私立中高進学通信
2025年7月号
今こそ心の教育
普連土学園中学校
海外研修や奉仕活動で培われる
自ら考え、行動する力
週1回のYWCAのミーティング。青木先生を囲み、聖書をひもとくほか、今後の活動についても話し合います。
生徒・教員が共有する
4つの普遍的価値観
校長/青木直人先生
キリスト教フレンド派(クエーカー)の創始者、ジョージ・フォックスの言葉 “Let Your Lives Speak(生き方そのもので語れ)”をモットーに、「自由」「平等」「対話」「平和主義」を教育理念に据えた女子教育を行っている普連土学園。
「本校の特徴の一つに、『自由』と『平等』を重んじる校風を徹底していることが挙げられます」と語るのは、校長の青木直人先生。
「あらゆる権威、キリスト教の伝統にさえ縛られない『自由』、そして神の前では全ての人間が『平等』---この理念は創立以来、教員が生徒を呼び捨てにせず、教室に教壇がないところにもよく表れています。教員と生徒は、教える側と学ぶ側という役割の違いでしかないという考え方に基づきます。
対立を解決するには、粘り強い『対話』以外を用いず、それは武力を行使しないという絶対的『平和主義』へとつながります。この『自由』『平等』『対話』『平和主義』は、普遍的な価値観として『生徒の栞』にまとめ、全教員・生徒間で共有しています」
この普遍的価値観は、同校で過ごす生徒たちに深く浸透し、学校に対する自分の考えを校長先生に堂々と述べにくる生徒も多いそうです。
「コロナ禍だった2020年度はやむなくリモート授業を行いましたが、当時の中3生たちが『安易にリモートにしたり、学校行事を中止しないでほしい』と訴えてきました。学校が救いの場になっている友人もいるという理由からの行動で、友を慮る彼女たちの優しさに感動しましたし、コロナが再び猛威を振るい始めても、すぐに休校措置はとりませんでした。教育では、やはり顔と顔を突き合わせて対話することが大事だと思うのです」
一方的な自己主張ではなく、他者を顧みて行動する生徒たちがもつこの優しさに、同校らしさがうかがえます。
それは、2年前から始まった海外研修「カンボジア アキ・ラー プロジェクト」のエピソードからも感じられます。同校ではカンボジアの地雷撤去活動への支援を長年続けてきましたが、このプロジェクトでは生徒自らが献金を現地に届け、視察まで行います。高2生から有志を募りますが、最大4名という定員に多くの志願者が殺到し、論文など厳しい審査を経て参加者が選考されます。
第1回の説明会では椅子が足りなくなりましたが、生徒は誰一人椅子を使わず、全員が直接床に座ったそうです。また、惜しくも選考から漏れ悔しい思いをした生徒が、選抜された生徒に「頑張ってね」とそっと声をかけた光景も忘れられないと青木先生は目を細めます。
「本校の生徒は、誰か一人が損をすることを潔しとしません。聖書には『喜ぶ人と喜び、泣く人と共に泣きなさい』という言葉があります。一緒に泣くことは比較的容易ですが、自分が喜べない状況にあって他者のために共に喜ぶのは難しいものです。それができる生徒たちの姿に、教員も励まされます」
異質なものとの出会いが
生徒の世界観を変える
同校の一日は毎朝20分の礼拝から始まります。なかでも水曜日に行われる「沈黙の礼拝」は、無言を貫き神からの「内なる語りかけ」(自分の思い込みを捨て去り、他者からの語りかけ)に耳を澄ます大切な時間です。
「SNSなど言葉の洪水にさらされている生徒たちが、言葉を封じ、自己の思いを消すことで、何が聞こえてくるのかを確認する時間です。最も心に残ったことに沈黙の礼拝を挙げる卒業生は多く、皆一様に実社会でも役に立っていると口にします。現代社会では人々の聞く力は衰えていると感じますが、本校の生徒は礼拝を通じて、相手の話を聞く姿勢が身につくのだと思います」
同校では米マウントホリヨークカレッジでの「セルフディベロップメントプログラム」のような海外研修、YWCA(※)の活動など、少人数で参加するプログラムが数多く用意されています。
「個人や少人数で挑戦できる活動の選択肢を増やしていきたいと考えています。生徒が活動を通して他者と対話を重ねるなかで、感じたことを言語化して、より深く内省できるからです。例えばカンボジアでは、異文化のなかで、自分の価値観が揺さぶられるような体験をします。異質なものとの出会いによって、これまでの常識が覆されることに気づき、自分が目にする世界が変わり、広がっていきます。このような体験を重ねることで、異質なものへの寛容の心も養われます」
フリージアホール(自習スペース)のリニューアルでは、空間デザインを有志の生徒たちに任せるなど、主体性を育むことも大切にしている同校。
「本校でさまざまな経験をするなかで、自ら考え、行動し、対話を続ける手法を学び、世界の人とつながり、培った力を他者のために使える成熟した人間に成長してほしいと願っています」
※YWCA(Young Women’s Christian Association)…キリスト教を基盤に、世界中の女性が言語や文化の壁を越えて力を合わせ、女性の社会参画を進め、人権や健康や環境が守られる平和な世界を実現する国際NGO団体。


校長室で行われる高校「選択宗教」の授業。受講生のN・Eさん(高2)が、
聖書の成り立ちをはじめ、西洋思想の基礎となるキリスト教にまつわるさまざまな興味深いトピックを、
青木先生とマンツーマンで学んでいました。生徒に寄り添ったていねいな講義で、教養が深まります。
「中1で学んだ聖書の基礎知識を詳しく学んでみたいと思って受講しました」(N・Eさん)
YWCAの活動に参加しているのは全9名(取材時は7名が出席)で、高3生も含まれます。
「余裕を失わず、あらゆる方向に窓を開けておくことが、受験にも役立つはずです」(青木先生)
INTERVIEW
YWCAの活動について聞きました!
Y・Kさん(高3)
――YWCAでは、どのような活動をしていますか?
「週に1度のミーティングで、聖書研究と今後の予定について話し合っています。学外での活動として、毎月第3土曜日には、教会のフードパントリー(食品支援)のお手伝いを、毎夏に開催される中高YWCAカンファレンスでは、全国のキリスト教学校で学ぶ学生YWCAとの交流を深め、お互いの活動を共有しています」
――活動に参加する理由は?
「『世界中の女性が言語や文化の壁を越えて力を合わせる』というYWCAの国際理念に感銘を受けたことがきっかけでした。女性の社会参画が推進されるなか、私たち女性には『誰かのために今何ができるのか』という事柄について思い巡らすことが大切であると思いました。また、以前から老若男女、さまざまな人々と話す機会をもちたいと思っていました。そこで得た多様な視点が、将来を担う私たちに、手がかりとなる導きを与えてくれると思ったからです」
――活動を通じて学んだことは?
「フードパントリーのお手伝いを通して、ひとり親家庭や生活に困っている方々が大勢いるという現実に向き合うことができました。活動終了時には、1日の気づきをボランティアの皆様と共有することで、自分が知っていると思っていたことが実は知らないことばかりだったと改めて学びました」
――楽しかったことは?
「初対面の方々と交流するなかで、自分の知らない世界を知ることができて、とても有意義な時間を過ごせました。『今日はどのような方々にお会いできるのだろう』と思いながらお話しすることが、活動するうえでの一つの支えとなっています」
――この活動でやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?
「皆様の喜ぶ顔を見た時です」
――今後どのように活動を広げていきたいですか?
「キリスト教についてさらに見識を深め、学園近隣の方々と交流する機会を増やしていきたいと思います。また、世界中とネットワークを築けるような国際プログラムを設立したいと考えています」
――この経験を将来どのように役立てようと考えていますか?
「何事も第一歩を踏み出して挑戦してみることが大切であると実感しています。世界には私たちの知らないことがたくさんあり、さまざまな境遇の人々が生きていると改めて実感する機会となりました。将来は、困っている方々を親身になって支え、何かをしていただいたら恩返しできるよう努力することを心に留めておきたいです」
(この記事は『私立中高進学通信2025年7月号』に掲載しました。)
普連土学園中学校
〒108-0073 東京都港区三田4-14-16
TEL:03-3451-4616
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