私立中高進学通信
2025年神奈川版
実践報告 私学の授業
サレジオ学院中学校
2000字論文で広がる学びと成長
高1の探究学習『論文2000』
自分だけのテーマで思考力と分析力を伸ばす

探究シーン1
いずれの生徒も、写真やグラフ、データを効果的に使って、個性的なスライドを作成。
普段の授業で繰り返しプレゼンテーションを経験しているため、皆堂々と発表をしています。
高1の春休みに全員が自分の関心あるテーマで2000字の論文を執筆・発表する『論文2000』。自らの興味を深く掘り下げる経験が、将来の進路選択にも大きく役立っています。
中3から始まる個人探究
自分の興味を深める論文執筆
世界130カ国以上にネットワークをもつサレジオ修道会を母体とするサレジオ学院。修道会の創立者ドン・ボスコの精神に基づく、豊かな人間形成をめざす教育を行っています。同校では論理的思考力や発想力を育むため、探究型学習に力を入れています。
なかでも特徴的な取り組みが、高校での論文執筆です。高1で実施される『論文2000』は、中3の3学期から準備が始まります。生徒は興味のある分野をいくつか挙げ、担任と相談しながらテーマを絞り込み、個人探究に取り組みます。
「明確なビジョンがないと論文は書けません。たとえば『経済をテーマにしたい』という生徒には、『日本経済か、他国の経済か、もっと具体的に絞り込んでみよう』と対話を重ね、じっくりとテーマを決めていきます」(高1学年主任/高木俊輔先生)
中3の3学期にテーマが決まると、高1進級前の春休みに論文を書き上げ、春休み明けに提出します。
提出後は、教員からのフィードバックを受けて何度も修正を重ねて、完成度を高めていきます。その後、論文の内容に合わせたスライドを作成し、探究授業で班ごとに発表。班代表として選ばれた8名が、クラス全員の前で論文発表を行います。
データや画像を駆使し
個性あふれるプレゼンを披露
5月に行われた班代表の発表会では、各自5分間の持ち時間でプレゼンテーションが行われました。テーマは「SMAPを超える国民的アイドルは現れるか」「日本の英語教育は小学校から始めるべきか」「資本主義vs社会主義」「野球よりもサッカーのほうが優れているのか」など多岐にわたります。ユーモアを交えて聴衆を巻き込む生徒や、データを駆使して説得力のある説明を行う生徒など発表スタイルも多彩です。
どの発表も、序論・本論・結論の流れに沿って構成されており、スライドの完成度も高く、日頃からプレゼンに慣れている様子がうかがえます。
「普段の授業から各教科でディスカッションやプレゼンテーション、グループワークを積極的に取り入れています。中3では国語の授業で論文の書き方を徹底的に指導しており、論文を書いて発表することは生徒たちにとって日常的な活動です」
発表後には活発な質疑応答が行われ、全員が評価シートに沿って採点。評価シートは発表者に返却されます。こうしたサイクルを通じて、生徒たちは論理的思考力や表現力を着実に高めていきます。
高2になると、8000字の論文を執筆する探究活動『論文8000』に取り組み、高3の春休みに完成させます。選ばれた生徒は、『探究発表会』で全校生徒の前で発表します。
「『探究発表会』では、先輩やクラスメートの発表を聴き、評価することで自分の論文の質も高めていくという好循環が生まれています。10年前と比べて発表内容や質は格段に向上しており、その成果は大学の総合型選抜や学校推薦型選抜でも活かされています」

発表を聞く生徒は評価シート(知識・技能、思考・判断・表現、主体性)に沿って評価します。

インタビューを受けてくれた生徒たちは、スライドを駆使して探究内容を話してくれました。
生徒に聞きました
“資源”を軸に
世界を俯瞰できるように

もともと日本の天然資源に興味があり、「日本にある天然資源を最大限活用したら将来日本は資源大国になれるか」をテーマにしました。調べてみて日本の海底にはメタンハイドレートがあるものの、採掘技術が進んでおらず開発途中であることがわかりました。
文献等を調べる過程で、自分が大人になった時、日本は資源で困らない状況でいられるだろうかなど、さまざまな考えを巡らせるのが楽しかったです。今後は他国との比較もしながら、さらに探究したいと思っています。
脳科学や統計学などに
興味が広がりました

私の苗字は漢字を間違えられることが多かったので、「なぜ私は名字を間違えられてしまうのか」をテーマにしました。まず、間違えるメカニズムを調べました。脳科学の本を読むと、覚えてもらうには長期記憶に植え付ける必要があると知り、解決法は間違えられたらその都度すぐに訂正することだとわかりました。
調べる過程で脳科学や統計に関する本を多く読み、なじみのなかった分野を知ることができました。本をたくさん読むなかで、データ分析の力も身についたと感じています。
『論文8000』では
より高度な研究に挑戦したい

生き物が好きで生物部に所属しています。よく乗り降りする駅にいつもいるムクドリについて調べ、「都市ムクドリが集団でねぐらにする木の特徴は何か」をテーマにしました。ただ研究時期は春で、ムクドリが集団で集まるのは冬と秋の限られた時期で、そうした制約のあるなかでの論文執筆でした。そのため自分で歩いて見て調査をする時間がほとんどとれず、やり残した感があります。
『論文8000』では、生き物をテーマに、もっと時間をかけて実験・実地調査も行い、より根拠のある研究に挑戦したいと思っています。
興味ある江戸時代について
突き詰めて考察

歴史、特に江戸時代が好きなので「江戸の町が発展できたのは幕府の影響が大きかったからか」をテーマにしました。
以前から江戸時代について調べていたので論文も書きやすく、文献を読んで新たな知識を得て、楽しく書き進められました。一方、知識はあってもその根拠となるデータを探すのには苦労しました。『論文2000』を通して、趣味と学問を結びつけることができたのは大きな収穫です。一つのテーマについて考察する楽しさを知ることができたので、高2の『論文8000』ではまた違うテーマを深掘りしたいです。
ココも注目!
『論文2000』で広がる興味と進路

『論文2000』は思考力や分析力、文章力の育成に加え、日常の授業では得られない新たな知見や視点を身につけることを目的としています。自分の興味を深く掘り下げることで新たな関心が生まれたり、他の生徒の発表から刺激を受けて進路選択の幅が広がったりするなど、主体的な学びと成長につながっています。
自分の好きなことを「学問」の観点から探究していくと、より関心が深まる場合もあれば、「やりたいことはこれではなかった」と別分野に挑戦してみようと思う場合もあります。こうした試行錯誤は将来の進路を考えるうえで、大きな糧となります。さまざまな分野に興味を持ち、考えを深める経験を将来へとつなげてほしいですね。(高1学年主任・理科教諭/高木俊輔先生)
(この記事は『私立中高進学通信2025年神奈川版』に掲載しました。)
サレジオ学院中学校
〒224-0029 神奈川県横浜市都筑区南山田3-43-1
TEL:045-591-8222
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