上級者向け 受験マニアックス
2020年10月号 高校入試における学力検査と内申点の比率について
前号( 9月号)で取り上げた「入試相談」では、基本的には「内申点」が判断基準となっていました。それでは実際の入試では「内申点」は、どのくらいのウェイトを占めているのでしょうか。今回の受験マニアックスでは高校入試における学力検査と内申点の比率についてお話しします。
私立高校入試のケース
私立高校入試の場合は、入試相談を通していない一般受験、つまり専願や併願優遇といった入試相談の上で受験するのではなく、よくイメージされるような、入試の当日高得点をとれば合格、とれなければ不合格といった入試についてお話しします。特に神奈川県では難関校などを除く多くの高校で、こうした受験を「フリー受験」や「オープン入試」と呼んで、入試相談が必要な一般受験と区別しています。
こうした受験では、例外として著しく低い内申点の場合は合否に影響することがありますが、基本的には内申点である程度の好成績をとれていたとしても、それだけで合格するというケースはあまり多くありません。学校によっては内申点を換算して、入試の科目の得点とともに合否を判断する場合もあるため、ゼロとは言い切れませんが珍しいケースです。
入試相談を通していない受験では、内申点に「1」、上位校では「1」もしくは「2」がないことといった最低基準を設定していて、引っかかったら不合格になるケースが多いのですが、その基準をクリアしていれば「オール3」でも「オール5」でも合否判定上の評価は同じということになります。
このような措置がとられる背景には、学科の学習では良い成績でも、音楽や美術などの科目で、「ちゃんと歌わない」「作品を提出しない」といった理由で低い評価をされている場合は、学校側としては真面目に学校生活を送れるのか、という不安があるからです。たとえ毎年東大に多数の合格者を輩出している進学校でも、音楽や美術などを軽視してよいとは考えていません。
ただし、体育では「怪我をして入院していた」などの止むを得ない事情で低い評価を受けている場合、診断書の添付など、その理由が明確であれば不問になることがあります。なお、中には欠席日数さえ問題なければ、内申点に「1」がいくつあったとしてもペーパーテストで点数を取ることができれば合格できる学校もあります。中学校時代の学校生活に対する姿勢は不問、心機一転で頑張ってくれれば、という方針です。このように私立高校の学力テストと内申点については、必ずしも一定の比率で評価しているのではなく、学校ごとに違っています。
国立高校入試のケース
学力検査と内申点の比率については公表していない学校もありますが、基本的には一定の比率で評価しているそうです。筑波大駒場と学芸大附属、筑波大附属は比率を公表していて、筑波大駒場と学芸大附属が学力テスト500点・内申点100点、筑波大附属が学力テスト300点・内申点80点です。ただし、これらの学校を受ける受験生は総じて内申点も良い傾向があるため、内申点では差がつかないので結局はペーパーテストの点数で合否が決まることが多いようです。
東京都の公立高校入試のケース
公立の高校は、都県によって、あるいは学校によって考え方が大きく異なります。
東京都の場合は、一部の例外の学校を除いて、多くの学校は入試の得点の比率は7割、内申点は3割となっています。東京都の場合、中3の2学期(2期制は後期前半)の内申点を5教科はそのまま、実技科目は2倍して合計し、65点満点とします。学力検査は一部傾斜配点の学校を除いて500点満点になり、これを7割(700点)に、65点満点の内申点を3割(300点)にさらに換算して1000点満点にしています。これを踏まえて計算すると、「内申点を1上げれば、その分(この場合約3.3点)学力検査の点数が少なくても大丈夫」というラインがわかります。逆に内申点が足りない場合は、その分を学力検査の点数で取らなければいけないということもわかります。
また、入試で実技検査がある学校や昼間定時制高校の一部は、例外として学力検査が6割、内申は4割です。この場合は、当日の学力検査で少々失敗したとしても、高い内申点を取っていれば、合格する可能性は十分に考えられます。特に比率が6:4の学校ではその可能性が高くなりますが、実技検査がある学校のでは実技検査のウェイトが高いので、しっかりと点数を取らなければ合格にはつながりません。
神奈川県の公立高校入試のケース
神奈川県ではメインの第一次選考を中心に見ていきます。内申点は中2の9教科の単純合計と中3の2学期の内申点の合計の2倍を合計した135点満点が原則です。一部に特定教科に比重をかけた重点化が行われています。内申点と5教科500点満点の学力検査(一部に例外の科目や重点化が行われる場合があります)と面接を、合計が1000点になるように換算します。
全体的な傾向として難関・上位校は内申点よりも学力検査の比率が高く、例えば横浜翠嵐高校は内申点「2」、学力検査「6」、面接「2」の比重です。中堅校だと内申点「4」、学力検査「4」、面接「2」といった内申点と学力検査が五分五分の学校が多く、入りやすい学校では内申点「5」、学力検査「3」、面接「2」といった、内申のウェイトが高い学校が多くなります。
中3の2学期の内申点が1上がると、内申点「2」、学力検査「6」、面接「2」なら学力検査で約2.5点、内申点「3」、学力検査「5」、面接「2」なら約4.4点、内申点「4」、学力検査「4」、面接「2」なら約7.4点、内申点「5」、学力検査「3」、面接「2」なら約12.3点に相当します。
難関・上位校では、中3の内申点が1点高くても学力検査では小問1つ分程度に相当するだけですから、高内申を武器に学力検査の足りない部分をカバーするのは、なかなかハードルが高いといえます。また、国立高校入試のケース同様、そもそも内申点が低い受験生はあまり多くないので、最終的には学力検査の得点で合否が左右される面が強くなります。中堅校では内申点と学力検査の比率は1:1が多く、どちらかが不足している場合でも、相互にカバーすることは十分可能でしょう。比較的入りやすい学校では、内申点の比率がかなり高く、内申点の不足を学力検査でカバーするのは、なかなか難しいことになります。
なお、神奈川県の難関・上位校では5教科の学力検査の他に、教科横断型総合問題の自己表現が別途実施されます。内申点や学力検査、あるいは面接でもあまり差がつかない受験生が多く、実際には自己表現が合否の分かれ道になることも少なくありません。
千葉県の公立高校入試のケース
千葉県では今回から入試の制度が変わり、今まで曖昧だった部分も点数化されることになったので、非常にわかりやすくなりました。選抜総合点に対しての学力検査と内申点の割合をパーセントで算出しています。内申点は中1、中2、中3の各学年の合計135点満点で、これにK値と言われる内申比重の換算を行います。K値は多数派が1で、そのままの値を用いますが、県立千葉、県立船橋、東葛飾のトップ3校や一部の上位校が0.5として、内申点の比率を半分にしているほか、比較的入りやすい学校を中心に2として、内申点を2倍の比率としている学校があります。
ただ、K値が2の学校でも選抜総合点に対する内申点の比率は全県平均で約30%、多数派の1では全県平均で約18%、0.5の学校では約11%ですから、他都県と比べると千葉県は、難関・上位だけでなく比較的入りやすい学校も含め、内申点の比率が低く設定されています。しかも内申点は中1、中2、中3の合計ですから、中3で勉強を頑張って各教科の内申を上げて、学力検査で稼がなければならない得点を下げようとするのは難しく、内申については中1からしっかりとっていくことが求められます。
学校別にピックアップすると、まず県立千葉の場合、学力検査の割合は87%、内申点の割合が12%となっています。つまり、内申点では学力検査の不足分をカバーすることは非常に難しいことになります。検見川高校はトップ校ではありませんが、やはりK値は0.5で、学力検査:83%、内申点:11%となっています。学力検査は内申点の7.5倍の重さです。こちらも内申点の影響は少なくなっていて、小金や佐倉も同じ傾向です。しかし、犢橋では学力検査と内申点が52%と28%ですから、東京都の7:3という比率に近づきます。高い内申点であれば、学力検査の不足もカバーできるケースも出てくるかと思われます。船橋東でも、学力検査:63%、内申点34%で、内申点で学力検査の不足分をカバーできる部分が出てきます。沼南高柳、佐倉東、四街道北なども同じ傾向です。
しかし、そもそも内申点自体が中1からの3学年分の合計です。中3で頑張って内申を4教科1つずつ引き上げることができたとしましょう。これでカバーできる学力検査の得点は5教科合計でK値が2の学校では8点、K値が1なら4点、K値が0.5なら2点です。全体的に内申点の比率が低いことから中3になってからの内申での頑張りが合否に反映しにくく、内申で稼ぐなら中1からコツコツと積み上げることが求められるわけです。
逆に、学力検査で各教科5点ずつ、5教科で25点多く得点できれば、K値が0.5の学校では135点満点の内申合計で50点分、1学年平均で16.7点少なくても同じ水準に並びます。各教科1つずつ内申が下がっても合計では9点下がるだけですから、内申点が低くても学力検査で高得点が見込まれるなら十分挑戦する価値はあるわけです。K値が1なら1学年平均8.3点低くてもカバーできることになり、K値が2なら1学年平均4.2点低くてもカバーできる計算です。
千葉県が求めているのは、入試当日の学力検査で結果を出せる生徒といえるでしょう。
埼玉県の公立高校入試のケース
千葉県同様、埼玉県も全体的な傾向としては内申点の比率が低く設定されている学校が多いです。
埼玉県では内申点が中1、中2、中3とも入試に反映する点は千葉県と同じですが、中1、中2、中3の比率が学校によって異なり、春日部のように中1:中2:中3=1:2:4の学校もあれば、大宮工業のように1:1:1の学校もあります。全体的には1:1:2や1:1:3のような中3の比率が高い学校が多くなっています。また、部活動や特別活動、検定資格なども別途点数化して内申点と合計し、調査書点としていること、その調査書点に一定の倍率をかけて学力検査と合計しているのが特徴です。
学校によって内申点の学年ごとの比重が異なり、さらに特別活動の点数なども違いますので、調査書点の満点もさまざまです。面接や一部の学校の実技検査なども含め、換算点を求めて500点満点(一部傾斜配点の学校もある)の学力検査と合計しています。合計の満点や調査書点の倍率もさまざまですから、ここでは全体の満点に対して、学力検査や特別活動などを含まない、内申点だけの比率が何%になっているのか、そして調査書点の倍率をもとに比較していきます。一部例外の学校はありますが、全体的には学力検査の比率が50%から60%程度、内申点は20%前後の学校が多く、調査書点の倍率は全体平均だと1.4倍程度ですが、難関・上位校では小さくなる傾向が見られます。
学校別にピックアップすると、まず県立浦和の場合、学力検査の割合が60.0%に対して、内申点が22.5%となっており、およそ3:1の比率となっています(残りが特別活動等)。東京都の7:3の比率と比べると学力検査優位といえるでしょう。学力検査と合計したときの内申点の倍率が1.04倍と小さく、しかも内申点の中で中3の割合は半分ですから、中3のどれかの教科の内申を1上げても学力検査の約2.1点に相当するだけです。
一方、蓮田松韻は学力検査:51.3%、内申点:27.7%で、内申点に占める中3の割合が33%のため、調査書点の倍率は1倍ですが、中3のどれかの教科の内申を1上げると学力検査の6点に相当する結果になります。内申点で稼げば学力検査の不足分をカバーできる可能性が出てくる比率といえるでしょう。ただ、こうした高校は少なく、内申点の比率が高い学校でも、中3になってから頑張って各教科の内申を上げただけでは、なかなか学力検査の得点に大きく影響するような結果にはつながりません。中1からの各学年の内申点を高い水準で維持していく必要があります。
そこで、今度は学力検査で頑張って、各学年合計の内申点全体の不足分がどれだけカバーできるかの視点で考えてみます。川越女子は学力検査の割合が60.0%、内申点が30.0%で、調査書点の倍率が1.39倍です。各教科5点ずつ、500点満点で25点多く得点すると約18点、内申点全体の約10%をカバーできることになります。同校は「4」がパラパラで、あとは全部「5」という受験生が多い学校ですが、逆に「5」がパラパラで、あとは「4」といった受験生でも合格の可能性が高くなります。越谷北などでも近い結果になります
大宮・普通は学力検査の割合が60.0%、内申点が20.0%ですが、調査書点の倍率が1より小さい0.93倍ですから、学力検査で25点多く得点すると約27点、内申点全体の15%をカバーします。川越女子も大宮も高難度の学校ですが、実は学力検査で内申点がカバーできる範囲は違い、大宮は川越女子よりも学力検査で頑張った受験生を優遇していることになります。
一方、鴻巣・普通は学力検査の割合が40.0%、内申点が43.2%と、内申点の比率が高く、調査書点の倍率が3倍と極めて高いため、500点満点で25点多く得点しても約8点、内申点全体では5%弱しかカバーできません。中1、中2、中3と、日ごろからコツコツと努力し、一定の内申をとっている受験生を優遇しているわけです。全体的には高難度の学校になるほど学力検査でカバーできる範囲が広くなる傾向にあります。