私立中高進学通信
2022年12月号
私学の英語最前線
昌平中学校
一人ひとりのゴールをめざし
進化し続ける昌平流英語教育
言語習得は日常と密接に関係しているとの視点から、「使う英語」の実践に尽力している同校の英語教育。生徒対生徒の関係から育まれる主体的な学びから、宿題への取り組み姿勢がより効果的に変わり、「自分ならこう学ぶ」との能動的な勉強法も生徒発で生まれています。
生徒それぞれの“ゴール”をめざして進行していくグラマーの授業。
MYPに関連した英語科と社会科によるコラボレーション授業も行っています。
“使う英語”の強化に取り組む
国際バカロレア[MYP]認定校
進学先として昌平を決めた理由に「昌平の英語教育」を挙げる生徒が多い同校。その期待に反することなく、「全校生徒が英語を得意教科に」を合言葉に、全教職員が一丸となって英語力強化に取り組んでいます。
「本校ではIB(国際バカロレア)中等教育プログラム[МYP]認定校として、グローバル基準の人材育成プログラムを実践しています。知識と実践を組み合わせた英語力超強化プログラム『PEP』(Power English Project)もその重要な柱の一つです」
そう語るのは、国際バカロレアМYPコーディネーターを務める中学英語科主任の戸恒和香子先生です。
「2017年に、中学がМYPの候補校から認定校へと昇格する流れの中で、授業の中身を少しずつ進化させていきました。私が担当するグラマーの授業において、言語としての英語を日常的に使うことの重要性を説いているのも、その理由の一つです。生徒たちには常日頃から“使わない英語は意味がない”と指導していることもあり、休み時間などを活用して、ネイティブスピーカーが常駐するインターナショナル・アリーナ(通称“日本語禁止部屋”)に足を運び、授業で習ったばかりの文法を、実践的な会話の中で楽しんでいる生徒も大勢います」
宿題の取り組み方も
自分で考えるという発想
戸恒先生が担当する中2の授業(グラマー)を見学しました。授業中の説明はほぼ英語のみで進行していきます。戸恒先生が発する英単語のリピートにも、一語一語集中して臨む生徒たちの姿がとても印象的でした。
「教師対生徒の活動も大切ですが、生徒対生徒の活動を増やして、生徒一人ひとりが主体的に授業創りに参画していくような、そんな授業環境の整備に努めています。“それって読み方が違うよ”と、仲間同士で指摘し合うことができるようになって初めて、授業の質も上がってくるからです。休み時間に教室を覗けば、友達同士で単語の勉強をしている光景が普通にあります。実に頼もしいと思います。英語の授業だから英語で授業をするというよりも、集中力を効かせなければ私からの指示さえわからなくなるという、そんな適度な緊張感も大切にしてもらっています」
誰もが英語を型どおりに学ぶのではなく、使うための英語を常に前向きに意識し、主体性をもって学んでいくところに、英語を得意教科にしていく秘訣があるようです。
「例えば、宿題というと、全員が同じことを、同じ量をやるというイメージがあると思いますが、生徒たちには、“そもそも自分ができていることを宿題として取り組むことってむだじゃない?”“むしろできないところに重点を置いて勉強をするべきじゃない?”と問いかけています。要するに、宿題も自分で考えて取り組んでこそ力がつくというメッセージです。そのかわり、余った時間は他の教科の勉強に使ってもらえるよう指導しています。ここで大事になるのは、“今日は2時間勉強してください”というように、時間の枠をしっかりと与えることです。“その時間枠をどう使うかは自分の頭で考えてください”とも付け加えます。したがって、授業の中で確認のための小テストを実施すると、時間枠の使い方の結果が明確に現れます。良くも悪くもそういった経験をなるべく肯定的に捉えながら、英語を得意教科にしようと頑張っている生徒たちの背中を押しています」
“予期されない会話”を
未来へとつなぐ力へ
新たな学習指導要領では、これまでの4技能(聞く・読む・話す・書く)から、4技能5領域(聞く・読む・話す[発表]・話す[やりとり]・書く)と学ぶ領域が広がっています。「英語教育は常に進化していくもの」と捉える戸恒先生は、特に「やりとり」というキーワードに着目して授業を展開しているそうです。
「やりとりは、いわば“予期されない会話”です。日常会話にあらかじめシナリオや原稿などは存在しません。私が着目したのはその部分で、まさにやりとりの強化は、使う英語の実践と重なる部分があると確信したからです。グラマーの授業の中で、例えば、完成された日本語を英文に直すライティングのテストはよくありますが、初めから未完成の例文を明示して、問題文から自分でつくるよう指示を出すことは珍しくありません。やはりコミュニケーションの基本は、生身の人対人のやりとりです。相手の立場で物事を考えるグローバル社会でのコミュニケーション力というものについても、授業を通して身につけてもらいたいと考えていますし、それが複雑な現代社会を生きる生徒一人ひとりの、めざすべきゴールであるととらえています」
新たな視点に基づいた実践的な英語の授業は、戸恒先生がこだわる教師力、授業力のさらなる発展へとつながっていきます。
POINT
生徒一人ひとりが課題として
自分に合った勉強法を開発?
戸恒先生が担当するグラマーの授業では、よくレポート提出が課せられます。単にレポートといっても、他者の眼を通してどう評価されるかがポイントで、例えば、小6の子どもが見てわかる内容かどうか、出版できるレベルにあるかどうかが求められます。
「今年度の夏休みには中2と中3を対象に、“自分が推奨する英語の勉強法”との切り口から、レポートに取り組んでもらいました。単に根拠のない勉強法を紹介するのではなく、家族などに協力してもらいながら、その効果を必ず検証することが条件です。ハードルは高いですが、なかなかどうしてその内容は力作ぞろいでした。今どきの生徒はYouTubeなどから勉強法を見つけてくることも得意で、実際に“自分なら英語をYouTubeでこう学ぶ”というレポートを書いてきた生徒もいました。大切なのは主体的に楽しみながら、英語学習に取り組む姿勢です。このような独自性をもった学びに対するアプローチ法は、本校の特徴でもある英検全員受験にもつながって効果を上げています」(戸恒先生)
担当の先生より
教師力のアップデートを心がけ
アイデアを“ネタ帳”にためています
コーディネーター
中学英語科主任
戸恒和香子先生
「こういう指導もいいかも」と、アイデアが浮かぶとすぐにメモを取るのが習慣になっています。教師になって20数年が経ち、今が一番アップデートの必要性を感じているからです。アイデアを“ネタ帳”に書いていると、生徒たちの顔が順番に見えてきます。大切なことは、そのネタを用いたその先に、ちゃんと一人ひとりのゴールがあるかどうかを確認することです。クラスによって理解度に差がありますので、当然ながらネタの仕込み方も、調理方法も違ってきます。アイデア(=ネタ)は黒、それぞれのゴールは青のペンできちんと色分けをしながら、思いつくとすぐにネタ帳に記入していくのが私のこだわりです。先日の3連休もなるべく自己啓発の時間に充てるように努め、思いついたアイデアをたっぷりとネタ帳に仕込んだところです(笑)。
(この記事は『私立中高進学通信2022年12月号』に掲載しました。)
昌平中学校
〒345-0044 埼玉県北葛飾郡杉戸町下野851
TEL:0480-34-3381
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