上級者向け 受験マニアックス
2019年10月号 2020年度首都圏高校入試の変更点(第2弾:2019年7月〜9月発表分)
この記事は2019年度の情報です。最新の情報は2023年7月号および2023年11月号をご覧ください。
受験マニアックスの7月号では、2019年4月〜6月に発表された首都圏高校入試の変更点をご紹介しました。今号では、7月以降に発表された変更点をご紹介します。ぜひ、7月号とあわせてご確認ください。私立・公立各校の変更点の一覧については、末尾添付のPDFをご参照ください。
なお、現段階で全ての学校の入試の変更点が発表されているわけではありませんので、ご了承ください。
公立高校の入試変更点
東京都
【募集停止】
2020年度は荒川商業と五日市の商業科が募集を停止します。荒川商業は2022年度にチャレンジスクールに転換する予定です。五日市は普通科のことばと情報コースのみの募集になります。
【男女別定員緩和】
学年生普通科(男女別定員の普通科)各校のうち、東、深川、鷺宮、大山、葛飾野、南葛飾、拝島、武蔵村山、羽村が2020年度は男女別定員緩和を実施します。例年、前の年の男女間の人気の違い、倍率や合格ラインの差に基づいて、翌年は実施することにしたり、実施を取りやめる学校が出ていますが、2020年度に向けては実施を取りやめる学校はなく、実施する学校は例年以上の学校数です。中堅校では男女間の難度調整の意味が強く、中堅までの各校では、全体的な都立高校人気の鎮静化に伴って倍率のバランス調整の意味が強いようです。
【専門学科の一部推薦枠拡大】
2020年度の推薦入試では、科学技術と工業系各校(蔵前工業、墨田工業、総合工科、杉並工業、荒川工業、北豊島工業、足立工業、葛西工業、府中工業、町田工業、多摩工業、田無工業、六郷工科、中野工業〈エンカレッジ〉、練馬工業〈エンカレッジ〉)の定員が、30%から40%に引き上げられます。「工業系に進みたい」という明確な志望動機を持つ受験生をしっかり受け入れたいとの意向の表れでしょう。
【八丈高校が推薦入試を新設】
従来、島嶼部の都立高校は推薦入試を行ってきませんでした。これは、地域の学生数が少なく、推薦枠を設けなくても受験生が全員合格できる状況だったためです。しかし2020年度入試では、八丈高校が普通科・併合科ともに推薦入試を新設します。23区や多摩地区から「離島留学」の受験生を迎えたい意向だと考えられます。
近年、総務省や文部科学省が「地域みらい留学」に取り組んでいます。これは、過疎地の高校を維持する策の一つとして、地元だけでなく、他の都道府県からも入学生を迎える取り組みです。入学生は、寮生活や下宿生活を行うことになります。「地域みらい留学」に指定されている学校は全国に52校あり、募集活動の中心は東京などの都市部で生徒数が多いところです。
こうした動きに対して、東京都内でも離島留学ができるとして対応したのが、今回の八丈高校の推薦入試新設でしょう。
神奈川県
【高校再編】
横須賀明光(国際科はすでに募集停止、福祉科のみ)とクリエイティブスクールの大楠を、横須賀明光の校地で統合します。校名は「横須賀南高校」が予定されています。平塚商業と平塚農業は平塚農業の校地で統合します。校名は「平塚農商高校」の予定です。この他、氷取沢は名目上、すでに募集を停止した磯子と統合される関係で校名を「横浜氷取沢高校」に、弥栄もすでに募集を停止した相模原青陵と名目上統合されるため、校名を「相模原弥栄高校」に改称する予定です。 ※新校名は県条例の改正、施行をもって正式になります。
【学力向上進学重点校のエントリー校が自己表現を実施】
神奈川県では、横浜翠嵐、柏陽、湘南、厚木の4校を学力向上進学重点校に本指定しており、川和、多摩、光陵、横浜平沼、希望ヶ丘、横浜緑ヶ丘、横須賀、鎌倉、茅ヶ崎北陵、平塚江南、小田原、大和、相模原の13校が学力向上進学重点校のエントリー校となっています。県教育委員会では、大学入試改革を踏まえた進学実績向上に、これらの学校が先導的な役割を果たすことを期待しており、「5教科の成績だけでなく思考力、判断力、表現力に長けた生徒を選抜する」ことを目的に、特色検査で自己表現を実施することとなりました。県教育委員会が共通問題(これらの全校で実施)と共通選択問題(県教育委員会が用意した問題の中から各校が選んで実施)を用意しています。
2019年度は、本指定の横浜翠嵐、柏陽、湘南、厚木と、エントリー校から希望ヶ丘、横須賀、平塚江南の3校が共通問題と共通選択問題の自己表現を実施、横浜緑ヶ丘は従来からの自校作成の自己表現を実施しました。
2020年度は、残る9つのエントリー校も全て、共通問題・共通選択問題の自己表現を実施します。共通選択問題の中でどれを実施するかは、学校によって異なります。光陵と小田原は自己表現を一度やめていましたが、復活する形になります。独自で用意していた横浜緑ヶ丘は、県作成のものに乗り換えることになります。
つまり、学力向上進学重点校4校とエントリー校13校は全て、5教科プラス自己表現の選抜となるわけです。
なお、横浜国際、神奈川総合・国際文化と市立サイエンスフロンティアは、従来通り独自の自己表現を実施します。
【傾斜配点の縮小化】
神奈川県では、特定の科目の点数を重視して配点を割り増しにしたり、内申点が良い方の科目の点数だけを採用したりする「重点配点(傾斜配点)」というものが行われています。2020年度の入試では、この重点配点(傾斜配点)を控え、縮小している傾向がやや見られます。
千葉県
千葉県は2021年度に前後期一本化という大改革を控えており、2020年度の変更点は軽微なものとなっています。大改革前夜の静けさ、といったところでしょうか。
目立つ変更としては、船橋の理数科が後期選抜を廃止します。同科は大人気で高倍率が続いており、選抜を1回にして倍率を緩和できれば、といった意向かと思われます。
埼玉県
【学科の改編】
2020年度は熊谷商業高校が商業科と情報処理科を統合、総合ビジネス科に改編されます。
【三次選抜の縮小・廃止傾向】
埼玉県では、一次・二次選抜で合格が決まらなかった受験生を対象に、いくつかの学校で三次選抜を行っています。これは、高校選択に苦労するような生徒の受け皿になるべく設けられたもので、学力や調査書を見るのではなく、「自宅に近い」など簡単な条件で入学を許可するものです。しかし効果は期待通りではないようで、2020年度入試では三次選抜の縮小・廃止を選択する学校が多く見受けられます。
【調査書の比率】
調査書の評価として、中1と中2のウエイトを少し下げ、相対的に中3のウエイトを上げる学校がいくつか出てきています。こういった学校は、「中1、中2の成績や活動が今一つでも、中3で頑張ったら認めます」「過去のことは問わないので、今の姿勢やこれからの可能性を重視します」といった姿勢を打ち出してきているのではないでしょうか。
また、調査書の「その他」の項目のウエイトを下げ、反対に「特別活動」のウエイトを上げているケースもいくつか見られます。「その他」とは学外の活動のことで、地域の活動、学校を通さずに参加したコンクールの結果などを指します。「特別活動」とは学内の活動のことで、文化祭・体育祭の実行委員をやったことや、学校を通したコンクールや大会の成績などを指します。こういった変更をする学校側の意図としては、「学外の活動を正当に評価することが難しい」ということがあるのでしょう。
私立高校の入試変更点
【高校一般募集再開】
海外帰国生しか募集していなかった聖学院が、高校の一般生募集を再開します。一般入試のみで2月11日に英語・思考力・自己表現・面接の入試を行います。ただ、海外留学希望者が前提で、募集定員もわずか5名ですから、入試情勢への影響はほとんどないと思われます。
【コースの改編や改称】
2019年7月〜9月に発表された、主なコース改編・改称をご紹介します。
- 中村:2019年度は高校募集が国際科のみだったが、普通科でも高校募集を開始。特別進学コースと総合進学コースの両方で募集。
- 鎌倉女子大:特進、進学の2コース制から、国際教養コースとプログレスコースの2コース制に変更。国際教養はグローバル教育に力を入れるコースとなる。
- 潤徳女子 特別進学コースを特進コース、総合進学コースを進学コース、美術デザインコースを美術コースに改称。
- 村田女子:スーパーライセンスとビジネスライセンスという商業科のコースを募集停止。代わりに特進コースを進学コースとして、幅広い学力層の受け皿を残す。
- 武蔵野大附属千代田:医学部を目指すメディカルインテリジェンスコースを新設。リベラルアーツコースとメディカルサイエンスコース(看護科や放射線技師などコ・メディカルの専門学校を目指すコース)を女子のみから共学化する。
- 狭山ヶ丘:最難関国立進学コースと難関国立・私立進学コースを統合してⅠ類難関国立進学コースに、特別進学コースをⅡ類特別進学コースに、Ⅲ類総合進学コースを新設、総合進学コースをⅣ類スポーツ進学コースに改編。昨年度レベルアップを図ったコース改編を行ったが、今年度は元に戻す方向性。
- 蒲田女子:キャリアコース、幼児教育コースの2コース制だったが、難関大学の合格を目指す特別進学コースを新設。
- 日体大荏原:総合コースを進学コースに改称。
- 目黒学院:男子部体育コースを男子部スポーツサイエンスコースに改称。
- 市原中央:英語コースをグローバルリーダーコースに改称。
- 二松学舎大柏:スーパー特進選抜コースをスーパー特進コースに、特進選抜コースを特進コースに改称。
【千葉県私立 後期廃止の動き】
千葉県では公立高校が2021年度から前期・後期制を廃止すると発表していますが、その流れが私立にも波及してきている模様です。
これまで千葉県私立の上位校は前期・後期に分けた入試を設定するのが一般的でしたが、上位校の間で後期を廃止する動きが広がってきました。渋谷幕張はすでに後期を廃止していますが、2020年度は市川や昭和学院秀英が後期を廃止します。前期で決めないといけなくなることから、トップレベル層の受験生たちにとっては、選択の幅が狭くなります。
この背景には、最後の最後まで志望校合格を目指してトライを続ける挑戦志向の高い受験生が減ってきていること、また、中高一貫校で高校からの入学生と在来の生徒の間の学力や姿勢の差が問題になってきていることがあると考えられます。
【5教科入試の広がり】
私立高校の入試科目の傾向を見ると、北関東は5教科とするところが多く、南関東は3教科とするところが多くなっています。北関東は公立人気が高く、公立を第一志望とした時の併願先として私立を受けることが多いので、公立に寄せた入試内容となっているのです。一方の南関東は私立を第一志望とする受験生も多く、3教科型が主体でした。しかし近年、千葉や埼玉で5教科型を取り入れる私立高校が増えてきました。そして2020年度は、東京でも5教科型にする私立高校がちらほらと現れ始めています。これは、「公立併願の受験生をなんとか集めたい」という意向の表れでしょう。また、「5教科の対策をしている生徒の方が総合力に長けているから」「英国数が苦手でも理社が得意な生徒の受け皿になりたい」などと考えて、5教科入試を取り入れる学校もある模様です。
【駒込高校の入試内容変更】
駒込高校は2020年度、下記のような入試科目の大幅な変更をします。
- 国際教養・推薦:英国or 英数→英社
- 国際教養・併願優遇:国英社→英社
- 国際教養・一般:国英社→英社or英+ポートフォリオ
- 理系先進・推薦:英国or英数→数理
- 理系先進・併願優遇:英数理→数理
- 理系先進・一般:英数理→数理or数+ポートフォリオ
国際教養コースでは国語を入試科目から外し、理系先進コースでは、英語を入試科目から外しています。科目を思い切って絞ったり、ポートフォリオを取り入れるのが特徴的です。
筆者自身は非常に面白い取り組みだと感じています。こういった個性的な変更によって従来の受験生層が同校を避けたり、新しい受験生層が興味を持つ可能性もあるでしょう。2020年度の同校の入試がどうなるか、注目したいところです。
2020年度首都圏高校入試の変更点一覧
受験マニアックス7月号でご紹介した内容と7月以降に発表された内容を合わせた、2020年度首都圏高校入試の変更点一覧をご紹介します。