上級者向け 受験マニアックス
2015年7月号 私立中高一貫校で加速する「グローバル化対応」
課題発見・解決能力と英語力は必須
大学入試から根本改革
もともとグローバル人材育成に対応した教育は産業界からの要請で、特に人文社会科学系の大学の卒業生に向けて始まり、昨年12月、国の教育の方針を決める中教審(中央教育審議会)が2020年の大学入試改革を打ち出して、注目度が一気に高まりました。報告書である「答申」をよく読むと、次の4つがグローバル人材育成教育のポイントになります。
ポイント1 | 大学も高校ももっと卒業生に「実力」をつけるべき。 入るのは難しく出るのが易しいはだめ。 |
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ポイント2 | その「実力」は教科や専攻の知識・技能だけでは不十分。 課題発見・解決能力やリーダーシップ、 協調して課題に臨む力、コミュニケーション能力なども含む。 |
ポイント3 | 英語のコミュニケーション能力を強化しなければならない。 文法中心の学習で社会に出ても戦力にならない。 これは昔からの課題で一向に改善されない。 |
ポイント4 | これらの課題を解決するには入試制度を改めるのが効果的。 |
大学入試を変えるのが目的ではなく、現状を変えるには、大学入試を変えるしかない、というわけです。次に、この方向性にもとづき私立中高一貫校にどんな対応をしているかをみていきましょう。
英語入試、英語コースで対応
順番は前後しますが、ポイント3の英語教育への対応が目立ちます。英語の「読む・聞く・話す・書く」の力を「4技能」といいますが、日本人の弱点は「話す(議論ができる)・書く(エッセイ、厳密には少し違いますが小論文的な文章)」です。もともと私立の中高一貫校ではミッション系や女子校を中心に、英語教育や国際交流に力を入れてきました。独特のテクニックや教材を使用している学校も少なくありません。これらの学校以外でも英語教育の内容転換する学校が目立ってきました。
ただし英語初心者を6年間で「英語で議論し小論文を書く」レベルまでもってくるのは時間的に難しい面もあります。そこで、これまで英語を学んだことのある生徒を対象とするコースや、入学後の習熟度別クラスで対応しようとする学校もあります。今後は英語を入試問題にする学校も増えるでしょう。
課題解決力を伸ばす「探究型学習」
ポイント2に対応するのが「探究型学習」です。簡単に言うと、大学のゼミのような取り組みです。例えば「産業廃棄物を減らすにはどうすればよいか」などの課題を見つけ、調べていく過程で、生徒たちが議論を重ね、対応策を考えます。それらを論文やプレゼンテーションで発表します。私立中高一貫校では「調べ学習」や「自由研究」などと呼ばれてきたものと似ています。
ただ、成果が出るまでに時間がかかるうえ、試験に出題しにくいタイプの課題ですから、学校のなかでは「脇役」として見られがちでした。しかし「こうした学習の積み重ねこそが必要」という考え方に変わりつつあります。探究型学習では、先生が一方通行で教えているのでは力はつきません。生徒たちが自分で調べ、互いに意見を出し合って考える「アクティブラーニング」が必要です。ツールとしてのICT機器をフル活用し、先生はナビゲーター役に徹する。こうしたスタイルの授業を増やす学校が増えています。
ポイント2とポイント3の両方の力が求められる活動の例として「模擬国連」があります。1人あるいはチームが一国の国連大使を任されて、ある議題について担当国の現状、歴史、文化などに照らし合わせて、実際の国連と同ように国と国とで議論・交渉し、合意・決議採択をめざす取り組みで、国際大会はもちろん英語です。模擬国連だけではありませんが、こうした活動を行う私立中高一貫校が増えています。
大学入試の新テストに対応する「時間のゆとり」
ポイント1で、実力を備えた大学生を社会に送り出すために、2種類の新しいテストが検討されています。「高等学校基礎学力テスト」と「大学入学希望者学力評価テスト」です(いずれも仮称)。今までのセンター試験やAO入試などをやめて、この2つのテストや、各大学が実施する個別試験で大学入学を決めようというものです。前者の「基礎学力テスト」は高2から複数回受験できます。この実施時期だけを見ても私立中高一貫校は有利だとわかります。6年間で中高のカリキュラムを効率的に学び、高2までに終わらせることができるからです。今までの推薦入試やAO入試に代わって、このテストの結果と高校での成績で入学できる大学が出てきます。
また、後者の「学力評価テスト」は、センター試験に代わるもので、このテストだけで入学できる大学も出ますが、難関大学ではこの成績と、各大学が独自に実施する個別試験の結果を組み合わせます。やはり複数回実施の予定で、記述式の出題も予定されています。2020年の第1回では、記述式もあまり長くならない見込みで、むしろ記号選択問題が「複数回答あり」や「問題文・資料の着眼点によって解答が変わってくる」といった、多面的な見方が問われる出題が計画されていますので、先ほどの「探究型学習」を経験するのが早いほど有利になるのは間違いありません。
大学入試の話ばかり続けてしまいましたが、グローバル教育は海外の大学に進学できる力をつけていこうという意味もあります。じつはポイント1から3は海外では当たり前のこと。私立中高一貫校は世界標準に向けて早めにかじを切ったといえます。
教育の転換期だから真剣に学校を選ぶ
地元に公立中学校があるのに、「よりよい教育」を求めてチャレンジするのが中学受験です。この10年は「難関大学合格○名」「医学部合格○名」といった大学合格実績が、よりよい教育の成果と思われがちでしたが、これからはグローバル人材育成教育が成功しているかどうかも学校選びの基準になるでしょう。ただし、この流れは急激には起きず、10年ぐらいかけてじょじょに変わっていくものと思われます。その意味では大学合格実績をまったく無視するわけにもいきません。いまは教育の転換期です。今後の方向性をふまえて学校を選び、一生に一度の中学受験を成功させていきましょう。