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私立中高進学通信

2022年8月号

実践報告 私学の授業

東京農業大学第三高等学校附属中学校

「いのちの大切さ」を軸に生きる力を育む

「ヒラメの養殖」で学ぶ実学教育
学校説明会でも使用する武揚会館1階ホール。この授業では壁を取り払って多くの人数を収容。

学校説明会でも使用する武揚会館1階ホール。この授業では壁を取り払って多くの人数を収容。

学校説明会でも大人気の
ヒラメの養殖

 体験による深い学び「実学教育」を重視する同校では、フィールドラーニングや実習などのアクティブラーニングが充実しています。2019年から中2で導入された「ヒラメの養殖」は、例年春にヒラメを学校に迎え入れ、1クラス2匹ずつ、生徒が協力して育てながら生態調査レポートを作成し、12月に実食するという、いのちの大切さと日本の「食」について学ぶ授業です。みんなで大切に育てたヒラメは、元料理人で養殖を指導するNPO法人日本養殖振興会代表理事の齊藤浩一先生が自らさばき、しゃぶしゃぶにして全員でいただきます。

「2012年に、中学の科学部で齊藤先生の指導により始めたのが最初です。中学の生徒全員に経験させたいと2019年から中2で導入しました」(学年主任・保健体育科/松吉杏佳先生)

 同校がヒラメの養殖に取り組んでいることを学校説明会で知り、興味を持つ小学生も多いといいます。

「中学の先生たちも生徒と一緒にヒラメを育ててきているので、説明にも熱が入ります。小学生に実際にヒラメを見てもらうと、『わーっ!』と歓声が上がりますね。本校は理科が好き、生き物が好きという生徒が多いので、ヒラメの養殖が受験のきっかけになった生徒も多くいます。『育てたら食べます』と説明すると、小学生は『えっ!』という表情をしますが、このプロセスを通していのちの大切さなど、さまざまなことを学んでほしいと思います。ヒラメは毎日水槽を掃除しないと病気になってしまう可能性がありますし、エサの量や水温も管理しなくてはいけません。中1で取り組む『大豆栽培』の何倍も手間がかかり、責任も重いです。生徒が日誌をつけて、ヒラメの健康をきちんと管理しています」(松吉先生)

生き物を育てることを通して
主体性と感謝の心を育む
学年主任・保健体育科/松吉杏佳先生学年主任・保健体育科/松吉杏佳先生

 この授業を通して生徒たちに伝えたいことは何かお聞きしました。

「毎回、授業が始まる前に齊藤先生と生徒たちで『①みんなで、②協力する、③考える、④行動する、⑤命を大切にする』という『5つの約束』を確認します。ヒラメを育てるのはあくまで生徒であり、齊藤先生や私たち教員は協力者に過ぎません。ヒラメの養殖を通して、自分たちでやってみようという主体性を育んでほしいと思います。また、毎日ヒラメの健康をチェックしているうちに、それはお父さん、お母さんが自分たちにしてくれていることと、生徒自身が気づくようです。ヒラメの養殖に取り組んでから親子の絆が深まったという保護者の声をお聞きすることもあります」(松吉先生)

 中高6年間を通して同校が大切にしている“実学教育”。実際に自分の目で見て確かめ、体験することに力を入れている同校は、自然や動物など、さまざまなことに興味を持つ生徒の可能性を育んでいます。

「ヒラメから学ぶいのちの授業」
養殖についてさまざまなことを学びます

 同校の建学の祖である榎本武揚えのもとたけあきの名を冠した武揚ぶよう会館1階ホールで、6時間目に行われた「ヒラメから学ぶいのちの授業」。1組33名、2組34名、計67名の中2生が集まり、「養殖」についての授業が始まりました。授業の始まりとともに齊藤先生が「5つの約束は何だったかな」と生徒に問うと、生徒たちは「①みんなで、②協力する、③考える、④行動する、⑤命を大切にする」と元気に答えます。今年は5月にヒラメを受け入れた生徒たちは、5つの約束をモットーに養殖体験にチャレンジしています。

 この日は、生徒たちが日常的に食べているアジやサバなど馴染みある魚の養殖の現状について、さまざまな角度から学びました。

「日本の養殖技術は高いけれど、自然環境を損なわない完全養殖(循環型養殖)はまだまだ難しく費用がかかります。今、アジを完全養殖にしたら1匹3000円から4000円の価格になってしまいます」という齊藤先生の言葉に生徒たちは「えーっ!」と声を上げて驚きます。

 授業終了後、「養殖の光と影」と題した次回の予告、そして最後に松吉先生から「濾過槽に苔が生えました。これは水槽の循環システムが完成した合図なので安心してください」とアナウンス。生徒たちのチャレンジは12月まで続きます。

養殖の現状を学ぶ授業で、齊藤先生の問いかけに活発に応える生徒たち。養殖の現状を学ぶ授業で、齊藤先生の問いかけに活発に応える生徒たち。
一人ひとりに配られるワークシート。矢印のなかに学んだ内容を記入して、授業の最後に提出します。一人ひとりに配られるワークシート。矢印のなかに学んだ内容を記入して、授業の最後に提出します。
「自然界のヒラメは10万匹卵を産みますが、1匹しか成長できません」という齊藤先生の言葉に驚く生徒たち。「自然界のヒラメは10万匹卵を産みますが、1匹しか成長できません」という齊藤先生の言葉に驚く生徒たち。
「ヒラメが元気でびっくり!」
実学を通していのちを学ぶ
Sさん(中2)Sさん(中2)

 私は家で金魚を3匹飼っていますが、観賞用の金魚を飼うこととヒラメの養殖はお世話の仕方が違うことが分かりました。思ったよりヒラメが元気で、水槽のふたを開けると勢いよく水面から飛び出して、口をパクパクさせています。ふたが開くとエサがもらえると分かっていることに感心します。ヒラメが逃げ出した時に手際よく水槽に戻すことができなくて苦労したこともあります。エサを食べないなどいろいろなことが起こりますが、クラスみんなで相談しながら協力してヒラメを育て、さまざまなことを学んでいます。

学校に来て約1カ月のヒラメ。人が見ているとエサを食べないなど、それぞれ性格の違いがあるそうです。学校に来て約1カ月のヒラメ。人が見ているとエサを食べないなど、それぞれ性格の違いがあるそうです。
毎日当番を決めて水槽の掃除とエサやりを担当します。ふたを開けると勢いよくヒラメが寄ってきます。毎日当番を決めて水槽の掃除とエサやりを担当します。ふたを開けると勢いよくヒラメが寄ってきます。
ヒラメの養殖体験を通して
未来への想像力=生きる力を
NPO法人日本養殖振興会 代表理事 齊藤浩一先生NPO法人日本養殖振興会 代表理事/齊藤浩一先生

 ヒラメの養殖は、例年4月にヒラメを迎えて生徒が育て、12月に全員で感謝して食べます。私は料理人として食を扱っていくなかで、“命の意味”を知ってもらう活動を行うために、2002年にNPO法人を立ち上げました。現在は小学校15校、中学校3校、高校の部活動5校で活動しています。

 この活動を始めて、保護者のみなさんから『食べ物に向き合う子どもの気持ちが変わった』という声を聞きます。また、生徒たちからも『いのちの意味と、“食べるという行為”を考え直した』という感想を聞きました。半年以上も育てていると、ヒラメへの愛情がわいてきますが、「いただきます」と感謝して食べる、その感謝の心を導くのが授業の最大のテーマです。

 加えて生徒たちは、最後に『未来新聞』を作ります。これは養殖の利点と欠点を知ったうえで、将来こんなことができるのではないかという提案をする新聞です。養殖を研究している北里大学や近畿大学の先生方にお見せして、生徒の発想に刺激を受けたという感想をいただきました。日本は高い養殖技術を持っていますが、その技術を広く応用するにはいまだ課題が山積みです。人間はたとえ道具を持っていても、それをどう使うか想像できなくては道具が役に立ちません。自分で想像して考え、行動することはすなわち“生きる力”につながると思います。

進学通信 2022年8月号
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