上級者向け 受験マニアックス
2019年7月号 2020年度首都圏中学入試の変更点(第1弾:2019年4月〜6月発表分)
この記事は2019年度の情報です。最新の情報は2023年7月号および2023年10月号をご覧ください。
今号では、来年度の首都圏中学入試について、現時点で発表されている変更点をご紹介します。大勢が判明する秋頃に、第2弾をご紹介する予定です。
全体的な傾向
【国際バカロレア(IB)プログラム導入校の広がり】
国際バカロレア(IB)は、高い英語力はもちろん、世界標準の大学入学資格認証を目指せること、世界に通用する表現力や探究心、コミュニケーション能力を身につけられること等のメリットを持ち、注目が高まっている教育プログラムです。首都圏の中学では、開智日本橋学園、玉川学園、東京学芸大学国際、昌平、茗渓学園、市立大宮国際などで実施されています。
2020年度は、開智望(新規開校)、聖ヨゼフの2校が、新たに国際バカロレアプログラムを実施します。首都圏では、国際バカロレアの普及・拡大が徐々に、着実に、進んできていると言えるでしょう。
【入試の多様化】
2019年度首都圏中学入試では、新しいタイプの入試の広がりが目立ちましたが、2020年度もその傾向は続いています。例えば、山脇の探究サイエンス入試新設、清泉のAP入試(思考力・表現力・総合力を図る出題)新設、武蔵野大学のアドベンチャー入試新設などです。ただ、従来の教科型の入試が主流という構図は変わりませんので、自身の得意不得意を見つめ、選択していただければと思います。
また、2019年度は香蘭が午後入試を新設して一気に多くの受験生を集めましたが、2020年度は長年1回入試を継続していた湘南白百合が2月1日午後に算数1科入試を新設し、複数回入試に踏み出します。また、やはり長年1回入試だった暁星は従来の4科入試を2月3日午前から2日午前に移し、3日は午後に2科入試を新設します。この両校は極めて高い注目度です。それ以外にも富士見や田園調布学園が初めての午後入試を新設します。両校とも算数1科入試です。この他にも三輪田学園が英検利用入試を新設するなど、首都圏中学入試は科目・内容の多様化が続いています。
新設開校
2020年度に開校する学校をご紹介します。
【茨城県私立:開智望中等教育学校】
〈概要〉2015年につくばみらい市に開校した開智望小学校に隣接して、開智望中等教育学校が開校します。正式には12年一貫教育の7年目から編入するという形式ですが、小規模な入試ではなく、30〜40人程度を募集することを想定しています。新しい学校で定員に余裕があるので、教育内容にご賛同いただけるご家庭なら、人数にはこだわらずに受け入れる姿勢とのことです。つくばエクスプレスを利用できて都心からのアクセスが良い立地なので、小学校には都内から通っている生徒も多く、中学募集でも広範囲からの受験生を集めそうです。
〈教育内容〉小学校は国際バカロレア(IB)の初等教育プログラム・PYPプログラムの認定校であり、今後は中等教育学校(中1〜高3に相当する6年間)でも、国際バカロレアのプログラムに則ったカリキュラムを組み立てる予定です。海外大学進学を目指すだけではなく、世界の複雑さを理解してそれに対処できるようにすること、未来へ責任ある行動をとるための態度とスキルを身につけることを重視し、独自の教育プログラムを行っていく、とのことです。
学習の流れとしては、小1〜小5で国際バカロレアの初等教育プログラム・PYPを、小6〜中等4年で中等教育プログラム・MYPを実施し、中等5・6年では、海外大学入学資格を得られるDPプログラムか、国内大学進学に向かうNDPプログラムを選択することを想定しています。
【茨城県公立中高一貫校:竜ヶ崎第一、下館第一、鉾田第一、太田第一、鹿島】
茨城県では2020年度から、竜ヶ崎第一高校、下館第一高校、鉾田第一高校、太田第一高校、鹿島高校に併設中学校を開校します。募集は学年各1クラスです。これは県立高等学校改革の第一弾で、茨城県では2020年度から2022年度にかけて合計10校を中高一貫校とする予定です。この狙いには、県立高校の魅力アップ、茨城県の将来を担う人材育成、県立高校のレベルダウン防止などがあります。ただ、5校の中には中学受験情勢があまり活発ではない地域の学校もあり、今度地元に根付くかどうかは、しばらく経たないとわからない部分もあります。現状では5校とも説明会には多くの参加者が集まっていて、地域の小学生や保護者の注目度の高さが目立っています。
大きく変わる学校
共学化やコース制実施、移転など、大きく変わる学校をご紹介します。
【聖ヨゼフ学園】
2020年度から中学を共学化します。同校は学園全体で国際バカロレア(IB)のプログラムを導入することを決定しており、2018年には小学校が国際バカロレアの初等教育プログラム・PYPの認定校となっていました。中学では2020年度から中等教育プログラム・MYPの試行実施を行い、2022年の認定を目指すそうです。この先、共学化一期生が高校生になったら、海外大学入学資格を得られるDPプログラムも取り入れ、小・中・高を一貫して国際バカロレアプログラムを実施することになる見通しです。
【品川翔英中学校(現:小野学園女子)】
中高ともに共学化して校名を品川翔英中学・高等学校に変更します。「理系に秀でた生徒を育てる」「国際志向の挑戦ができる人間を育てる」「自分の頭で考え、自らの責任と矜持をもって行動できる人間を育てる」を使命とするとのことです。高校のコース編成も大幅に変更し、理数選抜コース、国際教養コース、進学コースの3コース制となり、進学コースはさらにI(特別進学)とII(総合進学)に分けたクラス編成を行います。
理数選抜コースは全員特待生で、プログラミング、コミュニケーション力を培う自己表現講座を必修とし、国公立大学や難関私立大学の理系学部進学を目指します。国際教養コースは、読む、聞く、書く、コミュニケーションとしてのスピーキング、プレゼン等でのスピーキングの英語5領域の運用能力を高め、在学中の1年留学や、英語と世界史の授業は英語で行うなど、海外大学進学も視野に入れた学習を進めます。進学コースは、I(特別進学)はGMARCHレベル以上の大学、II(総合進学)は中堅レベル以上の大学進学を目標とし、プログラミングや自己表現講座、ICT利用授業なども必修とし、課外活動やボランティア活動など多彩な活動を通じて、社会で生きる力の土台を育成します。中学のコースは単一ですが、高校に進学する時点で希望に合わせてコースが分かれる形になります。
【昭和学院】
2020年の創立80周年を機に、コース制を大きく変更します。従来の中学はコース制がなく、高校も特進・総合進学の、難度別2コース制でしたが、中学は入学時点で、インターナショナルアカデミー・アドバンストアカデミー・ジェネラルアカデミーの3コース制になります。中3からは、アドバンストアカデミーがさらにトップグレードアカデミー・アドバンストアカデミー・アスリートアカデミーの3つに分かれ、全部で5つのコースになります。
インターナショナルアカデミーコースは、グローバルに活躍する人材育成の観点から、海外大学や国際教養系大学進学を目指します。日本人とネイティブの二人担任制や長期・短期の語学研修、英語でのアクティブラーニングにも力を入れます。トップグレードアカデミーコースは、東京大学をはじめとする最難関国立大学進学が目標で、一人ひとりに合わせたハイレベルな学習指導、幅広い知識をもとにした教科横断型授業が特徴です。アドバンストアカデミーコースは、千葉大学をはじめ、難関国公立大学や難関私立大学への進学を目指します。基礎から応用までを網羅した質の高い授業と、放課後や長期休業中の選択制講座、学習会を実施します。アスリートアカデミーコースは、部活動に力を入れますが、同時に筑波大学、慶應義塾大学、早稲田大学などの難関大学進学も目指します。基礎から応用まで網羅した質の高い授業を行うとともに、部活動に集中できるよう、授業は6時間目までとし、別の場面で学習面のサポート体制を充実させます。難度的には、アドバンストアカデミーとほぼ同等で、ジェネラルアカデミーよりも上になり、文武両道を目指します。ジェネラルアカデミーコースは、多彩な内容を総合的に学ぶコースで、興味関心に合わせて探究学習や選択授業が受けられるよう、柔軟なカリキュラムが組まれます。自分の進みたい、学びたいことを見つけ、大学や専門学校進学など、次のステップにつなげていきます。
【国本女子】
カナダのAlberta州教育省と連携し、新たな内容の教育を行っていくとのことです。その象徴が、日本とカナダの2カ国の高校卒業資格を取得できる「ダブルディプロマ(DD)コース」の新設です。DDコースでは、中1から英語力の高度化に向けた授業を行います。平日は7時間授業が中心で、英語は週12時間、このうち5時間以上はAlberta州教員による4技能指導で、中学卒業段階で英検2級レベルの力を身につけるとともに、異文化理解プログラムや探究型授業を実施します。中3ではカナダ研修も行います。高校では、日本の授業に加え、Alberta州教育プログラムによるカナダ独自の科目も学び、土曜午後や長期休暇中の集中授業などを考えています。全員が英検準1級以上を取得し、探究型授業やプロジェクト学習なども行うほか、カナダ留学や海外ボランティア活動を経験することも想定しています。
なお、在来クラスは「リベラルアーツ(LA)コース」となり、従来の教育課程を発展させた授業を行っていきます。LAコースでもAlberta州教育プログラムを取り入れ、確かな英語力を身につけることはもちろん、探究活動、問題解決学習、ICT機器の駆使などにも力を入れて複合的な学びを展開し、多様化する生徒一人ひとりの進路希望を実現していく、とのことです。
【大妻多摩】
2020年度入学生から国際進学クラスを新設します。募集は30名です。中1の間は各クラスに分散し、英語は別指導を受けます。中2からは国際進学クラス生のみでクラスを編成し、オーストラリアフィールドワークを実施するなど、別プログラムでの教育を行います。なお、一般の入試で入学した生徒も、成績基準をクリアすれば、中2から国際進学クラスに在籍することができます。
【三育学院中学校(現:北浦三育)】
茨城県行方市から千葉県大多喜町の三育学院大学キャンパスの校地に統合移転し、校名を三育学院中学校に改称する予定です。
【函館白百合】
首都圏入試を中止します。
【麗澤瑞浪】
岐阜県瑞浪市の麗澤瑞浪が首都圏入試を新設します。募集定員は男女70名、試験日時は2020年1月11日(土)です。試験内容は、学科試験3科4科選択+面接となります。
受験校選びについて
4月の模試の受験者状況を見ると、難関校志望者向けのサピックスオープンが増加、同じく難関校志望者向けの四谷大塚の合不合判定テストもやや増加、上位校志望者向けの日能研模試は増加、中堅校志望者向けの首都圏模試の統一合判は減少しています。2020年度中学受験に向けて、難関・上位校志向が高まり、中堅校の人気はやや沈静化しているかもしれません。
筆者は、合同相談会等で中立の立場の相談員をさせていただくことが度々ありますが、やはり皆さんの意識が難関・上位校に向いている印象を受けます。保護者の方からはよく、「偏差値があまり高くない中学って、大学の実績もないし、行く意味があるのでしょうか?」という質問を頂きます。
お子さまの将来を考えた時、難関大学に進学できるようにと、偏差値や大学合格実績に目が行くのは当然のことだと思います。しかし、難関大学合格実績だけに注目して中学を選ぶ時代ではなくなってきているのではないかと考えます。
かつての日本社会は、良質で均質な商品を大量に低廉に提供することが重視され、企業では指示されたことを正確にこなす人材が重用されました。しかし、今、世の中は多様化・グローバル化しています。多様なニーズに柔軟に対応する力が重視され、「みんなと一緒」よりも「あなたらしさ」や「私らしさ」が大切にされる時代です。社会に出てから活躍するためには、自ら工夫して考え、課題を解決する力、幅広い視野、コミュニケーション能力、多彩な経験をもとにした形にとらわれない発想などが求められています。
ただ「教えられた勉強」ができるだけ、一流大学を卒業しているだけで、将来が保証されているとは言えません。また、2020年度から段階的に大学入試改革が実施されることもあり、今後の大学入試で求められる力が現在よりももっと多様化してくる可能性もあります。
ですから進学先の中学を選ぶ際には、大学合格実績だけではなく、6年間でどのような経験ができるのか、どのような学びのプログラムが用意されていて、人間力を向上させることができるのかも、しっかり考えていただければと思います。
私立中学はさまざまな工夫を凝らした教育プログラムを打ち出しています。入学時の偏差値があまり高くない学校でも、これからの長い人生の土台となる探究心や学び続ける姿勢、コミュニケーション能力、豊かな教養などを身につけられる学校は少なくありません。長い目と幅広い考えを持ち、お子さまの輝く将来につながるような進学先選びをしていただければ幸いです。
2019年4月〜6月に発表された変更点一覧
現段階(2019年6月時点)で判明している2020年度首都圏中学入試の変更点一覧をご紹介します。