私立中高進学通信
2025年8月号
実践報告 私学の授業
桐朋女子中学校
自立的・主体的な学習者を育成
プロジェクト型探究『T‐Project』
桐朋教育のエッセンスが詰まった探究活動

探究シーン1
毎週水曜日の4時間目に行われる高1の『T-Project』の授業。
1年間の『探究計画書』を発表し、クラスメートからフィードバックをもらいます。
『T‑Project』は、桐朋女子の頭文字“T”と「Project‑Based Learning」をかけ合わせた校内呼称です。
『T‐Project』は、生徒一人ひとりに寄り添い、“対話”を重視する「桐朋教育」が凝縮された取り組み。興味のあるテーマから問いを探し、自分で学習計画を立て、成果を発表し、自己評価をするところまで、自律性を重んじています。
自分、そして他者に
とっての価値を創出

「自立した個」の育成を理念に掲げ、自ら考え、行動する力を重視する桐朋女子。自由と自主性を尊重する校風のもと、少人数制授業や探究型学習を通じて、社会性・創造力・論理的思考力・問題解決力を育んでいます。
生徒主体のプロジェクト学習『T-Project』は、同校の教育理念を体現する取り組みです。2022年度に高1を対象にスタートし、2024年度からは中3にも拡大されています。
中3では、研修旅行先である「東北」をテーマに、探究の流れを実践し、基本的なスキルを身につけます。まず前期は東北地方について各自が自由にテーマを設定し、探究の起点となる問い=『リサーチクエスチョン』を考えて仮説を立て、調査を進めます。7月の東北研修旅行では現地でインタビューや実地調査を行い、8月~9月には得られた情報をもとに考察し、自分なりの結論をまとめます。
10月から12月には、グループごとに自由なテーマで探究活動を行い、さらに幅広い調査・実験方法を模索します。そして、1月から3月は、高1での個人探究に備え、自分の興味・関心を深掘りしていきます。
「T-Projectは、あらかじめ決められた課題に取り組むわけではなく、生徒自身が自分との対話を通して自己探求し、身近な関心から問いを立て、ゴールを設定し、研究を進める“プロジェクト型学習”です。活動を通して、物事の一面だけでなく、複数の視点から考える意識や、友人や教員、家族など他者の意見を積極的に取り入れる姿勢が養われていきます」(T-Project担当・国語科/峯和彦先生)
探究計画や評価基準(ルーブリック)
も自分で決める

高1からは、本格的な個人探究がスタート。何を問いとするのか、どのようにプロジェクトを進めるのかについて生徒一人ひとりが構想を練り、探究計画を立案します。仮説を立て、さまざまな方法で調査や実験を行うほか、専門家や卒業生など学校外の人たちとの連携も積極的に進めています。
また、特徴的なのは、評価のための「ルーブリック」を生徒自身が作成する点です。「創造性・独創性・創意工夫」「俯瞰する力」「チームワーク・市民性」など24項目から3つを選び、『現状』『成長途中』『到達点』の3段階で自己評価を行います。
生徒は自ら学びのゴールを設定し、日々の学びを振り返りながら、次の行動に活かします。この経験こそが、同校が育てたい「自律的な学習者」への第一歩になるのです。
5月のこの日は高1のT-Projectの授業で、クラスごとに個人探究のテーマや探究計画についての口頭発表会が行われていました。発表後は、クラス全体で質問や意見を出していきます。率直に疑問点を出すことで、議論が盛り上がります。発表する生徒もそれに聞き入る生徒も、意見を述べ合うことを楽しんでいました。
「生徒にアンケートを取ったところ、『T-Projectを通じて好奇心や積極性、創造性、自己調整力が高まった』との声が多数寄せられました。また、テーマを追求する過程で、仲間との協働や取材相手との対話を通じた学びが、知的柔軟性やコミュニケーション力の育成にもつながっています。
この経験を土台に、未来に向けて自ら課題を見つけ、学び続ける力を育んでいってほしいと願っています」(T-Project探究推進委員会前主任・社会科/吉崎亜由美先生)

発表ごとに質疑応答が行われます。一人ひとりの計画に全員が耳を傾け、「どのように実験をするのですか?」などの具体的な質問も。対話を大切にする同校ならではの風景です。

発表に対するアドバイスを書いた「リアクションペーパー」を記入します。質疑応答で気づかなかったことも細かく記入できます。

この日は5名が発表。その後、リアクションペーパーが発表者に手渡されます。発表した生徒は、当日の振り返りにリアクションペーパーを役立てます。
生徒に聞きました
「なぜ人は泣くのか?」を探究

私はテーマとして「さまざまな感情のなかで、悲しい時に最も涙を流すのはなぜか」というリサーチクエスチョンを選びました。「人間はうれしい感情より悲しい感情のほうを強く感じてしまうからではないか」という仮説を立てています。さまざまな感情を引き起こす動画を視聴してもらい、涙を流す様子を観察する実験を計画中です。
T-Projectに取り組んでいく過程で、粘り強さや情報の取捨選択が重要だと学びました。皆のテーマは十人十色で、発表を聞いていると、友人の頭の中をのぞいているようで楽しいです。
「チケットの高額転売を根絶できるか」を探究

チケットの高額転売をどうすればなくすことができるかに興味があり、探究することにしました。同伴者登録、罰則強化、SNSサイトの規制など、対策を厳しくすれば転売を抑制できますが、罰則強化だけでは不十分であり、アーティストからの呼びかけによる心理的な働きかけも重要ではないかと考えています。
中3のT-Projectで宮沢賢治について探究しましたが、調べたことを書くだけのまとめに終わってしまい、またインターネットの情報源の信憑性を見分けることに苦戦しました。今回は工夫をして、自分なりの考察が書けるようにしたいです。
「今後、制服は必要なのか」を探究

制服や校則の変化に関心があり、「今後、制服は必要なのか」をテーマにT-Projectを進めようと考えています。制服がない学校もありますが、その理由も知りたいと思いました。
中3のT-Projectでは、遠野の民話を語り継ぐ「語り部」の継承問題をテーマに探究しました。現地を訪ね、語り部の人に会い、言葉で伝えてもらうことで、強い思いが伝わってきました。T-Projectを経験して、気になったことをそのままにせず、「調べてみよう」という姿勢に変わりました。また、自分の文章でまとめて発表することが、少しずつ楽しいと思えるようになりました。
ココも注目!
生徒のT-Projectを後押しする
ツールも開発

『T-Project LOGBOOK』は、高1で使用される探究のガイダンス。同校のT-Project・探究推進委員会の先生方が制作した完全オリジナルの探究記録帳です。
問いの作り方、自己評価表の作成シート、プロジェクトの企画書の例、論文やポスター発表などの例が豊富に掲載されおり、生徒はこれに沿って探究を進めることで、自律的な学習者へと成長できます。
(この記事は『私立中高進学通信2025年8月号』に掲載しました。)
桐朋女子中学校
〒182-8510 東京都調布市若葉町1-41-1
TEL:03-3300-2111
進学通信掲載情報

PICK UP!!
紹介する学校
- 2024年度『高校生国際シンポジウム』で4名が最優秀賞を受賞佼成学園中学校
- PBL×個人研究でめざす“自走する学び”サレジアン国際学園中学校
- 探究テーマの宝庫で学ぶ体験『アイスランド探究ツアー』芝浦工業大学柏中学校
- 理工系の知識で社会課題を解決 唯一無二の『SHIBAURA探究』芝浦工業大学附属中学校
- 独自の美術教育と『デザイン思考』で育む創造力女子美術大学付属中学校
- 多角的・複眼的な視点を養う分野の垣根を越えた『教科横断型授業』田園調布学園中等部
- 自立的・主体的な学習者を育成 プロジェクト型探究『T‐Project』桐朋女子中学校
- 東洋大学と連携した理数探究『未来の科学者育成プロジェクト』東洋大学京北中学校
- 未来を見据えた探究力を育成する『自問自答プログラム』二松学舎大学附属柏中学校
- 社会で活躍できるスキルを育てる『R-PROGRAM』立正大学付属立正中学校
- 真の数学好きが教える授業「数学は模索するのが楽しい」狭山ヶ丘高等学校付属中学校
- 自然現象を数式化して未来予想ができる面白さ高輪中学校
- 生成AIとプログラミングで世界に自分たちの仕事を創る瀧野川女子学園中学校
- あなたの「考え」が社会を変える!「多角的思考」と「社会形成力」を育む玉川学園中学部
- 大学レベルの研究に取り組み新しい価値の創造をめざす千代田中学校
- 数学史を絡めた導入タイムで生徒たちの好奇心を刺激獨協中学校
- 生徒各自がテーマを決める100人100通りの学びがある授業ドルトン東京学園中等部
- ロイロノートで協働学習 実社会と数学を結びつける安田学園中学校
- 実験で得た喜びや驚きから探究心を育て自立した探究者を育成する国学院大学久我山中学校
- 生徒の自主学習をサポートするセルフラーニングセンターが始動かえつ有明中学校
- 日本の教育・社会にイノベーションを!学校併設の教育研究機関『BSICE』を設立文化学園大学杉並中学校
- 姉妹で同じ学校に通うことで得られる安心感上野学園中学校
- 読書で得た力を活かし企画に挑戦!生徒主体の『読書プロモーター』が始動大宮開成中学校
- オープンキャンパスに来て入学を決めました関東学院中学校
- 学びも暮らしも自分を育てる時間に新校舎で深まる学び、寮生活で育つ力秀明中学校
- 開放感ある校舎で、勉強にも部活動にも邁進日本大学第二中学校
- やるべきことを明確に伝え家庭学習の習慣化を促進江戸川女子中学校
- 小さな成功体験や達成感を学習意欲につなげてやる気と学力をアップ!神田女学園中学校
- 文武両道を支える手厚い学習支援共栄学園中学校
- 挨拶と思いやりを大切に豊山生らしい空気が育っていく日本大学豊山中学校
- 農業体験と仏教修行が育む感謝の念と寛容のまなざし駒込中学校
- 「一日一日、かけがえのない」学校生活をめざして共立女子第二中学校
- 生徒の良き伴走者として生徒が主役の学校づくりに邁進光英VERITAS中学校
- 中高3000人という学び舎で一人ひとりの可能性を紡いでいく埼玉栄中学校
- 一人ひとりの夢を叶えるため学力向上と“心の教育”を全力でサポートします淑徳中学校
- 理科の学びを通じて生徒の感性と価値観を磨きたい開智日本橋学園中学校
- 生徒が率先して学ぶオープンな授業を実践文京学院大学女子中学校
- 教科・単元の偏りなく努力する力を見る東邦大学付属東邦中学校
- 思考力・読解力が活かせると話題の「理数探究入試」山脇学園中学校
- 基礎基本・AI活用・探究を突破口に「年内入試に強い学校」へと進化秀明大学学校教師学部附属秀明八千代中学校


