私立中高進学通信
2022年8月号
実践報告 私学の授業
女子聖学院中学校
データサイエンスが切り拓く
探究学習の新たな可能性
データを活用するスキルを磨く
中学では総合学習は週2時間。
取材当日の中2の授業では、前半の1時間に全クラスが同時に先生から調査についての講義を受けました。
iPadを使って、全数調査や標本調査にはどのようなものがあるかを入力します。
文系理系に限らず必要なデータサイエンス
スクールモットーである「神を仰ぎ人に仕う」を土台として、「仕える人になる」を6年間のテーマに、昨年度より総合学習の中で探究学習「マイ・コンパスプロジェクト」を行っている女子聖学院。
探究学習の両輪には、情報社会におけるICTのよき使い手になるための「デジタル・シティズンシップ教育」、生徒一人ひとりが他者との関わりを通して自己理解を深め、自分らしさを活かしたリーダーシップを開発していく「リーダーシップ教育」がプログラムに組み込まれ、“自律した学習者”として自ら発信し表現できる人になるための力を育成しています。そして探究学習で注力しているのが、データサイエンスの視点を学びに取り入れることです。
データサイエンスとは、統計学など数学の知識を駆使してデータを分析し、新たな価値を導き出す研究分野。高度な情報化社会となった現在、世界共通の学びとして数学に基づいたデータサイエンスの重要性は高まっています。探究委員会委員長で数学科の川村明子先生は、このスキルを中学・高校年代で身につける必要性を強調します。
「これからの時代、政府や企業をはじめ、どのような組織体においてもデータをうまく活用できるスキルが求められています。文系理系の垣根を越え、10代のうちから研究者の視点で、データがどのように集められ、それをいかに運用していくかを吟味する姿勢を育てていくことは、学校の責務であると考えています」
社会的な課題に目を向けるとき、どのような情報が必要で、どれだけの情報が既に集まっていて、収集された情報に漏れはないのか――。授業でそれらを一つひとつ丁寧に見ていくことで、「データサイエンスの視点を自然と身につけられるようにしています」と川村先生。
さらに最も大事なのは、「生徒間で考えや気づきを共有すること」だと話します。
「教員からの一方通行では、知識を修得したことになりません。生徒間で話し合い、論理的思考力で考えをまとめ、発言できる力を身につけることを大切にしています。海外ではきちんと自分の言葉で伝えないと何も考えていない人と判断されます。今の時代、課題に対処するにあたっては、個々人がさまざまな意見を出し合ってこそ解決策が見えてきます。すぐに自分の考えが出なかったとしても、他者の意見に耳を傾け、そこから導き出されたことを自分の中にどのように取り入れるかを考える。そうした小さな積み重ねの機会が生徒の成長の鍵になると考えています」(川村先生)
取材に訪れた日の中2の授業では、全数調査と標本調査に分かれる統計調査の種類や調査方法を川村先生が講義。その後、生徒たちはグループに分かれ、身近にある全数調査と標本調査の例とその特徴を話し合いました。そして、次回の授業に向けた宿題として、自分たちでどのような標本調査ができるかを考えることになりました。世にあふれかえる情報を捉え解析する力が、同校の生徒たちの将来の可能性を広げることでしょう。
自分軸を作る!マイ・コンパスプロジェクト
同校の探究学習では、生徒一人ひとりが自分の軸を持ち、“自律した学習者”として自分の意見や考えを表現できる人になることを目指し、6年間の「マイ・コンパスプロジェクト」に取り組みます。中1の「自分にとって学びとは何か」という学び方を学ぶことから始まり、中2で社会的な視野を広げ、中3では「自分はどんな未来社会を作りたいか」をテーマに探究を行います。さらに高校では、「自分が思い描く未来を創っていくためにはどんな関わり方ができるのか」など、進路に目を向けた探究へとステップアップしていきます。中高一貫校ならではの利点を活かし、順序立てて、時間をかけて探究を積み上げることで、確かな進路選択にもつなげています。
ICTの活用を正しく理解
デジタル・シティズンシップ教育
中1から高1までの4学年全員が一人1台のiPadを持ち、探究学習はもちろん、教科学習でもツールとして活用しています。同校では、iPadを使用するうえで守るべきルールを生徒たち自らが考えています。生徒、教員、保護者の3者がICTを賢く使いこなし、よき社会の担い手になることを目指す「デジタル・シティズンシップ教育」を展開。ICTを積極的かつ効果的に活用しながら、自分で考え、使いこなすことができる、これからのデジタル時代には欠かせない力を育んでいます。
6年間の学びのスタート
中1は「学習方略の探究」にチャレンジ
6年間の探究学習のスタートとなる中1では、まず、“学び”への好奇心に焦点を当て、学習そのものを見つめる「学習方略の探究」に取り組んでいます。学習方略とは、「学習効果を高めるための意識的な工夫」のこと。自分に合った学び方について考えることで、自分を知り、学びの伸びしろを広げます。入学後の4月から9月まで、日々の学びから自分なりの効果的な学習方法を探り、10月にポスターにまとめて発表します。
「学習方略」ポスター。分析、課題、学習方法、目標などを簡潔明瞭に表現する力を磨いています。
知識やテクニックの詰め込みではなく
思考力と論理力を育みたい
情報化社会において、情報を鵜呑みにしない、数に惑わされない、ステレオタイプにならないためにはどんなスキルが必要なのか。この視点のもと探究学習では、ただ知識やテクニックを詰め込むのではなく、自分の頭で考え、相手が理解できるように説明する力を育てることも重視しています。言葉に出すことによって、考えが整理され、論理力は鍛えられます。いろいろな人と話すことで気づきも生まれますので、グループでの話し合いも大切にしています。
(この記事は『私立中高進学通信2022年8月号』に掲載しました。)
女子聖学院中学校
〒114-8574 東京都北区中里3-12-2
TEL:03-3917-2277
進学通信掲載情報
PICK UP!!
紹介する学校
- 独自の『フィールドワーク』で比較・分析する探究力を育む上野学園中学校
- 自分らしさを活かす力を育む『共立リーダーシップ』共立女子中学校
- 21世紀に活躍できる“世界市民”を育成サレジアン国際学園中学校
- PBL型授業が世界に羽ばたく力をはぐくむサレジアン国際学園世田谷中学校
- 『創造性の開発と個性の発揮』に基づく、アカデミックな探究学習芝浦工業大学柏中学校
- 中学3年間で探究スキルを身につける城西大学附属城西中学校
- データサイエンスが切り拓く 探究学習の新たな可能性女子聖学院中学校
- 図書館との連携で思考力・表現力を育む成城中学校
- 中高全学年必修の「創造性教育」で 創造性と起業家精神を育成瀧野川女子学園中学校
- 世界で通用する力を身につけ 社会を変える「勇者」を育てる千代田中学校(現 千代田国際中学校)
- 学校ルーブリックに基づき 宿泊行事をリニューアル田園調布学園中等部
- 「いのちの大切さ」を軸に生きる力を育む東京農業大学第三高等学校附属中学校
- 未来を創造する主体的な 『探究女子』を育成トキワ松学園中学校
- SSH指定校の経験とノウハウを活かし 先進的な探究学習に取り組む文京学院大学女子中学校
- 今後の社会で活躍できる力を 積極的に育成するGCP文教大学付属中学校
- 中学からの「答えのない学び」が 高校の『探究』の授業で花開く宝仙学園順天堂大学系属理数インター中学校
- 探究学習を組み込んだ インタラクティブな授業横浜女学院中学校
- 1歩先へ踏み出す力を養う 『翠陵グローバルプロジェクト』横浜翠陵中学校
- 自ら問いを見つける NCLニコル プロジェクト神田女学園中学校
- 生徒の心に種を植える 企画を続々進行中!佐野日本大学中等教育学校
- 企業との商品開発を通し フードロス問題を考える青稜中学校
- 学びを深め、心を耕す 『土と生命の学習』千葉明徳中学校
- 2つの新コースが始動! SDGsを軸に世界の諸問題を考える二松学舎大学附属柏中学校
- 社会貢献の第一歩が まっすぐ未来に続く富士見中学校
- プレゼン発表会で「私の解決策」を!星野学園中学校
- 「今、私たちにできること」 SDGs研究会の取り組み麗澤中学校
- 学びの意欲を育むプログラムを盛り込んだ 2つの新しいコースを導入春日部共栄中学校
- 中高一貫の大学付属校のメリットを活かし 生徒たちの成長を全力でサポート日本大学第一中学校
- 指導体制を整え 英語4技能を伸ばす富士見丘中学校
- 将来の進路の幅を広げる ダブルディプロマコース文化学園大学杉並中学校
- 学びの集大成として中3が 英語劇の動画を制作浦和実業学園中学校
- 自ら進んで勉学に取り組む 人間形成の3年間狭山ヶ丘高等学校付属中学校
- 45分間の『朝活動』で アカデミックな学習を実践城北中学校
- 英語で多様なテーマを学び、 意欲を引き出すGCP東京女学館中学校
- 思考力・発信力を伸ばす 独自の授業『哲学』東洋大学京北中学校
- 『他者理解』を実践的に育む オリジナル国内型英語研修武蔵野中学校
- "世界"とつながる "ホンモノ"に出会う『土曜講座』八千代松陰中学校
- 「自ら考え、判断できる若者を」 将来を踏まえた教育を徹底獨協埼玉中学校
- 広大な敷地が自慢!自然豊かな環境で過ごす学校生活共立女子第二中学校
- 勝った喜びも負けた悔しさも宝物日本大学豊山中学校
- 授業の面白さ、先生との距離の近さが何よりの魅力です普連土学園中学校
- さまざまな国際生が集う 学園生活でダイバーシティを当たり前のものに啓明学園中学校
- 好奇心から「学び」を楽しめば 人生が豊かになり、失敗経験も生きる力に変えていけます麴町学園女子(麹町学園女子)中学校
- 生徒が楽しいと思える 「学び合い」の授業を実践京華女子中学校
- 生徒に寄り添う存在をめざして淑徳中学校
- 合言葉は「チャレンジ」 一人ひとりの将来を見据えた教育を実践武蔵野大学中学校