上級者向け 受験マニアックス
2017年7月号 2018年度首都圏中学入試の変更点(第1弾:2017年4月〜6月発表分)
この記事は2017年度の情報です。最新の情報は2023年7月号および2023年10月号をご覧ください。
今号では、来年度の首都圏中学入試の変更点について、現時点で発表されている事項をご紹介します。大勢が判明する秋頃には、第2弾をご紹介する予定です。
2018年度首都圏中学入試の大きな流れ
各校の入試変更点から見えてきた、3つの大きな流れをご紹介します。
1.21世紀型教育に対応する入試
ここ数年、単に知識を身につけて問題を解くだけではなく、思考力・判断力・表現力・主体性・協調性などを問う、21世紀型の教育に対応する新しいタイプの入試が増えています(詳しくは、2016年12月号 新しいタイプの入試について をご参照ください)。2018年度の首都圏中学入試ではこの傾向がさらに強くなるようで、新しいタイプの入試を導入したり、割合を増やす学校が多数見受けられます。
具体的には、自分の考えを文章で表現するような出題や、さまざまな観点から問題に向き合い複数の教科の知識と判断力に基づいて解答する出題、教科横断型や総合型の出題などがあります。こういった試験は採点に手間がかかるため、これまでは後半の回次で小規模に行うことがほとんどでした。中学校側が採点に慣れてきたこともあって、2018年度は、前半の回次で比較的多数の受験生を対象に行う学校も増えるようです。
2.英語入試
英語入試もここ数年増加しています。求められる英語力は学校によって千差万別で、中1〜中2で習う程度のレベルの場合もあれば、英語でエッセーを書くなどかなり高度な英語力が必要な学校もあります。英語受験を選択する場合は、受験する中学がどの程度の英語力を求めているのかをしっかり確認し、それに応じた準備をするようにしましょう。
英語が小学校で教科化される次期学習指導要領のスタートは2020年ですが、2018年から移行措置に入りますので、一部先進的な自治体では2020年を前倒しにした英語授業を行う小学校も出そうですが、来春の入試には直接関係しません。英語入試は特に英語が得意な生徒のための選択肢と捉え、そうでない生徒が無理に英語入試を選んで勉強をしたり、対策を練る必要はないかと思います。
3.算数1科目入試
2018年度入試では、品川女子学院と大妻中野が算数1科目入試の新設を決め、文化学園大杉並が導入を検討中と発表しています。
近年アメリカでは「STEM」という教育の考え方が推進されています。「STEM」とは、「Science,Technology,Engineering,Mathematics」の頭文字。2045年頃にはコンピュータの人工知能(AI)が飛躍的に進化することで今とは全く違った文明になると予測されており、そういった時代に活躍できる、科学技術・数学・工学分野に長けた人材を育成することが、STEM教育の目的です。算数1科目入試を導入する学校は、こういった流れを踏まえ、理数科目が好きな生徒に入学して欲しいと考えているのです。品川女子学院、大妻中野という女子校で導入されることから、女子に理系の道を選んで欲しいという動きが出てきていることがうかがえます。
算数1科目入試はこれまでも多くの学校で導入されましたが、思うように受験生が集まらなかったり、入学後に他教科の学力が課題になったりして、数年で廃止されることも多くありました。来年導入する学校は、従来とは異なる「STEM」という理論を念頭に置いています。算数1科目入試で入った生徒にどのような指導を行い、次世代を担う人材を育成していくのか、注目したいところです。
大きな変更点がある中学について
共学化や大規模なコース改編などを行う6校についてご紹介します。
1.共学化
【八雲学園】
終戦後間もない1946年にはGHQ高官の婦人を招いて英会話の授業を始めるなど、先進的に英語教育に取り組んできた学校です。異なる文化や風土で育ってきた人と連携し、新たなものを作り出していく次世代のグローバルリーダーの育成を目指すという観点から、2018年度に男女共学に踏み切ることになりました。違いがあることを認め合いつつ、協働して学びを深めていく学校づくりを目指しています。
【青山学院横浜英和】
1880年創立のキリスト教主義の学校です。2014年にキリスト教主義教育の一層の発展を図って青山学院大学の系属校になりました。青山学院は、戦後の男女共学化を先導した歴史があり、古くから共学教育のポリシーを持っています。従って、青山学院横浜英和も、系属校になった後準備が整ったら共学化する予定でした。2018年度に満を辞して共学化するわけですが、一定の進学基準を満たせば青山学院大学に全員推薦で入学できることもあって地域の受験生の期待が高く、今後の動向が注目されます。
【文化学園大杉並】
2015年に、日本とカナダ両方の高校卒業資格を取得できる「ダブルディプロマコース」を開設し、この全国初の制度が大きな注目を集める学校です。ダブルディプロマコースについては全国から問い合わせがあり、男子も受け入れて欲しいとの声が多くあったそうです。このリクエストに答え、共学化する運びとなりました。今後は、男女共学の環境の中でグローバル人材の育成を目指していく模様です。また、同校は算数1科目入試も検討中であり、新たな試みを続ける姿勢が目立ちます。
2.コースの再編
【駒込学園】
従来は「スーパーアドバンス」と「アドバンス」に分かれていましたが、2018年度から「国際先進」と「本科(AGS)」の新たなコース制になります。人工知能(AI)の進化により到来する答えのない激動の時代に備え、自分でしっかり考えて発信する力を伸ばすことがその目的です。両コースともにアクティブラーニングに力を入れ、主体的・能動的・協働的で深い学びを進めます。国際先進コースは、数理探究とグローバル教育を一体化した文理融合型のコースです。海外語学研修の他、豊富な理科実験を通じたSTEM教育、「ニュース時事能力検定」や「世界遺産検定」の資格取得などの先進的な教育を進め、高校進級時には海外留学にも積極的にチャレンジします。また、海外大学で主流になっている「ポートフォリオ入試(自己アピール資料による入試)」に対応できる人材の養成を行っていきます。本科(AGS)コースでも、体験学習、フィールドワーク、グループディスカッション等を幅広く導入したアクティブラーニングを行い、思考力・判断力・表現力・主体性などを大きく育みます。GMARCHをベースとした難関大学の合格を目指す他、美大、体育大などを目指す生徒への幅広い進路指導も図って行きます。
【横浜女学院】
従来は「特進クラス」と「普通クラス」に分かれていましたが、これを「アカデミークラス」に統合し、新たに「国際教養クラス」を新設します。また、授業を週5日制から週6日制に拡大、実験や実習等を充実させていきます。これらの教育改革の核となるのは、「CLIL」と「ESD」の教育プログラムです。CLILとは、教科学習と英語学習を組み合わせた内容言語統合型学習のことで、「知識を英語で習得できる学習能力」「物事を英語で考察できる批判的言語能力」「他人と英語で協働できる協働的言語能力」を身につけて行きます。ESDとは、社会に貢献する真のリーダーとなるための学びで、「持続可能な社会の発展のための価値観」「体系的な思考力」「代替案の思考力」「データ情報の分析能力」「コミュニケーション能力」「リーダーシップ」の6つの力を育成します。国際教養クラスではCLILを積極的に実践し、高1でのアメリカ留学も計画しています。アカデミークラスでは習熟度に応じて日本語を交えたCLILを実施するほか、これまで以上に理系の実力アップにも取り組み、数学甲子園や科学オリンピックへの挑戦も続けていきます。
3.その他
【千代田女学園】
2018年度から中学募集を停止し、一昨年の武蔵野大学との法人合併認可時に構想されていたインターナショナルスクール開設に向けて動き出します。インターナショナルスクールは敷地内に建設中で、2018年度から初等部、2019年度から中・高等部の募集を行う予定です。なお、高校の名称は「武蔵野大学附属千代田高等学院」に変更し、共学クラスを新設します。
2017年4月〜6月に発表された変更点一覧
現段階(2017年6月時点)で判明している2018年度首都圏中学入試の変更点一覧をご紹介します。