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私立中高進学通信

2024年8月号

今こそ心の教育

開智日本橋学園中学校

先の見えない時代を生き抜く
探究で育む“世界を問う力”

先生と生徒が輪になって座り、哲学対話がスタート。中央のコミュニティボールを持った男子生徒が発言しています。

先生と生徒が輪になって座り、哲学対話がスタート。
中央のコミュニティボールを持った男子生徒が発言しています。

心理的安全性を担保し
生徒の主体性を育む
哲学対話/後藤美乃理先生「生徒の学年が進むと、深い対話ができるようになります」哲学対話/後藤美乃理先生「生徒の学年が進むと、深い対話ができるようになります」

 同校は国際バカロレア(IB※)のMYP(中等教育プログラム)とDP(ディプロマプログラム)の認定校として、『自分で考え、判断し、主体的に行動する』を合言葉に、探究活動をはじめさまざまな学びに取り組んでいます。そのなかで最も特徴的な学びの一つが、「哲学対話」です。

「グローバル社会と言われますが、海外を知ることと同じくらい身近な人を知ることは大切です。そして互いを理解し合うには、自分の意見をのびのびと言える環境でなくてはいけません。哲学対話の授業では、“人の意見を否定しない”など人間関係の基本ルールを学び、自分の意見を持ち、発言する良い機会だと思います」(教頭・広報部長・数学科/井田貴之先生)

 週1回、道徳の授業と交互に実施されている哲学対話の授業で、この日は中2の教室を取材しました。28人の生徒たちと輪になり座っているのは、哲学対話を専門に指導している後藤美乃理先生と江藤信暁先生。中央に置かれたカードには、「沈黙は気にしない」「わからなくなってよい」「人の話をよくきこう」など哲学対話の心得や、「たとえば?」「なんで?」など思考の助けになるような言葉が書いてあります。

 板書係やタイムキーパー係などを立候補で募り、意見のある生徒はコミュニティボールを持って発言。2人の先生はファシリテーターとなります。

 この日は哲学者のオスカー・ブルニフィエの著書『人生って、なに?』を題材に、「しあわせって思うのはどんな時?」というテーマで対話が始まりました。「SNSでフォロワーが増えて“いいね!”をもらった時」「鉄道を撮影して、思い通りの写真が撮れた時」など、さまざまな意見が出ました。なかには「辛いものを食べて汗をかいた時」「嫌いなキャラクターが攻撃された時」などの意見も。後藤先生が「気になった意見はありますか?」と質問をしながら、少しずつ対話が進みます。

 ある生徒が「やらなくてはいけないことがあっても寝てしまう時は、罪悪感を感じつつも幸せだと思う。幸せって、裏側に悪い感情が潜んでいるのでは?」と投げかけました。それに触発され「幸せは罪悪感と優越感のバランスによる」「幸せは単純なものと優越感によるものの2種類ある」と多くの意見が出て、対話が広がっていきました。

※国際バカロレア(IB)…スイスのジュネーブに本部を置く国際バカロレア機構が提供する最先端の教育プログラム。その目的は「多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成」です。

世界の広さを知り
お互いの理解を深める
哲学対話/江藤信暁先生「生徒には立ち止まって考えることの大切さを知ってほしいと思います」哲学対話/江藤信暁先生「生徒には立ち止まって考えることの大切さを知ってほしいと思います」

 哲学対話は結論を出す時間ではありません。さまざまな意見を聞いて他者の考えを知り、自分の考えについても思考する時間です。

「人の意見を否定するのはルール違反だと最初に確認しますが、それでも否定的な意見が出ることもあります。あまりにも場の雰囲気が良くない時は中断して、今のやり取りはどうだったのかみんなで話をすることもまれにあります。哲学対話では、中断も学びの機会なのです」(後藤先生)

 親や先生、友達との日常会話だけでは学べない、トライ&エラーを体験する哲学対話の時間を通して、生徒たちにどのようなことを学んでほしいかお聞きしました。

「中学生は勉強をはじめいろいろとやることが多く、毎日忙しいと思います。日常では正解を求められる場面が多いのですが、立ち止まって考えるのは悪いことじゃない。この授業では、いつもと違う心の筋肉を使って、ゆっくりじっくり考えてもいいということを知ってほしいです」(後藤先生)

「哲学対話は、今の若者が重視する“コスパ”“タイパ”から最もかけ離れていますが、世界の広さと深さをみんなで探究する楽しさを味わってほしいと思います」(江藤先生)

 哲学対話を指導してきて、印象的だったエピソードをお聞きしました。

「“雨はきゅうりですか?”という問いで哲学対話をしたことがあります。いくつか問いの候補があって、そのなかから生徒と選んだテーマでした。生徒たちは最初、『何それ?わからない』と言っていましたが、この問いで活発な対話ができました。雨は10%が不純物で90%が水。きゅうりも90%が水というところまでは同じです。自分と他者では何が違うのかということを、みんなで探究することができました」(後藤先生)

「今日の対話も、“しあわせ”という気持ちを分解して、“高揚感”とか“達成感”と言語化した生徒がいて、ハッとさせられました。世界の見方の解像度が上がったというか、私も一緒に哲学対話を楽しむことができました」(江藤先生)

 哲学対話は1960年代にアメリカの公立小学校で始まり、世界中に広がりました。移民や貧困の問題が背景にあり、対話によってお互いを知る必要があったのです。グローバル世界を生きる生徒たちにとって、この世界を根本から問い直し、身近な人と理解を深める哲学対話は、心を育む貴重な時間といえます。

教室の壁に貼ってある、生徒の探究活動の成果。「生涯にわたって学ぶことを積極的に楽しむ」と書いてあります。教室の壁に貼ってある、生徒の探究活動の成果。「生涯にわたって学ぶことを積極的に楽しむ」と書いてあります。
「大人が思いつかないような意見を聞くのも楽しい」と江藤先生(中央)。「大人が思いつかないような意見を聞くのも楽しい」と江藤先生(中央)。

輪の真ん中には哲学対話を進めるうえでのキーワードが置いてあり、思考の助けになります。輪の真ん中には哲学対話を進めるうえでのキーワードが置いてあり、思考の助けになります。
係は立候補で決めます。後藤先生が手にしているのは、対話が複雑化した時に整理整頓する「わからない係」のカード。係は立候補で決めます。後藤先生が手にしているのは、対話が複雑化した時に整理整頓する「わからない係」のカード。
オスカー・ブルニフィエの著書『人生って、なに?』。絵本や書籍を題材にすることも多いそうです。オスカー・ブルニフィエの著書『人生って、なに?』。絵本や書籍を題材にすることも多いそうです。

(この記事は『私立中高進学通信2024年8月号』に掲載しました。)

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