上級者向け 受験マニアックス
2022年12月号 過去問演習への取り組み方
2023年度の高校入試がいよいよ近づいてきて、実際に受験する高校を具体的に決める時期になってきました。今回の受験マニアックスでは、今の時期から取り組みを強化したい過去問演習について、取り組み方のポイントを紹介します。
過去問を解く意味
過去問演習に取り組む大きな意味は、受験する学校の出題の形式やパターンを知り、それに自分を慣れさせていくことです。受験生の中には「全く同じ問題が出ることはないんだから過去問をやっても意味がない」と考える人もいますが、出題の傾向に慣れておくのと本番でいきなり対面するのとでは、気持ちの落ち着き具合も、問題を解く効率も、かかる時間も大きく異なります。
入試問題の形式は、記号選択、記述式、長い文章を書くもの、マークシートなどさまざまです。受験校の出題形式の特徴を事前に知り、しっかり対策をすることが大切です。特にマークシートは、塗りつぶし方や間違えた時の消し方をきちんと練習しておきましょう。また、数学のマークシート用紙には、分数の分母と分子を別々に答える、桁ごとに別々に答えるなど、慣れておかないとケアレスミスが起こりやすい部分が潜んでいますので、十分に気をつけるようにしてください。
過去問を始める時期、どのくらいの量をこなせばよいのか
過去問演習は、入試本番の2カ月前を目処に始めたいものです。実際の入試問題を体験することで初めて気がつく弱点があるかもしれませんので、早めに取り掛かって弱点克服につなげることが大切です。ただ、早い時期にやればやるほどあまり点数が取れず、「これしか得点できなくて本当に受かるの?」と心配になってしまうかもしれません。ですが、これは周りの受験生もみんな同じです。「この単元が苦手」「この出題スタイルが苦手」などの弱点をあぶりだし、できなかった問題を解けるようにして、実際の入試日までに合格ラインの点数を取れるようになれば良いのです。もし、今の時点ですでに合格ラインの点数を取れているようであれば、志望校をもっと難度の高い学校にするべきだといえます。
では、入試までにどのくらいの量の過去問に取り組めばよいのでしょう。志望順位の高い学校については、できれば5年分、最低でも3年分は解くようにしましょう。併願校については、できれば3年分、最低でも1年分を解きましょう。
過去問の入手方法
私立高校、国立高校の過去問は、その学校で販売しているケースもありますし、書店で売られている場合もあります。一方、公立高校の各年の問題は、入試の翌日に新聞誌面で発表されます。ただ、実際に新聞を長期間とっておいて過去問演習に使うのは現実的ではありません。書店には各都県の過去問を何年分か収録した過去問集が売っていますので、そちらを手に入れるとよいでしょう。
過去問集には、実物を元にした解答用紙がついていますし、解答だけでなく詳しい解説も載っています。リスニング問題については、載っているQRコードを読み取り、スマートフォンやタブレット、パソコンなどで再生するものが主流のようです。
過去問に取り組む環境
過去問演習に取り組む際は、一人で静かに集中できる環境をつくってください。音楽をかけながら、お菓子を食べながら、友達と一緒に、などはやめましょう。きょうだいが多くて家に一人になれる空間がない、家にいるとついゲームや漫画に手が伸びて集中できない、といった場合は、塾の自習室や図書館を利用するのもよいでしょう。
また、過去問演習をすると決めた日は、1教科だけ、2教科だけと小分けにするのではなく、いずれかの学校の1年分の全入試科目をまとめて解くようにしてください。実際の入試のように、科目と科目の間には休憩時間をとりましょう。おすすめは、週に1回の「過去問デー」をつくり、集中して問題を解く練習を重ねることです。このような日々を重ねることで、長時間問題に取り組む集中力が身についてきます。
確実に得点できる問題を落とさないための時間配分
入試問題の中には、簡単で確実に得点源となる問題が混ざっています。基本的な計算問題、漢字・語句問題、単純な知識問題などです。過去問演習に取り組む際は、確実に得点できる問題を必ず正解できるよう、練習を重ねることが重要です。
まず、最初から最後まで順番に解くのではなく、始めに問題用紙全体に目を通し、簡単なところから解き始めるようにしましょう。こうすることで、得点できるはずの問題を時間切れで落とすことがなくなります。読むのに時間を取られる長文問題についても、よく見ると一部の設問は、漢字の読み書きや単語の並び替えなどをシンプルに問われている場合もあります。そこは、長文を読む前に埋めてしまいましょう。
また、過去問演習の際は、実際の制限時間より5分短い時間で解くことを心がけてください。すると入試当日に、余裕をもって見直しができるようになります。最後の見直し時間は、確実に得点できる問題の見直し・解き直しにあてるようにしてください。
最初のうちは時間配分がうまくできず、時間が足りなくなってしまうと思いますが、それは当たり前です。時間配分を身につけるには、とにかく過去問をたくさん解いて練習を重ね、時間の感覚を体で覚えることが大切です。
単元の学習と過去問演習
理想的には、中3内容までの全単元の学習を終えてから過去問演習に取り組みたいものですが、学校の進度が遅いなどの理由で、入試2カ月前になっても全単元の学習が終わらないこともあるかもしれません。こうしたことを避けるため、普段からお世話になっている塾や家庭教師の先生と相談し、もし未修単元がある場合には塾の冬期講習などを活用したり、1月早々に入試があって間に合いそうもない、という場合は自分で学んだり、臨時の追加個別指導を受講するなどして、なるべく早く未修単元をなくすことをお勧めします。特に問題になるのは数学、理科、社会です。でも、うまくいかない場合もあるかもしれません。そのような場合は、未修単元があっても、過去問演習に取り組んでください。当然、その部分は点数がとれませんが、この点はあまり気にせず、むしろ学習しているはずの単元で失点しないことを優先してください。
また、過去問を解いていると、1、2年次などだいぶ前に習った単元を忘れてしまっていて、あまり解けない場合があります。これは特に単元がはっきり分かれている数学・理科・社会で起こりがちです。忘れてしまった部分は放っておかず、塾の復習対策講座などを活用して、弱点を克服しておきましょう。
なお、学校や塾では単元ごとに学習をすることが多いですが、実際の入試には単元を融合した問題がよく出てきます。単元融合問題は、それまでの学習では歯が立ちにくい面があります。最初はできなくても構いませんので、たくさん練習を重ねて慣れるようにしましょう。特に国語や英語の入試問題は長文や会話文が多く、単元融合の性質が強くなっています。一つひとつの設問で問われていることは単純でも、長文や会話文の一部として問われると急に難しく感じてしまい、できなくなってしまうケースが多々あります。そこだけを切り取って考えればよいのに、前後のいろいろなことが気になってしまうのです。このような弱点がある場合は、長文や会話文の問題を意識してたくさん解くようにするとよいでしょう。
教科のバランス
例外もありますが、私立高校の入試科目は国・数・英の3教科、公立・国立高校の入試科目は国・数・英・理・社の5教科が主流となっています。大多数の受験生は私立入試を先に受けることになりますので、私立入試までは国・数・英が6〜7割、理・社が3〜4割くらいの配分で、過去問演習に力を入れるのをおすすめします。そして私立入試が終わったら、理・社が5〜6割、国・数・英が4〜5割に修正しましょう。
記述式問題、小論文・作文への対策
過去問演習に取り組む際は、記述式問題や小論文・作文も省略せずに必ず取り組むようにしましょう。過去問と全く同じテーマが出題されることはありませんが、学校によって出題の傾向はあり、似たようなテーマが出されることは多々あります。実際に書いてみて、慣れておくことが重要です。
また、記述式問題、小論文・作文については、過去問集に模範解答がついていたとしても、自分で採点するのは難しいものです。塾や家庭教師の先生にお願いして、採点してもらうようにしましょう。そして、改善点を教えてもらってください。
テーマを与えられて文章を書く場合、注意したいのはその内容です。出題の意図にしっかり沿った内容を書くこと、最初に起承転結の構成案を考え、まとまりのある文章で言いたいことをしっかり伝えることが大切です。なお、普段から文章を書くのが得意な受験生の場合、問われている内容をないがしろにして、自分が書きたいことを書いてしまうという落とし穴があります。文章がいくら上手でも内容が的外れでは高得点につながりませんので、出題に沿った文章になっているかどうかを、しっかりとチェックしてもらうようにしてください。
それから、細かい部分ではありますが、行頭の一字下げやカッコの書き方など、原稿用紙の使い方にはルールがあります。自分で文章を書いておしまいにしていると、こういった部分がおろそかになりがちなので、塾や家庭教師の先生にしっかりチェックしてもらい、気をつけるようにしましょう。
できなかった問題への対策
できなかった問題は、なぜできなかったのかを分析し、対策していくことが大切です。以下に、できなかった理由の分類と対策を記します。
①時間が足りなくてできなかった問題
落ち着いてもう一度解いてみて、正解できればOKです。過去問演習を重ねるうちに、着実に解答のスピードは速くなりますので、焦らなくて大丈夫です。
②ケアレスミスでできなかった問題
問題を読み間違えた、計算ミスをした、漢字を書き間違えたなど、ケアレスミスで落とした問題については、原因をしっかり把握して、次は同じミスをしないように心がけましょう。過去問題集の該当部分に付箋を貼り「こういうケアレスミスをしたから次はやらないこと」などと書いておくとよいでしょう。
③難しくて手が出なかったり、当てずっぽうで答えて間違えた問題
実力不足でできなかった問題はまとめておいて、塾や家庭教師の先生に教えてもらいましょう。できなかった問題全部をマスターするのが難しい場合は、優先順位をつけてもらって、弱点をできるかぎり克服するようにしましょう。
過去問から逃げずに向き合う大切さ
過去問に向き合うのは、時間も根気も必要な作業です。「大変そう」「なるべくやりたくない」と思ってしまうこともあるでしょう。実際、特に滑り止めの併願校については、過去問に向き合わずに入試に挑む受験生も増えている模様です。しかし、入試にはどんな落とし穴が潜んでいるかわかりません。受験する学校については、一通り過去問演習に取り組み、準備を万全に整えることが大切です。
最近の高校受験は挑戦志向が弱まり、安定志向が強くなっています。確実に合格できる学校を選び、受験勉強を簡略化しようという傾向が見てとれます。しかし高校受験は、小学校から大学の受験の中で一番門戸が広く、自分らしく自由な挑戦をしやすい受験です。ぜひ、本当に行きたい学校を選び、努力して勉強して実力を伸ばし、自分で「よく頑張ったなあ」と思える受験をしてほしいと思います。高校受験でベストを尽くした経験は、3年後の大学受験においても、その先の長い人生においても、大きな糧になることでしょう。