私立中高進学通信
2025年12月号
私学だからできるオリジナル教育
広尾学園小石川中学校
社会の動きを題材に学ぶ
『模擬選挙』の授業
生徒たちは日頃から多くの授業でプレゼンに取り組んでいることもあり、
政党ごとに演説を行った『模擬選挙』の授業でも、クオリティの高い、落ち着いた演説姿が見られました。
物事の本質を追究する力を育むため、授業や行事、キャリア教育などで“本物と出会う”体験を豊富に設定している同校。
中3・社会科の授業で行われた『模擬選挙』の取り組みを取材しました。
リアルな社会を教材に
表現力や協調性を育む
広報部統括部長・社会科池田雄斗先生
『自律と共生』を教育理念に掲げ、他者と協力して社会課題を解決し、世界で活躍できる人材の育成をめざす広尾学園小石川。本科とインターナショナルの2コース制を採用し、インターナショナルコースは、帰国生を中心としたアドバンストグループ(AG)と入学後に英語力を伸ばすスタンダードグループ(SG)で構成されています。
中3のインターナショナルAGクラスでは日本人教員による公民の授業があり、2025年6~7月の都議会議員選挙と参議院選挙の時期に合わせて『模擬選挙』の授業を実施しました。
社会科を担当する池田雄斗先生は次のように話します。
「3人1組のグループに分かれ、まずは既存政党の消費税、外国人問題、教育無償化、子育て支援など主要政策について調査し、比較するところから始めました。
そして、既存政党に対抗する形で、グループごとにオリジナルの模擬政党を結成。政党名や公約を考え、主張をまとめたスライドを作成して演説を行いました」
演説後には「有権者」役の生徒による質疑応答も行われます。
「『有権者』側も、性別・年齢・職業・年収・家族構成・性格など『役柄』を細かく設定し、その人物の立場から質問・投票するルールです。51歳のタクシー運転手や20歳のノンバイナリーの美容師を演じ、設定に沿って質問します。お金に不安を抱える設定なら、必ず年金制度について質問するなど、個々に工夫が見られました」
投票は演説直後に行い、実際の選挙と同じように即日開票で結果を発表。日本の政治に対する問題点や改善点を考え、社会に向き合い、「自分ならこう変えたい」と解決策を練り上げる貴重な体験となりました。
グループワーク学習で鍛える
新しい価値観を生み出す力
グループワーク学習は、年間を通して幅広く実践。空気や海水、木の葉など希少性がない“自由財”に付加価値をつけて商品開発する授業なども実施しています。中学生をターゲットと想定して『先生からの応援メッセージ』を録音して商品化するアイデアなど、ユニークな発想が生まれているそうです。
「国際社会で活躍するには、発信力や表現力に加え、他者と協働してプロジェクトを進める力が欠かせません。グループでの学びを通して、そうした力を磨いてほしいと思います。教員が口を出さずとも自ら動き出す生徒が多く、そんな姿に頼もしさを感じますね。
社会が大きく動くタイミングは、まさに“リアルな教材”です。今後も世の中の流れと連動した授業をめざし、多様なトピックを扱っていきたいと考えています」
既存政党の政策を調べるところから始まり、
自分たちでより良い政策を発案、練り上げていきます。
模擬演説プレゼンテーション
演説 ❶
増税で経済を潤す「すい党」
私たちが立ち上げた「すい党」では、増税こそ行いますが、学費免除などの支援制度、年金や医療保険を含む社会保険制度改革、123万円の壁引き上げなどの経済政策も行い、日本経済を潤します。同時に、対外政策として免税制度の廃止、高校までの義務教育化をめざします。
J・Mさん(中3)
「『すい党』という名前にこだわりました。経済を潤す水のイメージや、お金を出し入れする『出納』など複数の意味を込めています。また、どうすれば良い政策になるのか、考えることに時間をかけました」
演説 ❷
日本企業の国際的成長が目標「ネオ・ビジネス党」
「ネオ・ビジネス党」では、デジタル化の普及、バイリンガル人材の育成、スタートアップ支援という3つの改革で、日本企業の国際的成長を促し、それによる安定した雇用の増加、家族をもちやすい社会環境づくりをめざします。
A・Yさん(中3)
「既存政党のいいところを全て入れられれば共感を得られると考えましたが、現実的には難しいので、優先順位をつけて取り入れました。有権者役からどんな質問が来るかも予測して、答え方をシミュレーションしました」
演説 ❸
お金の活性化を図る「富活党」
「富活党」では、お金を使って経済を回すことをめざし、消費税を5%へ減らす一方、たばこやお酒などの税金を増やします。年金は自分で納めた分が必ず自分に戻るシステムに。また、困っている外国人に向け、地域でのつながりづくりや生活サポートの充実を図ります。
H・Sさん(中3)
「政策をわかりやすく表現するロゴづくりに時間をかけました」


生徒インタビュー
社会の諸問題が身近に! 政治を“自分事”として考える体験
──模擬選挙の授業を通して、どんな学びや発見がありましたか?
Hさん
興味のなかった選挙が、模擬選挙への取り組みでぐっと身近になりました。
Jさん
今回、自分たちで政策を考えてみたことで、政治家の政策づくりや選挙の背景にも興味が湧いてきました。
Aさん
日本にはさまざまな政党があり、小さな政党でも賛同できる政策を掲げていることを知りました。
──模擬選挙で演説をするにあたって、どのような準備をしましたか?
Jさん
実際の街頭演説を聞きに行きました。ただ演説をするのではなく、聞いている人の興味を引くようにしようと考えるきっかけとなりました。
Aさん
家の近くを通る選挙カーの演説をよく聞いていたのですが、同じトーンで叫んでいて、何を伝えたいのかわからないと感じました。自分が演説する時は、強調したいところでは力強く主張し、共感してほしいところは優しく語りかけるようにするなど、メリハリを意識しました。
──今回の授業を受けて、政治や選挙に対する意識は変わりましたか?
Hさん
選挙そのものや投票することの大切さに改めて気づきました。
Aさん
僕はスポーツ観戦が好きなのですが、最近はスポーツチームがどんな政党を応援しているのかなど、政治的な側面にも関心が向くようになりました。
左からH・Sさん、A・Yさん、J・Mさん。ともにインターナショナルコースAGの中3生です。
(この記事は『私立中高進学通信2025年12月号』に掲載しました。)
広尾学園小石川中学校
〒113-8665 東京都文京区本駒込2-29-1
TEL:03-5940-4187
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