私立中高進学通信
2022年8月号
実践報告 私学の授業
文京学院大学女子中学校
SSH指定校の経験とノウハウを活かし
先進的な探究学習に取り組む
答えのない問題に向き合い社会を生き抜く力を育成

中学の探究授業「探究の基礎」の様子。
ホームルームなどの時間にも、学校行事や校外学習と関連づけた探究活動が行われます。
これからの時代に
必要とされるのは探究力
「学習指導要領」の移行に伴い、2021年度より中学校、2022年度より高等学校でも探究学習を正規授業として行うことが必須となりました。「仮説・検証」のプロセスで思考を深め、発信力を高める学習活動に早くから取り組んできた同校では、今までの実績をもとに、「大学受験はもちろん、これからの社会を生きるうえで最も必要とされる力である」(佐藤泰正副校長)という考えに基づき、シラバスの改定を行い、今まで以上に「探究力」の育成に注力しています。
同校は2012年度~2017年度は、文部科学省指定のSSH(※1)、2015年度~2019年度は、SGHアソシエイト校(※2)として活動した実績があり、その過程で開発された独自の探究プログラムを教育に取り入れてきました。たとえば高校の理数キャリアコースでは、1人1つずつ興味のある研究テーマを設定し、3年間調査・研究に取り組みます。そして高3の春には、教育提携を締結しているタイの科学技術高校(Princess Churabhorn Science High School)と科学交流を行っており、全員が研究成果を英語で発表します。理数キャリア以外の2コース(国際教養、スポーツ科学)でも探究活動の成果を、キャリア甲子園をはじめとする外部コンクール、コンテストに出展し、上位に入賞した実績があります。
「近年、大学入試の仕組みが大きく変わりつつあり、総合型選抜入試では“高校時代に何をしたか”を問われることが増えています。その時、自分ならではのテーマで研究に打ち込んだ経験があると有利であることは、これまでの実績からもわかります。実際、本校には総合型で進路を決める生徒も多く、探究活動が卒業後の道へとつながっていることを実感しています」(佐藤副校長)
中学・高校の全学年で行われている探究活動は、こうした長年の探究プログラムで培ったノウハウを最大限に活かし、進化させたものになっています。
※1 SSH(スーパーサイエンスハイスクール)…文部科学省が指定する先進的な理数教育を実施する教育研究校。
※2 SGH(スーパーグローバルハイスクール)…文部科学省が国際舞台で活躍する人材育成に取り組む高校を指定し、支援する制度。
アニメやゲームを教材にした
独自の探究カリキュラムも
探究の授業は、中学は週1時間、高校は週2時間。授業には理系・文系から1名ずつ、計2名の教員が参加します。
中高6年間をかけて段階的に探究力を磨き上げるプログラムになっており、中1の初めは自分の意見を伝えたり、相手の話をしっかり聞いたりなど、協働的な活動を行うための基盤づくりからスタート。中学校の3年間で、仮説を立て検証するプロセスを何度も繰り返しながら、言語運用能力、数理分析・情報活用能力、問題解決能力を磨いていき、高校では発展的な研究に取り組みます。
同校の先生方は、探究授業が正課となる以前からどのようなカリキュラムにするか検討を重ねてきました。結果としてその多くは、先生方がさまざまな資料を参考にしながらオリジナルで組み立てたものとなっています。「特に中学生にとっては、まず “探究の授業は楽しい”と思えることが重要」という佐藤副校長の言葉通り、授業で扱うテーマはアニメやゲーム、有名大学の入試問題など、バラエティに富んでいます。問いを立てる授業では、アニメのプリキュアシリーズが教材に。生徒からは「プリキュアのメンバーはどうして女の子ばかりなの?」「なぜ一人ではなくチームで戦うの?」などの問いが生まれたそうです。授業の最後に振り返りの時間を設けることで、その日、学んだことの確認と次の課題設定を行います。
「今や、子どもの学力を教科のみで測る時代ではありません。探究力を重視して評価する傾向はさらに強まっていくでしょう。
本校は教育の柱の一つとして、“国際教育”を掲げています。国際教育に欠かせない多様性を学ぶことも、探究学習の大きなねらいです。生徒たちには、多くの人と意見を交わすことで、考え方は一つじゃなくていいと気づいてほしいですし、『あなたはどう思う?』と聞かれた時に自分の意見をきちんと言える人間になってほしいと思います」(佐藤副校長)

タイの提携校との科学交流。
高2の終わりに選抜メンバーがタイを訪れ、
自らの研究について英語で口頭発表を行います(コロナ禍においてオンラインで実施)。
生徒の声
探究授業を受けた生徒たちの声
「都電がバリアフリー設計であることを映像で学習してから、フィールドワークに臨みました。実際に自分の目で確認したことで、『検証』とは何かも学びました」(K・Kさん/中2)
「論文の構成について考える授業で感じたのは、自分の考えをより正確に相手に伝えることの難しさです。いつかクラス全員で1つの仮説を立て、論文を書いてみたいです」(Yさん/中2)
「もう一人の生徒とペアを組み意見交換する“ペアワーク”では、自分にはない新しいものの見方を発見できました」(Mさん/中2)
「図形の形状がどんなものか、言葉で聞いただけでどんな図形かを考える“図形伝言ゲーム”を体験。元になる図形は同じなのに、みんな表現や受け止め方が違うことに驚きました」(Iさん/中2)
「英語で招待状を書く授業では、5W1Hのうち1つでも情報が欠けると、相手への状況説明が難しくなることを学びました。英語の長文でも5W1Hを使った説明にチャレンジしてみたいです」(Yさん/中2)
「『探究実践Ⅰ』では、水溶液を電気分解し電極の反応を確認しました。実験結果を正確に観察し記録することが、別の教科で学んだ内容の裏付けにもつながりました」(Aさん/高2)
「日常生活で疑問を感じたことに対し、自分で仮説を立てて検証できるところに、探究授業の面白さがあります。探究授業で得た知識を、自分の研究に活かしていきたいです」(Hさん/高2)
「もっと知りたい!学びたい!」と思わせる探究学習
全国レベルのコンテストで評価される研究も
《研究課題の一例》
- トライアングルの力を100%引き出すための周波数解析
- 梅干しに含まれる有機物の制菌効果
- 日本とフィリピンの未成年の犯罪
- 日本の小学校における異文化学習
高校は理数キャリア、国際教養、スポーツ科学の3コース制。いずれのコースにおいても、生徒各自が興味のある課題を設定して研究する探究活動が活発に行われています。テーマを自由に設定できるため、主体的に疑問を追究する姿勢が自然と生まれます。そうした研究の成果が、学外のコンテストで高い評価を受けることも少なくありません。
2019年に行われた第17回JSEC(高校生・高専生科学技術チャレンジ)で、高2生が数学をテーマとした研究で審査委員奨励賞を受賞。また、日本最大規模の高校生向けビジネスアイデアコンテスト「キャリア甲子園2021」では、新しい旅の形を考えた高2生チームが準決勝に進出しました。

第17回JSECで審査委員奨励賞を受賞した研究テーマは
「ピザの定理の正N角形への拡張 -内部2N角形と外部の対称性を用いた証明-」でした。
ココも注目!
教育提携校の存在が
グローバルな探究力を育む

探究の授業だけでなく、各教科でも「答えのない問い」を取り入れるよう心がけています。英語科の私の授業でも、教科書から少し離れてウクライナ問題について話し、「戦争をやめるにはどうしたらいい?」と問うことがあります。もちろん答えは簡単に出るようなものではないのですが、それでもあらゆる面からとことん考えるという探究の姿勢が、将来生徒たちの大きな武器になるのです。
2022年1月、教育提携を結ぶアオバジャパン・インターナショナルスクールの文京キャンパスが本校敷地内に開校しました。両校のかかわりの中で、生徒たちが国境を超えた協働についてより深く理解してくれることを期待しています。
(この記事は『私立中高進学通信2022年8月号』に掲載しました。)
文京学院大学女子中学校
〒113-8667 東京都文京区本駒込6-18-3
TEL:03-3946-5301
進学通信掲載情報

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