上級者向け 受験マニアックス
2023年9月号 2050年に求められる人材
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今の小学生が大人になったとき、社会で活躍するためにはどのような力が求められるのでしょうか。また、未来に活躍する人材になるために、どのような学生時代を過ごせばよいのでしょうか。
今回の受験マニアックスでは、新しい時代に必要な能力とはどのようなもので、その能力をどのように身につけていくかについて、考察します。
世界トレンドに乗り遅れると、日本はどうなるか
下の図は、三菱総合研究所が発表した『未来社会構想2050』に掲載されていたものです。デジタル化、国際的な多国間体制の構築支援、循環型社会の構築などを行わず、世界のトレンドに乗り遅れた場合の、2050年の日本の姿を描いた警告です。「日本の国際的地位が低下」「循環型社会が構築されず地域や日本の持続可能性が毀損」「所得・教育格差が固定化」「自由時間が増えても生活の質は停滞」など、不安になるような内容が連なります。
『未来社会構想2050』は、2つのシナリオを提示したもので、この「世界のトレンドに乗り遅れた姿」だけでなく、「乗り遅れなかった姿」も描いています。政府、財界、学者などは、「乗り遅れた姿」になっては困りますから、「乗り遅れないために社会をどのように変えていくか」という視点から、様々な主張が出て来ると思いますが、ご家庭の考え方からは、「仮に世界トレンドに乗り遅れてしまった日本でも、せめて現在程度の生活水準が維持できる大人になってほしい」とお考えになるのではないでしょうか。そのために求められる力(資質・能力)とはどのようなものなのでしょうか。
![出典:『未来社会構想2050』(株式会社三菱総合研究所)](images/03.jpg)
出典:『未来社会構想2050』(株式会社三菱総合研究所)
「オールドタイプ」と、これから活躍する「ニュータイプ」
筆者が最近読んだビジネス書の中に、興味深い分析がありました(『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』山口周、ダイヤモンド社、2019)。これまでビジネスで求められていた力は時代遅れ=オールドタイプになり、これからの世の中では新しい力を持った人材=ニュータイプが活躍していくというのです。
オールドタイプからニュータイプへの転換の例を挙げると、
- 「正解を探す」→「問題を探す」
- 「生産性を上げる」→「遊びを盛り込む」
- 「ルールに従う」→「自らの道徳観に従う」
- 「一つの組織に留まる」→「組織間を越境する」
- 「綿密に計算し実行する」→「とりあえず試す」
- 「奪い、独占する」→「与え、共有する」
- 「経験に頼る」→「学習能力に頼る」
などがあります。
これらの内容は、言い方はいろいろありますが、以前から教育関係者の間では言われてきたことで、その関係の研究書籍もいくつか出ています。筆者の不勉強かもしれませんが、ビジネス書ではっきり書いているのは珍しいと思います。
大切なのは、中学高校時代の学び
社会に出て働き始めると、オールドタイプからニュータイプに自らを変えていくことは、なかなか難しく、相当大変な努力が必要でしょう。どうしても、生産性にとらわれてしまったり、失敗しないように計算を重ねたり、ここ一番の時には経験に頼りたくなってしまう面がありますし、就職先がオールドタイプを前提としている働き方なら(そういった企業は2050年まで持たないと思いますが)、自らを変えていく必要性を、日々の仕事の上では感じにくくなります。つまり、未来の世界で活躍する資質を身につけるためには、学生時代にどのような環境で、どのような取り組みをしてきたのかが、大きな意味を持ってくるのです。
現在、東京大学、京都大学、慶應義塾大学、筑波大学などでは、学生のうちに起業する「大学発ベンチャー」の取り組みを支援しており、実際に多くの企業が誕生しています。こうした、「失敗してもいいから、まずはやってみる」という経験は、前述したようなニュータイプの能力を育むことにつながるでしょう。もちろん、起業に挑戦するのはほんの一部の学生です。ですが、「挑戦してみる」ことは、仮に失敗したとしても、大きな自分の経験として、就職後に生きてきます。
ただ、大学生は、精神的にはかなり大人に近づいていますから、ある程度自分なりの物事の見方、考え方が固まっていて、オールドタイプとニュータイプのことは、知識としては理解しても、なかなか自分を変えることが難しい学生もいます。
そこで大切になってくるのが、中学高校時代の学びです。感受性が豊かで伸びしろが大きいこの6年間で、未来の社会で活躍する資質を身につけることがポイントになってきます。
すぐに正解を見つけたがらずに問題点に目を向けたり、校則の意味を生徒自身が考えて先生と話し合ったり、失敗を恐れずにとりあえず試す「トライ&エラー」を繰り返したり。前述したオールドタイプからニュータイプへの転換の例は、学校生活での取り組みの中で鍛えていくことができます。総じて、探究的な活動を通して身につけられるものだと言えるでしょう。つまり、探究活動をしっかり行っている学校で学ぶことが重要になります。
そのような経験の機会を考えると、ニュータイプの資質を育むためには、やはり中高一貫校が最適といえます。高校受験で中断することなく、6年間を通じてじっくり学ぶ中で、余裕を持って探究活動に取り組むことができるためです。ただし、一口に探究活動といっても、その内容には注意が必要です。最近はどこの学校のパンフレットを見ても、「探究活動」という文字が並びますが、ただ「探究活動」と称した時間を設けているだけだったり、先生が一方的に教えていたり、プレゼンを行うことだけが探究活動だとアピールしているケースも見られます。本当の意味での探究活動とは、正解をすぐに与えず時間がかかって回り道になっても生徒に考えさせたり、トライ&エラーを繰り返したり、生徒の「なぜ」「どうして」に先生たちがじっくりと向き合ったりすることです。志望校を選ぶときには、ぜひそういった観点を持っていただければと思います。「どのような探究的な取り組みを行っていますか?」と聞いたときに、生徒自身に自主的に行動させたり、考えさせたりするような取り組みが3つか4つすらすらと出てくるような学校は、探究的な学びに中身が伴っているといえるでしょう。