上級者向け 受験マニアックス
2021年3月号 2021年 首都圏中学入試の概況
この記事は2020年度の情報です。最新の情報は2024年3月号をご覧ください。
応募総数都内1位になった新設の広尾学園小石川
今回は、首都圏1都5県(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・茨城県・栃木県)の、2021年度の中学入試の概況をお伝えします。全体の傾向の分析と併せて、東京23区、東京多摩地区、神奈川県、千葉県、埼玉県、公立中高一貫校の詳細な入試概況データ(速報版)も、PDFにてご確認いただけます。入試概況データは3月5日現在で編集部に各校から寄せられたアンケートに基づいています。例年、繰り上げ合格などや、追加募集が実施される場合もありますので、3月5日現在の状況とお考えください。
1.中学受験者数は拡大が続き、私立中高一貫校が人気の中心に
図1は、首都圏1都5県の小学6年生の児童数と中学受験者数の推移です。
図1 小学6年生の児童数と中学受験者数の推移(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
※ 受験者数は編集部推定
※ 児童数は文部科学省の学校基本調査から作成、義務教育学校(小中一貫校)を含む
今年の中学受験の母体となる小学6年生の児童数は、34万名をわずかに切る人数で、昨年よりも減ってはいますが、1千名に満たない人数で横ばいと言ってよいでしょう。少子化にコロナ禍が加わっていますが、首都圏から脱出する人は少ないのが現状です。小5以下の児童数を見ると、次年度以降は少しずつ減っていくことになりますが、首都圏集中が続く限り、中学受験が広がっている地域では、横ばいが続くかもしれません。一方、中学受験者数は約6万4千名だと推定されます。中学受験者数はグラフに表れていない2009年にピークを迎え、その後は減少を続けていました。しかし、東京23区が先頭を切って2016年度から増加に転じ、翌年からは周辺各県にも中学受験の拡大が広がり始め、特に今回は児童数が微減であるにもかからず、中学受験生は増加が続いています。
地域別では、東京23区での児童数の増加、また北関東では水戸周辺が新規校の影響で受験が活性化しています。
コロナ禍の中で中学受験が拡大した背景には、第一にはグローバル化対応やSTEAM(science、technology、engineering、art、mathematics)教育、探究の取り組みなど、10年、20年後に社会で求められる能力の育成の必要性を感じている保護者が多く、コロナ禍でも良質の中高一貫教育をぜひ、という意識から、中学受験の断念は考えなかったことです。また、コロナ禍での臨時休校期間中の学習も、中高一貫校では双方向通信の利用や動画学習でのフォローアップなどが保護者に評価されました。さらに、高校段階になると私立学校通学者に対しての学費支援が充実してきたことから、従来よりも中高一貫教育の学費負担感が軽減されてきたことなども理由です。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、経済面の問題で中学受験は縮小するという予測もありました。リーマンショックの時に縮小したからです。しかし、日経平均の株価の終値の推移を見ると、リーマンショックや東日本大震災の時のようなダメージが見られず、かえって、株価が上がっているような状態が続いています。コロナ禍で、生活に影響が出ている方々はたくさんいらっしゃるものの、中学受験生が経済的な問題で減るということは見受けらません。もちろん株価が高いからといって、それぞれのご家庭の所得が保証されているということではありません。保護者の立場からすると、不安感を持っているご家庭も多いと思います。しかし、リーマンショックや東日本大震災の時との大きな違いとして、現在は高校段階での公的な学費支援が充実してきたことから、6年間合計の学費負担の面からは、中学受験のハードルは下がってきて、それが中学受験の拡大につながったと言えます。
ただし、毎年見られる現象として「駆け込み受験組」というものがあります。4年生や5年生の段階から、しっかりと準備をして受験に臨むのではなくて、6年生になってから受験に挑戦することを決めるパターンです。残念ながら今年はこうした「駆け込み受験組」は減っているような印象です。従来の「駆け込み受験組」が集まっていた学校では、「駆け込み受験組」が減ったため、今年は苦労しているケースも多いようです。
2.大きな変化のあった学校
2021年度に新規開設した学校や新規コース実施など大きな変化のあった学校の入試概況をご紹介します。
・新規開設校
東京都では広尾学園小石川が新たにスタートし、埼玉県では川口市立高附属、茨城県に水戸第一高附属、土浦第一高附属、勝田中等教育が新規開校しました。特に水戸地区に関しては、2校の開校で中学受験が拡大しています。
・共学化
芝浦工大附属と聖徳大附属女子の2校が共学化しました。聖徳大附属女子は校名を光英VERITASに変更しています。
・コース制の変更
江戸川女子、佼成学園、駒込、昭和女子大附属、世田谷学園、西武文理、開智、茗渓学園でコース制の変更が行われています。
・入試設定の変更
獨協と神奈川大附属は初めての午後入試を実施、多くの受験生が集まりました。
・オンライン入試実施
コロナ禍で海外在住者の一時帰国が難しくなったことなどから、海外帰国生入試をオンラインでも実施した学校は多く、オンライン実施を一般の受験生にも広げる試みも北鎌倉女子や昭和学院で行われています。
・グループワークの中止・変更
神奈川県立相模原中等、平塚中等や東京都市大等々力、和洋国府台などでは、入試にグループワークを実施していましたが、感染防止で中止や他の内容に変更されました。
・三密対策
日本一の受験者数の栄東は「三密」を避けるため、1月10日午前の入試を10日と12日の選択とし、さらに集合時間も分けて校内だけでなく最寄り駅でも混雑が集中しないように入試設定を変更したほか、入試の教室を増やし、1教室当たりの人数を減らしました。同校ばかりでなく、1教室当たりの人数を減らした学校は数多く見られました。中にはその影響で保護者控室がなくなった学校もありました。
・中学募集の停止
松蔭、聖徳大附属取手聖徳女子、宇都宮海星女子、お試し受験が多い地方寮制校入試の早稲田摂陵の4校が中学募集を停止しました。今後は高校募集のみの実施校になります。また、長崎日大では新型コロナウイルス感染防止策が十分に実施できないとして、今年度の首都圏入試を中止しています。
3.難易度別の学校選択傾向
図2は、1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の、難易度別応募者数の比較です。2020年と2021年の応募者数を男女別にグラフにしました。
図2 1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の難易度別応募者数
※ 公立中高一貫校は除く
※ Aグループは最上位校、Bグループは上位校と続き、Eグループは入りやすい学校
※ 難易度は入試前の予想偏差値を元に設定。
2020年と2021年で学校のグループが変わっていることもある
※ 各グループの学校名は、各都県のPDFを参照
応募者数は男女ともBグループ(上位校)が最多となっています。男子に関しては全体の4割近くを占めます。一方、女子は全体の3割弱で、男子ほどは集中していません。
昨年との違いでは、男子ではDグループとAグループの順番が入れ替わっています。女子では、A・Bグループが減って、男子同様にCグループが増えて、Dグループも少し増えています。
男女ともに難関校、上位校への挑戦が減った背景には、有名校・難関校を「ダメでもともと」と受験する挑戦志向の受験生が減り、実質主義ともいえる現実的な選択をする受験生が増えてきたことがあるでしょう。傾向としては、現状のレベルの中で選べるモアベターな学校を選択していると推測できます。
さらに今回は新型コロナウイルス感染症拡大で、受験準備学習に後れを感じた受験生が増えたことで、安全志向がさらに強くなった学校選択です。また、特に一般入試が2月1日からの東京都や神奈川県では、高い志望順位の学校に合格するまで、何度でも入試を受け続けようとする粘り強い受験生が近年は減っていて、この点からも合格可能性が高い学校になるべく早く合格し、そこで受験は終了、と考える受験生の行動が表れた応募状況です。
4.2021年度中学受験の人気校
【男子校】
図3は、男子校の応募者数の上位30校を示したものです。◆は前年と比べた増減の割合を表しています。
図3 男子校の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
今年も1位は東京都市大付属です。5千名を超えた年もありましたが、その後は減少したもののトップは守っています。2位は日大豊山です。昨年の7位から上がりました。昨年に続いて今年も応募者数は34%増と増加しています。3位は昨年の6位から上がった世田谷学園です。同校も昨年、今年と増加が続きました。理数コース新設も人気の理由です。4位の城北埼玉は昨年の11位から上がっています。昨年はほぼ一昨年並みの応募者数で、人気が広がっています。5位は成城で、昨年は応募者が増えて2位でしたが、今年は減っています。6位の本郷も昨年の5位から下がりました。難化が進んだことから、昨年に続いて応募者が減っています。7位の早稲田も昨年の4位から下がっています。昨年は応募者が増えていましたが、隔年的な変化で今年は減って順位が下がっています。8位の巣鴨も昨年の3位から下がっていますが、昨年は応募者数が66%増の激増だったため、今年は人気が落ち着いています。9位は昨年8位だった立教新座で、やはり隔年的な変化で今年は応募者が減っています。10位は昨年9位だった海城で、ほぼ昨年並みの応募者数ですが、上位の学校が増えて10位に下がっています。
11位以下で特に目立ったのは、獨協です。既存の午前の入試の応募者も増えて93%増加と、倍増近いに応募者数です。背景には午後入試を新設したことが挙げられます。午後入試だけではなく、その他の回次も同様に増加しています。グラフに登場しない学校では、城西川越や駒場東邦の応募者の増加が目立っています。
【女子校】
図4は、女子校の応募者数の上位30校を示したものです。
図4 女子校の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
豊島岡女子はほぼ昨年並みの応募者数で1位です。2位の山脇学園は2月2日の入試を午前から午後に移動したことや帰国生入試の積極対応などで応募者が大きく増加し、昨年の9位から上がっています。浦和明の星は応募者が少し減りましたが、今年も3位をキープしました。4位は横浜女学院です。一昨年のコース制実施、昨年の特奨入試新設で応募者の増加が続いて2位となっていましたが、今年は反動により減少となりました。5位は大妻です。昨年の10位から上がりました。応募者は少し増えていますが、目立つほどの増加ではありません。6位の淑徳与野、7位の洗足学園は、それぞれ昨年の7位、8位から1つずつ順位が上がっていますが、両校とも応募者は少し減っています。大妻の順位の上昇と同じ理由です。8位の共立女子も応募者が減って昨年の4位から下がりました。9位は実践女子学園です。帰国生入試を新設しましたが、それよりも午後入試の4科選択を取りやめるなど、受験のハードルが下がったことから、応募者が大きく増加、昨年の22位から一気に上がりました。
11位以下で特に目立つのは吉祥女子です。グラフの通り目盛りからはみ出す減少ですが、3回入試が2回になったための減少です。応募者の増加が目立つのは鴎友学園女子、富士見、女子美大付属、清泉女学院です。また、グラフに出てこない範囲では日大豊山女子、佼成学園女子、和洋九段女子、大妻嵐山、捜真女学校、晃華学園、カリタス女子、聖セシリア女子、中村、トキワ松学園、共立女子第二、白梅学園清修、鎌倉女子大の応募者の増加が目立っていて、特に佼成学園女子は倍増近い増加、和洋九段女子や中村も大幅な増加です。
女子校の特徴としては、全体的に応募者数の減少が目立っています。これは昨今の共学志向の影響があらわれた結果といえるでしょう。
【男女校】
図5は、男女校の応募者数の上位30位です。
図5 男女校(共学・別学)の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
トップは今年も栄東です。今年はコロナ禍対応で、受験機会が1回減ったことから応募者が減りましたが、それでも1万名を超えました。もちろん全国一で、グラフからはみ出しています。2位も5年連続開智で、募集コースを先端に一本化したことから応募者が減ったものの、4,300名を超えています。3位は新設の広尾学園小石川で、提携校の広尾学園よりも応募者が多く、初登場でいきなり3位になりました。4位は昨年5位の広尾学園で、応募者が少し増えています。5位は昨年4位の東邦大東邦です。高倍率が続いたためか、応募者は減りましたが、3,500名近い応募者数です。
6位は大宮開成です。昨年は4,000名近い応募者数で3位でしたが、難化が進んだことで敬遠されたようで応募者が減りました。7位は昨年20位だった星野学園で、昨年も応募者がやや増えていましたが、今年は大幅に増えています。栄東の日程変更も影響したのでしょう。8位は昨年の6位から下がった市川です。応募者が減っていますが東京都などからの受験生が減ったようです。9位は昨年8位だった専修大松戸で、今年は少し応募者が減り、昨年は少し増えていましたが、安定した推移です。10位は昨年の12位から上がった開智日本橋で、昨年は応募者が減っていましたが、今年は隔年的な変化により増加に転じました。11位の埼玉栄も昨年は応募者が増えて7位でしたが、同校も隔年的な変化により今年は減少です。ここまでが応募総数3,000名以上です。
12位以下では、男子校なら3~9位、女子校なら1~4位に位置する応募者数ですが、男女校では1ケタの順位にはなりません。応募者の増加が目立ったのは、青稜、安田学園、東京農大第一、共学化した芝浦工大附属です。グラフに登場していない学校では、宝仙学園理数、開智未来、法政大学、日大第一、桐蔭学園、郁文館、東京電機大、昌平、日大第二、明治学院、淑徳巣鴨、自修館、茗溪学園は応募者の増加が目立ちました。
5.実受験率と合格率の傾向
中学受験では、「志望順位が高い学校に先に合格したので志望順位が低い学校の入試を欠席する」「志望順位が高い学校の入試に複数回出願し、早い回次で合格した場合に、遅い回次を欠席する」など、出願しても入試を欠席することがあります。
図6は、各都県の実受験率の3年間の推移を表したものです。
図6 実受験率の推移(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
※ 応募者から欠席者を差し引いた出席率
※ 各校・各回次の合計から算出
近年はウェブ出願を行う学校の増加によって欠席が減り、実受験率が上がってきていました。これはウェブ出願実施校の中には前日の夜でも出願できる学校が多くなってきて、以前のようにあらかじめ複数の学校に出願し、前日までの合格状況で翌日の受験校を決定するという、欠席承知の出願が減り、前日に出願することが増えてきたためですが、今年はグラフのように神奈川など、受験率が上がった地域だけでなく、東京23区などのように受験率が下がった地域も見られました。1つには、コロナ禍対応で今年からウェブ出願を実施した学校は難関校や伝統校などの学校が多く、そうした学校は前日の夜まで出願を受け付けるパターンは少なく、あらかじめの出願が比較的多かったことが挙げられます。
都県別に見ると、例年通り、千葉県と茨城・栃木県が高くなっています。埼玉県はその中間です。千葉県は地域ごとに難度が近接している学校の入試日程が分かれているケースが多く、欠席は少なくなります。茨城・栃木県は、学校数が少なく、学校同士の入試日程の重なりが少ないことから高くなっています。東京23区・多摩地区・神奈川県は2月1日から一般入試が始まり、午後入試も含めて3日までが中心です。学校数が多いことから、比較的難度が近接している学校も多く、併願作戦も多様で欠席も多くなりがちです。埼玉県は、1月10日午前に応募者が集中していることから、10日午前が受験率を引き上げていて、10日午前の受験率が全体の受験率を引き上げています。
図7は、各都県の合格率の3年間の推移を表したものです。
図7 合格率の推移(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
※ コース制入試のスライド合格や特待入試での一般合格を除く
※ 実質倍率の逆数で、各校・各回次の合計から算出
東京23区、多摩地区、神奈川県、千葉県では昨年まで合格率が毎年少しずつ下がっていました。中学受験が拡大基調になって受験生が増えていることから、レベルアップを図って、合格者を絞るようになってきていました。しかし、今年は東京23区が昨年並み、茨城・栃木県は下がっていて、多摩地区、神奈川県、千葉県、埼玉県は上がっています。上がった地域では、コロナ禍もあって、遅い日程でどのくらいの受験生がいるのか不安になった学校が、早い日程で合格者を増やしたことが理由でしょう。早い日程での合格者の入学手続き者が予想以上に増えて、遅い日程での入試倍率が大幅に増加したというケースもあります。遅い日程はもともと定員枠が小さいことから、こちらで合格者数を絞っても、グラフには反映しにくくなっています。東京23区の合格率が昨年とあまり変わらないのは、応募者数、受験者数の増加が目立っていて、コロナ禍がなければもっと合格者を絞ったところ、昨年並みの水準に落ち着いたのが実態です。
茨城・栃木県の合格率の低下は茨城県側が理由です。2020年から2022年の3年間で、全県で公立中高一貫校を10校と私設する計画が進行中で、急速に中学受験の拡大が続いています。特に今年は公立最難関校の水戸第一と土浦第一に併設中学校が開校することから高い人気になり、倍率が上がったことから、合格率の低下につながりました。
これらの各都県と一線を画しているのが埼玉県です。埼玉県はグラフに出てこない2018年から2019年にかけては合格率が下がりましたが、その後は上昇が続いています。埼玉県の私立入試は、東京都などの各校の受験の前の「お試し受験」の面が強く、集計が終わっている2020年度は、応募総数の約三分の二が県外からの応募で、合格者の入学手続き率は平均で約六分の一でした。もともと埼玉県は歴史が浅い私立学校が多く、2010年代中頃までは中高一貫教育を、難関大学進学実現のためと割り切っていた学校が多く見られました。こうした考え方だとより高学力の受験生を迎えようとしてハードルを上げるケースが多かったのですが、前述のようにグローバル化対応やSTEAM教育、探究の取り組みなどの重要性が高まるにつれて、入学段階では少し学力面で未発達でも、こうした力に秀でている受験生を迎えようと方針に変化してきていることで、合格率が上がってきています。