上級者向け 受験マニアックス
2018年6月号 「学ぶことの喜び」を考える
「勉強」というと、「つらい」「周りから強いられる」「仕方なく取り組む」というイメージを持っている方も多いことでしょう。ですが、本来学びの機会が与えられるのはで「喜ばしいこと」であり、知識が広がって自分の能力が高まっていくことは楽しいものです。中学校の中間テストが終わった今の時期、勉強をプラスに捉える姿勢を身につけたいものです。
中学生の皆さんへ
中学生の皆さんは、中間テストが終わったころかと思います。一息つくとともに、結果に一喜一憂していることでしょう。1年生にとっては初めての定期テスト。少し緊張したかもしれません。
皆さんは、定期テストの前にはテスト対策の勉強に取り組み、テスト後には出来なかった内容を中心に学校や塾で復習をすることと思います。ですが、それ以外にぜひやっていただきたい大切なことがあります。それは「出来るようになったことの振り返り」です。
「出来なかった内容」に比べて「出来た内容」は、特に気にすることなくスルーしがちです。しかしこれから先、中学、高校、大学とより高度な学びに取り組んでいく中で、「出来ないこと」「苦手なこと」ばかりを気にするのではなく。「出来るようになったこと」「得意なこと」に目を向けしっかり把握しておくことは、学びの幅を広げたり、難しい課題に取り組む上での原動力となるのです。
そこで、中学生のうちから定期テストの復習をする際には、出来なかった内容の復習をするとともに、「その期間で出来るようになったこと・身についたこと」を教科ごとに簡単にまとめるようにしましょう。ノートなどに、自分が身につけた内容の履歴を残していくのです。定期テストに限らず、例えば次の学年に向かう春休み、時間がある夏休みなどを活用して、定期的に行うことをおすすめします。
最初は少し面倒に感じるかもしれませんが、慣れてくるとそれほど大変ではありません。自分の成長や得意分野を自覚することは、学びを楽しく感じることにつながります。学びに前向きになってほしいと思います。
「勉強は大人になるためにやらなければならないこと」、「勉強は大人として生きていくために必要なこと」と考えている人も多いでしょう。学校や塾の授業で「楽しい」、「面白い」と感じる瞬間はあっても、「勉強そのものが楽しい」と感じることも少ないかもしれません。
でも、新しいゲームを攻略でき、自分の技や知識が広がると楽しく感じると思います。さらに次のステージに挑戦しようという気持ちも起きるものです。本来の「学び」も、これと同じように自分の技や知識が広がることで、その次に向かって自分で進んでいくものです。
もちろん、その途中では「つまらないこと」や「いやなこと」も出てきますが、それを通り過ぎて「やり切った」という達成感が生まれると、「つまらないこと」や「いやなこと」は軽く感じるようになります。
「その期間で出来るようになったこと・身についたこと」をまとめるのは、達成感をしっかり記録して、次のステップへの道筋を自分がしっかりわかるための活動なのです。
保護者の皆さんへ
「何のために勉強をするの?」とお子さまに尋ねられたら何と答えますか?
以前の日本社会では、「高い学力レベルの高校・大学に進学して一流企業に入るため」「将来苦労しないため」という答えが主流だった時代もありましたが、現代のように先が読めない社会では、「高い学力レベルの高校・大学」に進学しても一流企業に入れるとは限らず、一流企業に入ったとしても決して定年退職までの生活が保障されるわけではありませんから、なおさら答えに窮するかもしれません。
大半の中学生にとって勉強は「周りから強いられること」「やらなければいけないもの」という感覚で、それは高校に入っても大学に進学しても続きます。そして、大学卒業までずっと勉強を楽しいと思えず、それゆえ積極的で自発的な学びが出来ず、何となく就職活動をして社会人生活に入るという流れが出来てしまっていると感じます。
本来、教育の機会を与えられることは幸せなことです。小学校、中学校、高校、大学と進むにつれて、徐々に自分の興味関心を追求し、自主的、主体的で積極的な学びに没頭することこそがあるべき姿なのです。しかし、多くの日本の若者の実態は、本来の姿とかけ離れている、と言われても仕方がない状況です。前向きに楽しい気持ちで勉強する姿勢が欠けていると言えるでしょう。
日本青少年研究所(財団法人日本児童教育振興財団内)が発表している「高校生の進路と職業意識に関する調査(2013年3月発表)」から、日本と他の国の高校生との意識の違いが読み取れます。表は、調査のアンケートの抜粋で、普通科の高校生の「そう思う」「ややそう思う」の合計です。
日本・アメリカ・中国・韓国の高校生の意識の違い
日本 | アメリカ | 中国 | 韓国 | |
---|---|---|---|---|
進路について考えると自分の可能性が広がるようで楽しみ | 64.9% | 89.6% | 72.1% | 75.0% |
進路について考えると将来自分がどうなるか不安 | 83.6% | 58.1% | 47.3% | 83.9% |
自分にどのような能力・適性があるか知っている | 54.6% | 88.1% | 84.0% | 65.9% |
やりたいことにいくら困難があっても挑戦してみたい | 72.4% | 85.3% | 88.3% | 88.8% |
あまり目立たず、人並みであるのがよい | 53.6% | 31.2% | 39.5% | 47.2% |
偉くなりたいと思う | 45.8% | 74.9% | 89.0% | 72.7% |
自分の会社や店を作りたい | 25.6% | 58.0% | 74.1% | 59.8% |
※財団法人日本児童教育振興財団内日本青少年研究所「高校生の進路と職業意識に関する調査(2013年3月発表)」より抜粋
進路に対しては「楽しみ」よりも「不安」が大きく、困難への挑戦志向や独立心もあまり強くありません。自分の能力や適性を正面から考えることを避けている様子もうかがえます。その結果、日本の高校生は自己肯定力が低く、将来への希望も控えめで、ほどほどの暮らしができれば良いと考えている割合が多いことが読み取れます。また、自分の力で成果を出したいと思っている人が少ないことがわかります。
では、大人はどうなのだと問いかけてみると、今の中学生の保護者の中心である40歳代の方が中学・高校・大学生活を送っていたころも、バブルに浮かれていた数年間は別として、決して将来の見通しが明るかった社会ではなかったと思いますから、この調査結果だけで「今の若者は…」などと断じてしまっては、自分のことを棚に上げた発言になってしまいます。今後ますます先が読めない社会に進んでいくことは確実ですから、流れに身を任せるだけでは、保護者がお子様に提供している現在の生活水準(単に収入だけでなく、余暇の過ごし方など、生活の充実度合い)を維持することは難しくなることは想像できると思います。
こうした現状を打開するためには、まず勉強に対する意識・姿勢を変えなければなりません。「出来ないこと」「苦手なこと」ばかりを気にするのではなく、「出来ることが増えること」「自分の得意を伸ばすこと」を楽しく感じ、自ら積極的に取り組んで、将来の方向性を考え、夢をふくらませる姿勢を身につけていただきたいと思います。この姿勢が高校生、大学生になったときに、主体的に自分の将来像を考え、実現のために努力する姿勢をはぐくんでいきます。
保護者の方には、「苦手を克服しなければ」「テストの成績がいまいち」など、マイナスの言葉ばかりをお子さまに伝えるのではなく、「これができるようになったね」「こういうことが得意だね」と、プラスの言葉をかけ、成長を確認し、認め、ほめる習慣を持っていただきたいと思います。そして中学生活を、学びの喜びを見つける期間にしたいものです。