上級者向け 受験マニアックス
2022年5月号 新しいタイプの学校について −−総合学科・昼夜間定時制高校・通信制高校−−
普通科、専門学科に続く第三の学科「総合学科」をはじめ、以前とは役割が変化しつつある「定時制高校」や「通信制高校」など、時代の移り変わりとともに生まれるさまざまな学習ニーズに対応するために誕生した新しいタイプの学校があります。高校入試で注目されている学校も出ています。今回の受験マニアックスでは、こうした新しいタイプの学校について考えてみます。
第三の学科・「総合学科」とは
読者の皆さんのご家庭の多くは、お子さんの進路として普通科あるいは専門学科、専門コースを考えている方が多いかと思われます。普通科はその名の通り、幅広い教養を身に付けるために、国語、数学、英語などの普通教科を中心に学習します。最近では、普通科系の中でも理数に特化したコースや、外国語や国際文化、あるいは国際教養という名称のコースなど、ある一つの方向性を強化したコースを設置している学校も少なくありません。また、芸術・スポーツ系のほか、埼玉県などの一部には映像技術などのコースを設置している学校もあります。
一方、専門学科の中には上記の理数や外国語、芸術・スポーツ系のコースをさらに強化した内容として「学科」として設置しているものと、商業、工業、農業、水産、看護・福祉など、職業と深く結びついた、特定の分野の専門知識・技術を中心に学んでいくものがあります。後者では、以前は社会に出てからの即戦力として、卒業後の進路は就職という選択が一般的でしたが、最近は学んだ分野をさらに深めるために大学や専門学校へ進むというケースも増えています。
ここまで紹介した普通科、専門学科に続き、第三の学科として登場したのが「総合学科」です。総合学科は将来の進路選択のために、さまざまな学習を通じて自分の個性や興味分野を見つけることを目的として1994年に導入されました。普通科と専門学科を総合した学科となっており、幅広い選択科目があることが特徴です。総合学科がある私立高校もありますが、首都圏では極めてまれで、ほとんどは公立高校に設置され、首都圏では特に東京都に多くの設置校があります。
総合学科の導入の背景の一つには少子化の影響があります。学校を設置する行政側としては、専門学科の学校を多く維持することが難しくなっていました。そこで、工業や商業、農業などの教育内容を「系列」として選択できるようにした学校として総合学科が誕生しました。工業、商業、農業といった、以前からある専門学科の内容ばかりでなく、情報や環境など、古くからの産業分類に当てはまらない系列も見られます。
高校入学段階では、まだ将来の進路について漠然としているお子さんも多くいらっしゃると思います。専門学科のように専門的な分野を突き詰めるのではなく、高校在学中に希望が変わることもあり得るという前提に立ち、幅広い分野を学ぶことができるのが総合学科の特徴の一つです。
総合学科は一時期人気を集めましたが、学校運営が難しい面があり、専門学科ほど内容を突き詰めず、むしろキャリア教育的に専門分野を取り上げている内容もあることから、近年は設置校の増加が一段落しています。神奈川県では高校の改編で総合学科の学校の半数近くを、普通科に戻しましたし、千葉県では6校の総合学科の学校がありますが、そのうちの2校は、理系・文系難関大学進学というカラーを打ち出しており、普通科の進学校と大きな違いはないというケースも見られます。やはり専門分野を突き詰めるならば専門学科へ進むほうが、ということでしょう。
自宅から通学圏内の総合学科高校に、お子さんの興味関心が強い系列が設置されていると、目先の学校生活の楽しさから進路希望先として考えたくなることもありますが、放課後のクラブ活動で好きなことに取り組むのとは違います。一方、特に社会と自分のつながりの面からのキャリア教育は充実しています。保護者の皆さんには、メリット・デメリットをしっかりと把握していただき、学校の多様性の一つとして総合学科があるということを理解していただきたいと思います。
新しい定時制「昼夜間定時制高校」
学校の多様化の一つとして、最近増えているのが「昼夜間定時制高校」です。定時制と聞くと、おそらく多くの保護者の皆さんは「夜間」というイメージがあるかと思われます。しかし、定時制高校=夜間ということはありません。実際に夜間の定時制高校が多かったことは確かですが、朝から夕方までの学校を全日制というのに対し、1日の中で時間帯を区切って授業を行う仕組みを定時制と呼んでいます。
昼夜間定時制とは、昼間の部と夜間の部の両方を設置している定時制を指します。2000年代の始めから増え始め、公立高校の1つの形態です。私立高校の場合は例外的なケースとして、夜間の定時制は行っておらず、昼間だけでの定時制を実施している学校があります。意外に思われるかもしれませんが、東京都文京区の中央大学高校は定時制高校です。中央大学理工学部の一角に設置されていることから、施設上の理由で定時制になっていますが、昼間のみの授業です。
かつての定時制高校は1日の授業時間数が4時間と限られていました。そのため、卒業に4年かかります。しかし、昼夜間定時制では、例えば午前中の4時間の後に、午後に2時間の授業を選択で追加できる仕組みとなっているため、1日6時間授業を受けることで、3年でも卒業ができるようになっています。前述した中央大学高校では、最初から1日6時間の授業が組まれたスケジュールとなっています。
昼夜間定時制の特徴としては、朝から授業を行っているため、全日制感覚で通えるということです。そのため進学先の候補として公立高校を希望する受験生の中には、自分の成績と照らし合わせて、全日制の場合は候補校が限られるものの、定時制ならば十分合格圏内として選択肢に加えるというケースが多々あります。昼夜間定時制でも午前部に授業を取っている生徒が多数派ですが、中には朝に弱い生徒もいて、午後の部主体で授業を選択しているケースも多く見られます。
昼夜間定時制がスタートして、最初の10年の間は、全日制の学校からも受験生が流れるケースがありました。やはり人気の中心となったのは午前部・午後部で、3年で卒業ができる点が評価されて選択されていました。かつての定時制では昼間は働き、夜に勉強するための学校という印象が強いと思われますが、現在は夜間部に通う生徒も、昼間に働いているというケースは少なくなりました。どちらかというと、高校を中退してしまった社会人など、さまざま事情から、あらためて定時制高校で学び直そうというケースが多いです。15歳、16歳、17歳の生徒たちの場合は、午前部、あるいは午後部を中心にして授業を受けているケースが大多数となっています。
「通信制高校」が叶える新たな学びの形
近年、進路希望調査の結果から、通信制私立高校の希望者が増加傾向にあり、人気が上がっています。通信制の大きな特徴として、昼夜間定時制よりもさらに自由に時間割が組むことができるという点です。以前は、仕事の関係で全日制はおろか定時制にも通えないというような事情を持つ生徒が、夜間に自宅でラジオなどから講義を聴き、指定の教材で学ぶというのが一般的な通信制の形でした。学期に一度、何日間かのスクーリングやレポート添削を受けて、苦労して一つひとつ科目の合格を積み重ねて、早くても3年、場合によっては5、6年かけて卒業するというケースも珍しくありませんでした。
現在、通信制高校の中でも特に人気が上がっている私立の通信制高校は、そうした従来の通信制の姿とは変わっています。昨今、通信制高校の人気が上がっている背景には、昼間から自分のやりたいことがあるという生徒が通信制高校を選ぶというケースです。通信制高校のイメージを大きく変えたきっかけがオリンピックです。昔から団体競技で高校生がオリンピックに出場した場合は、学校レベルでサポートするという仕組みはありました。しかし、フィギュアスケートなど個人競技の場合、学校ではなく、それぞれ専門のクラブで練習を重ねます。そして実力がついてくると、ナショナルトレーニングセンターなどで国際大会の候補生としての練習が始まります。その場合、トレーニングはやはり昼間に行われるケースが多く、昼間の授業をどのようにカバーするのかという問題がありました。こうしたニーズに応えられる学校として、私立の通信制高校に注目が集まるようになりました。
もちろん学校側のアピールにもなるため、以前からも全日制の私立高校の一部では、練習で授業を受けられないという生徒に、学校が担当の先生をつけて、フォローアップが行われていました。こうした取り組みは現在も地方の学校では行われていますが、首都圏では通信制高校に通いながら、トレーニングセンターとスケジュールを調整しながら、時間割を組み立てるというパターンが増えています。そうした生徒に対して、マスコミが光を当てていくことで、通信制高校の認知度が高まり、希望者が増えるという状況が生まれました。
通信制高校では授業選択の自由度の高さゆえに、授業計画の組み立てなどさまざまな場面で自主性が求められることになります。意識的に学習に取り組まなければ成績に結びつきません。もちろん、先生をはじめ周囲のフォローはありますが、基本的には生徒本人がしっかりとした自主性をもつことが必要です。
通信制高校の自由度の高さはメリットである反面、デメリットにもなり得ます。実際の現場では周囲のフォローが不可欠な生徒が多数派となっているのが現状です。一方、しっかりと自主性をもって学習に取り組み、活躍している生徒も少なからずいます。著名人をゲストに迎えたオンライン講義などで近年注目されている通信制高校などでは、授業を受けた生徒がボランティア団体を立ち上げるなどの活躍をしている例もあります。
昨今の新しいタイプの通信制高校が用意するさまざまなメニューを100%享受するためには、何よりも生徒本人が学ぶ意欲と自主性をもつことが重要です。この部分が欠けてしまっていると、ただ授業料を払っているだけといったケースに陥ってしまう危険性もあります。前述したオンライン講義などの華々しい面だけではなく、このような危うさも踏まえ、慎重に学校選択をしていただきたいと思います。