私立中高進学通信
2021年7月号
私たち、僕たちが大好きな先生
国府台女子学院中学部
仏教の思想に触れることで
考えることの楽しさと心の体幹を養う
渡邊 弓大(わたなべ ゆみひろ)先生(宗教科[仏教])
龍谷大学出身。同大学で宗教科と国語科の中・高の免許を取得。
一般企業を経て、国府台女子学院に赴任。今年で19年目。
中学から高校まで「仏教」の授業を担当するほか、現在中学2年生の学年主任を務めている。
「智慧」と「慈悲」という仏教の教えを基盤に、豊かな心としなやかな強さを育む女子教育を実践している同校。
僧侶としての顔も持つ宗教科(仏教)の渡邊弓大先生に、授業で生徒たちに伝えようとしていることを伺いました。
中高生の年代に大切な
自己肯定感を身につける
――先生は僧侶でもあるのですね。
普段は生徒たちも意識していないと思いますが、学校行事で袈裟などの僧侶服を身にまとうと、びっくりした顔をされます。お坊さんから授業を受けることが、生徒たちの感覚として面白いのではないでしょうか。
――宗教科(仏教)の教員になった経緯やきっかけを教えてください。
大学が仏教系の学校だったため、仮に教職に就くとすれば、多感な十代の生徒に対して仏教的なものの考え方を伝えることは有意義なのではないか、というイメージがありました。また、宗教科の免許を取れる大学も他には少なく、自分自身の個性にもなると感じました。大学卒業後は旅行会社に就職しましたが、関わってくれた教授や教育実習先の生徒から「先生になれば」と連絡をもらったことで、教職の道を志しました。
――貴校では、中高6年間で週1コマの「仏教」の授業があります。具体的には、どんなことを学ぶのですか。
お釈迦様に学ぶことはもちろん、浄土真宗の宗祖、親鸞聖人の生い立ちから始まり、日本の仏教の宗派の広がりや宗教から見た日本の歴史、世界の主な宗教、信仰の特徴など、基本的には中学校用宗教教本に沿って宗教を総合的に学びます。研修・修学旅行の前には、仏像の見方や神話の世界など、文化史的な側面にも触れていきます。
――歴史や地理の学習にもつながりますね。中学での学びを通して、生徒たちに何を感じ取ってほしいですか。
生徒たちによく話すのは「自尊感情」という言葉です。昔から多くの人たちが大切に守ってきた仏教の作法や考え方を学ぶことで、自分たちの日常生活にどれだけ意味があるのかを知り、自分を肯定する力を身につけさせたいと考えています。自分に自信を持ち、他人に優しく接することができる「心の体幹」を鍛えてもらいたいです。
特に中学生は、気持ちに折り合いをつけることが難しい年代です。人間関係で悩むこともあります。仏教には “こころ”を整えるための様々な考え方や言葉があります。それらを自分が抱えている問題とマッチさせ、悩みを捉えやすくすることで、自分自身で心の整理整頓ができるようになってくれれば、もっともっと自分に対して価値を持てるようになると思っています。
――授業を拝見しましたが、生徒たちの笑顔と、先生の話を聞きもらすまいと集中する表情が印象的でした。授業を進めるうえでのこだわりは?
自分と生徒、生徒間同士の生の対話を重視する授業です。ポーンと問いかけると、ポーンと返ってくる──このやり取りの “間”こそが、対面授業の醍醐味だと感じています。お経をよむのが好きな中学生はいませんから、授業では漫画などの一場面も引用しながら、その日のテーマに即した問いを生徒たちにどんどん投げかけて、考えてもらいます。
そこで大切なことは、生徒たちがその瞬間にめぐらせた思いを隣の席のクラスメートと意見を言い合うこと。話し合うことにより自分とは異なる視点に気付きますし、何より人間関係を築きやすくなります。「慈悲」は、仏教の基本的な教えの一つですが、お互いの表情を見ることで、友だちと様々な感情をともにし、人に寄り添うことの大切さ、また、それによって友人が笑顔になる喜びを体感してほしいと思っています。
――仏教の教えを説くというよりは、今後の人生で幅広い教養を培うための礎を作ろうとしていると感じました。
仏教にはこういう考え方もあるよと示すようにしています。そして考えることはとても楽しいことだと、生徒たち自身が学んでくれればと思います。
定期テストでは解答用紙の下の部分に空白を設けて、授業で扱った仏教の考え方をベースに問題を作成しています。そこで、問題とともに自分の “こころ”と向き合い、それを言葉や図などで表現します。自分の思いを正しく表現することは難しいことです。この取り組みによって「自分はこんなことを考えていたのか」と自分に対して新しい発見をしてもらえることには意味があると思いますし、これは将来のAO入試などの対策にも繋がると考えています。
教員として宗教家として
相談される存在でありたい
――仏教の授業に触れることで、大学での学びを改めて見つめなおす生徒がいるそうですね。
授業で取り上げた内容が面白かったと、大学受験で志望校を変えた生徒もいます。生徒たちが興味を示すテーマの一つに「差別」があります。どこから手を付ければよいかと逡巡するような難しいテーマですが、仏教という枠組みの中で話を進められるので、生徒たちがこの問題を考える端緒となります。宗教を学ぶことが、世の中で起きている様々な出来事を理解するうえでの糸口となる面もあると思います。
また、医療・看護系を希望している生徒は、「人に寄り添い、苦しみを共有するとはどういうことか」あるいは「いのちとは」などを将来の自分のビジョンと重ね合わせながら、真剣に考える機会にもなっているようです。
――生徒たちには、どのような大人に成長してほしいですか?
社会に出たときに、他の人が安心して話ができるような大人になってほしいです。そのためにも自分の心を相手の心の波に添うようにする「共感性」を磨いて欲しいと話しています。
話を上手に聞くことは、心を鍛錬しないと難しいことです。「聞法」と仏教で言いますが、ありのまま仰せのままに聞く。言葉だけではなく、そのときの状況、表情など人の非言語表現も含めて全部を聞くことができるような人。そのような人は安心される人だよと伝えています。
――教員として抱いている理想像は?
生徒から相談されるような教員でありたいと思います。十代の中高生たちが、日々の生活を過ごす中で辛さを感じているときに、私を信頼して話をしてくれれば有り難いです。教員として、宗教家として、それが私が学校にいる意味になればうれしいです。
(この記事は『私立中高進学通信2021年7月号』に掲載しました。)
国府台女子学院中学部
〒272-8567 千葉県市川市菅野3-24-1
TEL:047-322-7770
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