私立中高進学通信
2021年11月号
実践報告 私学の授業
森村学園中等部
未来志向型教育を支える
「言語技術」の学び
どんな時代であっても、自分自身の力で立てる人財育成をめざす

世界に通じる論理的思考力を母語で確立

明治43年、日米貿易の先駆者である森村市左衛門先生により創立された同校。以来、『独立自営』の精神をもった若者たちを育て続けています。そんな同校が推進するのが、「言語技術教育」「外国語(英語)教育」「PBL(課題解決)型授業(※)」「ICT環境」の要素で成り立つ、同校の教育システム『未来志向型教育』です。
同校では『未来志向型教育』のさらなる推進のため、2020年度には国際交流・多言語教育センターを設立。英語以外の多言語の講座を開講。さらにアメリカの高校卒業資格を取得できる『US Dual Diploma Program』など、多彩な取り組みを実践しています。
『未来志向型教育』の基盤となるのが、同校の教育の核ともいえる「言語技術教育」です。言語技術とは、「ランゲージ・アーツ」とも呼ばれ、論理的思考力を確立し、物事を説明したり、正確に意見を述べたりする方法論です。言語の4技能(聞く・話す・読む・書く)に加え、「考える」を加え、論理的思考力・批判的思考力・創造的思考力を磨き、最終的には教養ある人財を育むことが目的です。「言語技術教育」の重要性を認識し、2012年度から導入しています。
「言語技術教育」は、様々な学びのベースとなります。例えば、PBL型授業にはディスカッションが欠かせませんが、日本の社会は察し合うことで成り立つ部分が多く、論理よりも共感が重視され、自分の意見を論理的に説明する基盤がありません。
海外の人たちとディスカッションする時、日本の生徒が戸惑ってしまうのは、英語力の不足よりも、論理的な思考力や批判的な思考力の不足に起因することが多いのです。たとえ高い英語力を身につけても、それらの思考力が確立していなければ、国際社会で対等な議論をすることは難しいでしょう。「言語技術教育」では、母語である日本語で世界標準の論理的な表現形式を学ぶことができます。言語技術を身につければ、日常の学習に有効であるばかりではなく、生涯にわたる様々な問題を解決していく力が身につくのです。
※PBL(課題解決)型授業…「Project Based Learning」の略称。
答えが一つでない問題を解決するために、すべての教科において自ら考えることを促す学習法。
「言語技術」を「総合的な学習の時間」にも導入し、週2時間化へ
同校では、2021年度から従来の「学校設定科目」の1時間に、「総合的な学習の時間」の1時間を加え、週2時間化がスタートしました。
「言語技術の授業時間を増やすことで、従来以上の成果が上がることを視野に入れ、カリキュラムを編成しました」
「言語技術」の習得は、教科学習にも大きな効果をもたらし、学んだ知識や理解、応用力を、論理的思考により、より高度な思考レベルへと引き上げることができます。
「言語技術」を毎週2時間学ぶことで、『未来志向型教育』はさらに力強く推進され、生徒たちの“未来をたくましく生き抜く力”として結実するに違いありません。
グローバル人財の基礎を培う学び
論理的思考を育む授業で生徒の力を引き出す
対話を中心とした欧米型の講義をめざす

言語技術部門/斉藤康晴先生
言語技術は、簡単に言えば欧米型の国語教育です。教員が講義をして教え込むのではなく、質問を何度もして生徒たちに考えさせることで、自分で答えを発見させる授業です。
教員はつい答えを誘導する講義型の授業をしてしまいがちですが、私たちは生徒自らが答えを発見できるように、常に“対話”を学びのベースにして授業を組み立てています。教員の問いに対して、生徒からはさまざまな答えが返ってきます。事前に想定されていたようなこともあれば、思いもかけない答えが返ってくることもあります。
また、作文の添削はルーブリックを基にていねいに時間をかけて行っています。そうすることで、生徒たちの文章力は格段にアップしていきます。
さまざまな教科学習やその後の学びにもつながる言語技術

言語技術部門リーダー・国語科/花村友美子先生
言語技術のトレーニングを受けることで生徒は少しずつ変化し、自分の意見をまとめる力がついていきます。こうした力はプレゼンなど自己を表現する場で発揮されるだけでなく、さまざまな教科学習でも活かせるようになっていきます。
文章を読んで理解し、分析する力がつきますので、文章題の問題に強くなります。また、パラグラフのルールに従って文章を書くコツが身につくため、小論文のクオリティが高くなり、楽しんで書くことができるようになります。
言語技術の授業を通して身についた力は、大学や社会人になっても活かせるに違いありません。
さまざまな学業や生活で生徒自身が自らの意見を論証できるように、学びを深めていきたいと思います。
「言語技術」の取り組み例

▪ 問答ゲーム
「あなたは〇〇が好きですか?」「〇〇はあったほうがいいと思いますか?」という問いに、世界に通用する型(結論・根拠・まとめ)で答えます。
▪ 空間配列
日本人には苦手とされている空間的な情報を第三者に伝える訓練です。例えば、外国の国旗を、言葉だけで相手が正確にイメージできるように伝えます。中2の授業で取り組んだ「アフリカの国々の旗を説明する」という訓練では、クラス全員が正確に情報を伝えることができました。
▪ 再話
読み聞かされた物語を再生する訓練です。メモをとりながら先生が読み上げる文章を聞き取り、最後に自分自身の言葉で書き綴って再生します。物語を構造的にとらえる力、重要点をメモする力、要約する力がつきます。
未来志向型教育を推進しオリジナルのグローバル教育を展開
アメリカの高校卒業資格取得や多言語講座を開講
国際交流・多言語教育センター

言語技術教育に加え、国際理解、多言語・多文化リテラシーなど、社会に出る際に必要となる力を培う「未来志向型教育」をけん引するのが「国際交流・多言語教育センター」です。2020年に設立されましたが、コロナ禍のため、まずは国内やオンラインで取り組める新しい形のプログラムを開発してきました。
中でも注目したいのが『US Dual Diploma Program』です。これは、通常授業に加え、アメリカの高校の授業をオンライン受講し、日米二つの卒業資格を取得できるプログラムです。卒業後は、英語圏の大学への進学だけでなく、アメリカ名門大学への推薦入学も確約されるほか、帰国子女入試枠を設ける国内大学への進学の可能性も拓けます。
また、アラビア語・中国語・ロシア語などを含む8言語でスタートした『多言語・多文化講座』も、希望者の多かったスペイン語・フランス語・プログラミング言語を通年化し、より充実した体制で開講しています。不定期にインドネシア語やポルトガル語なども開講されるなど、多彩な言語を学ぶ機会は生徒からも大好評です。
更に、校内に様々な国旗が掲揚され、カフェテリアで各地域に因んだ特別メニューが提供される『多文化月間』も、日常を多文化にする仕掛けです。学校に居ながらにして世界を実感できる環境を作り出しています。
英語の授業でも言語技術が活かされています

国際交流・多言語教育センター長の松本浩欣先生は、英語の授業でも言語技術が活かされていると話します。
「英語でスピーチやプレゼンテーションをする機会も多く設けていますが、生徒に「言語技術で習ったように、わかりやすく作成してみよう」と伝えると、スキルを活かした内容に仕上げてきます。また英作文の指導も、より踏み込んで内容に注力でき、こちらがびっくりするような、クリエイティブで質の高いものが提出されます」
(この記事は『私立中高進学通信2021年神奈川版』に掲載しました。)
森村学園中等部
〒226-0026 神奈川県横浜市緑区長津田町2695
TEL:045-984-2505
進学通信掲載情報

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