私立中高進学通信
2025年8月号
私学の先生だから数学・理科・情報が面白い!
ドルトン東京学園中等部
生徒各自がテーマを決める
100人100通りの学びがある授業

中3の授業の様子。
生徒はそれぞれの課題に取り組み、物・化・生・地の理科教員がその様子を見守る、同校ならではのスタイル。
生徒の興味・関心を基に
各自の授業テーマを設定

2022年に就任。ドルトンプランを実践する理科の授業を担当しています。
「学習者中心」のドルトンプランに基づく教育を進めているドルトン東京学園。生徒一人ひとりの知的な興味や探究心を原点とする理科の授業が行われています。
「本校の理科では、最初に教員が生徒と面談を行い、それぞれが興味・関心をもつテーマを設定し、個別の学習プランを組み立てています」
そう話すのは、生物担当の和田達典先生です。
「例えば、『深海魚と普通の魚の標本を作って体の構造を比較したい』という生徒と、そのために何が必要かをディスカッションしたのですが、『体のつくりに関する知識が必要ですね。深海の地形の知識も必要だと思うので、地学のこの単元を学ばないといけないし、水圧がかかるので物理のこの単元も学びたいです』と生徒のほうから提起され、これこそが“学び”の本質だなと感じました」(和田先生)
好きなものにとことん
没頭できる理科の授業

2024年に就任。「完全個別型の授業に、最初は戸惑いました」
生徒それぞれの学習テーマが違うため、生徒は自分のテーマごとにそれぞれの実験室に分かれ、各実験室では、物理・化学・生物・地学の各専門教員がそれぞれの生徒を受け持つ形で行われます。
「自由と協働を掲げる本校では、生徒は自分で決めたテーマと学習プラン(アサイメント)に沿って実験をしたり調べ物をしたり、レポートを書いたりしています。そのなかで出た疑問へのアドバイスがほしい時は、担当教員に相談する形で学習を進めています」
そう話すのは、物理担当の黒尾信先生です。
「全員が異なる内容を学習しているので、理科室のあちこちで、別々の実験が行われることもあります。実験用機器の使い方がわからない場合でも、すでに使い方を知っている同級生と互いに教え合って協働的な学びが自然発生している場面もよく目にしますね」(黒尾先生)
授業の成果を学会などで発表する生徒もいます。審査員や観客に、部活動ではなく授業の成果だと説明すると驚かれるそうです。
「中学から高校へと進むなかで、理科に苦手意識や拒否感をもってしまう生徒は、日本全国で相当数いるように思います。ですが本校では、生徒それぞれの興味・関心を基に授業を組み立てているので、理科を嫌いになる生徒はいないようです。そこは学習者中心の学びの強みではないかと思います」(和田先生)
こだわり その1
生成AIも活用して理科への興味を深める
同校の理科の授業では、物理・化学・生物・地学の担当教員がそれぞれの実験室で生徒の疑問に答えたりアドバイスを与えたりしています。ですが、生徒1人の相談に対応している間、ほかの生徒には待ち時間が発生します。
「そうした時のために、生成AIの使用も許可しています。生徒たちは想像以上にうまく生成AIを使いこなしていますね」(黒尾先生)
実験の手順について生成AIを使って調べ、教員を待つ空き時間を有効活用することも多いといいます。
「もちろん生成AIは間違った結果を出すこともあるので、生徒が調べた結果は担当教員が確認しています。各生徒の内容や進捗について一緒に考えてあげられる時間をもっと増やしていくことは、教員側の今後の課題だと思っています」(黒尾先生)
また、似たテーマを扱う生徒同士が集まって自発的にグループを組むこともあるといいます。
「中1では実験器具や顕微鏡の使い方、試薬の扱い方などを一斉授業で習う時間も多く、各自がテーマに取り組むのは中2からなのですが、中2では友達同士でグループを組み、相談してテーマを決めることが多いですね。ところが中3になると『これをやりたい!』という主張がはっきりしてきて、生徒たちの理科に対する興味が育っているのを感じます」(和田先生)
学期の終わりにはポスターセッションを行い、ほかの生徒やグループが何を行ってきたかわかるようにしているのも、そうした興味を喚起する効果があると和田先生は話します。
「ほかの生徒のテーマを見ることで、そのテーマや自分が選ばなかった科目への興味につながることは多いようですね。それが、グループで相手の意見に追従するのではなく、自分のやりたいテーマを主張する方向に生徒の気持ちを動かしているのだと思います」(和田先生)


こだわり その2
生徒が責任をもって学ぶための「学びの契約書」
自分が取り組むテーマが決まった生徒は、教員と個別にディスカッションを行い、どのような手順で研究を進め、どんな実験をするのかまで詰めていき、その内容を「学びの契約書」(アサイメント)にまとめます。
「この『アサイメント』の作成にとても力を入れています。レポートの提出や実験の進捗予定なども決め、教員が進度を管理しています。学びのオーナーシップをもつのは生徒であり、生徒自身が責任をもって学ぶのだということを明確に伝える意味を込めた表現だと思っています」(和田先生)
こうした姿勢は、テーマ選びにも表れているといいます。
「扱い方を誤るとケガなどの事故が起こるものもあります。もちろんそうしたテーマは原則として禁止なのですが、それに対してものすごく反論してくる生徒もいるんです。『自分たちの学びたいことをなぜ止めるんだ!』と言う時の彼らは、学びに対して誠実かつ前向きで、いい顔をしていますね」(黒尾先生)
そうしたケースでは、安全面にどれだけ配慮できるかも含めて協議を行い、テーマの可否について話し合いが行われるそうです。
「生徒が100人いたら、100通りの学びがあります。教員との話し合いで自分が理科で取り組むテーマが決まった生徒は、そのテーマでどのように学びを進めるかを自分で考え、教員とのディスカッションを通して決定した内容を『学びの契約書』にまとめています。『学びの契約書』を作って教員と約束を交わすことを通して、生徒自身が自分のやりたいことを具体化し、中高生として適切な学びに取り組むことが可能になっているのです」(黒尾先生)



(この記事は『私立中高進学通信2025年8月号』に掲載しました。)
ドルトン東京学園中等部
〒182-0004 東京都調布市入間町2-28-20
TEL:03-5787-7945
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