上級者向け 受験マニアックス
2021年12月号 併願作戦(公立高校の普通科を第一希望とする場合)
今回の受験マニアックスのテーマは、公立高校の普通科を第一希望とする場合の併願校選びについてです。
2019年度から2021年度の直近3年間の入試でどのような併願校が選ばれていたかと、そこから見えてきた首都圏高校受験生の動向を紹介します。
- 本記事は、「統一模試」(㈱エデュケーショナルネットワークが提供している塾内模試)の結果をもとに、合否追跡調査から独自に集計したデータに基づいています。
全体的な傾向
昨年度同様、コロナ禍による情報不足のため、現在の成績で安心して受験できそうな私立高校に早々に合格を決めてしまおうとする動きが強くなっているようです。もちろん公立・私立のトップレベル校を目指す挑戦志向の強い生徒は一定数いますが、目立った動きではありません。
来年度は1都3県ともに、例年よりも生徒数が増加する見込みとなっています。各都県の公立高校では募集定員を拡大する一方、私立高校では募集定員を増やす動きはありません。募集定員については、私立高校は公立高校とのバランスを調整する役割を担っている部分もあるため、特にボリュームゾーンの私立高校に関しては、受験生の増加により難易度が目立って上がることはなさそうです。
2022年度の入試に向けて
東京都、神奈川県、千葉県では12月15日から入試相談が、公立中学校の先生と私立高校との間でスタートします。入試相談の結果、「受験校を考え直したらどうか」といった提案を担当の先生から受けた場合でも、もしその私立高校が第一希望校であれば、諦めずに最後まで挑戦してほしいと思います。実力は入試直前まで上がるので、合格を目指して頑張ることをおすすめします。
一方、第一希望校ではなく抑えとしての併願校ならば、例えば希望のコースより一段レベルを下げたコースを選ぶなど、別の方法でその学校に挑戦する方法を検討していただきたいと思います。コース制の場合、進級時にコース変更の機会があるケースも多いため、入試段階で希望が叶わなかったとしても、まだチャンスは残っています。
埼玉県では、通知書や北辰テストの成績を持参した受験生が、直に希望する私立高校と相談を行うケースが多いです。相談の結果から「当日の点数次第です」といった内容を伝えられた場合は、本来の基準に少し達していないことを意味します。ここからは前述したとおり、第一希望ならば最後まで挑戦してほしいと思います。また、併願の抑えの場合、埼玉県はコース制の学校も多いので、入学後もコース変更の可能性もあります。しっかりと安全を図ったコース選択を検討するとよいでしょう。
また、公立高校を第一希望とする場合は、しっかりと学習計画を練っていただきたいと思います。準備時間は短いかもしれませんが、特に私立高校の入試が終わってからは、理科や社会などの公立高校入試本番を見据えた科目をしっかりと学習する時間を確保して、入試に臨んでほしいと思います。
公立トップレベル校に向けた対策
東京都の進学指導重点校や進学重視型単位制の独自問題校、埼玉県の学校選択問題実施校、千葉県の「思考力を問う問題」を出題する県立千葉など公立のトップレベル校を目指す場合は、ワンランク上のレベルの私立高校の過去問演習を行うとよいでしょう。
神奈川県では、6教科目と位置づけることもできる「自己表現」の問題に重点が置かれています。教科横断型の知識を問われることが特徴となっています。例えば英語の場合では長文問題で取り上げられる内容が社会問題だったり、数学の場合では理科分野に重なる問題の出題などです。以前に比べると、マークシートで解答ができる問題も増えています。入試本番前の対策としては、まずは塾の先生と相談して、教科横断型の問題のトレーニングを行っておくとよいでしょう。
東京都
都立高校には、7つの進学指導重点校があります。また、学年制普通科と単位制普通科の制度の違いもあります。ここでは、国公立大学や難関私大進学を目標とする「1.進学指導重点校・単位制の最上位校」と、「2.公立普通科上位校」に分けて、併願校選びの傾向を紹介します。
1.進学指導重点校・単位制の最上位校
進学指導重点校は、日比谷、戸山、青山、西、八王子東、立川、国立の7校です。
この中で青山は、以前はおしゃれな雰囲気を高校選びのポイントにしていて、併願校に青山学院を選ぶ受験生が多くいました。しかし、この数年で、中央大学系などその他の大学附属校を選ぶケースが多くなってきています。受験生の併願校選びの視点が、日比谷や戸山と近くなってきたようです。
八王子東は、地元の受験生が多数派という地域に根ざした学校で、併願校には早慶の附属校があまり出てきません。併願校1位の帝京大学と2位の八王子学園は、同じ八王子市の高校です。3位の拓殖大第一、4位の錦城は同じ多摩地区の学校です。
同様に、立川の併願校には同じ多摩地区の錦城、中央大附属、帝京大学が、国立の併願校には早稲田本庄、早稲田実業が並びます。なお、立川には2022年度から創造理数科が設置されます。一般入試は普通科と併願ができますから(受験すると創造理数科・普通科それぞれで合格判定が行われる)、併願受験生は多くなるでしょう。
単位制の新宿は大変人気がある高校です。昨年は上位5校中2校が早稲田大学系でしたが、今回は早慶の附属校との併願はあまり多くなく、GMARCHの附属校と私立の進学校(最難関レベルは除く)が併願校の中心となりました。
また、同じく単位制の国分寺も多摩地区で非常に人気がある高校ですが、地域に根ざした学校で、同じ多摩地区の錦城、拓殖大第一などの進学校が併願校に選ばれることが多くなっています。
2.公立普通科上位校
地域や学力レベルによって、さまざまな併願校が選ばれています。
おしゃれな雰囲気で人気が高い三田、小山台、駒場には、遠方・多方面から通う生徒がたくさんいます。併願校も、必ずしも地元の学校を選ぶとは限らず、東急、小田急、京王電鉄沿線から通学に便利な学校が選ばれる傾向が見られます。
その他の高校で併願校に選ばれやすい高校には、ある特徴があります。“校風や教育方針があまり独特ではなく、複数のコースを持っていて、募集定員が多い"ことです。北園の併願校として選ばれている淑徳巣鴨などはまさにそのパターンです。
神奈川県
神奈川県の公立高校で最難関校として際立った存在なのは、横浜翠嵐と湘南の2校です。ここでは、「1.横浜翠嵐と湘南」、「2.旧学区トップレベル校」、「3.公立普通科上位校」に分けて、併願校選びの傾向を紹介します。
1.横浜翠嵐と湘南
神奈川県の公立高校の中で、突出した学力レベルである両校の併願校には、早慶の附属校、国立の東京学芸大附属などの名前が見られます。神奈川県の公立高校としては非常にめずらしいケースです。両校に挑む受験生は、徹底的に最難関進学校を志望する傾向が強いといえるでしょう。
2.旧学区トップレベル校
このグループの高校は、川和、希望ケ丘、横浜平沼、光陵、柏陽、多摩、相模原、鎌倉、茅ケ崎北陵の9校です。これらの高校の併願校には、大学附属校や地元で定評がある進学校が選ばれる傾向が見られます。
3.公立普通科上位校
東京都と同様に、“校風や教育方針があまり独特ではなく、複数のコースを持っていて、募集定員が多い"高校が選ばれやすい傾向があります。東急・小田急沿線の高校の併願校には都内の高校の名前もよく見られますが、これは互いに通いやすいことが理由でしょう。一方で横浜市内のJRや京急、相鉄などの沿線の高校の併願校は、横浜市内や横浜周辺の高校がほとんどになっています。
千葉県
千葉県の公立高校の中で、県立千葉、県立船橋、県立東葛飾の3校は御三家と呼ばれていて、難度が突出しています。ここでは、「1.御三家」と「2.公立普通科上位校」に分けて、併願校の傾向を紹介します。
1.御三家(県立千葉、県立船橋、県立東葛飾)
千葉県の公立高校の中でトップレベルの3校です。併願校には、市川、昭和学院秀英、日大習志野、専修大松戸など、県内上位の私立高校が選ばれています。最難関校の県立千葉では渋谷教育幕張も選ばれますが、県立船橋、県立東葛飾では渋谷教育幕張は少し敬遠されているようです。
2.公立普通科上位校
東京都、神奈川県と同様に、"校風や教育方針があまり独特ではなく、複数のコースを持っていて、募集定員が多い"高校が選ばれやすい傾向があります。
地域別に見ると、千葉市内では千葉敬愛、敬愛学園、日大習志野が、松戸や船橋地区では東京学館浦安、東葉、昭和学院や八千代松陰が、常磐線沿線では二松学舎柏、流通経済大柏がよく選ばれています。佐倉の方では地元の高校を併願することが多くなっていて、八千代松陰の名前が多く見られます。
埼玉県
埼玉県は東京都、神奈川県、千葉県と比べて学力上位生の公立志向が強い地域です。公立の男子校・女子校があるのも大きな特徴です。
公立高校の中で難度が突出しているのは、男子校の県立浦和と女子校の浦和第一女子です。ここでは、「1.県立浦和と浦和第一女子」、「2.公立トップレベル校」、「3.公立普通科上位校」に分けて、併願校の傾向を紹介します。
1.県立浦和と浦和第一女子
両校の併願校には、栄東や淑徳与野といった、地域のトップレベル校ばかりでなく、早慶の附属校も名を連ねています。
2.公立トップレベル校
このグループの高校は、春日部、川越、川越女子、市立浦和、大宮、蕨、所沢北、越谷北の8校です。併願校には栄東、開智、春日部共栄、大宮開成などの県内の進学校が多く選ばれます。附属校の早大本庄も見られます。通学の便もあり、東京都内に出やすい学校は別として、県内の進学校が多く選ばれます。
地域別に見ると、南部地区では栄東や大宮開成、西部地区では川越東や星野が、東部地区では春日部共栄や獨協埼玉が目立っています。
3.公立普通科上位校
東京都、神奈川県、千葉県と同様に、"校風や教育方針があまり独特ではなく、複数のコースを持っていて、募集定員が多い"高校が選ばれやすい傾向があります。
また、埼玉県全体の傾向として、併願校選びにおいても南部地区の高校の人気が高くなっています。南部地区では、地域内の高校がよく併願校に選ばれています。代表的な私立併願校には、大宮開成、武南、浦和学院、浦和実業、埼玉栄、栄北、国際学院などがありますが、受験生は自分の学力に応じた高校とコースを選んでいます。併願校はパターン化していて、ここに挙げた私立がよく出てきます。大宮以北でも大宮以南の学校の人気が高いのですが、正智深谷などを選ぶ動きも見られます。
草加、越谷、春日部など東武スカイツリーライン沿線の東部地区でも、第一希望の公立高校選びで南部地区の高校を選択することが増えてきました。東部地区内の私立併願校としては、叡明、獨協埼玉、春日部共栄、昌平、花咲徳栄などがありますが、第一希望校を東部地区の公立高校に選んだ受験生も、併願校は南部地区から選ぶ動きが見られ、大宮開成や浦和学院、浦和実業、武南などが選ばれています。
西武池袋線、東武東上線、西武新宿線沿線を中心とする西部地区でも、東部地区と同様の傾向が見られます。西部地区内の私立併願校には、西武文理、狭山ヶ丘、聖望学園、山村学園、山村国際などがありますが、これらだけでなく南部地区の浦和学院や浦和実業などを併願するケースも見られます。
北部地区は少し情勢が異なります。南部地区の大宮近辺までは通学時間がかかるからでしょう。
地域の私立併願校としては、高崎線方面では本庄・深谷地区の本庄東、本庄第一、東京成徳大深谷、正智深谷などが、東上線方面では東京農大第三、武蔵越生、大妻嵐山、埼玉平成が選ばれています。東武伊勢崎線・日光線方面は私立高校が少ないこともあって、南下して昌平や春日部共栄を選ぶ受験生が多くなっています。
2022年度の私立高校入試の出題範囲
2021年度の入試ではコロナウイルス感染症拡大の影響により、公立高校に準拠して各私立高校においても出題範囲を限定するなどの措置を行う学校がありました。2022年度入試では各学校おおむね通常通りに入試が実施される予定です。