上級者向け 受験マニアックス
2022年3月号 2022年 首都圏中学入試の概況
この記事は2021年度の情報です。最新の情報は2024年3月号をご覧ください。
今回は、首都圏1都5県(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・茨城県・栃木県)の、2022年度の中学入試の概況をお伝えします。全体の傾向の分析と併せて、東京23区、東京多摩地区、神奈川県、千葉県、埼玉県、公立中高一貫校の詳細な入試概況データ(速報版)も、PDFにてご確認いただけます。入試概況データは2月28日現在で編集部に各校から寄せられたアンケートに基づいています。例年、繰り上げ合格などや、追加募集が実施される場合もありますので、2月28日現在の状況とお考えください。
1.中高一貫校の人気を中心に、今年も中学受験の拡大は継続
図1は、首都圏1都5県の小学6年生の児童数と中学受験者数の推移です。
図1 小学6年生の児童数と中学受験者数の推移(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
※ 受験者数は編集部推定
※ 児童数は文部科学省の学校基本調査から作成、義務教育学校(小中一貫校)を含む
群馬県を除く首都圏1都5県では前年に引き続き、今年も中学受験は拡大基調です。今年の中学受験の母体となる6年生は前年より1,700人減った33万8,200人あまりです。東京都は前年より増加し、他県は減少となりましたが、いずれも小幅です。一方、速報集計の結果ですが、今年の中学受験者数は65,700人程度だと推定されます。過去最多を記録していた2009年の65,100人を、13年ぶりに更新しました。首都圏の中学受験は2009年まで拡大が続きましたが、2008年秋のリーマンショックの影響で高額の学費が必要な私立中学を中心に受験生は減少に転じ、グラフが示すように2015年まで減り続けていました。しかし、東京23区が先頭を切って2016年度から増加に転じ、特に2018年は児童数が最少にもかかわらず中学受験生は増加、今年に至ります。マスコミでは、2021年の1年間で東京23区が初の転出超過になり人口が減り始めたと報じましたが、その転出先の上位3県は神奈川県、埼玉県、千葉県となるため、個々の学校選択は別として、首都圏全体の中学受験の動きには影響しません。
2020年から続くコロナ禍の中、受験準備の学習、学校選択の情報収集などに不安や困難などがありました。そうした状況の中でも中学受験が拡大したのは、やはり「良質の中高一貫教育」に対する保護者の期待の大きさでしょう。有名大学合格者数を基本とする学力価値観は、知識・技能を習熟したうえで、思考力・判断力・表現力を磨き、他者と協調しながら主体的に課題に取り組んで解決を図るという、21世紀型の学力価値観に変化しつつあります。こうした新たな学力価値観に基づく力の育成には「良質の中高一貫教育」が必要だ、という意識が保護者に広がってきました。さらに、リーマンショックの頃よりも私立通学生に対する公的な学費支援が充実してきた背景もあり、今年は特に中学受験の裾野が広がっている印象があります。
2.大きな変化のあった学校
2022年度の新規開設校・新規コース実施など大きな変化のあった学校の入試概況を紹介します。
・新規開設校
東京都では私立の千代田国際、茨城県には水海道第一高附属、下妻第一高附属の2校がスタートします。
・共学化と名称変更
星美学園が共学化し、校名をサレジアン国際学園に変更しました。
・コース制の変更
春日部共栄、工学院大附属、実践学園、二松学舎大柏、日本大学(日吉)、三田国際学園、明星、横浜創英でコース制の変更が行われています。こうした変更の中には、受験生に浸透して歓迎され、応募者が増えたものもあれば、残念ながら新たな施策があまり受験生に浸透せず、応募者数は前年と大きく変わらなかったケースなども見られました。
・入試の設定の変更
江戸川学園取手や市立稲毛国際(市立稲毛高附属から校名変更)で全員必須の英語を実施、1教科入試を実施する学校も増えています。一方、算数入試を算・国の選択に変更した湘南白百合のような事例もありましたが、逆に千葉明徳は1教科入試を取りやめています。また、適性検査型や総合型は橘学苑のように新規実施校がある一方で、東京成徳大や文教大付属のように取りやめる学校もありました。
・コロナ禍対応
海外在住者の一時帰国が難しくなっていることで、帰国生入試をオンラインでも実施した学校が増加しました。一般入試では「三密」を避ける意味で、前年栄東がマンモス入試だった1月10日午前の入試を日程・時間帯選択にしました。今年も同様に時間帯選択は大宮開成などでも実施。入試の教室を増やし、1教室当たりの人数を減らすことも多くの学校で行われ、その影響で保護者控室がなくなる学校もありました。コロナ禍対応の追試も広がっていて、独自実施校のほか、神奈川県では各校共同の追試も設定されました。東京都と神奈川県では公立一貫校でも特例検査が設定されています。
オミクロン株による感染の拡大が爆発的な勢いで進んだことで、急遽面接を取りやめた学校が多数出たほか、面接の代わりに筆答式のアンケートのようなものを実施した学校もありました。距離をとって換気を十分行って、それでも面接は必ず実施するとした学校もあり、判断が分かれています。また、学校で昼食の必要がないように時間帯を変更した学校もありました。こうした急遽変更ではWEB出願が活躍し、学校から変更がメールで保護者に直接連絡されています。
3.難易度別の学校選択傾向
図2は、1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の、難易度別応募者数の比較です。2021年と2022年の応募者数を男女別にグラフにしました。
図2 1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の難易度別応募者数
※ 公立中高一貫校は除く
※ Aグループは最上位校、Bグループは上位校と続き、Eグループは入りやすい学校
※ 難易度は入試前の予想偏差値を元に設定。2021年と2022年で学校のグループが変わっていることもある
※ 各グループの学校名は、各都県のPDFを参照
今年度も応募者数は男女ともBグループ(上位校)が最多となっており、前年度よりも増加しています。男子に関しては全体の4割近くを占めます。一方、女子は全体の3割弱で、男子ほどは集中していません。男子は前年2番目にCグループ、3番目にAグループという順番でしたが、今年は僅差ではあるもののAグループの応募者が上回り、順番が入れ替わりました。女子の各グループの応募者数の順番は前年と変わっていません。女子のグラフではCグループが小幅の増加ですが、前年新たにスタートした広尾学園小石川を、結果偏差値をもとに今年はBグループに移していて、この影響を踏まえるとBグループの増加は少し縮まるものの、Cグループも増加が目立つ結果になります。男女ともに有名な難関校をめざしたい受験生は例年通り少なくありませんが、実際の応募状況では男女ともAグループは目立った増加ではありません。男子の場合は、せっかく受験する以上、中堅校で満足したくないという意識から上位校に応募者が集まったのではないかと推測されます。女子の場合も中堅校で満足の受験生も多く、難関校ではなく目指すならば上位校を、と考える受験生が増えています。
また、地域ごとに細かい違いはあるものの、男女ともにEグループの応募者数が増えたことが今年の中学受験のもう一つの特色です。中学受験の裾野の広がりです。Eグループの増加は難関校や上位校をめざす中学受験ばかりでなく、入学時点での偏差値が低くても、6年間でしっかり生徒を成長させている学校が選ばれているということがわかります。学校選びでは、とかく大学合格実績に目が行きがちですが、こうした価値観ばかりでなく、国内の大学ランキングとは無関係で海外大学進学が可能な学校に、という選択も増えています。海外大学合格実績が高い学校は難関校や上位校に多いことは確かですが、海外大学進学に有利な国際バカロレアやダブルディプロマ(卒業時に海外高校の卒業資格も同時に取得可能)を実施しているのは、むしろ中堅校や入りやすい学校が中心です。こうした保護者の意識の変化がわかる応募状況です。
4.2022年度中学受験の人気校
【男子校】
図3は、男子校の応募者数の上位30校を示したものです。◆は前年と比べた増減の割合を表しています。
図3 男子校の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
今年も1位は東京都市大付属です。5千名を超えた年もありましたが、その後は減少したもののトップは守っています。2位は前年同様に日大豊山です。今年は応募者数が減りましたが、2位を維持しました。3位は前年の5位から上がった成城で、前年は応募者数が減りましたが今年は増加しています。世田谷学園は僅差で、今年は4位です。前年の3位から下がっていますが、今年も応募者数の増加が続いているため、人気は高いです。5位は獨協で、前年の13位から上がっていますが、前年は午後入試の新設により一昨年の倍増近い応募者数でしたので、人気は続いています。6位の本郷、7位の早稲田は前年と同順位、応募者数も前年並みです。8位の立教新座と9位の海城は応募者数がやや増えて、それぞれ前年の9位、10位から1つずつ上がっています。10位の城北埼玉は、前年よりも応募者数が減ったため、前年4位から順位が下がりました。
11位以下で人気が目立ったのは、京華です。43%増という大幅な応募者数の増加です。特選・中高一貫の2コース制で、前年、今年と連続して応募者が増えています。比較的入りやすい学校ですが、非常に丁寧な生徒フォローで入学後に伸ばしている、という実績で受験生に支持されたのでしょう。また、攻玉社、聖学院、城西川越も10%を超える応募者数の増加です。グラフに登場しない学校では暁星や日本学園の応募者数の増加が目立っています。なお、日本学園は2021年12月に2026年からの明治大学の系列校化+共学化を公表していますが、発表の時期が遅いこと、2022年度入学生は明治大学内部進学の対象にならないことから、今年の応募者の増加は明治大学よりも同校の日常の丁寧な教育が保護者に評価されての増加でしょう。
【女子校】
図4は、女子校の応募者数の上位30校を示したものです。
図4 女子校の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
今年のトップは前年の4位から上がった横浜女学院です。増加率は53%で、グラフの目盛りからはみ出しています。第一志望の受験生だけでなく、併願受験生が大きく増えたこと、特奨を狙う受験生も増加していることが、この結果につながりました。2位は前年同様に山脇学園で、今年も応募者数の増加は続いて人気が高いです。長年トップを続けていた豊島岡女子は3位になりましたが、応募者数は前年並みで減少していません。それだけ横浜女学院や山脇学園の応募者数が増えているわけです。4位は実践女子学園です。応募者数は67%の大幅増加です。これだけの増加は第一志望生の人気もありますが、併願受験生が大幅に増えていることが背景にあります。
5位は浦和明の星女子は前年の3位から下がっていますが、若干ですが応募者数は増えています。6位は前年同様の淑徳与野で、応募者数は増えています。7位は前年が5位だった大妻で、少しですが応募者数は減りました。8位の洗足学園は前年の7位から下がっていますが応募者数は前年並み、9位の吉祥女子は前年の12位から上がりました。一昨年までは入試を3回行っていましたが、前年2回に減らし、応募者数は大きく減りました。しかし、今年は2回入試のままで応募者数が増えています。10位は前年の11位から上がった跡見学園で、前年から今年と連続して応募者数が少しずつ増えています。
11位以下で特に目立つのは、三輪田学園です。応募者数は28%と大幅な増加です。今年は帰国生入試の日程を1日前倒し、2月1日午前に英検利用入試を新設していますが、こうした変更よりも日常の丁寧な学習指導が応募者数の増加につながっています。麹町学園女子は、前年は上位30校に登場していません。応募者数は42%増と、グラフからはみ出ます。同校も帰国生入試日程の変更や、2月1日午後に英語資格型の入試を新設などがありましたが、やはり日常の学習指導の評価が応募者増加につながっています。ただ、同校の場合はそれだけでなく、最近増えているダブルディプロマへの期待もあっての増加です。このほか、和洋国府台と佼成学園女子が10%を超える増加です。グラフに登場しない学校では、カリタス女子、女子聖学院、文京学院大女子、東京家政大附属、湘南白百合、白梅学園清修、富士見ヶ丘の応募者数の増加が目立っています。
【男女校】
図5は、男女校の応募者数の上位30位です。
図5 男女校(共学・別学)の応募者数上位30校
※ 2回以上入試を行う学校は、各回の合計
※ 地方の寮制学校は除く
トップは今年も栄東で応募者数は1万2千名を超えました。前年はコロナ禍対応により、受験機会が1回減ったことから応募者数が減りましたが、それでも1万名を超えていました。今年は入試を増設して再び受験機会を4回に戻したことで応募者数が増えました。もちろん全国一で、グラフからはみ出しています。2位は6年連続開智です。前年は募集コースを先端に一本化したことから応募者が減ったものの、今年は再び増えてグラフからはみ出しました。3位は前年の6位から上がった大宮開成です。難化傾向があったため、前年は敬遠ムードが起きたようで応募者数は減りましたが、今年は29%増と、大幅な増加です。4位は前年の11位から上がった埼玉栄です。前年の40%増と、大幅な増加です。同校は栄東の系列校で、同校自身の人気も上がっていますが、1月10日・11日は午前に栄東、午後に埼玉栄と、連続して受験できる「パック受験」が受験生に浸透したことも増加の理由でしょう。
5位は都内校の広尾学園小石川です。前年新設(手続き上は募集休止校の再開)ですが、人気が集まり、初登場で3位になりました。今年も応募者数は少し増えていて、4千名を超えました。6位は前年の10位から上がった開智日本橋です。前年に続く応募者数の増加で人気が上がっています。7位は前年の4位から下がった広尾学園です。応募者数は減っていますが、僅差で前年並みと言っても差し支えありません。それでも順位が下がったのは5位や6位の学校の応募者数の増加が大きかったからです。8位は前年5位の東邦大東邦です。応募者数が減っていますが、難化進んでいたため敬遠する受験生が増えたのでしょう。前年同様に9位は専修大松戸です。応募者数は増えていますが、順位は変わりませんでした。10位は市川で前年は8位でした。応募者数はほぼ前年並みです。中学受験の拡大で全体的に応募者が増えたことから、前年並みでも順位が下がっています。ここまでが応募者数3000名以上です。
11位~30位は男子校なら2~9位、女子校なら2~5位に相当する応募者数ですが、男女校では1ケタの順位にはなりません。応募者数の増加が目立ったのは、神奈川大附属、西武学園文理です。グラフに登場していない学校では関東学院、春日部共栄、日本工大駒場、光英VERITAS、桜丘、立正大立正、淑徳巣鴨、茗渓学園、駒込、横浜創英、品川翔英、文化学園大杉並、多摩大聖ヶ丘、聖徳学園、常総学院、市立稲毛国際中等、武南、工学院大附属、順天、日大藤沢、茨城、実践学園の応募者の増加が目立ちました。
5.受験率と合格率の傾向
中学受験では、「志望順位が高い学校に先に合格したので志望順位が低い学校の入試を欠席する」「志望順位が高い学校の入試に複数回出願し、早い回次で合格した場合に、遅い回次を欠席する」など、複数校・複数回次の併願に起因する理由から出願しても入試を欠席(棄権)することがあります。
図6は、各都県の受験率の3年間の推移を表したものです。
図6 受験率の推移(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
※ 応募者から欠席者を差し引いた出席率
※ 各校・各回次の合計から算出
目立った変化としては茨城・栃木県の受験率が上がっています。一方、東京23区・神奈川県・千葉県は前年よりも受験率が下がっています。背景には近年のWEB出願の拡大があります。WEB出願実施校の中には前日の夜でも出願できる学校が多くなってきたため、以前のようにあらかじめ複数の学校に出願し、前日までの合格状況で翌日の受験校を決定するという欠席承知の出願が減り、前日に出願することが増えてきました。
茨城・栃木県は学校数が少なく、学校同士の入試日程の重なりが少ないことから例年高い受験率です。今年の上昇は、特に水戸地区での中学受験の拡大が影響した結果で、中学受験拡大の表れといえるでしょう。一方、東京23区などのように受験率が下がった地域の背景には、コロナ禍対応により今年からWEB出願を実施した学校は難関校や伝統校などの学校が多く、そうした学校は前日の夜まで出願を受け付けるパターンは少なく、あらかじめの出願が比較的多かったことが挙げられます。
図7は、各都県の合格率の3年間の推移を表したものです。
図7 合格率の推移(首都圏1都5県〈群馬除く〉)
※ コース制入試のスライド合格や特待入試での一般合格を除く
※ 実質倍率の逆数で、各校・各回次の合計から算出
東京23区、多摩地区、千葉県のいずれの地域も合格率は上がっています。神奈川県でもわずかに上がっていて、これらは35~40%台前半となっています。実質倍率では2.3~3倍程度になります。埼玉県は55%程度で実質倍率はおよそ1.8倍です。埼玉県は、もともと高かった合格率が毎年上昇しております。今回、突出して高いのは東京都などからの「お試し受験」が多いからでしょう。
茨城・栃木県は前年を下回る合格率45%程度で実質倍率はおよそ2.2倍となります。背景には、茨城県での公立中高一貫校の増設による中学受験の急速な拡大が挙げられます。
また、東京23区、多摩地区、神奈川県、千葉県では一昨年まで合格率が毎年少しずつ下がって難化傾向でしたが、この2年は動きが変わってきました。多摩地区は前年、今年と合格率が上昇、神奈川県の前年や千葉県の今年は合格率が上がっています。コロナ禍の影響により、遅い入試日程だと受験生がどのくらい集まるのか不安になった各校が、早い日程での合格者を増やした結果です。東京23区は前年、今年と小さな動きです。コロナ禍の影響は同じですが、周辺地区と違い、受験生の都心志向があるから大丈夫と判断した学校が多かったことになります。