上級者向け 受験マニアックス
2020年9月号 入試相談について

今回は、私立高校で行われる「入試相談」がどのようなものか、その仕組みと受験生の注意点について説明します。
入試相談とは
東京都、神奈川県、千葉県(埼玉県は後述します)で、難関校や上位校の一部以外の各校が伝統的に行っているものです。入試相談では、その学校を第一志望として受験を希望する場合と、他校併願を前提として受験を希望する場合があります。例年12月15日(首都圏統一日程)から始まり、公立中学校の先生が私立高校の推薦や単願入試を希望する生徒、他校併願でも優遇しての受験を希望する生徒を、学校ごとに取りまとめた受験予定者リストを私立高校に提示し、合格についての可能性を相談するものです。その際には生徒の調査書の評定(いわゆる内申、以下内申と表記します)や出席日数なども提出されて、出願基準に達しているかどうか判断されます。
本来、入試相談で合格を確約することは文科省の通達により禁止されています。しかし、「確約」とは言わないものの、実質的な内定に近いケースも多いようです。各中学校では11月下旬から12月上旬にかけて、進路指導の「三者(生徒・保護者・担任の先生)面談」が行われ、その結果をもとに各高校提出用のリストを作ります。成績によっては入試相談で「難しい」の意思表示が私立高校側から出ることもあります。その場合は担任の先生から連絡があって、再度志望校の練り直しを迫られたり、不合格の可能性を承知で受験することになります。
入試相談で特に問題がなければ、実際の入試に出願して受験します。入試相談を通っている以上、中堅校では入試本番で不合格になるケースは稀ですが、次のような場合には不合格になります。
- 風邪などで入試を受けに行かなかった
- 面接で応答や態度が悪かった
- 学力テストが行われる場合で、0点や1ケタ得点の科目があるなど、極めて点数が悪かった
中には入試相談で特に問題にならなかった受験生が、本番の入試の面接で態度が悪く、不合格になったケースもあります。このように入試相談で通っているからといって、必ずしも合格するわけではありません。なお、コース分けされている場合、一番入りやすいコースについては入試相談で内定に近い状況になるものの、特進などの上位コースは入試得点しだい、というケースがあるほか、上位校では入試相談を行っていても、一定の得点をとらないと不合格、というケースもあり、入試相談は出願資格の確認になっています。
また、神奈川県独自の「書類選考」は、事前の入試相談が必須です。入試相談がないと出願が受け付けられません。学力テストも面接もなく(面接だけを行う学校が1校あります)、「公立中学の先生とのやり取りを信頼して合格を決めます」という入試のため、出願関係の書類などに、よほどの問題がない限り、出願すれば不合格にはなりません。(書類不備の場合は通常、出願を受け付けません)
入試相談を行わない学校
難関校や上位校の一部では入試相談が行われていません。推薦入試でも不合格者が多数出ている学校や、「適性検査」が実質的な学力テストになっている学校では、推薦入試においても出願時に校長印のある推薦状を出すだけ、といったケースがあります。こうした学校はどのような形式の入試であっても当日の成績と調査書の内申で勝負することになります。
難関校や上位校の一部以外では、音楽や美術など専門的な学科・コースで、入試相談を行っていなかったり、行っていても形式的で、入試での実技の技量しだい、という学校があります。
「入試相談」の出願基準とは
入試相談では多くの学校で「出願基準」があります。出願基準は「欠席日数○日以内」や「中3の2学期または2期制では後期の仮の内申で3科(国数英)合計○以上・全科目に2以下がないこと」など欠席日数や内申などで基準が設定されています。また外国語コースならば「英語の内申点は4以上」など、コースによって独自の基準が設けられていることも多いです。
一般的に難度の高い学校では、国数英理社の5教科の内申点を基準にするケースが多く、また、大学受験で実績がある学校・コースでは国数英の3教科の内申を基準にするケースが多いのですが、この場合でも基準以外の教科も「2以下は不可」などの条件が付きます。中堅校になると5教科もしくは9教科の内申点を基準にする学校が多くなります。一般的には出願する学校が第一希望の場合はこの基準値が低めに設定され、他校との併願の場合は、少し基準値が高めに設定されます。
入試相談による入試
都県によって名称や制度が異なります。第一志望で受験する場合、東京都と神奈川県では推薦入試、または一般入試単願(専願、第一志望)受験になります。千葉県では単願(専願)推薦や第一志望受験です。他校併願で受験する場合は、東京都と神奈川県では一般受験の併願優遇、千葉県では併願推薦になります。東京都と神奈川県では、推薦入試と一般入試の日程が分かれますが、千葉県では前期と後期の日程があり、入試の仕組みによる日程の区別はありません。しかし、実際には後期を実施しない学校が多く、入試相談による入試は、実際には前期で行われています。
単願推薦(A推薦)
まず一般的な推薦として呼ばれているのが単願(専願)推薦です。非公式には「A推薦」という呼び方もあります。A推薦は「出願した高校を第一希望として、他校の受験はしない」ことを条件にしています。中学校が発行する校長印や公印のある推薦書が必要です。「入試相談」で特に問題がない場合は、出願時に中学校から発行されます。千葉県では、自己推薦として、保護者の推薦書でOKというケースもあります。
東京都・神奈川県では、一般入試よりも早い日程(1月22日〜)で入試が行われます。ルールでは学力テストが課せられることはなく、面接のみや面接と作文となっていますが、東京都では「適性検査」として、実質的な学力テストを行っている学校は少なくありません。神奈川県では入試相談を通して問題がない場合、面接も実施せず、出願のみの「書類選考」で合格する学校もあります。
第一志望推薦(C推薦)、一般入試第一志望
非公式には「C推薦」という呼び方をされることがあります。東京都の場合、推薦入試として単願推薦よりもやや低い出願基準になっている代わりに、「適性検査」で基準点をクリアしないと不合格になる入試として実施している学校があります。合格したらその学校に入学するのが条件です。公立中学校の推薦書が必要です。
東京都では、第一志望推薦の他に2月10日からの一般入試で第一志望扱い(専願)も行われています。こちらは一般入試扱いなので推薦書は不要です。入試相談で出願基準をクリアしているので、学力テストの基準点をクリアすれば不合格にはなりません。神奈川県と千葉県でも実施している学校があります。やはり単願推薦よりもやや低い出願基準で、実質的に合格基準点を低めに設定した優遇受験です。なお、神奈川県では「書類選考」の単願として、学力テストや面接もない入試を実施している学校があり、学力テストありの入試よりも出願基準が少し高めになっています。
併願優遇(B推薦)〔神奈川県では一般入試と呼ぶ学校が多い〕
出願する高校を第二希望とする場合の入試です。東京都では「併願優遇」が正式な呼称です。千葉県では歴史的な経緯から「併願推薦」と呼ばれていて、非公式には「B推薦」という呼び方もあります。神奈川県では、東京寄りの難関校や一部の上位校をのぞいて入試相談を通していることが大前提となるため、一般入試(受験)併願と呼んでいます。東京都と神奈川県では2月10日からの一般入試で実施している学校があります。
公立高校が第一希望、私立高校を第二希望としているパターンが多いのですが、他の私立高校との併願や第三希望としての出願を認める学校もあります。単願推薦よりも出願基準が高めに設定されていて、面接と学力テストがあるため、一発勝負の入試のように見えますが、入試相談を経ているため、基準点をクリアすれば、よほどのことがない限り不合格になりません。神奈川県では、さらに少し高い基準になる代わりに、「書類選考」として学力テストも面接も実施しない学校があります。
どのタイプの推薦でも、合格が保証されるわけではなく、不合格になるケースも0%ではありません。入試相談を受けたとしても、冒頭に記した通り、「入試に行かない」「学力テストの結果がふるわない」など、最終的には受験生本人次第の部分があり、「落ちる」こともありうることを、しっかりと心にとめてください。
出願基準に若干足りないとき
第一志望にせよ併願受験にせよ、出願基準が1でも下回ったら入試相談を受けつけない学校と、内申以外の部分を評価して加点をしてくれる学校があります。加点をしてくれる学校では、部活動や生徒会での活躍、英検や漢検などの資格を評価する学校が多くなっています。しかし、校外でのコンテスト入賞や、公開模擬テストの好成績などは本来高校側も評価したいものの、中学校の先生による入試相談では資料が提出されずに評価できないケースもあります。
出願基準に若干足りず、希望校の受験をめぐって担任の先生との話がまとまらないことが見込まれるときに有効なのが、受験生本人や保護者が事前に高校と相談して、公立中学校との正式な「入試相談」の前にレールを敷いておくことです。高校の入試説明会や個別相談会で出願基準を確認し、基準を下回りそうならば他の資料を用意して個別にアピールしてください。ちょうどよい日程がなければ学校に連絡して約束をとり、高校の入試担当者に面談してもらうとよいでしょう。高校側から感触の良い返事がもらえたら、中学の三者面談で難航した場合でも、高校の担当者から中学の担任の先生に電話を入れてもらうことでうまくいくケースは多いものです。100%成功するわけではありませんが、努力する価値は十分あります。
埼玉県の「入試相談」
かつては東京都・神奈川県・千葉県と同様の入試相談を行なっていた埼玉県ですが、1993年の「偏差値追放」の折に公立中学校と私立高校の入試相談を、一部を除いて取りやめました。そのため、一部の難関上位校をのぞいた多くの県内私立高校では11月中旬頃から12月頃にかけて「受験生本人や保護者による入試相談」を実施しています。これは受験生本人や保護者が、志望する私立高校に入試相談を申し込み、通知表のコピーや、北辰テストを中心とした公開模擬テストの成績表などの資料を持参して相談するもので、個別面談形式で行われます。最近では「公立中学校が高校入試に対して責任を持たないのか」といった批判の声もあり、この方針は変わりつつありますが、現状では公立中学校と私立高校の他都県並みの入試相談を実施している学校は少数派です。やはり一度構築された制度が廃止されたことで、学校側に基礎データが積み上げられていないことが理由のひとつとして挙げられるでしょう。
埼玉県でも「入試相談」で合格の確約を出してはいけないルールになっているため、実際には「もう少し成績を上げないと厳しいですよ」「特別な事例をのぞいては安心していただいて結構です」といったやり取りも少なくないようです。また公立中学校が関与しないため、東京都や神奈川県、千葉県と違い、併願優遇の際の「公立が第一希望で、私立は一校に限る」などの制限がありません。こちらは高校側と保護者側の連携が取りにくいという背景があるからでしょう。
埼玉県の「入試相談」は独特のもので、埼玉県の受験生が東京都内の高校を受験したい、といった場合は注意が必要です。
- 東京都や千葉県の埼玉県境に近い地域では、日ごろから埼玉県からの受験生が多いため、受験生本人や保護者による「入試相談」を受け付けている学校が多くなっています。こうした学校では県内私立高校と同じように相談することになります。
- 東京都の南部や神奈川県など、埼玉県からの受験生が少ない地域では、高校の入試担当者が埼玉県のしくみを知らないケースもあり、トラブルになることがあります。こうした場合、事前に高校側に説明しておくか、中学校の先生に特別に動いてもらわなければなりません。どちらにしても、受験の可能性が出てきた段階で、早めに中学・高校両方に相談しておく必要があります。
入試相談抜きの受験
難関校や上位校の一部など、推薦であっても入試相談を行っていない学校を受験する場合は、当然ですが入試の成績と調査書での勝負になります。推薦入試ならば適性検査の得点や、学校によっては小論文、集団討論の結果などが重視され、一般入試なら学力テストの得点と調査書の評定(「1」があるなどのことがなければ、もっぱら学力テストの得点)で合否が決まります。しかし、入試相談を行っている学校も、入試相談抜きで受験することができます。神奈川県の一般入試では、特にこのような受験を「オープン入試(受験)」と呼ぶ学校が多くなっています。
どのような入試方法であれ、受験生は一生懸命努力して準備し、挑戦しますが、残念ながら不合格になることもあります。毎年のことですが、努力が報われずに落胆したり、不合格に直面して泣きじゃくる受験生もいますし、その結果不本意な学校に入学が決まる受験生もいます。
保護者の方へ
高校受験の制度は、埼玉県に限らず、47都道府県それぞれで違うということを大前提として保護者の皆さまには考えていただきたいものです。また年月を経て制度は変わります。保護者の皆さまがかつて高校受験の際に行った入試相談と現在の入試相談では、少なからず仕組みが変わっていることもあります。他の地域やかつての状況を、現在のお子さんの状況に当てはめて考えるのではなく、現在の制度を理解していただきたいと思います。
高校は義務教育ではありません。目標に向かって努力したり、不本意な結果を受け入れて乗り越えることで、単なる入試の学力だけでなく、精神的な強さを培う機会になっていることは確かです。一方で、高校は準義務教育と言えるほど高い進学率になっていて、高校に進学することが「当たり前」である以上、不合格と言う挫折を味わせることの是非も当然問われます。「15歳に酷な試練を与えるな」という主張もあり、入試相談はこうした声を背景に発達してきました。入試相談は「保険的な機能」であり、セーフティネットの一種です。高校受験を、こうしたセーフティネットの上で迎えるか、それとも「人生の1つの試練」として考えるかは、保護者の方もご意見が分かれると思いますが、高校受験を、単にどこの学校に行くか、ではなく、高校受験をお子さんの成長にとってどのように位置づけるか、お考えいただきたいと思います。
来年に向けては、コロナ禍の影響により全体的に安全志向が高まると思われます。良し悪しを抜きにしても、レベルの高い学校に挑戦して受験しようとする受験生は減っていくかもしれません。そうなったときに、あとで後悔するような学校選びになってしまわないように、入試相談とはどういうものなのかをきちんと理解していただきたいと思います。また、入試相談を経て高校に入学した生徒は、大学受験の際にもリスクを恐れ、安全志向に走りがちだと語る受験関係者もいます。繰り返しになりますが、高校受験を通してお子さんにどのような経験を積ませたいか、曖昧なまま世の中が変化を続けるなかで何を重要視するか、改めてお考えいただくとともに、お子さんと話し合っていただくことが大切です。