私立中高進学通信
2022年8月号
実践報告 私学の授業
田園調布学園中等部
学校ルーブリックに基づき
宿泊行事をリニューアル
探究を学習体験旅行で実践
高2での学習体験旅行は、環境、平和、国際関係が三大テーマ。世界的に差し迫った課題への向き合いが求められます。
対話、多様性、社会貢献を重視
探究を意識した宿泊行事に
今年4月から学校ルーブリック(※)を刷新、中1から高2まで「探究」の授業を導入し、カリキュラムを大きく改訂した同校。新しいルーブリックでは、生徒たちが “豊かな人生を歩める人になるために”「必要な力」(対話する力/課題を発見・設定する力/対話する力)と「土台となる姿勢」(自分を高め続ける姿勢/多様性を認める姿勢/社会にはたらきかける姿勢)が示され、中1〜高3までの学年ごとに各項目の到達目標が設定されています。
このルーブリックは、教科学習だけでなく、部活動や「なでしこ祭」といった行事など同校の教育活動全般の基礎に据えられます。また、宿泊行事も2023年度からルーブリックの到達目標に即したプログラムに生まれ変わります。
「本校は2022年度から探究活動・教科横断型授業をさらに進化させ、授業・土曜プログラム・学習体験旅行など体験を重視した教育活動を一層充実させています。さらに2023年度から宿泊行事を、ルーブリックを意識したプログラムにリニューアルします」(教頭/兼子尚美先生)
特に内容が一新されるのは、中1と中3。そしてこれまで高1で実施していた学習体験旅行は高2に移行し、高1では「探究」の授業で取り組んでいる「BOTTOプロジェクト」で、好き/得意なことから生徒が自ら設定したテーマを実地調査・検証する希望制の海外研修が設けられました。
「BOTTOプロジェクトの海外研修に限らず、全学年共通して『探究』の要素を組み込んだ宿泊行事です。同世代の中高生を含めた現地の方と対話すること、外の世界へ一歩踏み出して多様性を認識すること、そして失敗を恐れずに社会へはたらきかけることを重視しています。訪問前にオンラインなどで現地の方からお話をうかがい、事前準備し、旅先で自ら設定したテーマに沿った取材を直接行うことも可能です。事前学習〜現地での体験〜事後学習を通じて、新しい視点や、そこから探究できる学びをしてほしいと考えています」
ルーブリックが共通の土台となることで、教科横断型授業、理数教育、HR活動など同校の教育活動すべてにつながりが生まれます。
「自分は何をしたいのか、どのように社会と関わるのか――新たな宿泊行事が、生徒たちが自分の将来を見つけるきっかけの一つとなればと思います」
※ルーブリック…主に教育の場面で用いられる評価手法の一種で、学習者の理解度や技能の到達度を測るための指標。
外の世界へ一歩踏み出す!新しくなる宿泊行事
中1 体験学習
山梨・長野/4月下旬 2泊3日
入学間もない新入学生が、クラスの仲間とのチームビルディングを行います。プロジェクト・アドベンチャー・プログラムでは、ロープなどを使ったアクティビティ、お互いの身体を支え合うなどの協力が必要な課題解決活動を通して生徒たちの信頼関係を高めます。仲間と一つのことをやり遂げることで、生徒の成長や気づきを促します。火おこしなどの自然体験・飯盒炊飯も行い、仲間とのつながりを密接にして、より良い学校生活のスタートにつなげます。
中2 体験学習
山形県酒田市/8月下旬 3泊4日
都会に住む生徒たちが、海や山の大自然とそこに暮らす人々との交流を通して、その地域の課題を考えます。テーマは、食の問題や農業従事者の高齢化、過疎化、ICTを導入した新しい農業など広いテーマから事前学習を経て決定します。農作業体験や、現地の方々への取材などを通して、解決策を検討し、旅行後には、それらを発表・共有します。酒田市との交流を続け、今自分たちができることを実行に移すことで、地域貢献をしていきます。
中3 学習体験旅行
京阪神・韓国・台湾から選択/11月中旬 4泊5日
日本の伝統文化に触れ、多様性を知ることで自己理解につなげます。京阪神は、奈良をスタ―トに京都・滋賀・大阪・神戸の中から探究テーマに沿って訪問地を選びます。日本を内側から知ると同時に、外からの目線で日本の理解を深めるために、日本と歴史的なつながりの強い韓国・台湾コースを設けました。内側と外側から見た日本を旅行後に生徒が発表し合うことで、より重層的な目線で日本をとらえることができます。
高2 学習体験旅行
九州/6月上旬 5泊6日
環境、平和、国際関係が三大テーマです。「発信地で発信者に聴く旅」というコンセプトのもと、福岡、長崎、島原・天草、水俣、鹿児島と九州を縦断します。旅行前にオンライン等で現地の方の話を聞き、問題意識を持って現地でさらに話を聞いたり、取材をしたりします。事前学習、事後学習も教科と連携して行い、体験を深めます。25年以上の歴史を持つ行事を、さらにブラッシュアップして生徒の社会的な関心を広げ、能動的に社会に発信できる素地を作ります。
高校の「探究」の授業では、BOTTOプロジェクトが始動
「探究」の授業は、中等部で「デザイン思考」の基礎を学びながら課題解決スキルを身につけ、高等部からは自分の強みや興味、関心から没頭できることを発見する「BOTTOプロジェクト」に取り組みます。副教頭の入英樹先生に、4月に始動したBOTTOプロジェクトと2024年3月から予定されている高1対象の希望制の海外研修についてうかがいました。
「『BOTTOプロジェクト』では、高1で自分の好き/得意なことを掘り下げ、高2で自分の好き/得意なことで人に貢献することを意識して探究します。生徒たちが授業を楽しんでいることもうかがえ、良いスタートが切れたと考えています。毎回授業後に行う振り返りからも、自分の好き/得意なことが見えてきたという数値が既に90%を超えています。
現在授業では、海外で活躍する多くの起業家のお話をうかがい、世界に目を向ける意識を高めています。夏休み期間には、環境・貧困・世界経済など約15テーマからなる海外オンライン研修を予定しています。海外ゲストとの対話やワークショップを集中して行うことで、自分の掘り下げるテーマを決め、高1では、9月からはそれをチームで探究する『極めてみた』という活動に取り組みます。
そして高1の1年間で極めたことを実地調査するために、2024年3月から希望制の海外研修を行います。渡航先は、東南アジアを中心に多くの国が候補に挙がっています。期間やプログラムの内容については現在検討中ですが、中高生の年代に海外で自分の好き/得意なことと結び付いたテーマを掘り下げることに大きな意味があります。海外研修後の高2は、さらに社会に貢献する方法を考える『GIVE』の活動をしていきます。これらの学びを通じて、生徒が自己を見つめ直すことで、将来の人生を考えていくうえでの軸にしてほしいと考えています」
BOTTOプロジェクト
高1自分の好き/得意を掘り下げながらBOTTOを探る
- 各種ワークショップ
- 海外ゲスト(起業家)との対話
- 海外オンライン研修(希望制・夏休み期間)
- 「極めてみた」活動
- 「極めてみた」配信
- 海外研修(希望制・3月)
高2自分の好き/得意で人に貢献しながらBOTTOを探る
- 「GIVE」ワークショップ
- 「GIVE」方法探究
- 海外オンライン研修(希望制・夏休み期間)
- 「GIVEの祭典」準備・参加
- 振り返り
(この記事は『私立中高進学通信2022年8月号』に掲載しました。)
田園調布学園中等部
〒158-8512 東京都世田谷区東玉川2-21-8
TEL:03-3727-6121
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