私立中高進学通信
2022年12月号
理数教育のその先へ
東京女学館中学校
理科の授業で知った天体の違い
中高時代に育んだ興味が
JAXAにつながりました
JAXA
理学博士。東京工業大学理学院地球惑星科学系大学院課程卒業後、JAXA(宇宙航空研究開発機構)に入社。
追跡ネットワーク技術センター軌道力学チームに所属。
「高い品性を備え、人と社会に貢献する女性の育成」という教育目標を掲げる同校。中高時代の理科の授業をきっかけに天体への興味を抱き、現在はJAXAに勤務する卒業生の中嶋彩乃さんに、現在取り組んでいるミッションや同校で過ごした日々を聞きました。
現代社会に欠かせない
人工衛星の軌道を解析
JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)に入社して2年目です。現在は、筑波宇宙センターにある、追跡ネットワーク技術センターの軌道力学チームに所属しています。
地球の周りには、人工衛星がたくさん飛んでいますが、それらがミッションを遂行するために必要な軌道の維持やスペースデブリとの衝突の回避など、安全な運用ができるようコントロールしているのが追跡ネットワーク技術センターです。「天体力学」が専門である私が従事する軌道力学チームは、十数名のスタッフで構成され、各衛星の軌道の監視や解析、運用の調整をしています。また、衛星の位置をセンチメートル精度で把握するための研究開発も行っています。
身近なところでいうと、気象観測や通信など、人工衛星がないと現在の便利な社会は成り立ちませんので、重責を担っている仕事だと実感しています。JAXAのさまざまなプロジェクトとかかわりがあることにも、やりがいを感じています。
私が最初に宇宙や天体に興味を持ったのは、中3の時です。「地球の組成と地球以外の天体の組成を比較してみよう」という女学館での理科の授業がきっかけでした。隣り合った地球と火星でも、大気の組成や温度などがまったく異なることを授業で知って、天体によってなぜそのような違いが生まれるのかということに興味が芽生え、「惑星科学」の研究の道に進みたいと思い始めました。
映画『スター・ウォーズ』シリーズの影響もあります。氷でできた天体、一面砂漠の天体など、作品にはさまざまな天体が登場しますが、そのような環境は本当に存在するのか、太陽系以外にどんな惑星系があるのかなど、興味がどんどん膨らんでいきました。
苦手教科の克服は
宇宙への興味が原動力
研究論文作成を行う高1の「課題研究」(現在の同校のカリキュラムでは「総合的な探究」)では、「火星に人は住めるのか」をテーマに研究し、まとめました。ご指導いただいた先生からは、完成するまでに「その結論で本当によいのか、もう一度考えなさい」と何度も指摘を受け、その度に最初に立ち返って、考察を深めて書き直すということを繰り返しました。今振り返ると、研究者としての基本的な姿勢を教えていただいたのだと思います。
自分ではすっかり忘れていたのですが、高校時代の進路指導の面談では、担任の先生に将来JAXAへ就職したいと話していたようです。学校が大切に保管してくださっている当時の調査書の記録に、残っていたそうです。宇宙への興味だけで、当時は安直に口にしたと思うのですが、その後、校長先生が宇宙の研究をされている卒業生の方と面会する機会を作ってくださり、さらにモチベーションが上がりました。
進路を決める際は、理学院への進学を前提として博士課程まで研究ができる東京工業大学の地球惑星科学系を志望しました。
入試準備は、塾にも通いましたが、学校での日々の授業がベースになりました。授業以外では、学校で配布された教科書と問題集を何度も繰り返すことで、基礎を固めることに集中しました。基礎を理解することで、自然に応用問題も解けるようになりました。
実はもともと数学が大の苦手でした。中学時代は成績も下から数えたほうが早いくらい低かったので、その頃は理系の分野に進むことはないだろうと思っていたのですが、中3~高1で宇宙に興味がわき、目標が定まったことで、数学も基礎からやり直しました。成績も徐々に上がっていき、成果が目に見えるようになったことで、理系に進もうと決心しました。わからないことは、先生方に聞けば、ていねいに教えてくださり、進路指導の面談の機会も多く、アドバイスもたくさんいただきました。
中高時代に最初に抱いた天体の違いへの興味は、研究者となってからも原点として変わらず持ち続けています。天体の軌道をシミュレーションする研究をしてきましたが、それは天体の違いが「その天体がどの位置にあるのか」「どのような軌道的進化をたどったのか」などに関係するからです。
私は入学当初、英語も苦手でした。周囲のレベルが高かったことや、授業でTOEICの問題に取り組むことなどで、英語力を上げていただく指導をしていただきました。大学に入学してから、英語で困ることはありませんでした。女学館には英語力を磨き、国際人を育成する「国際学級」もあり、積極的に海外に出る雰囲気が特徴です。私の場合、理学院時代にフランスに留学をしました。JAXAでは普段から英語を使う機会が多く、中高時代に学んだ英語が、仕事でも役に立っています。
目標達成への努力を
惜しまない友人たち
女学館時代の友人たちとは卒業してからも仲良くしています。私の専門分野では、女性研究者の数はまだまだ少ない面もあります。医師や公務員、メーカー勤務など、社会の第一線で男性たちと一緒に活躍している彼女たちの存在は励みになりますし、今でもよい相談相手です。穏やかでありながら、自分の目標達成のために前向きな努力を惜しまない友人に恵まれたのも女学館の魅力です。
それも先生方によって、中高6年間でそれぞれがリーダーシップを発揮する場面を作っていただけたからだと思っています。生徒一人ひとりの自主性を大切にし、大勢に埋もれることなく個人が活躍できる雰囲気があります。
そして、友人たちに共通していえるのですが、誰もが言葉遣いが美しいのです。目標達成に突き進もうとする芯の強さを持ちつつ、品の良さとしなやかさを失わない友人たちから、卒業した今も女学館らしさを感じています。
こだわりの品
科学誌『Newton』は、高1の「課題研究」で火星に人が住めるのかを考察した、論文作成時の参考文献の一つ。愛用のペンケースは、太陽系の惑星がデザインされています。
(この記事は『私立中高進学通信2022年12月号』に掲載しました。)
東京女学館中学校
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-7-16
TEL:03-3400-0867
進学通信掲載情報
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