上級者向け 受験マニアックス
2023年5月号 高校の学科について
高校の学習内容というと、中学の学習内容をさらに高度にしたものと考えがちです。確かにそのような一面はありますが、もうひとつ、中学では学習しなかった、ある分野を専門的に学ぶ学校やクラスもあります。高校生自身があまり意識していないことも多いのですが、高校には「学科」や「コース」があり、それぞれで学習内容も違ってきます。今回の受験マニアックスでは、高校での学習内容に関わる学科やコースについて、将来の進路選択の方向性とともに紹介します。
高校の学科
高校の学科は大きく普通科、専門学科、総合学科に分かれています。専門学科は農業科、工業科、商業科、看護科、美術科、体育科、理数科、外国語科などに分かれていて、例えば工業科なら、さらに機械科、電気科、デザイン科などに細分化されています。文部科学省の学校基本調査によれば、2022年度の全国の高校生のうち、普通科は約74%、専門学科は約21%、総合学科は約5%の生徒数です。約74%の生徒が普通科ですから、高校受験というと普通科の学校がイメージされがちですが、普通科以外の学科に進学する生徒もいるわけです。
普通科の特徴
普通科は、中学校とは科目の構成が少し違いますが、中学校の9教科の発展的な内容をまんべんなく学習することが基本で、高校2年生や3年生になると、大学での学びにつなげるために各教科ともかなり高度な内容を学習します。進路希望先によって深める科目も違ってきますから、選択授業でより高度な数学を学んだり、世界の歴史を深く学んだりするなど、生徒によって学習内容が異なることもあります。このため、同じ進路希望を持つ生徒たちを文系・理系クラスなどとして同じクラスに集めることなどを行っている学校もあります。クラスを「コース」や「類型」の名前で呼んでいる学校もあります。
専門学科の特徴
専門学科とは、ある分野の専門的な知識や技術を学ぶことを目的とした学科です。
普通教科の学習も行いますが、専門教科の学習にもかなりの時間を使い、将来その分野の職業につく時に必要な知識・スキルを身につけていきます。上記のように専門学科に通う生徒は高校生の約21%ですが、半世紀前の1972年(当時は職業学科と呼んでいました)には約40%いました。当時は「自宅が農家だから、跡を継ぐために農業科に進学する」といった生徒も、現在より多かったわけです。ただ、一口に専門学科といっても、現在では職業に直接結びつく学科だけでなく多様になっていて、分野によってその性質はさまざまです。以下に、三つのグループに分けて紹介します。
普通科と実質的にあまり変わらないグループ
理数系、外国語系、国際関係系の学科がこのグループに含まれます。これらの学科は、普通科とほぼ同様の教育を受けながら、理数、外国語、国際関係を特に強化して学びます。理数系の学科に関しては、理数系の難関大学に進む生徒を対象にしていて、普通科の「特進クラス」や「国公立理系クラス」などと実質的にあまり変わらないケースもあります。
高校卒業後は、その専門学科に関係する大学・学部に進むことも多いですが、あらためて専門分野を選び直すこともあり、普通科のようなフレキシブルさを持ったグループだと言えます。
また、最近このグループに移行してきたのが情報系の学科です。学習指導要領の改定により高校での「情報」の学習がより強化され、2025年度からは「情報」が大学入学共通テストの出題科目になることもあり、一部の人が学ぶ専門的な分野というより、全ての人に必要なリテラシーになってきています。従来は情報技術などを専門的に学ぶ色合いが強かったのですが、今後は徐々に普通科色が強くなっていくかもしれません。
体育・芸術系のグループ
体育系と芸術系(音楽系、美術系、映像表現系、舞台表現系など)の学科がこのグループに含まれます。「好きなこと・得意なことを極めたい」「自分の夢を追いかけたい」などと考える生徒たちが集まり、体育や芸術活動に打ち込みます。体育や芸術が好きでも、専門学科は選ばずに部活動で頑張る選択肢もありますから、このグループに進むのはやや思い切った決断に見えるかもしれません。普通の科目に加えて体育や音楽などの授業をたくさんこなしますので、勉強が大変という一面もあります。
卒業後の進路としては、在学中に好きな分野を極めてそのまま体育大学や芸術大学に進む人もいますが、自分の限界を感じたり大学では違うことを学ぼうと考え、体育や芸術と関係ない大学・学部を選ぶケースもあります。
職業連結型のグループ
農業系、工業系、商業系、水産系、家庭系、看護系、福祉系の学科がこのグループに含まれます。高校で学んだことが、将来の職業に結びつきやすい学科です。特に看護系学科は、5年間の一貫カリキュラムで看護師の資格取得を目指しますから、まさに職業に直結した学科と言えます。その他の学科についても、将来的に専門分野と関係した仕事に就くことが多くなっています。なお、最近はこれらの学科を卒業してもすぐ就職せず、大学や専門学校でさらに学ぶケースが多くなっています。
このグループで人気があるのは看護系のほか、農業系の中でも動物や食品について学べるところ、工業系の中でもデザインについて重点的に学べるところなどです。しかし、このグループ全体の人気は低下していて、特に商業系、水産系、家庭系、福祉系は、「○○高校の家庭科は、今年は応募者が増えた」といったことがあるにせよ、全体的には希望する生徒が減ってきています。
総合学科の特徴
総合学科は、普通科と専門学科の中間的な存在です。幅広い専門分野の選択科目が用意されていて、高校に入学してから自分に合った学びを見つけていくことができます。1年次は必修科目を中心に学びながら自分の興味・関心を模索し、2年次からは「情報・ビジネス」「国際」「自然科学」などの系列に分かれて、選択科目を中心に学びます。専門的な学びの中身は、専門学科よりもスケールダウンした内容になっています。そのため、卒業後は専門分野の大学や専門学校に進む生徒が多く見られます。
学科とコース(類型)の違い
最近の普通科の高校には、さまざまなコースがあります。「東大コース」「選抜コース」「総合コース」など学力レベルや目標進路に応じた分け方の他に、「英語コース」「ビジネスコース」「国際コース」「美術コース」「スポーツコース」など、学びの中身に応じた分け方もあります。学校によっては、「コース」と同じ意味合いで「類型」と呼ぶこともあります。
このうち、普通科の学校では、特に私立高校で「東大コース」「選抜コース」といった名前のコース分けを行っている学校が数多くありますが、あくまでも普通科での学力レベルや目標進路での分け方ですから、コースによって学ぶ科目が違う、といったことはあまりありませんが、学力上位のコースは授業時間数が多い、といった違いがある学校もあります。一方、公立高校や私立高校の一部などで、「ビジネスコース」や「美術コース」など、学びの中身で分けられている場合は、その中身の授業が他のコースよりも多くなっていて、中には「スポーツコース」は週3日、午後になると専用グランドに移動して「体育の授業」として猛練習、といった学校もあります。こうした学びの中身に応じたコースは、専門学科と似ていますが、それぞれの専門教科を学ぶ時間数が専門学科より少なく、一般的な教育を受けながら専門科目も学べるといった内容になっています。
高等専門学校(高専)について
専門学科よりもさらに専門性が高い教育を受けられる場として、「高等専門学校(高専)」があります。高専は分類上、中学や高校のような中等教育機関ではなく、専門学校や大学のような高等教育機関に位置付けられます。5年制で、実践的なスキルを持つ技術者を育成することを目的としており、工業系の学校が多くなっています。ほとんどが国公立で、私立の高専は全国に4校しかありません。卒業時は、短大卒業と同等の資格が取れます。
教員による手厚い就職サポートが特徴で、以前は高専を卒業してそのまま社会に出るケースが大半でした。今も地域社会と連携して就職する学生が多くいる一方で、卒業後に大学3年次に編入して学び続けるケースも増えています。将来的に大規模なメーカーなどでエンジニアを目指すには、修士卒以上の学歴や知識が求められるようになったことが背景にあるのでしょう。
高校よりも学びの専門性が強いこと、出席日数やテストなどの評価が厳しく留年や中退の可能性が高いこともあり、高専に進学する場合は専門学科に進学するよりも強い覚悟が必要だといえるでしょう。
高校入学時点での将来設計の考え方
得意なことや好きなこと、または憧れの職業がある場合、高校入学時点で専門学科を選んでその道を歩き始めるか、高校卒業後から専門分野に進むのか、悩むところだと思います。現在は普通科に進む生徒が大半で、特に職業系の専門学科に進むケースは少なくなっています。15歳で将来を決めることはリスクも伴いますので、周りの大人から「とりあえず高校は普通科に進んだら?」「好きなことは部活でやれば?」などと言われることもあるかと思います。しかし、高校の学科を選ぶときに大切なのは本人の意思です。筆者は、自分で決めた道を貫きたいなら応援してあげたいと思いますし、たとえ将来に直結しなかったとしても、専門学科で一生懸命学んだことは将来の糧の一部になると考えています。
専門学科に入ったものの、「自分の限界を感じた」「思っていた内容と違った」などという理由で落ち込み、頑張れなくなってしまうケースももちろんあります。ミスマッチや選択ミスは誰にでも起こり得ることですので、周囲が温かく見守り、次の挑戦を応援できるような世の中になっていくことが大切だと思います。
また今後は、「会社の都合に合わせてオールマイティに働ける人材」を雇う「メンバーシップ型雇用」の時代から「特定のスキルや知識を武器にプロフェッショナルとして活躍する人材」を雇う「ジョブ型雇用」の時代に移り変わっていくことが見込まれます。高い専門性を生かし、会社にしばられずに多彩なフィールドで活躍する道も広がっていくでしょう。そういった面では、本当に好きなことや得意なことがあるのであれば、リスクを恐れずに高校からしっかり学んでみることもひとつの方向性なのではないでしょうか。