比べて応募者が特に増えたのは十文字で、伸び率は30%を超えています。これは、大学入試改革などを見据えた教育改革が支持されているためだと思われます。グラフ中で応募者数が10%以上増えたのは、八雲学園と横浜共立学園です。グラフ外で応募者増加が目立ったのは、学習院女子、トキワ松学園、日大豊山女子、立教女学院、清泉女学院、聖園女学院などでした。青学横浜英和の前年比が大きく下がっているのは、入試回数を減らしたためです。
図5 女子校の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
【男女校】
図6は、共学校・別学校を合わせた男女校の応募者数の上位30位です。1位は今年も栄東で、1万人を超えていました。2位は昨年と同じく開智です。3,000名を超えていたのは、広尾学園、三田国際学園、東邦大東邦、市川、専修大松戸です。
3位の広尾学園は2007年に共学化した学校ですが、グローバル教育やサイエンス教育、探究心・発信力を重視した授業を行う新しいタイプの進学校です。4位の三田国際学園は2015年、7位の都市大等々力は2010年からそれぞれ共学化していますが、広尾学園に近い教育スタイルをとっています。東邦大東邦、市川、専修大松戸は、探究活動を重視する傾向が強い学校です。このように、応募者数上位校には、新しい教育の流れを取り入れている学校が多く見られます。
前年との比較では、宝仙理数インターが40%増と突出しています。これは、リベラルアーツ入試やグローバル入試に加え、適性検査型入試を新設したためだと思われます。グラフ内で応募者数が20%以上増えたのは、広尾学園、三田国際学園、東邦大東邦の3校です。グラフ内の10%台は、専修大松戸、江戸川取手、開智日本橋、法政第二、星野学園、桜美林でした。法政第二は2016年に共学化して人気が上がり、江戸川取手は2016年の新コース制が浸透してきています。開智日本橋は2015年に共学化した学校で、グローバル教育を前面に打ち出しています。専修大松戸、星野学園、桜美林は、日々の教育活動が評価されたのでしょう。グラフ外で応募者増加が目立ったのは、郁文館、日大第二、立正大付立正、日大第三、八王子学園、明大中野八王子などでした。
図6 男女校(共学・別学)の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
4.女子校の不振
近年、女子校の人気は低下しており、2017年は特にそれが目立った年でした。
首都圏では、男子校、女子校は東京都と神奈川県に集中し、他の県はごく少数しかありません。男女校が多数派です。そこでこの両都県について見てみます。図7は、両都県の私立・国立の男子校、女子校、男女校の応募者数合計の、この3年間の変化を示したものです。(公立一貫校はすべて共学なので外しています。)これを見ると、男女校の応募者が右肩上がりなのに対し、男子校と女子校の応募者は減少していることがわかります。特に減少が大きいのは女子校です。
図7 東京都・神奈川県の私立・国立の校種別応募総数の推移
※ 2017年の応募者数は速報値
1校あたりの平均応募者数を、男子校、女子校、男女校で比較したものが図8です。1校平均では男子校の応募者数が最も多く、女子校の約2倍、男女校の約1.4倍となっています。このことから、女子校全体の応募者数減少が、一つひとつの女子校に大きな影響を与えていることが伺えます。
図8 東京都・神奈川県の私立・国立の校種別1校平均応募者数
※ 2017年の速報値による
高校受験では、10年前くらいから圧倒的に男女校の人気が高く、男子校や女子校は少数派になっていました。一方で中学受験では、特に東京23区と神奈川県で男子校と女子校の根強い人気がありました。これは、トップレベルの学校が男子校、女子校だったためです。しかし最近では、偏差値だけではなく、時代の変化に柔軟に対応できる学校を選ぶ傾向があり、新しい取り組みを積極的に行う男女校を選ぶ保護者が増えているようです。
特に女子校はかつての人気に陰りが出ていて、女子生徒・保護者の男女校志向が高まっています。女子の難関大学志向が強くなっていることや、公立中高一貫校が共学であることも、男女校を選ぶ要因になっています。中学入試で女子校を選ぶ積極的な理由が薄くなってきたわけです。
5.難易度別の学校選択傾向
図9は、1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の、難易度別応募者数の比較です。2016年と2017年の応募者数を男女別にグラフにしました。
図9 1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の難易度別応募者数
※ Aグループは難関校、Bグループは上位校と続き、Eグループは入りやすい学校
※ 難易度は入試前の予想偏差値を元に設定。2016年と2017年で学校のグループが変わっていることもある。
※ 各グループの学校名は、各都県のPDFを参照
男子では、Bグループの上位校が最多で、全体の4割近くとなっています。また、A〜Cグループが全体の3/4以上を占めており、学力が比較的高い学校が多く選ばれていることがわかります。Dグループが減っていることからも、「せめてCグループの学校、Dグループは最後の押さえ」という考え方が減っているようです。
女子も、Bグループが最多ですが、男子ほどの集中はなく、全体の3割程度です。Aグループの難関校の応募者数はDグループより少なく、男子ほど難関校志向は高くありません。B・C・Dの3グループで全体の約3/4を占めています。2016年と比較すると、Bグループが増えていてDグループ、Eグループが減っていることから、男子の選択志向に近づいているようです。
6.まとめ
2017年の首都圏中学入試では、女子校の不振、男女校人気の高まりが見られ、従来からの伝統的な学校選択の考え方が変わりつつあることが伺えました。2020年の大学入試改革や2017年2月に発表された次期学習指導要領など、教育をめぐる話題が多くなっています。その一方でグローバル化は進み、人工知能(AI)の発達は、社会人が求められる技量や力量を大きく変えることが見込まれます。中学受験関係者、保護者には、大きな変化に対応するための教育を選ぶ姿勢と、その中身を見極める力が求められています。