上級者向け 受験マニアックス
2022年8月号 公立高校の大学合格実績からみる高校選び
今回は首都圏の公立高校の大学合格実績に注目しました。学校選びでは、偏差値や調査書の評定(内申)といったことと並んで、大学合格実績も大きな要素です。国公立・私立の大学グループごとに、卒業生数の割に今年の合格者数が多い高校を調べてみました。なお、取り上げた大学以外にも、良い大学は数多くありますが、知名度の点から以下に紹介する大学で集計しています。
はじめに
首都圏の私立高校の中では「特進コース」や「総合進学コース」といったように目標の大学の難度ごとに、複数のコースを設けているケースが多く見受けられます。一方、ほとんどの公立高校の場合、入学前の段階では目標とする大学については明確に設定されていません。一部に理数科や理数コースが設定されていて、実質的に特進コース的な位置づけになっている学校もありますが、理数系科目に重点を置くカリキュラムを実施するというのが本来の意味です。
どこの高校を卒業しようと、大学は自由に選ぶことができます。しかし、実際には高難度の高校からは高難度の大学の合格者が多く、中堅レベルの高校からは中堅レベルの大学の合格者が多くなっています。近年では高校3年生で目標大学に合格できなかった場合に、浪人して翌年再挑戦しようという受験生の人数は大きく減少しています。高校3年時に狙える大学へ、という志向が強くなっているわけです。このことを踏まえると、高校選択で大学選びがある程度決まってしまうのが現実だ、と考えることができます。
私立高校に多いコース制の場合、入学後の努力で高校2年生や3年生に進級するときにコース移動が可能な学校も多く、入学時は中堅レベルの総合進学コースでも、大学受験時には特進コースから難関大学に挑戦する生徒も見られますが(逆もあります)、公立高校だと進級時点で中堅校から難関校に転校することはできません。
大学は学問を身につけるところですし、各大学では様々な「力を伸ばす」取り組みも行われています。そのため、偏差値などの難度だけで大学を評価するのは問題がありますが、特に理系を志望する場合には、国公立大学の方が学費に対して研究の深さという部分では比較的優位性を保っているケースも多い、といった実情もあります。今回は大きくレベル別に国公立大と私大に分けて、公立高校からはどのような大学の合格者が多いのか考えてみます。
国立最難関4大学の傾向
大学受験の最難関として挙げられるのが東大、京大、一橋大、東工大の国立4大学です。卒業生数の割に合格者が多い公立高校は、東京都は日比谷や西、神奈川県は横浜翠嵐や湘南、千葉県は県立の千葉や船橋、埼玉県は県立の浦和や大宮など、やはり各都県全体でのトップレベル校が合格者を多く輩出しています。これらの最難関の大学は、いわば全国区で、首都圏以外からも多くの「腕に覚えのある受験生」が挑戦しますが、ここに挙げた高校は、全国の名だたる進学校の中でも、特に実績を上げていることになります。こうした高校は、各都県で言い方は異なりますが、進学指導重点校といった進学体制を強化する取り組みの実施校に指定されています。授業がハイレベルなだけでなく、夏休みなどの長期休暇中に受験対策講習を実施するなど、様々な取り組みを行っています。そしてその成果としての合格実績です。
首都圏国公立11大学の傾向
首都圏でメジャーな国公立大学として前出の東大、一橋大、東工大に加えて、筑波大、埼玉大、千葉大、横浜国立大、東京都立大、東京外国語大、東京学芸大、横浜市大の11大学の今年の合格者数を合計して調べてみました。東大、一橋大、東工大は全国区ですが、他の大学は首都圏の難関大学として位置づけられます。卒業生数の割に合格者が多い高校は、前出の各高校の他、東京都なら戸山や国立、神奈川県は柏陽や厚木、横浜市立横浜サイエンスフロンテア、千葉県は東葛飾、埼玉県なら県立の川越や市立浦和、浦和第一女子などで、全県のトップレベル校だけでなく、地域のトップレベル校も見られます。千葉県の県立千葉や船橋、神奈川県の横浜翠嵐などは、合格者数÷卒業者数を計算すると前述の国立最難関4大学よりもこちらの11大学の方がかなり高くなりますが、東京都の日比谷などは11大学になっても少ししか高くなりません。前者は11大学になって増えた大学への合格者が多く、後者は11大学になって増えた大学の合格者はあまり多くないといった違いが見られます。
早稲田・慶應義塾・上智・東京理科大の傾向
次は私大の4強と呼ばれる早稲田・慶應義塾・上智・東京理科大(早慶上理)を取り上げます。私大の場合、様々な方式での入試があり、それぞれの入試方式で複数出願することもできるため、1人で複数大学に合格することも十分可能、といった点が国公立大との大きな違いです。卒業生数の割に合格者が多い高校は、東京都なら日比谷や国立、西など、神奈川県は湘南、横浜翠嵐、川和、千葉県は県立の千葉や船橋、埼玉県は大宮や市立浦和など、こちらも全県のトップレベル校や地域トップレベル校が多く見受けられます。
合格者総数を卒業生数で割ると、都立の日比谷や県立の千葉は1を超えます。卒業生数よりも早慶上理の合格者数の方が多いわけで、単純に考えれば1人で一つ以上、これらの大学の合格を勝ち取っています。他の高校は1を超えるほど高くはありませんが、川和など、各校とも0.7を超える水準です。実際には複数合格する受験生がいる一方、合格しない、あるいは、はじめから早慶上理を受験しない受験生もいますから単純には言えませんが、目安として考えれば、現役でも早慶上理の合格可能性は0.7程度以上、つまり7割くらいの可能性で何とかなりそうだ、ということになります。
GMARCH+芝浦工大の傾向
次はGMARCH(学習院・明治・青山・立教・中央・法政)に、理工系の上位大学として芝浦工大の今年の合格者数を合計して調べてみました。
卒業生数の割に合格者が多い高校は、東京都では三田、国分寺、武蔵野北など、神奈川県では柏陽、厚木、川和など、千葉県では小金、薬園台、市立稲毛など、埼玉県では市立の浦和、春日部、蕨などです。神奈川県では地域トップレベルの高校が多く見られますが、東京都や千葉県、埼玉県では全県レベルでは2番手、3番手相当の学校が多くなっています。ここで校名を挙げた公立高校は、合格者総数を卒業生数で割ると、高い学校で1.5、小さい学校でも1を上回っています。つまり卒業生1人あたり1.5~1をやや上回る割合でGMARCHや芝浦工大に合格しています。早慶上理で述べたように、実際にはこれらの大学に複数合格している受験生がいる一方、合格しない、または、はじめからこれらの大学は考えていない受験生もいますが、単純に考えれば、ここで紹介した各校では、現役でGMARCHや芝浦工大の合格可能性はかなり高い、期待できると考えることができます。
成成明学獨國武の傾向
GMARCHに次ぐレベルの大学として、成蹊大・成城大・明治学院大・獨協大・國學院大・武蔵大(成成明学獨國武)の合格者を合計してみます。総合大学というよりも特定の学部の人気が注目されることが多いのが特徴です。卒業生数の割に合格者が多い高校は、東京都は石神井、小松川、深川、三田、豊多摩など、神奈川県は横浜緑ヶ丘や市ヶ尾など、千葉県は市立稲毛、小金、県立の柏など、埼玉県は蕨、和光国際、越ヶ谷などです。地域の2番手~3番手レベルが多く挙がってきますが、神奈川県では横浜緑ヶ丘といった地域トップレベル校も見られます。
このグループの大学合格実績の特徴として、合格者の総数を卒業生数で割ると、GMARCH+芝浦工大では前述のように、記事で紹介した学校は高い学校で1.5、小さい学校でも1をやや上回る割合でしたが、こちらは高い学校でも0.5を切り、小さい学校は0.3くらいです。つまり卒業生数の3割から4割台の合格者総数です。特定の学部の人気により選ばれている側面が強いため、これらの大学を希望する受験生が今年は多い・少ないということで、年によって影響を受ける面も強くなっています。ネームバリューで受験生が集まるということでは必ずしもないのがこれらの大学です。
3女子大の傾向
日本女子大、東京女子大、津田塾大の3女子大です。卒業生数の割に合格者が多い高校には、川越女子、浦和第一女子、熊谷女子と、埼玉県立の高校が目立ちます。埼玉県には公立の進学校の女子校があるからです。千葉県にも公立の女子校がありますが、こちらは目立ちません。むしろ共学の薬園台や小金などです。他都県では東京都で国分寺や小金井北、神奈川県では目立つ高校は見られず、強いて挙げれば厚木や川和といったところです。全体的にGMARCH+芝浦工大で登場する高校がこちらでも登場していますが、合格者総数を卒業生数で割り算をすると、その水準はGMARCH+芝浦工大と比べると大幅に低下します。埼玉県の川越女子や浦和第一女子は0.4~0.5程度ですが、それ以外は0.1~0.2程度と、GMARCH+芝浦工大の四分の一、五分の一、あるいはそれ以下です。成成明学獨國武と同様、年による特定の学部の人気の動きや、女子大で特に取り組みたいことがあるなどで選ばれています。そのような中で、埼玉県の公立女子校は例年多くの合格者が出ています。
日東駒専の傾向
ポピュラーな大学ともいえる日大、東洋大、駒澤大、専修大(日東駒専)の合格者数です。卒業生数の割に合格者が多い高校は、東京都では文京、城東、北園、小松川、調布北など、神奈川県は市ヶ尾、海老名など、千葉県は鎌ヶ谷、市立稲毛、船橋東、千葉西など、埼玉県は川口北、川口市立、不動岡、越谷北などです。地域2から3番手校レベルから、中堅よりも少し高いレベルの高校が多くなっています。合格者の総数を卒業生数で割ると、ここで取り上げた学校では、高い学校で0.9程度、低い学校では0.7程度で、卒業生の3人に2人程度から9割くらいですが、神奈川県では0.5程度の学校で2人に1人くらいに下がります。前出の3女子大や成成明学獨國武よりも卒業生よりも合格者数が多くなります。規模が大きいため、数字が大きくなるということも当然背景にはありますが、3女子大や成成明学獨國武は「こだわりたい内容の学部を選ぶ人が選ぶ」という面が強いのに対して、日東駒専は、学部選択の幅が広いこともあって、皆さんが積極的に選んできたということも背景の一つにはあります。神奈川県で水準が低いのは、これらの大学の付属校への入学者が多く、公立高校からは他都県ほどは受験していないからでしょう。
大東亜帝国の傾向
次は大東亜帝国です。時代錯誤のようですが、大東文化大・東海大・亜細亜大・帝京大・国士館大のことで、大学受験界ではよく使われる用語です。中堅の大学として評価されています。これらの各大学の合格者数を合計してみます。
卒業生数の割に今年の合格者数が多い公立高校は、東京都は小平南、江戸川、城東、町田など、神奈川県は海老名、光陵など、千葉県は佐原、成東、匝瑳など、埼玉県は和光国際、熊谷西、川口北、所沢北などで、基本的には地域2番手校や3番手校レベルの学校が中心ですが、地域トップレベルの高校も見られます。合格者の総数を卒業生数で割ると、一部の高い学校が0.4程度になりますが、あとは0.2から0.3程度で、ここに挙げた学校では卒業生の2~3割がこれらの大学に合格しているといえます。この割合が日東駒専よりも低いのは、日東駒専を希望する受験生が、大東亜帝国を抑えで受験しているケースも多いからでしょう。抑えで受験するのであれば、希望大学をめざして複数挑戦するような受験作戦の必要はなく、1つ確実に合格すればよいからです。
また、ここで挙げた各校では、千葉県を除いて大東亜帝国の各大学に分散して合格する、というよりも特定の大学に集中して合格する、といった面が見られます。例えば東京の多摩地区なら亜細亜大や帝京大、神奈川県なら東海大、埼玉県なら大東文化大といった大学が多くなる傾向があります。これはキャンパスの位置の影響が強く表れます。近い大学に通いたいわけです。こうした点からも、抑えで受験していることがうかがえます。千葉県からは、各大学とも毎日通うには少し遠く、下宿や寮を考える場合もあって、他の都県の学校よりも各大学に分散します。
その他の女子大の傾向
3女子大以外の主な女子大も取り上げます。学習院女子、白百合、聖心、清泉といった、かつては「お嬢様の女子大」などと言われた大学や、大妻、共立、実践といった、定番の女子大など合計12大学です。卒業生数の割に今年の合格者数が多かった学校は、埼玉県が目立ちます。春日部女子や熊谷女子、和光国際や市立浦和南、不動岡、蕨、浦和西、川越女子といった学校です。3女子大で取り上げたように、埼玉県には公立の女子校があることが大きな理由ですが、校名でわかるように共学の学校からも多くの合格者が見られます。公立の女子校からの合格者が多いことから、共学校でもこれら女子大の評価が高いのでしょう。それ以外では、東京都は調布北や目黒、武蔵丘など、千葉県では国府台や千葉西、柏南など、神奈川県では市立桜丘や大和、市ヶ尾などが目立ちます。中堅よりもやや高いレベルの学校が並びます。
合格者の総数を卒業生数で割ると、春日部女子や熊谷女子は0.4~0.5程度、卒業生数の2人に1人か、それよりも若干少ない割合ですが、他校は東京都や千葉県も含めて高くても0.3程度、0.2程度の学校も多くなっています。神奈川県は0.2にも達しません。神奈川県の高校生は、あまりこうした大学は選ばないようです。
まとめ
大学進学を将来の進路として考えている場合、かつては「浪人も視野に入れて大学受験に力を注ぐ」という選択肢が主流の一つとして考えられていました。
しかし、冒頭のとおり現在では現役合格が主流で、大学入学者も国立で約7割、公立・私立では約8割が現役です(2020年度、文部科学省学校基本調査より)。浪人しての再チャレンジではなく、あくまでも現役で、という前提に立つと、どうしても高校からの大学合格状況が、高校選びで大きなウエイトを占めることになります。受験生、保護者の皆さんには、こうした現状を理解した上で、「入れる高校探し」ではなく、努力することを前提に、前向きな学校選びを心掛けていただきたいと思います。