私立中高進学通信
2023年1月号
校長先生はこんな人!
十文字中学校
無限の解法から最適解を導き出す
そんなプロセス重視の探究心を
社会を生き抜く力に
横尾 康治 (よこお・こうじ)校長先生
1968(昭和43)年、新潟県十日町市出身。
中学時代は科学部、高校時代は生物部に所属。
新潟県立松代高等学校を経て、東京理科大学理学部数学科に進学。
卒業後、立教大学大学院理学研究科数学専攻に進む。
在学中に非常勤教員なども経験しながら、博士前期課程修了後、
十文字中学・高等学校に数学科教員として着任。
数学部やコンピュータ部の顧問を務める。
5年間の教頭職を経て、2021年春、同校の校長に就任。
数学の面白さ、楽しさを
教員になって伝えたい
私が高校まで過ごしたのは、現在の新潟県十日町市。「星峠の棚田」をはじめとする美しい棚田群に囲まれた松代という地域です。そんな故郷で、私が数学の教員になる夢を抱いたのは、小学生時代のことでした。
きっかけは算数の分数の授業です。1枚の紙を3つに折りたたむときれいに3分の1となるのに、3分の1を小数で表すと0.333…と無限に続く。そこに再び3をかけてもきれいな1には戻らないという不思議さに驚き、奥深い数学が好きになりました。未熟な子どもなりに「将来は算数の先生になりたい」と自然に思ったのです。
その初志は、大学・大学院で数学の研究に打ち込んだ時期にも残り続けていました。「このまま研究職を極めるべきだろうか」と悩んだ時期に心をよぎったのは、「奥深い数学の面白さ、楽しさを伝えて、数学嫌いの子を数学好きにさせたい」という、幼い日の数学科教員への夢だったのです。
その後、良きご縁のもと本校に数学科教員として赴任しました。教務部長、学年主任、教頭職などの経験を経て、2021年からは校長としてより良い学びの場を構築する努力を続けています。
数学から得た学びは
社会を生きる力に通じる
私が心酔する数学という学問は、理論と計算が大部分を占めていますが、実は最も大切な要素は “想像力”と “創造力”なのです。
中高で学ぶ数学は特に、 “唯一の正解を唯一の正しい解法で導く教科”と思われがちです。ですが、たとえ理論から導き出される答えは一つでも、そこに至る解法は、実は無限に存在します。幾通りもの解法を自分で想像・創造し、失敗を繰り返しながら、結果として最速解・最適解を自ら導き出す。その探究が数学の真髄であり面白さです。そして、そうした多角的なアプローチから自分自身の解を見つけ出す力は、定型化されたものの見方、考え方では通用しない、今後の社会を生き抜く力にも通じると考えています。
女子校で長年教壇に立ってきて実感しますが、女子は男子に比べてプロセスを重視し、納得するまでじっくりと考える力に長けています。さらに女子は、思考のプロセスに、自分にとって身近な具体例が加わると、想像力や最適解への理解度が格段に向上します。
私は、高校時代の生物部での活動で、理論だけに偏ることなく、身をもって具体的な事象を観察するフィールドワークの大切さを学びました。その経験から、数学の授業にも実際に手を動かす工作を採り入れるといった工夫をしてきました。その成果として、十文字で学ぶまでは算数・数学が苦手だったという生徒の多くが、数学を好きになったと話してくれるようになり、私も大きな喜びを感じています。
理論を学んでも、それが活かされなければ意味はありません。数学に向き合うその力が、生徒の人間力となって将来に役立つことを心から願ってきました。
建学の精神につながる
ワークショップを自ら実施
私が本校の生徒に願う理想像は、多様な価値観をもって、自ら考えてものごとを探究し、理想の実現に向けて行動できる人物です。数学と同じで、それらを身につけるには、実際に経験してもらうことが必要です。
そこで、校長に就任して実践したのが、入学前の中1生に「あなたにとって幸せとはどういうことですか?」といった、私からのクエスチョンやワークを投げかけることでした。そこでの答えは実にさまざまです。
衣食住の充実を基点に、難民問題に言及する生徒。戦争や災害、貧富の差に思いをめぐらせる生徒。「ほかの誰かの幸せが自分の幸せに結びつく」との結論を導き出す生徒もいます。そして、生徒それぞれが出した答えは、うれしいことに、社会に出てから役立つ人間になることの大切さを唱えた、十文字の建学の精神にも結びついています。
そうしたコミュニケーションの機会を何度も設け、生徒たちと直接触れ合うことで、生徒の意識が変わり、他者理解、自己肯定感、帰属意識など多くの点で成長が見られました。2022年度から本格的に始めたこうしたワークショップは、本校が注力している探究学習への下地づくりにも大いに役立っていると実感しています。
心の内に眠る知的好奇心を学びの力に変え、先の見えない社会を自分で切り拓く力を育てる。生徒の主体性を伸ばす工夫に満ちた学びを、これからも十文字は実践していきます。
[沿革]
1922(大正11)年、同校の前身である文華高等女学校が開校。創立者の1人である十文字ことが1935(昭和10)年に校長へ就任。1937年、十文字高等女学校に校名を改称。1947年に十文字中学校、翌年に十文字高等学校が開校。2014(平成26)年に新校舎が完成。2016年には学校改革「Move onプロジェクト」を始動。2022(令和4)年に創立100周年を迎えた。
(この記事は『私立中高進学通信2023年1月号』に掲載しました。)
十文字中学校
〒170-0004 東京都豊島区北大塚1-10-33
TEL:03-3918-0511
進学通信掲載情報
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