上級者向け 受験マニアックス
2021年5月号 新たな学習指導要領で変わる学校教育
中学校では、2021年4月から新学習指導要領による授業が本格的にスタートしました。
今回は、学習指導要領が変わることで学校教育にどのような影響があるのか、新学習指導要領のねらいについて考えます。
全体的な特徴
今回の新学習指導要領改訂において最も重要視されているのは、生徒が「何を学ぶか」ではなく「何ができるようになるか」ということです。知識や技能を身につけることは大前提として、その知識・技能を、社会のさまざまな場所で、どのように活用するかという「活用力を身につける」ことに重点が置かれています。そして、未知の事象や課題に対して、身につけたことを組み合わせて、乗り越える力。つまり、思考力・判断力・表現力を培うことが、新たな学習指導要領のひとつの柱となっています。
「知識や技能を活用すること」、「思考力・判断力・表現力」に加え、三つめの柱として挙げられるのが、「学びを社会に還元していこうとする力」です。保護者のなかには、学習は学校内だけで完結するものと考えている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、身につけた知識・技能を社会に還元するためには、学校という閉じられた世界から飛び出して、現実を知る必要があります。ネットを利用すれば多くの情報を得ることができますが、実際に現場で活動している人に話を聞かないとわからないことも少なくありません。積極的に地域や社会の教育資源を活用し、「社会に開かれた教育課程」を目指すことが、新学習指導要領の大きな特色といえるでしょう。
各教科の特徴
各教科とも内容が増えたため、教科書が厚くなりました。授業の時間数も少し増えているものの、各教科の身につける力をすべて授業で取り組もうとすると、少し難しいこともあるかもしれません。知識内容や計算力などの技能面は授業でしっかり学ぶだけでなく、英単語など反復練習が必要な内容は、宿題などでしっかり身につける必要性が、今まで以上に高くなります。また、英語の授業で取り上げられた、海外の人々の生活の様子が、社会科の地理で詳しく説明されたり、国語の説明的な文章のテーマが、理科の生物と直結する、といったこともありそうです。こうした、教科の枠を超えて、生徒の力を高めていく工夫を「カリキュラム・マネジメント」と言います。「カリキュラム・マネジメント」は、単に各教科の内容のマネジメントだけでなく、総合的な学習の時間や学校行事など、学校生活のあらゆる部分で、計画的に進められていくものです。今回の学習指導要領は、こうした新しい考え方に基づいて、学びを進めていくようになっています。
以下より、主要5教科の改訂のポイントを紹介します。
英語
「主体的な英語でのコミュニケーション」が英語科の大きな方針となっています。日常的な会話だけではなく、社会的な話題についても英語によって情報を伝えたり、理解したりすることが必要です。まずは自分の関心がある分野について一定程度、英語で伝えられるレベルを目指していきましょう。
また、今まで中学校の3年間で習う英単語数は約1200語でしたが、今回の改訂によって、小学校でも新たに英語が教科化されたため、義務教育で学習する英単語数が大幅に増えることになりました。小学校の段階で学ぶ600~700程度の単語に加えて、中学校では1600~1800程度の単語を学習します。小中あわせると2500語となり、これまでの約2倍の量を学習することになります。中学1年生の前半では、小学校での英語で未消化がないか、復習する機会を設けていますが、5教科の中では、一番ハードになりそうです。
さらに将来的には、英語の授業は、すべて英語で行う「オールイングリッシュ」の授業をめざしています。これは日本の英語教育の大きな転換です。スムーズな実現に向けては、まだ課題も少なからずあると思いますが、受験マニアックスの読者の皆さんには、段階的に馴染んでいけるような努力をしていただきたいと思います。語彙や文法を重視することはもちろん大切ですが、細かい表現にこだわりすぎずに、「伝える」ことを重視した英語も身につけてほしいものです。
国語
国語科の方針の一つとして、「日本の言語文化を活かした上で、国語力の向上を図る態度を養う」ということが挙げられています。古典をはじめとする日本の伝統的な言語文化をベースにして、読み取りでの理解や文章による表現など「言語技術」の育成に重点が置かれます。そのなかでも、大切なのは「説明的文章を読む力」です。説明的文章とは、マニュアルや解説などのことです。こうした説明的文章には表やグラフ、図などがつきものです。国語っぽくないと感じるかもしれませんが、文章と併せて表などを読み解くことで、正しく理解する力の育成を求めています。
もう一つの方針は、英語同様に「コミュニケーション能力」の向上です。言葉を適切に使って表現し、相手に理解してもらうという社会生活で必要不可欠な能力を養います。またコミュニケーションには「聴く」力も非常に大切です。高校入試では一部の学校で日本語のリスニングも出題されています。しっかりと話を聞いて、理解すること、必要なら行動に移すことが求められ、その力を養います。
今回の改訂により、国語は内容が非常に充実しました。日常生活や他教科の学習と組み合わせながら、身につけた力を活用していくことが必要です。
数学
日常生活において、小学校の5年生程度の算数(数学)の知識があれば不自由することはありません。そうした状況のなか、数学科では、数学的・論理的な思考を土台に、数学を日常生活に生かしていくことが大きな目標となっています。言い換えれば、さまざまな事柄を数学的な観点で捉えて、課題点を見出し、自主的、協働的に問題解決を進める力を育成することです。
特に比重が大きくなったのは、統計分野です。保護者の方が今まで習っていないような、店舗ごとの売り上げのバラつき把握等に活用する箱ひげ図などを新たに学ぶことになります。また、今までと違い、コンピューターで処理した結果を使って社会課題の解決につなげるという「データの活用」にウエイトが置かれるようになっています。
理科
物理・化学・生物・地学の4つの分野であることは変わりません。理科の方針としては、観察や実験を通して、科学的に探究していく態度の育成が求められています。
学年ごとのステップとして、中1段階ではさまざまな世の中の事柄、自然界の現象について進んで関わり、そこから課題を見出します。中2段階では、見出した課題の解決方法を立案。中3段階で自分たちの行った探究が良かったか、問題がないかの検証。このように段階的に科学的な探究を行っていく姿勢を身につけることが大きな柱となっています。
理科の指導要領では「科学的に探究する」という言葉が多く出てきます。理科で学習した規則性や原理などが日常生活でどのように活用されているかに注目し、科学技術と自分たちの生活の関わりについて、「自分のこと」として捉えることを求めています。
社会
社会科は地理・歴史・公民の3つの分野に分かれています。社会科全体の大きな方針となっているのは「社会的な見方・考え方を働かせて、思考力・判断力・表現力を養成していく」ことです。まず各地の人々のくらしの現状を知る(地理)、先人たちの工夫や失敗を知る(歴史)、社会の仕組みや個人の責任を知る(公民)ことが求められます。よく「社会は暗記だ」と言われますが、ここまでの「知る」で終わるから、「暗記」になります。今回の学習指導要領ではその先として、社会課題の解決に向けて、その「知ったこと」を「問題解決学習」として活用することの充実も求めています。実際に調査したデータや資料をレポートとしてまとめて、プレゼンテーションを行うことも大切です。
そのほかにも、社会科では重要な方針として「相手の立場を踏まえて、根拠を明確に示した議論する力の養成」と「社会参加の拡充」が挙げられています。「社会参加」の分野では、以前から安全教育や防災教育を行っており、今回の改訂により、今まで以上に自分と社会との関わりを学んでいくことになります。また、抵抗感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、選挙権年齢の引き下げによって18歳から参加できる政治について、高校に入る前の中学段階で一定程度学ぶことが求められています。