上級者向け 受験マニアックス
2015年11月号 アクティブ・ラーニングって何だろう?
この記事は2015年度の情報です。最新の情報は2019年9月号をご覧ください。
受け身ではない能動的な学び
近ごろ、「アクティブ・ラーニング」という言葉が聞かれるようになりました。教育に関する国の方向性を審議する文部科学省の中央教育審議会で、目玉とされている新しい教育方法です。最近では言葉がひとり歩きしてしまい、根本の理解が置き去りになったまま語られている感があります。今回はアクティブ・ラーニングとは何か、どんなことを目指す学び方なのかを整理していきます。
アクティブ・ラーニングの定義を簡単に説明するとこうなります。
生徒が一方的に授業を聞いて、覚え、テストを受けるのではなく、自ら進んで取り組み、積極的に授業に参加する学習形式の総称。
ある内容ではグループワークやペアワークをし、ある内容では先生の板書をノートに写すこともします。活動の形にかかわらず、生徒が「受け身ではない」ことにアクティブ・ラーニングのポイントがあるのです。
産業界からの強い要請
アクティブ・ラーニングが注目されるようになったのは、今から10年ほど前、大学生が主体的な学び方を身につけずに社会に出てしてしまうことへの反省がきっかけでした。新卒はマニュアル通りに実行するのは得意でも、マニュアルを人に伝えたり、改善したりする力に欠ける――。そんな弱点を克服し「前向きに学習する力」を大学で身につけさせるべきだ、と産業界から大学に強い要請があったのです。
かつて「総合的な学習の時間」が創設された「ゆとり教育」の時代に、小・中学校ではある程度、脱・受け身の学びが実践されてきました。しかし、高校だけはその流れから取り残されていたのです。大学教育を変えるなら、高校教育から手を付けるべきということでアクティブ・ラーニングが注目されることになったのです。具体的には授業中でのグループワークやペアワーク、「探究学習」のような継続的な学びが効果的だと言われています。
また、現在各校で導入が進んでいるタブレット等のICT機器は、アクティブ・ラーニングを手軽に行う上で有力なツールです。良質のデータベースから素早く必要な情報やデータを入手して、取りまとめて発表したり、生徒個人ごとの解答や解法をクラス全員で共有することがスピーディーに行えるようになってきました。
昔もあったこの議論
アクティブ・ラーニングのような考え方が日本で語られるのは、じつはこれが初めてではありません。戦前の「修身」を否定する形で戦後、新設された「社会科」ですでに実践はあったのです。身の周りにあるものごとを教材とし、活動や体験を重視した指導を取り入れることが推奨されました。まさにアクティブ・ラーニング的と言えるでしょう。ところが、昭和30年代になると「知識や技能が身につかない」と批判を受け、そのアクティブ・ラーニング的な側面は、影をひそめてしまったのです。活動や体験を重視するあまり、知識や技能の習得が不十分でも、生徒たちは学習したつもりになってしまったことが原因の1つでしょう。
でも、それで完全に社会科が受け身型の授業、暗記中心の科目になってしまったかというと、そうでもありません。私立大学の付属校や私立中高一貫校の中には、知識や技能の習得に力を入れた上で、アクティブ・ラーニング的な要素を取り入れ、より深く、自分で考えて自分の意見を表明する取り組みを発展させてきた学校が少なくありません。
私立が先取りしてきたアクティブ・ラーニング
アクティブ・ラーニングの要素がみられる私立学校の特徴は大きくわけて2つあります。
①「探究学習」や「自由研究」、「論文執筆」がある あるテーマについて生徒が自分で研究し、レポートや発表会形式で報告します。中には大学生顔負けの論文作成に取り組む学校もあります。私立高校がスーパーサイエンスハイスクールやスーパーグローバルハイスクールで成果を出せているのは、主体的に学ぶ環境の下地がすでにあるからといえるでしょう。
②日常の授業にアクティブ・ラーニングの要素を取り入れている 授業でよく生徒同士が話し合う、ときには先生と議論することもある、体験活動を重視する、というような「校風」として見られます。先生の力量や担当教科などによりばらつきがある学校も見られますが、先進的な私立中高では、学校全体に広めようと力を入れています。
今後、アクティブ・ラーニングが学習指導要領に明記されることになれば、上記の2つに取り組んでいるかどうかが、よりよい学校選びのポイントになるでしょう。冒頭にも述べましたが、グループワークやペアワークといった形式だけを取り入れるだけではアクティブ・ラーニングとは呼べません。ICT機器を導入しているだけでもアクティブ・ラーニングではありません。「活動だけして知識や技能が身につかない」と批判を浴びた、かつての社会科の二の舞とならないよう、知識や技能もしっかり身につけ、そのうえで主体的に学ぶ力を伸ばそうとしている、そんな考えを持つ学校を見極めることが大切です。