上級者向け 受験マニアックス
2020年12月号 併願作戦(公立高校の普通科を第一希望とする場合)
この記事は2020年度の情報です。最新の情報は2021年12月号をご覧ください。
今回の受験マニアックスのテーマは、公立高校の普通科を第一希望とする場合の併願校選びです。2018年度から2020年度の直近3年間の入試でどのような併願校が選ばれていたかと、そこから見えてきた首都圏高校受験生の動向をご紹介します。
- 本記事は、「統一模試」(㈱エデュケーショナルネットワークが提供している塾内模試)の結果をもとに、合否追跡調査から独自に集計したデータに基づいています。
2021年度の入試について
2021年度の入試は新型コロナウイルス感染症拡大という状況のなか迎えることとなります。情報が不足している現状のため、一部で開催している合同相談会には例年以上に参加者が集まっているものも見られます。1都3県で2018年度入試から私立志向が高まっているところに、コロナ禍による情報不足もあって、現在の成績で安心して受験できそうな私立高校に、単願で早々に合格を決めてしまおうとする動きが強くなっています。学校の校風、教育方針、大学合格実績などで「ぜひとも」と熱望するのであれば、その私立高校に単願で決めることはもちろんよいことですが、早く決めてしまいたいという思いから学校の中身を熟慮せずに、成績相応の高校の単願を選ぼうとする場合は一度立ち止まって、どんな公立高校、あるいは私立高校に行きたいのか、ということをもう一度しっかりと考えた上で選んでください。
実際に埼玉県から発表された第一回目の進路希望調査の結果を見ると、公立高校のなかで県立浦和、浦和第一女子、大宮、川越、川越女子、春日部、所沢北などの全県や地域のトップレベル校は人気が上がっています。しかし、その他の公立高校を見ると、全体的に公立志向には弱まりが見られる状況です。
それに対して、私立高校の結果を見ると、やはり人気が上がっている学校が目立ちます。特に中学を置いていない高校のみの学校では、やや応募者減の学校はあるものの、悪くても前年並み、やや減少程度。目立って増加している学校もあります。中学を併設している学校では、人気状況はさまざまです。募集定員との兼ね合いも考えられていると思いますが、それでも減少している学校より増加している学校の方が多いため、全体としては、やはり私立志向の高さがうかがえます。
私立志向の高まりによって、公立高校はどちらかというと安全志向で選ぼうとする受験生が増えると思われます。しかし、大前提として、高校は義務教育ではなく学校を選ぶ権利は受験生の皆さん自身が持っています。そうした考え方を持って、あらためて学校選びの参考として今回の記事をご覧いただければ幸いです。
東京都
都立高校には、7つの進学指導重点校があります。また、学年制普通科と単位制普通科の制度の違いもあります。ここでは、国公立大学や難関私大進学を目標とする「1.進学指導重点校・単位制の最上位校」と、「2.公立普通科上位校」に分けて、併願校選びの傾向をご紹介します。
1.進学指導重点校・単位制の最上位校
進学指導重点校は、日比谷、戸山、青山、西、八王子東、立川、国立の7校です。
この中で青山は、以前はおしゃれな雰囲気を高校選びのポイントにしていて、併願校に青山学院を選ぶ受験生が多かったのですが、今回の集計では青山学院の名前が消えました。そしてこの数年で、早稲田大学系、中央大学系などその他の大学附属校を選ぶケースが多くなってきました。受験生の併願校選びの視点が、日比谷や戸山と近くなってきたようです。
八王子東は、地元の受験生が多数派という地域に根ざした学校で、併願校には早慶の附属校があまり出てきません。併願校1位の帝京大学と4位、5位の八王子学園は、同じ八王子市の高校です。2位の拓殖大第一、3位の錦城は同じ多摩地区の学校です。
同様に、立川の併願校には同じ多摩地区の錦城、中央大附属、帝京大学が、国立の併願校には同じ多摩地区の早稲田実業、明大付属明治、帝京大学、錦城が見られます。
単位制で特筆すべきは新宿です。新宿高島屋の向かいという抜群の立地で、大変人気がある高校です。以前は早慶の附属校との併願はあまり多くなく、GMARCHの附属校と私立の進学校(最難関レベルは除く)が併願校の中心でしたが、最近は早慶の附属校との併願が増え始め、今回のデータでは上位5校中2校が早稲田大学系です。
また、同じく単位制の国分寺も多摩地区で非常に人気がある高校ですが、地域に根ざした学校で、同じ多摩地区の錦城、拓殖大第一、八王子学園八王子などの進学校が併願校に選ばれることが多くなっています。
2.公立普通科上位校
地域や学力レベルによって、さまざまな併願校が選ばれています。
おしゃれな雰囲気で人気が高い三田、小山台、駒場には、遠方・多方面から通う生徒がたくさんいます。併願校も、必ずしも地元の学校を選ぶとは限らず、東急、小田急、京王電鉄沿線から通学に便利な学校が選ばれる傾向が見られます。
その他の高校で併願校に選ばれやすい高校には、ある特徴があります。“校風や教育方針があまり独特ではなく、複数のコースを持っていて、募集定員が多い”ことです。北園の併願校として選ばれている淑徳巣鴨や桜丘などはまさにそのパターンです。
神奈川県
神奈川県の公立高校で最難関校として際立った存在なのは、横浜翠嵐と湘南の2校です。ここでは、「1.横浜翠嵐と湘南」、「2.旧学区トップレベル校」、「3.公立普通科上位校」に分けて、併願校選びの傾向をご紹介します。
1.横浜翠嵐と湘南
神奈川県の公立高校の中で、突出した学力レベルである両校の併願校には、早慶の附属校、国立の東京学芸大附属やお茶の水女子大附属の名前が見られます。神奈川県の公立高校としては非常にめずらしいケースです。両校に挑む受験生は、徹底的に最難関進学校を志望する傾向が強いといえるでしょう。
2.旧学区トップレベル校
このグループの高校は、川和、希望ケ丘、横浜平沼、光陵、柏陽、多摩、相模原、鎌倉、茅ケ崎北陵、厚木の10校です。これらの高校の併願校には、大学附属校や地元で定評がある進学校が選ばれる傾向が見られます。
3.公立普通科上位校
東京都と同様に、“校風や教育方針があまり独特でなはなく、複数のコースを持っていて、募集定員が多い”高校が選ばれやすい傾向があります。東急・小田急沿線の高校の併願校には都内の高校の名前もよく見られますが、これは互いに通いやすいことが理由でしょう。一方で横浜市内のJRや京急、相鉄などの沿線の高校の併願校は、横浜市内や横浜周辺の高校がほとんどになっています。
私立高校では、来年に向けて、書類選考に切り替える学校が増加しています。受験生の立場からすると、書類選考で合格が決まるため、私立高校の入試対策をしなくても、その分の時間を公立高校の入試対策にあてられるという考え方になるかもしれません。もちろん、そうした考え方であれば頑張っていただきたいと思います。一方で、私立高校には書類選考で合格することから、受験勉強をせずに早々に高校入試を切り上げてしまおうと考える受験生もいるのではないかと思います。しかし、それはあまりお勧めできない姿勢でしょう。最後まで努力を続けることは今後の成長に向けての経験を積む上でとても大切なことです。もし私立高校が第一希望でしたら、公立高校の入試対策をしない代わりに、高校1年の学習がスムーズに進むように中学3年間で学んだことを復習する時間を作りましょう。繰り返しになりますが、書類選考によって早々に受験を切り上げようと考えるのではなく、最後まで粘り強く挑戦を続けていただきたく思います。
千葉県
千葉県では、来春から公立高校入試が前後期一本化されます。来春からの新入試制度では、2日間の入試のうち初日に国・数・英の学力検査を、2日目に理・社の学力検査と学校設定検査を行います。詳しくは7月号の千葉県のトピックスでご紹介していますので、ご参照ください。受験生の皆さんの中には不安感を覚える方もいらっしゃるかと思いますが、初志貫徹で最後まで挑戦を続けていただければと思います。
千葉県の公立高校の中で、県立千葉、県立船橋、県立東葛飾の3校は御三家と呼ばれていて、難度が突出しています。ここでは、「1.御三家」と「2.公立普通科上位校」に分けて、併願校の傾向をご紹介します。
1.御三家(県立千葉、県立船橋、県立東葛飾)
千葉県の公立高校の中でトップレベルの3校です。併願校には、市川、昭和学院秀英、日大習志野、専修大松戸など、県内上位の私立高校が選ばれています。県外の学校は、県立千葉の5位に江戸川女子が入っているだけですが、こちらも千葉県から近い江戸川区の学校です。地域に根ざした受験情勢といえます。最難関校の県立千葉では渋谷教育幕張も選ばれますが、県立船橋、県立東葛飾では渋谷教育幕張は少し敬遠されているようです。また昨年までは日程の関係で前期と都内国立校との併願が不可能でしたが、今回から前後期一本化により併願受験が可能となります。コロナ禍という不安な状況ですが、チャンスとして捉えて、ぜひ挑戦していただければと思います。
2.公立普通科上位校
東京都、神奈川県と同様に、“校風や教育方針があまり独特でなはなく、複数のコースを持っていて、募集定員が多い”高校が選ばれやすい傾向があります。
地域別に見ると、千葉市内では千葉敬愛、敬愛学園、日大習志野が、松戸や市川・船橋地区では東京学館浦安、東葉、昭和学院や八千代松陰が、常磐線沿線では二松学舎柏、流通経済大柏がよく選ばれています。佐倉や成田の方では地元の高校を併願することが多くなっていて、八千代松陰の名前が多く見られます。
埼玉県
埼玉県は東京都、神奈川県、千葉県と比べて学力上位生の公立志向が強い地域です。公立の男子校・女子校があるのも大きな特徴です。
公立高校の中で難度が突出しているのは、男子校の県立浦和と女子校の浦和第一女子です。ここでは、「1.県立浦和と浦和第一女子」、「2.公立トップレベル校」、「3.公立普通科上位校」に分けて、併願校の傾向をご紹介します。
1.県立浦和と浦和第一女子
両校の併願校には、栄東や淑徳与野、開智といった、地域のトップレベル校ばかりでなく、早慶の附属校も名を連ねています。
2.公立トップレベル校
このグループの高校は、春日部、川越、川越女子、市立浦和、大宮、蕨、所沢北、越谷北の8校です。併願校には栄東、開智、春日部共栄、大宮開成などの県内の進学校が多く選ばれます。附属校の早大本庄も見られます。通学の便もあり、東京都内に出やすい学校は別として、県内の進学校が多く選ばれます。
地域別に見ると、南部地区では栄東や大宮開成、西部地区では川越東や星野が、東部地区では春日部共栄や獨協埼玉が目立っています。
3.公立普通科上位校
東京都、神奈川県、千葉県と同様に、“校風や教育方針があまり独特でなはなく、複数のコースを持っていて、募集定員が多い”高校が選ばれやすい傾向があります。
また、埼玉県全体の傾向として、南部地区のさいたま市に全県から「ひと・もの」が流入しており、併願校選びにおいても南部地区の高校の人気が高くなっています。
南部地区では、地域内の高校がよく併願校に選ばれています。代表的な私立併願校には、大宮開成、武南、浦和学院、浦和実業、埼玉栄、栄北、国際学院などがありますが、受験生は自分の学力に応じた高校とコースを選んでいます。併願校はパターン化していて、ここに挙げた私立がよく出てきます。大宮以北でも大宮以南の学校の人気が高いのですが、正智深谷などを選ぶ動きも見られます。
草加、越谷、春日部など東武スカイツリーライン沿線の東部地区でも、第一希望の公立高校選びで南部地区の高校を選択することが増えてきました。東部地区内の私立併願校としては、叡明、獨協埼玉、春日部共栄、昌平、花咲徳栄などがありますが、第一希望校を東部地区の公立高校に選んだ受験生も、併願校は南部地区から選ぶ動きが見られ、大宮開成や浦和学院、浦和実業、武南などが選ばれています。
西武池袋線、東武東上線、西武新宿線沿線を中心とする西部地区でも、東部地区と同様の傾向が見られます。西部地区内の私立併願校には、西武文理、狭山ヶ丘、聖望学園、山村学園、山村国際などがありますが、これらだけでなく南部地区の浦和学院や浦和実業などを併願するケースも見られます。
北部地区は少し情勢が異なります。南部地区の大宮近辺までは通学時間がかかるからでしょう。
地域の私立併願校としては、高崎線方面では本庄・深谷地区の本庄東、本庄第一、東京成徳大深谷、正智深谷などが、東上線方面では東京農大第三、武蔵越生、大妻嵐山、埼玉平成が選ばれています。東武伊勢崎線・日光線方面は私立高校が少ないこともあって、南下して昌平や春日部共栄を選ぶ受験生が多くなっています。
2021年度の私立高校入試の出題範囲
受験マニアックス8月号では、帰国生のみ募集する学校などを除いて、来春の入試を実施する予定の東京都・埼玉県の私立高校に、出題範囲や告知方法についてのアンケートを実施し、その回答についてご紹介しました。今回は、その時点では残念ながら回答をいただけなかった学校や未定と回答した学校に、その後のアンケート回答の変更の連絡や募集要項への記載を確認して10月末の時点でまとめ、改めて集計し直した結果をご紹介いたします。
1都3県の出題範囲の除外については、6月号と7月号で紹介しています。
今回アンケートを改めて集計した結果、「都立あるいは埼玉県公立の出題範囲の除外に準拠する」「部分的に準拠する」「都立あるいは埼玉県公立の除外に縛られない」「対応は公表しない」の4つに分かれます。「まだ決まっていない」という回答については加えていません。
東京都
集計結果では全体の約7割の134校の結果です。「都立の出題範囲除外に準拠する」が最多で63%、「都立の除外に部分的に準拠する」は15%で、合計するとほぼ8割になります。「部分的に準拠する」は、科目によって異なるなどの場合です。
秋の時点になって、非常に顕著になったのは、夏の段階のアンケートでは対応について保留していた上位校が、「都立の出題範囲に準拠する」あるいは「部分的に準拠する」と公表する事例が増えてきたことです。中堅校から入りやすい学校では明示されていない学校が大多数です。しかし、これらの明示されていない学校でも説明会では口頭により「都立に準拠する」と発言している学校もあり、出題範囲について一切非公表ということではなく、「その情報は説明会参加者のみの特典」と考えているのかもしれません。これに対して、上位校では先に明示することで、受験生側に学習の指針を提示しているようです。
「部分的に準拠する」は15%です。科目によって異なるなどの場合で、例えば英語では京華や日大第二などが、「関係代名詞を知識問題としては出題しないものの長文の中に出てくることはある」としています。国語では国学院久我山が漢検3級レベル、数学では東京成徳大などが除外範囲を標本調査のみとして、三平方の定理は「出題するかもしれない」としています。「都立の除外には縛られない」は17%で、青山学院や淑徳、豊島岡女子、工学院大附属などです。
「(都立の出題範囲除外への対応は)公表しない」としたのは5%で、開成、慶應義塾女子、早大高等学院、国際基督教大(ICU)などの最上位校の多くが独自路線、また最上位校以外の一部の学校も独自路線と考えられます。また、一度決めた方針を変更した学校もあります。八王子学園八王子は8月の時点では「文理特進コースは従来の出題方針通り、他のコースは都立に準拠する」という回答でしたが、秋になり「文理特進コースも都立に準拠する」と、回答を変更しました。
埼玉県
集計結果は43校で全体の9割強にあたります。「公立の出題範囲除外に準拠する」が最多で56%、「公立の除外に部分的に準拠する」は9%で、合計すると65%になります。「部分的に準拠する」は青学浦和ルーテルや獨協埼玉などですが、英語は青学浦和ルーテルが「文法は8割程度を中2までから出題」、獨協埼玉が「基本的に準じるが一部はその限りではなく、例えば関係代名詞は受験生が答える形にはしないが、長文に含める場合がある」との回答でした。珍しい例は東野で範囲を明示せず、「中学校2年生までの修得範囲を中心に出題する」としています。
「公立の除外には縛られない」と回答したのは33%で、浦和麗明、大宮開成、開智未来、埼玉平成、西武台、立教新座、早大本庄などです。志望順位が高い受験生が多い上位校ばかりでなく中堅校も見られます。
出題範囲の除外について、アンケートや募集要項で明示していない学校でも、前述した東京都の八王子学園八王子のように変更する事例があります。今後変更があるかもしれませんので、ホームページで最新情報をチェックしたり、必要に応じて学校に問い合わせてください。当然ながら問い合わせることは合格不合格には一切関係ありませんので、安心して質問をしていただければと思います。