上級者向け 受験マニアックス
2023年8月号 模擬試験の役割を考える

首都圏には、高校受験生を対象にした大手公開模試があり、多くの受験生が利用しています。今回の受験マニアックスでは、模試の受験状況、模試を受ける理由、模試結果の捉え方などをお伝えします。
模試の受験状況
首都圏の高校受験において、一昔前は夏休み明けの9月から10月、11月、12月と大手公開模試を受け、志望校選びや受験勉強に役立てていくことが一般的でした。しかし、最近の中学生は安全志向が強くなり、加えてコロナ禍の影響もあって、模試を積極的に受ける風潮が弱まっています。「一生懸命受験勉強をしたり模試を受けたりしなくても、自分の実力で入れる高校に行ければいい」と考えるケースが増えているようです。
模試を受ける理由
全体の中で自分の立ち位置を確認する
大手公開模試を受ける第一の理由は、自分の実力を確認することです。その模試を受験した多くの受験生たちの中でどのくらいの位置にいるのかを偏差値という指標で知り、志望校選択に役立てたり、その後の受験勉強の方針を立てたりします。偏差値は単なる得点とは異なり、平均点を偏差値50として、そこからどのくらい上や下にいるのかを示すものです。受験生全員が同じように実力を伸ばしていけば偏差値は変わりませんし、他の受験生よりも得点できるようになれば上がり、反対なら下がります。そのため、大手公開模試は1回受けておしまいではなく、9月、10月、11月、12月と続けて受けて、全体の中での立ち位置の変化を確認していくことが大切になります。また、模試で志望校を書くことで、その高校を希望するライバルがどのくらいいて、競争率はどのくらいで、自分はそのうち何番目か、合格率は何パーセントかを知ることができます。
もちろん、中学や塾でも模擬試験や定期テストを行っていて、平均点より上か下かを確認したり、順位が出たりすることもあるでしょう。しかしそれは、小さな集団の中の話です。何万人という受験生が参加する大手公開模試を受けることで、その年の高校受験に挑むたくさんの受験生たちの中での自分の立ち位置を知ることができるのです。
弱点を把握して対策する
大手公開模試を受ける大きな理由の二つ目は、苦手を浮き彫りにすることです。模試を受けると、全教科を総合した偏差値のほか、教科ごとの偏差値も出てきます。これによって、得意な教科、苦手な教科が、自分の感覚だけではなく、明確な結果としてあらわれます。また、成績表をみると、より細かく、どの単元ができていてどの単元ができていないかを把握することができます。
受験本番まではまだ5カ月ほど時間があります。模試で苦手な教科・単元をつかんだら、学校や塾の先生と相談しながら、じっくりと弱点克服のための勉強に力を入れていきましょう。そして年が明けて入試本番が近づいてきたら、得意を伸ばす勉強にシフトしていくとよいでしょう。
入試本番のシミュレーション
大手公開模試が果たすもう一つの大きな役割は、入試本番のシミュレーションです。慣れ親しんだ中学校や塾で、見知った顔に囲まれて行う試験とは異なり、大きな会場に色々な中学校の生徒が集まって受ける模試は、入試本番に近い緊張感があります。慣れない会場で問題に向き合う経験を重ねることで、集中するコツ、時間配分、教科ごとの気持ちの切り替えなどを、つかんでいくことができます。ぜひ、9月以降は毎月模試を受けて、緊張感の中で試験を受ける経験を重ねていってください。
模試の種類
首都圏で行われている主な大手公開模試は、以下の通りです。
東京都立高校対策
- Vもぎ:都立そっくりもぎ、都立自校作成対策もぎ
- Wもぎ:都立もぎ/都立そっくりテスト、都立自校作成対策もぎ
神奈川県立高校対策
- 神奈川全県模試
- Wもぎ:神奈川県入試そっくりもぎ
千葉県立高校対策
- Vもぎ:県立そっくりもぎ
- 総進Sもぎ
埼玉県立高校対策
- 北辰テスト
私立・国立高校対策
- Vもぎ:私立Vもぎ
- Wもぎ:私立対策もぎ
各模試は、WEBサイトや書店から申し込むことができます。また、塾でまとめて申し込みを行うケースもあります。偏差値の基準は模試ごとに異なっていますので、月ごとに模試の種類を変えるのではなく、一つの種類の模試に絞って、毎月受け続けていくことが大切です。
なお、埼玉県では「中学校長会主催公的テスト(市一斉テスト)」というものを、9月から11月にかけて数回行っています。これは、通っている中学校で模試を受けて、その中学校の地域(さいたま市、南部地区、川越市、所沢市等)ごとに偏差値や順位を出すものです。弱点克服につながる有意義なテストですが、学校で実施することから、いつものクラスという慣れた環境で受けるもので、前述の「入試本番のシミュレーション」の特徴は、あまり期待できません。地域によっては受験生の母数が小さいこともありますので、市一斉テストだけでなく、大手公開模試もあわせて受けたいものです。
「行ける高校探し」ではなく「行きたい高校探し」をしよう
筆者は高校受験の合同相談会で中立の立場の相談員もしていますが、最近の中学生と話していると、高校受験が「行きたい高校探し」ではなく「行ける高校探し」の場になっていると感じます。まだ入試本番までたっぷり時間がある夏の段階でも、「この成績で行ける高校を教えてください」などと聞かれるのです。こちらが「本当はどこに行きたいですか」「高校でどんなことがしたいですか」と尋ねても、「うーん、別に」といった具合です。こうなると、「志望校に合格できるように学力を伸ばす」「自分の弱点を克服する」といった気持ちはあまり生まれません。全体の中での自分の立ち位置を確認する必要性も少なくなりますから、「模試なんて受けなくてもいい」と考えるようになるでしょう。実際、以前と比べると、毎月しっかり模試を受験して入試に備えようとする生徒も減っているようです。また、塾で申し込んだり周りに流されて模試を受けたとしても、志望校の合格率が低ければすぐにあきらめ、最初に滑り止めと考えていた高校を第一志望に変えたりするケースもよく見かけます。
本来、高校受験とは、まず行きたい高校を探し、そこに合格できる学力を身につけるため、一生懸命受験勉強をしたり模試を受けたりして進んでいくものです。もちろん中には目標に向かって頑張っている生徒もいますが、こうした生徒は少しずつ減ってきて、全体として「無理はせず、行ける学校に進学すればいい」という考えが広まっています。
皆さんにぜひお伝えしたいのは、受験のときにあまりしっかり学校を調べたり、学校研究をしないで、「まぁ、自分の成績ならこのくらいだ」といった、いわゆる受験勉強をあまりしなくてもよい学校選びで入学校を決めてしまい、入学後しばらくして、自分の学校と友人の学校を比べて後悔をするケースがあるということです。一生懸命努力した結果、残念な結果になったのならば、自分の努力の足りなかった点を振り返ることで、大学受験など、次のステップで同じことを繰り返さない、という前向きな姿勢になることがでますが、「あのときもっと努力しておけばよかった」という後悔は辛く、自己肯定感も下がってしまいます。
受験本番まではまだ時間があります。模試を活用しながら頑張って勉強を続ければ、入試直前まで実力は伸び、手が届かないと思った志望校に合格できる可能性も多々あります。まずしっかり「行きたい高校」を探して、自分の可能性を信じて進んでいっていただければと思います。
保護者の皆様へ
高校は義務教育ではありませんが、いろいろな理由で高校に進学しない生徒が若干はいるものの、中学を卒業すると、ほぼ全員がどこかの高校に進学するようになっています。そのため、「えり好みしなければ、どこかの高校に入れる」が、現在の高校受験です。こうした状況をどのように考えるかや、受験勉強の意味、価値については、いろいろな考え方があると思います。しかし、高校には学校によっていろいろな特長があり、進学した高校によって学校生活も違います。その中で進学先を選ぶことは、多くの中学生にとって「初めての選択の機会」です。この「選択の機会」を有効に活用することは、お子さん自身にとって、とても有意義なことのはずです。どうか、現状だけを見て高校を考えるのではなく、積極的に「選択の機会」を活用するよう、お子さんをサポートしていただければと思います。