私立中高進学通信
2022年8月号
実践報告 私学の授業
トキワ松学園中学校
未来を創造する主体的な
『探究女子』を育成
独自の探究教育がSDGsの担い手を育む
『GBC』のメンバー(全員高3生)。左から、Hさん、Aさん、Yさん、Mさん、Nさん。
『GBC』は『Glue Blue Crew』の略。日本と海外の子どもたちをつなぎながら、
船員のように世界を知りたいという思いから命名されました。
生徒が自主的に
国際交流団体を結成
『探究女子』の育成に力を入れるトキワ松学園では、生徒の主体性を大切にした探究活動を多く行っています。日々の授業で行ってきた“探究”が実を結び、生徒5名が、国際交流のための学生団体『GBC』(Glue Blue Crew)を自主的に立ち上げました。
「GBCは、子どもたちに世界の文化に触れてもらい、さまざまな社会問題を知ってもらうことを目的とする学生団体です。コロナ禍で国際交流が難しい今、自分たちに何ができるかを考えるなかで、食を通じた活動に行き着きました」
とYさん(高3)は話します。JCI JAPANグローバルユース国連大使(※1)を務めるYさんが、2021年、高2の時にクラスメートに声をかけたことから活動が始まりました。
子ども食堂でボランティア活動に従事するNさんは、子どもの貧困問題への関心から、イギリスとカナダに留学経験のあるMさんは、さらに国際的な視野を広げたいとの思いから、GBCへ参加することに。大学でSNSが人に与える心理的効果を学びたいと考えていたHさんは、SNSの運用面からGBCをサポートしたくて参加したと言います。
GBCは2021年12月に第1回『グローバルキッチン』を開催しました。日本で働く海外の方をゲストに招き、小学生にオンラインで海外の料理をつくってもらい、味わってもらいながら、国際交流を楽しむイベントです。ベトナムの方を招き、ベトナム料理のフォーを参加者とともに味わいました。2020年2月には、タイの方を招いて第2回を開催。タイ料理のガパオライスを堪能しました。さらに6月には、マレーシアの方を招き、第3回を行う予定です。
※1 JCI JAPANグローバルユース国連大使…全国各地の青年会議所を通じて日本中から高校生の参加者を募集。選考を通過した学生を対象に、世界の学生と課題に取り組む海外研修を行う事業です。
廃棄物の稲藁を利用し
新しい繊維の開発を
探究学習を通して、さまざまな事柄に興味を抱いたYさんたちは、授業で身につけた調べる力や他者と協働して最適解を導き出す力を発揮し、自分たちの力でイベントの企画・運営を行っています。『GBC』の誕生は、同校ならではの探究教育の大きな成果といえるでしょう。
『GBC』のほかにも、注目すべき『探究女子』がいます。『稲藁利用による新繊維の開発』の探究を行ったSさん(高3)です。Sさんは自ら探究したこの活動によって「全国高校生マイプロジェクトアワード(※2)2021東京都地域特別賞」と未来の研究者の登竜門である「サイエンスキャッスル(※3)2021関東大会奨励賞」に輝きました。『GBC』のメンバーやSさんの活躍は後輩たちに刺激を与え、多くの『探究女子』を生み出そうとしています。
※2 全国高校生マイプロジェクトアワード…探究学習・マイプロジェクトを実行した全国の高校生が一堂に会し、活動の発表・参加者との対話を通して次の一歩を考える日本最大級の「学びの祭典」。
※3 サイエンスキャッスル…中高生研究者が集まり、自らの研究を発表し議論し合うアジア最大級の学会。
生徒がSDGsを実践! コロナ禍でも持続可能な国際交流
食を通じて子どもたちと海外文化を結びつけるオンラインイベントを企画・運営
子どもたちがオンラインで国際交流を体験できるイベント『グローバルキッチン』を企画・運営する『GBC』メンバーの皆さんに話を聞きました。
――『グローバルキッチン』の企画にあたって、どのようなことを心がけましたか?
Yさん
食べることは大人から子どもまで楽しめることなので、食を通じた国際交流をしようと思いました。まず、私たちが外国の方と一緒にその国の料理をつくり、作り方を動画にして参加者の皆さんに配信します。これを前もって見て、料理をつくった状態でオンラインイベントに参加してもらうようにしています。
みんなで同じ料理を食べながら、その国の生活様式や文化について、海外の方に質問したり、クイズをしたり、楽しく交流できるように工夫を凝らしました。
Nさん
『グローバルキッチン』はオンラインで行われ、対面ではないので、どうすれば短い時間で心が通い合えるかを考えながら会話しました。子ども食堂でのボランティアで学んだ小学生への接し方が役に立っています。
Mさん
SNSで発信するだけでなく、近隣の小学生にもチラシを配りました。その結果、第1回の参加者は2人だけでしたが、第2回は7人に増えました。第1回に参加した2人もまた参加してくれました。
今後は『グローバルキッチン』とは別に、私たち一人ひとりが独自に研究していることを紹介するオンライン講座も開催していきたいと考えています。
Hさん
イベントの楽しさが伝わるようにInstagramの投稿にイラストを入れるなど工夫を重ねたところ、フォロワーが1週間に10人も増え、成果が数字となって現れたのです。これは大きな一歩でした。多くの子どもたちに参加してもらえるようにSNSで情報を発信していきたいと思っています。
自らの興味を探究課題に各賞を受賞し、研究にまい進
授業で知り、興味をもった課題を自主的に探究
環境問題とファッションに以前から強く関心をもっていたSさん(高3)は、高1の『思考と表現』の授業で、使い捨てのファストファッションの流行がエネルギーの大量消費や有害物質の放出、河川の汚染といった問題を生み出していることを知ったそうです。
自分に何ができるかを考え抜いたSさんが思いついたのが、米作りの後、不要となる稲藁(稲の籾を取り去った残りの茎葉)を使った繊維を開発することでした。
Sさんは何度も実験を繰り返し、水酸化ナトリウムを用いて稲藁を繊維化することに成功しました。
「まだまだ服をつくる段階には至っていませんが、2つの企業に研究費を出していただけないかとお願いし、その返事を待っています。将来は研究者か起業家、あるいは政治にかかわるような仕事に就いて、環境保全のために貢献できたらと思っています」
ココも注目!
探究教育を発展・体系化させ
未来の社会を創造できる女性を
トキワ松学園の『探究』の授業を担当する菅原孝宏先生に話を聞きました。
「本校では、探究学習が注目される前から、正解のない問いに取り組む力を養い、『探究女子』の育成をめざして、あらゆる教科で探究の取り組みを実践しています。また、中1と高1では本校オリジナルの授業『思考と表現』を行うことで、探究学習の土台となる思考力と表現力を養っています。
2022年度からは、文部科学省の新学習指導要領により、高校に探究学習科目『総合的な探究の時間』が設けられました。これを機にこれまでの探究教育を発展・体系化させ、問いの立て方やアイデアを生み出す手法を改めて基礎から教えることになりました。その手始めとして高1全員がチームを組んで、企業の課題に対して新しいサービスや商品を発案するコンテスト『クエストエデュケーション』に取り組んでいます。本校ではこれまで以上に探究教育に力を注ぎ、未来の社会を創造できる女性を育てていきます」
(この記事は『私立中高進学通信2022年8月号』に掲載しました。)
トキワ松学園中学校
〒152-0003 東京都目黒区碑文谷4-17-16
TEL:03-3713-8161
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